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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第3章 霊撃の決闘者

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3.3 二つの発明

■ 登場人物


【アステル・ランドール】主人公。男爵家の跡取り。黒髪黒目、陰気な顔。


【グラノーラ・フルール】主人公の幼なじみ。伯爵令嬢で主人公の主筋。長く美しい金髪に美しい青い目。


【マル】主人公の体に転生(居候)した魔法使い。見た目は四歳ぐらいの幼女。緑色の髪に緑色の目。五百年前の大魔法使い。

 俺は、ガゼー地区の事務所で、マルの二つの発明について説明する。


「マルが最初に名を上げたのは人工精霊の開発だった。

 魔法を使いたいと思うときに、望む精霊が必ずいるとは限らない。そして精霊は気まぐれだ。その相手を自分で人工的に作ることができれば、いつでも精霊魔法が使える。


 そう考えたマルは、霊体化の技術で精霊の精緻な模倣をおこない、人工精霊を作り上げた。そして魔法として実用化した。

 マルの魔法は、高度な技術を必要とした。しかし技術を習得して真似る者が出てきた。この技法は人工精霊魔法と呼ばれた。そして、この魔法の時代が百年ほど続いた」


「どうだすごいだろう。私は天才だからな。アステルもそう思うだろう?」


「実際、マジモンの天才だと思うぜ」


「いやあ、照れるなあ」


 マルは顔をにやけさせて頭をかく。その様子はただの馬鹿にしか見えなかった。しかし、その魔法の功績は本物だ。

 少しは師匠を乗せてやるか。俺は続きを語りだす。


「人工精霊は精霊を模したものだったから、霊餅を作って精霊語で交渉しないといけないのは同じだった。

 精霊を探さないでよい、精霊を連れ歩けるという問題は解決したが、やはり高度な技術を要することは変わらなかった。

 そこでマルは二度目の大発明を成し遂げる。魔法再現器の開発だ。霊餅の作成、精霊語での交渉、そうした諸々を、魔力を流し込むだけで自動でおこなえるようにした。

 これが現在、俺たちが魔法と呼んでいるものの正体だ。開発当時は全自動魔法と呼ばれていた」


 俺が魔法として知っていたのは、この魔法だけだ。


「魔力が一定以上あり、魔力を流し込むという操作ができれば、誰もが魔法を使えるようになった。しかしデメリットもあった。それは作るのが著しく難しかったことだ。


 大魔法使いのもとに、多くの気鋭の魔法使いたちが集まったのは、この全自動魔法を作るためだった。

 この魔法は非常に高額だったが、王族や貴族たちに飛ぶように売れた。その金で大魔法使いは塔を拡張して、弟子たちを収容した。その塔は魔法学校のような存在で、アカデミーとも呼ばれていた」


 マルは胸を張って自慢げな態度を取る。

 まあ、実際に神のごとき業績だ。マルと弟子たちが作った魔法が、五百年間受け継がれて使われているわけだから。


 そして、マルが嘆く気持ちもよく分かった。

 五百年経って俺の体に転生して、以前から魔法がまったく進歩していなかったわけだ。それどころかロストテクノロジーになっていた。

 マルが開いた未来への道は、完全に途絶えていた。


「よし、復習は終わりだ。次は修行の番だ。この事務所に客が来るまで練習を続けるぞ」


「分かった。魔力が空になるまで、ひたすら霊撃を打つんだな」


「そうだ。まずは、やり方を教えるから実際にできるようになるのが目標だ」


 俺は貧民街の無人の部屋で、マルに教えられながら霊撃の練習をした。

 最初は何も出なかったが、何度も繰り返しているうちに霊体を出せるようになってきた。また、自分で霊体を作れるようになると、うっすらと見えるようになってきた。


  ◆◆◆


 魔法修行は続く。

 放課後は学校を飛び出して、ガゼー地区の事務所で魔力の霊体化をおこなう。決闘代行の依頼がいつ来るか分からない。受付を雇う余裕はなかったから、客を待ちながら修行に明け暮れた。


 グラノーラからは、最近相手をしてくれないと不満を言われた。夜はなるべく早く帰って、身の回りの世話をするようにした。

 そうして一週間ほど経ったとき、最初の客が事務所にやって来た。


次回「3.4 決闘の依頼者」(第3章 その4)

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