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僕たちはもう、恋を諦めている。  作者: 柳瀬あさと


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1、辰巳と朱鷺子 -甘い寝息と苦い溜息-


「……またフラレたのかよ」


 半ば呆れながら言う俺の方をちらりとも見ず、朱鷺子はえぐえぐと泣きながら洟をかんだ。


「またとか言わないでよ! なんかいつもフラレてるみたいじゃない!」

「いつもフラレてるんだろ」

「辰巳の意地悪ーッ!!」


 叫んでわんわんと泣き出した。どうでもいいけど何で俺の部屋で泣くんだ。出てってもらえないだろうか。勉強に集中できやしない。今年から受験だっていうのに。

 双子の姉の朱鷺子は高校に入ってから今までの二年半ずっと、ひたすら恋に大忙しだ。学生の本分をやっているところはテスト前以外見たこと無い。


『命短し恋せよ乙女! そんなわけで私の恋愛には協力よろしく!』


 わざわざ俺にそう宣言したのはいいものの、協力できないような相手にばかり恋をする。例えば生物の先生だとか、全然知らない二つ上のバスケ部の先輩だとか、ケーキ屋のバイトの大学生だとか。


『同い年とか年下には興味ねぇの?』


 笑えるくらい年上ばかりに熱を上げる姉に、不思議に思って聞いたら


『同い年も年下もあんたで十分よ。冗談じゃないわ』


 などと、馬鹿にしたように言った。なんかムカついたので、その場はそのままケンカになった。クソが、本気で蹴りやがって。


「……何でうまくいかないのかなぁ?」


 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で呟く。多分、俺だけがその理由を知っている。

 見掛けだって悪くないからそれなりにもてる。明るく可愛い女の子なのだ。俺には到底そうは見えないが。それでも世間の目は甘いらしく、告白をすればその年の差に戸惑いつつも、何人かは受け入れる。けれど駄目なのだ。付き合うことになっても長くは続かない。

 男共は勘違いをするのだ。

 その何処までも前向きで明るい性格に、落ち込まずへこたれない強さに、どいつもこいつも朱鷺子の本性を見誤る。


『俺がいなくても朱鷺子は平気だろう』


 たいがい、それが別れの言葉。もしくは『朱鷺子はちっとも俺に頼ってくれない』だの『俺なんかどうでもいいんだろう』だの。

 どいつもこいつも、見当違いな朱鷺子像をその頭の中に作り出しては、虚像の完璧な少女に尻込みする。

 朱鷺子のポジティブさも笑顔も強さも、それは全部大切な誰かがいてこそ成り立つ朱鷺子の性質なのに。

 ちゃんと帰るところがあるから、ちゃんと見ていてくれる人がいるから、ちゃんと守りたいものがあるから、だからこそ安心して朱鷺子は自由でいられるし、笑顔になるのだし、必死になって頑張るのだ。朱鷺子は一人だったら、大人しく眠っているだけのような少女なのに。


「……ほら、いい加減泣くなよ。朱鷺子はさー、もうちょっと男の身になって考えてみりゃいいんだよ」

「考えてるもん」

「考えてないっつの。だからさー……」


 このままでは五月蝿くて勉強に集中できない俺は、ため息をつきながらいつもどおり慰める事にした。朱鷺子は俺の部屋のティッシュを使いきり用意していた二つ目を開ける。

 いつもどおり、朱鷺子の愚痴を聞いてから、慰めながらアドバイスをして、今度こそ上手く行くといいなと応援をする。そうしなければ朱鷺子はいつまでたっても浮上しないのだ。なんて手間のかかる姉なんだ。いや、同い年だけど。双子だから。


「……はぁ、ありがとね、辰巳。私頑張るわ! 今度こそ末永く幸せになって見せるわ! 見てて!」

「はい、頑張って。そして頼むからもう俺の部屋で泣かないでくれ」

「泣かないわ! 辰巳の部屋でひたすらのろけるようにしてやるわ!」

「……それもちょっと……」


 切り替えの早い朱鷺子は散々泣いたら浮上して、こぶしをぐっと握り締めて聞き飽きた宣言をする。今までこの宣言が守られた事はない。朱鷺子が俺の部屋に来るときは、宿題を写させてくれという時か失恋して泣く時くらいだ。迷惑極まりない女だ。


「よし、辰巳のアドバイスどおり、もっといい女にならなきゃ」

「はいはい、いい女になってください」

「わがままも言わないで何でも一人で解決できて、もっと男の人が頼れるような大人の女にならなきゃ! そうなんでしょ、辰巳?」

「そうそう、頑張ってください」


 俺は笑顔で答える。


 心の中で「バーカ」と思いながら。


 それ以上強い女になってどうするんだ。正反対だよ。俺が言ったアドバイスは全て逆の事なんだよ。何で気付かないんだ。言われてきたんだろう? 付き合ってきた男どもに。

 たいていの男はそんな可愛げのない女なんて好きじゃない。まして、年下の女の子にはそんなもの欠片も求めやしない。「俺がいなきゃ駄目なんだな」くらいの弱い女の方が男の庇護欲をかきたてていいんだよ。


 もっとも、俺はそんな女、大嫌いだけど。


「よし! 明日からまた出会いを求めて頑張るぞ!」

「つーか勉強やれよ。前のテスト、ボロボロだっただろ」

「過去は振り返らないのよ! あーもう、今日はもう寝ようっと! お休み!」

「あ? ふざけんなコラ! なに人のベッドで寝てんだよ! 朱鷺子!」


 文句を言う横で、泣きつかれたのか既に眠りの世界に入ってしまった。お前はのび太か。

 俺は大きくため息をついて勉強を再開する。


 朱鷺子はいつだって自由。いつだって笑顔。いつだって必死になって頑張ってる。だけどそれは大切な誰かがいて成り立つ。本当の朱鷺子は、大人しく眠っているだけのような少女。何処にも行けずにうずくまってぼんやりと周りを見ているだけの小さな女の子。


 その事を知っているのは、俺だけだろう。


 文字を書く音に紛れて、規則正しい甘い呼吸が聞こえる。

 ふと横を見ると、男のベッドで安心しきった様子で眠る少女がいる。


 一瞬何もかも振り切って走り出したくなる衝動が体を走りぬける。喉に何かがこみ上げて来て叫びだしそうになる。だけどそれは全部一瞬の出来事で。


 俺は苦い息を大きくはいて、ようやく静かになった部屋で勉強を再開した。



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