2.3 挿話:メザリア・ダンロス
■ 登場人物
【メザリア・ダンロス】魔法学校の最大派閥を率いる公爵令嬢。銀色の長い髪に灰色の目。
メザリアが魔法学校に入学して一ヶ月が経った。ダンロス公爵家の三女であるメザリアは、両親から大きく期待されていた。
上の二人の娘は、魔力量がそれほど大きくなかった。それに対して三人目の娘であるメザリアは、一族でも突出して魔力量が多い赤子として生まれてきた。
この子は将来、ダンロス公爵家を背負って立つ者になる。
メザリアの両親は、幼少の頃からメザリアを連れて転生神殿に通った。そして、半年に一度ほどのペースで転生の儀式をおこなった。
魔法学校に入る時点で、メザリアの小さな体に十六人の祖先の魔法使いが同居することになっていた。
自身の体にいる、十六人の老練な他人。
それはメザリアにとって、小さな教室にぽつんと一人で座り、十六人の教師に取り囲まれているような状態だった。その状態は、メザリアの人格形成に大きな影を落とした。
――メザリアは、ダンロス公爵家の娘としてふさわしい行動を、いつも求められている。
――メザリアは、自身の体をダンロス公爵家の器として考えている。
自分の心は小さく押しやられて、いつも十六人の祖先たちの助言が鳴り響いている。必要ならば意識を奪われて、気づくと全てが終わっている。
日に数度、意識が消えて再び戻る。それが当たり前の生活だ。両親はそのことを正しいと考えていた。なぜならば、両親もそうやって人生を送ってきたからだ。
メザリアにとって、自分の周囲に誰かがいるのは自然な状態だった。多くの人に囲まれてその意見を聞くのは、幼少の頃からの習いだった。
成長とともに十六人の教師は十六人の従者になった。それでも人々に囲まれていることは変わらなかった。
魔法学校に入り、派閥を作り始めたのも、自分にとって当たり前の状態を作るためだった。
多くの者に囲まれて日々を送る。周囲の者たちは、自分のために知恵を絞り、動き回る。それがメザリアにとっての正しい世界だった。
いつからだろうか、自分になびかない者を敵だと認識するようになったのは。
――私は十六人の転生者にかしずかれている。その私の誘いを断り、従わないということは、私が置かれた境遇を否定している。
メザリアはそう思うようになった。
他の派閥に入っているのならば、ある程度理解できた。自分ではない誰かのために働いているのだろう。しかし、何の派閥にも入っていない者は理解できなかった。
グラノーラ・フルールと、アステル・ランドールの二人が気になり始めたのは、いつのことだっただろうか。
孤立していることに恐れを抱かない。誰かに従属することに価値を見いださない。転生者に囲まれて小さくなっている自分を否定する存在。
「メザリア様!」
周囲の者たちの騒ぐ声で、メザリアは目を覚ました。
意識が飛んでいた?
ダンロス公爵家の魔法『神の鉄槌』を持ったまま横たわっている。
確か、グラノーラを殴ろうとして、アステルが飛び出してきて何かをした。
「私は大丈夫よ」
上半身を起こして、周囲の者たちに声をかける。
転生者たちがメザリアの中で悲鳴を上げていた。自分が傷ついたのと同じように、転生者たちも傷を負っていた。
いったい何が起きたのか?
理解できない何かが起きていた。メザリアは、アステルにされたことに恐れを抱いた。
今以上に、グラノーラとアステルのことを監視しなければならない。
メザリアは自分のために、そうする必要があると思った。
次回「3.1 貧民街」(第3章 その1)




