01キャロル・レモンピューレーは転生した
「はぁ~、今日もいい天気!」
キャロルは大きく伸びをした。窓から差し込む柔らかな光が金髪をきらきらと輝かせている。んー、と声も出て気分が切り替わった。
レモンピューレー公爵家の長女、キャロル・レモンピューレー。
現代からファンタジー感満載の異世界に転生してはや十年。すっかりこの世界の生活にも慣れたけど、たまに前の世界のコンビニおにぎりが恋しくなる。食べたい。
そろそろ、なにかやりたいなぁなんて悩んでいると誰か来たらしい足音が聞こえた。
「キャロル姉さま、起きていらっしゃったの?」
部屋のドアがノックされ、ひょこっと顔を出したのは次女のユミス。おや、となった。透き通るような白い肌と空色の瞳が特徴の、まさに箱入り娘といった雰囲気の美少女である。
「うん。朝ご飯が楽しみで」
キャロルがにっこり笑うとユミスもふふっと微笑んだ。幸せな気持ちになる。転生した家がここでよかった。レモンピューレー公爵家は家族全員が仲良し。
お父様とお母様はラブラブだし、四姉妹もみんな仲がいい。幸せな家庭。転生前は一人っ子だったからこんな賑やかな大家族に囲まれてるのが、なんか新鮮で嬉しい。
「今日の朝食は私が焼いたパンケーキですわ。楽しみにしていてくださいね」
食卓に着くと三女のミーチェが自慢げに言った声はソプラノで室内に響く。ミーチェは末っ子のソフィアと双子で好奇心旺盛で料理やお菓子作りが大好き。元気の良い声が聞こえる。
「わぁ!ミーチェ特製パンケーキだ」
キャロルが目を輝かせるとソフィアも「うんうん!」と頷いた。ソフィアは大人しくて恥ずかしがり屋だけど、ミーチェと一緒だと元気いっぱいになる。いつもつられるのだろう。
「さあ、みんなでいただこう!」
お父様である公爵が言えば家族みんなで「いただきます!」と声を揃えた。本当に毎日がこんな感じでゆる~く、楽しく過ぎていく。
異なる世界の住人たちはみんなおおらかで、細かいことにこだわらないから変に気を使う必要もなくてすごく楽。
言うまでもなくパンケーキは絶品。美味しくて食欲は増すばかり。食後、キャロルは庭に出た。広大な庭には色とりどりの花が咲き乱れ、小鳥たちがさえずっている。
「ふぅ~、平和だなぁ」
平和な公爵家が実は冒険者公爵家として名を馳せているというのが、キャロル的にはちょっと面白い。貴族なのに戦うというところが特に。
お父様もお母様も現役バリバリのSランク冒険者で、普段は穏やかなのに。いざダンジョンに潜るとめちゃくちゃ強い。
自身も一応冒険者だけど、他の姉妹たちと違ってあんまり体力がない。でも、大丈夫。現代の知識とそれを具現化した魔導具があるので。
「よし、今日は……全自動洗濯機の改良でもしよ」
呟くと、屋敷の裏にある工房へ向かった。公爵家の工房はありとあらゆる素材や工具が揃っていて、夢の空間。
せっせと作る魔導具はどれもこれもこの世界からすれば、常識を覆すものばかり。最初は「何それ?」って感じだった家族も、一度その便利さを知るともう手放せなくなっていた。
例えば、魔法の冷蔵庫。最初は「氷魔法で冷やせばよくない?」と言われたけど。
いつでも一定の温度で食材を保存できる便利さに、家族は感動しまくった。もう誰も冷やせばいいということは、言わなくなる。当然だろう。
魔力の消費もなく冷え冷えの美味しい食材を保冷できて氷もいつでも使いたい放題。使用人達も使える様にしている。もうこれは、福利厚生並みだよ。
特にお母様は「これでいつでも冷たいデザートが食べられるわ!」と大喜び。空飛ぶほうきもお父様の移動手段として大活躍してる。お父様は「ワープ魔法のが早いだろう」って言ってたのに。
今では「風を感じながら飛ぶのが最高だな!」と、声を出して毎日空を散歩してる。工房に着くとキャロルはさっそく、全自動洗濯機に向き合った。
前に作った時は脱水機能がイマイチだったんだよねぇと、腕を組む。
「うーん、魔力循環路をもう少し効率化できないかなぁ」
ブツブツ言いながら設計図を書き、必要な素材を吟味する。そこにユミスとミーチェ、ソフィアがやってきた。
「キャロル姉さま、何をしていらっしゃるんですの?」
ユミスが不思議そうな顔で尋ねる。
「今は、もっと時短になる洗濯機を開発してる」
キャロルが言うと三人の目がキラキラと輝いた。
「時短、ですって!?」
声が工房にぐわんと響く。ミーチェが前のめりになる。
「そう。洗うのも脱水ももっと早く、もっと綺麗にできる」
キャロルが熱弁すると三姉妹はさらに興奮した。
「すごい!私、洗濯物畳むの手伝いますわ」
ユミスが手を挙げ、ミーチェとソフィアも「私も!私も!」と言い、声を上げた。何か新しいアイデアを出すたびに家族みんなが目を輝かせ、こうやって実現に協力してくれる。
幸せものだなと日々思う。ありがとうと伝える。優しい、恵まれた環境だ。そういうことで数日後、改良された全自動洗濯機がお披露目された。
「おお!これは素晴らしい」
お父様が目を丸くし、お母様も「あら、本当に真っ白だわ!」と感嘆の声を上げた。以前よりも格段に早くなった洗濯時間と仕上がりの良さに、家族全員が大興奮。
「キャロルは本当に天才だな」
お父様が、キャロルの頭をポンポンと撫でた。
「えへへ~」
照れくさそうに笑うキャロル。魔導具は、公爵家の中だけに留まらなかった。討伐した魔物の素材で作られた魔導具は他の冒険者たちからも注目を集める。
お父様がとあるダンジョンから持ち帰った、とんでもない素材を見せてきた。
「キャロル、これを見てくれ!」
虹色に輝く宝石のような鱗。
「え、これ、レインボードラゴンの鱗じゃないですか!」
目を輝かせた。レインボードラゴンは滅多にお目にかかれない伝説級の魔物。
「ああ。これを使って、何かとんでもない魔導具を作ってほしい」
お父様はニヤリと笑う。
「とんでもない?」
腕を組んで考え込む。レインボードラゴンの鱗。こんなにすごい素材、何に使おう?
悩んで悩んで数週間後、公爵家は再び驚きに包まれた。キャロルが作り出したのはどこにでも行ける扉風転移装置。
「これがあれば、どんなに離れた場所でも一瞬で移動できるんです」
お母様が感激の声を上げた。これまで冒険者たちが遠征する際には、数週間から数ヶ月かかることも珍しくもなく。それが、転移装置があれば瞬時に目的地に到着できるのだ。
「これで、今まで行けなかった危険なダンジョンも、より早く攻略できるようになるな」
お父様の目も冒険者としての闘志に燃えている。どこでも行ける扉風、転移装置の登場は冒険者業界に激震をもたらした。
レモンピューレー公爵家の名声は不動のものに。もちろん、キャロルはそんなことには全く興味がない。ただただ、家族が喜んでくれるのが嬉しいだけ。どれだけ人気になっても作れるだけで満足なのだ。
「ねぇ、次は何作ろうかなぁ」
ある日のティータイム。キャロルはレモンパイを食べながら姉妹たちに問いかけた。
「うーん…自動で美味しいご飯が出てくる魔導具とかどうです?」
ミーチェが目を輝かせた。
「それいい。毎日パーティー気分よ!」
ソフィアも賛同する。
「どんな場所でも、快適に眠れる魔導具が良いですわ。冒険の疲れも取れて、ぐっすり眠れますもの」
ユミスが優雅に答える。
「なるほどねぇ~」
キャロルはニヤリと笑う。
「じゃあ、全部作っちゃう?」
キャロルの言葉に三姉妹は「えぇぇぇぇ!」と驚きの声を上げた後、満面の笑顔で歓声を上げる。
異世界での生活は本当に毎日が楽しくて刺激的だ。前の世界では味わえなかった賑やかな家族に囲まれて、キャロルは今日も明日も、ゆるく楽しく生きていくのだろう。




