7.5 挿話:単眼の魔法使い
■ 登場人物
【単眼鬼】死体を操り、肉体を乗り換える霊体の人間。
人間は、肉体と霊魂を持っている。私は肉体を持っていない。それでは私は、人間ではないのだろうか?
私は人間として振る舞える霊魂を持っている。肉体がないのならば手に入れればよい。ヤドカリが巻き貝の貝殻を借りるようなものだ。私は自分が宿るべき肉体を探した。
記憶には二種類ある。もともと持っていた記憶と、新たに獲得した記憶だ。
私が手に入れた肉体は、まだ幼い子供のものだった。私は子供の肉体を手に入れるとともに、子供の記憶を手に入れた。そして、その子供の身体から魔力を吸い上げた。それは私の目的に必要なものだったからだ。
魔力を集めなければならない。
それは最初の段階として必要なことだった。
大人よりも子供の方が魔力を持っている。私はそうした記憶を持っていた。
子供の肉体を得ることで、私は新たな記憶を獲得した。
貧民街の子供たちは、大人がいない空き地でよく遊ぶ。空き地の周囲には廃屋があり、そこに一人が迷い込んでも誰も気づかない。
私は、もともと記憶を持っていた。
魔力の奪い方には、さまざまな方法がある。殺す、気絶させる、隷属させる。
そうした方法の中で、最も効率がよい方法は殺すことだった。命を絶ち、肉体の動きを停止させる。にじみ出る魔力を吸えば、余すところなく魔力を奪い取ることができる。
どうすれば子供の命を絶つことができるのか?
私の肉体は知っていた。私は自分の首を取り巻くあざに触れる。この体は、首を絞められて殺された少年のものだった。少年は絞殺されたのだ。
私は少年の記憶を手に入れていた。私は誰が自分を殺したのか知っていた。
私の上にのしかかってきた客。その客は、少年の母が連れてきた。私は間接的に、母親に殺されていた。
私は、自身が殺された体験から知っていた。首を絞めれば効率的に殺せる。紐を引く強さや、死にいたるまでの時間も把握していた。
私は経験から知識を得た。
肉体を手に入れるということは、その人間の記憶を共有することだ。
他人の体に入るということは、自分と他人の記憶をより合わせることだ。
多くの人の体を渡り歩けば、記憶という糸はどんどん太くなっていくだろう。
私は記憶を持っている。私には目的がある。そのために魔力を集めている。そのために活動を続けている。
私を動かし始めた者が、最初に与えた命令――。
私はその目的を達成するために、多くの人の身体を渡り歩き、無数の記憶を活用していくつもりだ。
次回「8.1 合宿の計画」(第8章 その1)




