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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第6章 お買い物

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6.1 自己紹介

■ 登場人物


【アステル・ランドール】主人公。男爵家の跡取り。黒髪黒目、陰気な顔。


【グラノーラ・フルール】主人公の幼なじみ。伯爵令嬢で主人公の主筋。長く美しい金髪に美しい青い目。


【マル】主人公の体に転生(居候)した魔法使い。見た目は四歳ぐらいの幼女。緑色の髪に緑色の目。五百年前の大魔法使い。


【ココル】決闘代行で稼いでいた貧民街の少女。小柄で、赤い髪を背後で結んでまとめている。


【ニーナ・シャントン】富商の娘。青色の短い髪に眼鏡。本が好き。

 グラノーラ主導で、魔法学校の派閥から漏れた三人による、仲良し同盟が結成された。今後増えるか減るかは分からないが、初期メンバーはグラノーラと俺とニーナだ。


 翌日の放課後、グラノーラの呼びかけで彼女の部屋に集まった。テーブルを囲んでのお茶会だ。お菓子は食堂でもらったクッキーだ。おやつを食べながら俺たちは雑談をする。


 なかなか華やかだなと思った。さらさらの金髪に美しい青い目の、人形のような容姿のグラノーラ。青色の短い髪に眼鏡の知的な容姿のニーナ。唯一の欠点は、黒髪黒目で陰気な顔の俺だなあと思った。


「そういえば……」


 クッキーを口に運びながら俺は話す。


「同盟という割には、きちんと俺たちの魔法を紹介していなかったな。俺が受け継いだ魔法は『張りぼての物真似』という、他人の魔法を真似る魔法だ。

 俺自身の実力不足のせいで発動率はすこぶる低い。それに発動しても、一時的にしか真似できない。効果も本家より弱い」


 俺の説明が終わったあとは、グラノーラが説明を始める。


「私の魔法は『癒やしの手』よ。たいていの怪我や病気なら治せるわ」


「こいつ、自分の領地では野山を駆け回って大量に怪我をしていたんだ。でも、この魔法のおかげで、傷一つない状態にすぐに戻るんだよ」


「すごいですね」


 ニーナが感心したように言う。いや、グラノーラはただの山猿だということを言いたかったんだ。


「ニーナは、どんな魔法なの?」


 グラノーラが体を寄せて尋ねる。


「地味な魔法です。『音声伝達』の魔法です。最後に触れた人一人と、離れた場所にいても声でやり取りできるんです」


「めちゃくちゃ便利じゃないか。軍事とかで重宝するだろう」


 俺は驚いて声を大きくする。ニーナは恐縮して、体を小さくした。


「そんなにすごい魔法ではないんです。この手の魔法は、数が多いですから。私以外にも、違う条件の伝達魔法がいろいろとあるそうです。

 うちの父は、先物取引の連絡に使えそうだと思って買ったらしいんです。でも、『最後に触れた人』という条件が厳しくて、あまり使えなかったんです。誰にも触れずに遠い土地に行くのは難しいですから」


「あー」


 まあ、無理だよな。市場を通れば誰かに触れる。何週間、何ヶ月も誰にも触れないなんて厳しすぎる。娼館などに行っても駄目だ。妻や子供とも触れ合えない。商人が使うには厳しすぎるだろう。


「だから、私にくれたんです。それで、私は魔法学校に行けるかなと考えたんです。この学校、図書館が有名ですから」


 確かに図書館は充実している。俺も入り浸っているから分かる。


「でもこの学校、ほとんどの人が貴族で、私には合わないなと思っていたんです」


 ニーナの声が小さくなる。意気消沈しているのが傍目にも分かった。


「そりゃあ、大変だったな」


 俺は心から同情した。しかし、どうやって励ませばいいのか分からなかった。


「さあて、アステル、ニーナ!」


 グラノーラが急に大声を出して立ち上がった。めちゃくちゃ嬉しそうな顔をしている。


「何だ、お嬢?」


「友達が集まったらやりたいことがあったの!」


「お菓子パーティーか? どうせ食うことだろう」


「違うわよ。やりたいのは別のこと。お買い物よ!」


 グラノーラは拳を握って天井に向けて振り上げる。そういえば、魔法学校に来てから、本格的な買い物には行っていなかったなと思い出す。


 買い物か。

 俺は行くかどうか躊躇した。

 正直に言って俺には金がない。貧乏貴族だからだ。伯爵令嬢と富商令嬢の金銭感覚に付き合うのは無理がある。


 仲良し同盟で仲間になったニーナ・シャントンは、実家が太い。

 貴族ではないが、貧乏貴族から魔法を買えるだけの財力を持った家である。いったいどれだけの金額を積んで買い取ったのやらと思う。


 あれから調べたが、シャントン家は王国の各地で高級品をあつかっている商家だ。貴族向けの生地や服、家具などを売買している。最近は新興の富商も相手にしていて利ざやは大きい。ニーナの家には、金がたくさんある。


「俺は金がないからパス」


 あれこれと理由をつけるよりも素直に話した方がいい。グラノーラは、そうしたコミュニケーションを好む。


「そういえばアステルの実家はお金がないのよね」


「お嬢、言い方」


 俺はニーナに事情を説明した。そもそも二代前に幸運で爵位を得ただけの貧乏貴族なのだ。


「そうだったんですね。貴族の方も、いろいろと事情があるんですね」


 ニーナは少し考える仕草をする。


「私は商家の出です。だから、品質はいいけど庶民でも買える価格の店を知っています。そうした店を紹介して回るというのはどうですか?

 お買い物をしてもいいし、しなくてもいい。使ったとしても庶民価格で満足できる」


 俺とグラノーラは視線を交わす。


「いいんじゃない、アステル。それなら無理のない範囲だと思うけど」


「分かった、降参だ。それでいいよ。俺は財布の紐を固くしておく。いずれにしても、そういう店を知っておくのは今後のためになるしな」


 女性陣二人は楽しそうにおしゃべりを始めた。俺たちは机の上のお菓子を食べたあと、外出の準備をした。


次回「6.2 街めぐり」(第6章 その2)

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