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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第3章 霊撃の決闘者

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3.4 決闘の依頼者

■ 登場人物


【アステル・ランドール】主人公。男爵家の跡取り。黒髪黒目、陰気な顔。


【グラノーラ・フルール】主人公の幼なじみ。伯爵令嬢で主人公の主筋。長く美しい金髪に美しい青い目。


【マル】主人公の体に転生(居候)した魔法使い。見た目は四歳ぐらいの幼女。緑色の髪に緑色の目。五百年前の大魔法使い。

 ――十月中旬。


 事務所でマルと修行をしていると扉がノックされた。


「あの、ここは決闘代行の事務所ですか?」


「そうです。どうぞ」


 扉を開けて、最初の客を招き入れた。

 壮年の夫婦だ。服装は質素だが小ぎれいだ。貧民街に住んでいるのではないだろう。商店が並ぶ、表通りの住人だと思われた。

 夫婦の服の袖は、念入りに洗っているのか色が落ちている。夫婦ともに手の指が太くなり、手作業の仕事をしていることが分かる。職人だろうと当たりをつける。


 部屋に椅子は二つしかない。その二つを夫婦に提供して自分は立って話を聞くことにした。


「まずは、お話をお聞かせください。そのあと、こちらから話をします」


 夫婦は不安そうに顔を見合わせた。俺の年齢が若すぎるのが原因のようだ。しばらく相談し合ったあと、夫の方が代表して話し始めた。


 二人は長いことパン職人をしているそうだ。店頭で販売する量は少ないが、各所のお屋敷に納品することで利益を上げてきたという。

 ある日、新しい取引先のお屋敷に、店主である夫が呼び出された。何事だろうと思って行くと、貴族の男に、パンに針が入っていたと言われた。

 そんなはずはない、そのパンを見せて欲しいと頼んだ。そもそも針なんて高い物を、パンの工房に置くことはないからだ。


 貴族の男は激怒して「決闘を申し込む」と叫んだ。決闘の日は一週間後。男は決闘代行を向かわせると話した。

 どうしてこんなことになったのかと、伝手をたどって情報を集めた。貴族の男は評判が悪かった。難癖をつけては、決闘と称して人を殺すことを趣味にしていた。パン職人の夫婦は、新しい標的にされただけだった。


 貴族の男は、自分自身の手を汚すことさえしない。貧民街の若い人間を決闘代行に仕立てて、殺し合いの場に向かわせる。どちらが死んでも面白い。胸糞の悪い話だと思った。

 夫婦は途方に暮れていた。そんな折、不動産屋から決闘代行なら近くにいると聞いた。そして、今日ここにやって来たそうだ。


「クズだな、その貴族」


 俺は吐き捨てるように言った。マルも怒った顔で、俺に話しかけてくる。


「その貴族が出て来るのなら殺せというのだがな。向こうが決闘代行を出すのなら殺さず昏倒させるべきだな」


 俺は静かにうなずいた。


「それで、料金はどれくらいになるのでしょうか?」


 夫婦は相場がまるで分からないという顔をする。それは俺も同じだ。王都の決闘代行の相場なんて把握していない。

 高すぎる金額で払えなくても困るだろうし、安すぎるのもどうかと思う。少し考えてから俺は値段を決めた。


「あなたの店の、一ヶ月分の利益で手を打ちましょう。売り上げではないです。人件費や諸経費を引いたあとの純粋な利益です」


 おそらく正規の値段からしたら格安だ。こちらも目的があって受ける仕事なので本当はただでもいい。しかし、俺は貧乏貴族なので少しはお金を稼ぎたい。


「ありがとうございます。一年で、最も売れる月の利益の金額を前払いで支払います。あと、無事に帰ってこられたら、毎日ここにパンを届けるようにします」


「それはありがたいです」


 俺はにっこりと笑う。

 話は決まった。いよいよ修行の成果を試すときが来た。霊撃はすでに使えるようになっている。剣と純粋魔法を組み合わせた戦闘で、相手を昏倒させることを目指すとしよう。


  ◆◆◆


 数日が経った。

 決闘の場所は、件の貴族の屋敷から見える路地裏だ。貴族の名前はキネトス子爵という。顔は見たことがないが、きっとすこぶる醜悪な顔をしているのだろうと思った。

 俺は決闘代行の書類を持って現場に行く。パン職人の夫婦は巻き込まれないように自宅で待機してもらった。


 路地裏に行くと少女が立っていた。年齢は十二歳ぐらいか。ぼろの服をまとい、赤いぼさぼさの髪を背後で結んでいる。

 武器は短剣を一本持っている。鞘がないのか刀身を布で覆っている。


 貧民街の少女なのだろう。栄養状態が悪そうだから、年齢はもう少し上かもしれない。貧しい子供を金で釣り、決闘代行として死地に送り出す。本当に腹が立つ話だ。


 キネトス子爵は、屋敷の窓のどこかから様子を見ているのだろう。ぶん殴ってやりたかったが、便利な魔法が使えるわけでもない。それに、目の前の少女との戦いに集中しなければならなかった。


 俺は書類を前に掲げて名乗りを上げる。


「パン職人タラバルの決闘代行としてきたアステルだ」


「子爵キネトスの決闘代行としてきたココルです」


 きれいな澄んだ声が響く。声に力がある。食い詰めの貧乏人ではない。修練を積んだ者の声だ。俺は警戒を怠らないように剣を鞘から抜いた。

次回「3.5 決闘代行」(第3章 その5)

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