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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第3章 霊撃の決闘者

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3.2 古い時代の魔法

■ 登場人物


【アステル・ランドール】主人公。男爵家の跡取り。黒髪黒目、陰気な顔。


【グラノーラ・フルール】主人公の幼なじみ。伯爵令嬢で主人公の主筋。長く美しい金髪に美しい青い目。


【マル】主人公の体に転生(居候)した魔法使い。見た目は四歳ぐらいの幼女。緑色の髪に緑色の目。五百年前の大魔法使い。

 ガゼー地区の貧民街にある部屋を俺は借りた。そして、決闘代行の事務所として看板を掲げて、そこで魔法修行を始めた。

 マルは机の上に立ち、俺へと顔を向ける。


「それでは、昨夜の復習から始めるぞ。理論と実践。その両輪がなければ実力はつかないからな」


 俺はマルの前の椅子に座る。


「魔法の成り立ちだったな。学校では何も教えてくれなかったことだ。もっと言うと、図書館の本にも書いていなかった」


 俺が神妙に言うと、マルは得意げにうなずいた。


「文明や技術というものは、維持の努力を怠れば失われる。記録の重要性を感じるよ。

 人間の悪いところは、王国が変わると、それ以前の歴史をよく隠蔽することだ。この国もその例に漏れずというわけだな」


 放っておくと延々と愚痴を言いかねない。

 マルは見た目は幼女だが、中身は二百歳は生きているというおばあさんだ。世間話のように、人類への不満を述べ続けかねない。


「レッスン・ワンは、魔力についてだったな」


 無理やりマルの話を断ち切り、魔法修行の話に移る。


「ああ。黒板にチョークで図を書ければいいんだが、この『霊魂義体』は物を持てないからな」


 マルは身振り手振りを交えながら話す。


「まずは魔力について話そう。魔力は基本的に、生き物が多く持ち、無生物は少なく持っている。魔力は、霊力、気力、などとも呼ばれる。

 魔力は、物体や霊体に変換可能だ。この現象を利用したのが、最も古い魔法になる。私たちの時代では、純粋魔法と呼ばれていた。

 純粋魔法のメリットは、習得さえすれば比較的簡単に使えることだ。デメリットは、膨大な魔力がなければ、世界にわずかにしか影響をおよぼせないことだ」


 魔法学校では、まったく習わなかったことだ。ザラエル王国では闇に葬られた知識だ。


「アステルにはまず、この純粋魔法を覚えてもらう。霊撃と呼ばれる霊体化を応用した戦闘方法を使えるようになってもらう。霊体の剣を作り、敵の霊魂を傷つける技だ。


 霊撃を使えば、相手を昏倒させたり、朦朧とさせたりできる。魔法学校の廊下で、メザリアに使った技だ。離れた場所の敵にも当てられる不可視の攻撃だ。

 剣技と組み合わせれば、たいていの敵を退けることができる。まあ、この時代なら、かなりのズル技だ。古流の暗殺者や武術家なら身に付けている可能性があるから、自分だけの技だと過信してはならないがな」


 俺はうなずく。純粋魔法と霊撃。今には伝わっていない原始的な魔法技術か。マルが直接指導するので習得は難しくないと言われた。


「レッスン・ツーは精霊についてだったな」


 次の段階について、俺は確認する。


「そうだ。純粋魔法には致命的な欠点がある。

 人間は魔法で現実世界を改変したい、しかし人間がおこなう純粋魔法の物体化は、魔力変換の効率が悪い。


 人間以外では、物体化が得意な種もある。たとえばドラゴンだ。魔力で飛行を補助し、火炎の息をはく。ドラゴンは膨大な魔力を持ち、物体化の魔力変換の効率も高い。


 こればかりは種の特性なのでどうしようもない。そこで人間の祖先たちは、違う方法を考案した。精霊との交渉だ」


 精霊という言葉も、俺の魔法知識には存在しない。


「霊体の中で、生物の体と強く結びついたものを霊魂と呼ぶ。また、物体とは無関係に意思を持っているものを精霊と呼ぶ。精霊は多くの場合、人間よりも物体化の魔力変換効率が高い。

 精霊魔法では、純粋魔法の霊体化を使って霊餅(れいへい)と呼ばれるものを作る。これは精霊にとって食料になるものだ。その霊餅を餌にして、精霊語で交渉して精霊に仕事をしてもらう。それが精霊魔法だ」


 人間には難しいことを精霊にしてもらうわけだ。


「かつては、この精霊魔法が使える者が、魔法使いと呼ばれていた。

 精霊魔法を使うには、霊餅を作れて、精霊を見る技能を磨いて、精霊語を話せなければならない。それなりに高度な技術を要する。


 精霊魔法は便利だが、人類の発展に従って問題が生じた。自然豊かな場所に比べて、都市部は圧倒的に精霊が少ない。精霊魔法は都市化と相性が悪いんだ。そのせいで、魔法は一時期、失われた技術となりかけた」


 マルはここで言葉を区切る。そして俺に期待の眼差しを向ける。昨日話したことを俺の口から言わせようとしている。

 マルが言ったことが本当だとすれば、マルは紛れもない大魔法使いだ。俺は一呼吸置いて口を開く。


「その長らく停滞していた時代に、一人の天才的な魔法使いが現れた。のちに大魔法使いと呼ばれる才媛、マルテシア・マルルマールは、魔法時代を作る二つの発明を成し遂げた」


 マルは照れた顔をしてにやける。おまえが言わせたんだろうがとツッコミを入れたくなる。

 俺はマルの言葉を待ったが続きを言わない。あくまで俺に言わせようという気か。仕方がない。俺は、この二つの発明について説明を始めた。


次回「3.3 二つの発明」(第3章 その3)

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