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4.5 挿話:ガゼー地区の顔役ラパン

■ 登場人物


【ラパン】ガゼー地区の顔役。主人公が決闘代行の事務所を構えている地区を、裏で支配している。

 都市の中で貧民街ができる場所はいくつかある。

 たとえば低地で、雨のたびに汚水が流れ込む場所。そうした土地には人は住もうとせず、時間とともに貧しい者たちが集まってくる。


 川に隣接した場所や、流れの上にせり出した場所も、貧民街ができやすい。街の生活排水が絶えず流れ込むために悪臭が漂うことが多いからだ。


 街を取り囲む壁の外も貧しい者たちが溜まりやすい。街のおこぼれに預かろうという者たちが不法に住み始める。

 難民キャンプのようになり、時折衛兵が立ち退かせるが、すぐに粗末な家が作られる。


 ガゼー地区は、王都の最初の街壁の外側にある。もともとは、浮浪者が居座ってできた貧民街だ。

 ただ、貧民街の中では、比較的環境がよかった。王都は西側が高い土地で山に近く、東側が低い土地で海に近い。王都を囲む二本の川は、西が上流で、東が下流になる。

 ガゼー地区は王都の西に位置する。そのため清潔な水が手に入り、悪臭もなかった。


 王都が発展して、二つ目の街壁ができたときに、この地区は街の中に取り込まれた。そして内側の街と外側の街を繋ぐエリアになり、多くの人が行き交った。

 その結果、表通りは大いに発展して、商店が建ち並ぶ場所になった。


 しかし、一歩裏通りに踏み込むと、かつての面影が残っている。奥に行くほど家は質素になり、壁の近くには板を立てただけの住居が多くなる。

 ガゼー地区は、貧民街と商店街がグラデーションになった王都でも特徴のある街区である。


 王都の各地区には顔役がいる。

 マフィアやギャングのボスと言ってもよい。多くの部下を持ち、独自の武力を持っている。


 貴族以外が武力を持つことは、本来は違法なのだが国も黙認している。

 王都は大きくなりすぎていた。正規の衛兵だけでは治安を維持するのが難しくなって久しい。

 顔役が、各地区をうまく収めているあいだは黙認する。逸脱した場合は、軍隊を派遣して取り締まる。


 ラパンは、ガゼー地区の顔役として三十年ほど君臨している。

 商店街のいくつかの店は、ラパンの息がかかっている。また、表通りの商店のほとんどから、みかじめ料を取っている。

 高い税金がかかる商品や、国で禁止されている商品を密輸入することもある。それらの商品は、ガゼー地区の商店に安く卸すことが多かった。


 ラパンは、暴力を使うことはほとんどなく、地区の発展こそが自身の利益に繋がると考えている。

 ガゼー地区の住人からの評判は良好で、王都の衛兵にも受けがよかった。


 ラパンには前職があった。裏世界のボスの一人になる前は、劇団をいくつか所有していた。

 世間の流行をいち早く把握して、人心を巧みに操る仕事だ。ラパンは、多くの人間を管理する能力にも長けていた。裏社会とも濃密な関係を結んでいた。


 ラパンが抱えていた複数の劇団が大儲けをした時期がある。演劇『剣士ランドール』の一大ブームだ。

 南方戦役従軍の百人長。マガス王国の国王を討ち取った英雄。ラパンも筆を執って脚本を書いた。王都の各地で、少しずつ筋の違う話がいくつも上演された。


 老齢になったラパンは、ある日部下たちから新しい事務所ができたと聞いた。決闘代行の事務所らしい。

 まだ若い男が一人で開いたそうだ。黒髪黒目の少年だという。儲けが出始めたところで、みかじめ料を要求しようと思った。仕事を円滑に運ぶために、部下たちに少年の素性を調べさせた。


 少年はガゼー地区の事務所と、魔法学校を往復していた。貴族なのか。もしそうなら、なぜ貧民街で決闘代行の事務所を開いているのだ。

 ラパンは少年を、観察対象にした。そして部下たちに、少年の動きを見張っておくようにと指示した。


 最初の決闘代行の仕事で、少年はココルという少女を倒した。ココルのことは、ラパンも知っている。ガゼー地区で決闘代行をしていて負け知らずの少女だ。

 会ったことはないが、間接的に知っている。ラパンが昔所有していた劇団の主演俳優が、剣を教えていたからだ。


 ラパンのもとに少年の調査結果が届いた。その名前を見て心の底から驚いた。アステル・ランドール。ランドール男爵家の跡取り息子。


 奇妙な縁だと思った。いや、縁など本当はまったくない。ラパンが勝手に便乗して大儲けしただけの間柄だ。


「やはり、剣がうまいのか」


 年甲斐もなく胸が躍った。若かった頃の華やかな世界を思い出した。


「どうしました、ラパン様?」


 部下が怪訝な顔で聞いてきた。


「そうだな。アステル・ランドールと顔見知りになっておこう。ここに、彼を呼ぶように手配しろ」


 ラパンは頬を緩めて、少年が来るのを待った。


次回「5.1 支援の手」(第5章 その1)

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