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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第4章 闇の刃

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4.4 首輪

■ 登場人物


【アステル・ランドール】主人公。男爵家の跡取り。黒髪黒目、陰気な顔。


【グラノーラ・フルール】主人公の幼なじみ。伯爵令嬢で主人公の主筋。長く美しい金髪に美しい青い目。


【マル】主人公の体に転生(居候)した魔法使い。見た目は四歳ぐらいの幼女。緑色の髪に緑色の目。五百年前の大魔法使い。


【ココル】決闘代行で稼いでいた貧民街の少女。小柄で、赤い髪を背後で結んでまとめている。

 ココルとともに決闘代行の事務所に引き返すと扉が開いていた。

 嫌な予感がして、そっと中をのぞいた。さらさらの金髪に青い目のグラノーラが、机の上のかごに入ったパンを、ぱくぱくと食べていた。


 侵入者に対処しようとしたココルを制して部屋に入る。グラノーラは食べるのをやめて、こちらを見てきた。


「や、やあ、お嬢。こんなところで、何をしているんだ?」


「それは、こっちの台詞よ。アステル、どういうことなの? 説明してちょうだい」


 ココルは、俺とグラノーラを見比べている。事情が飲み込めず、どうすればよいのかといった顔をしている。


 俺はココルを部屋に入れて扉を閉めた。グラノーラとココルには、俺が置かれた状況を、ある程度説明しておいた方がいいだろう。


「まず、お嬢に事情を説明する。この決闘代行事務所は、俺が借りている。決闘代行は、魔法修行の一環としておこなっている。

 そして、この子はココルという。事務所を手伝ってもらっている。彼女も決闘代行者で、俺がスカウトした。彼女は、そこら辺の兵士よりも腕が立つ。俺が学校にいるあいだは、彼女に事務所を切り盛りしてもらっている」


「分かったわ。あなたの部下なのね。よろしくね、ココル」


 グラノーラは握手を求める。ココルは、警戒した表情のまま手を出して握った。


「次はココルに説明する。この人は、グラノーラ・フルール。フルール伯爵家のご令嬢だ。俺の主筋にあたる」


 ココルは猫のように驚き、数歩下がって土下座する。そしてちらりと頭を上げて、俺に視線を向けてきた。

 まあ、そういう反応になるよな。そして、俺の素性も知りたいと思うだろう。


「俺はアステル・ランドール。ランドール男爵家の跡取り息子だ。俺とお嬢は魔法学校に通っている。俺は学校で、お嬢の世話係をしている」


 ココルは呆然としている。想像していたよりも、はるかに雲の上の存在だと思ったようだ。

 グラノーラはともかく、俺はそんなに遠い存在ではない。俺が魔法使いになれなければ、俺の一家は庶民に逆戻りしてしまうからだ。


「説明は終わった?」


「ああ」


 グラノーラは、呆れたように大きくため息をついた。


「最近放課後に、すぐいなくなると思ったら、こんなことをしていたなんてね。私の監督不行き届きね」


 うっ、そう言われても仕方がない。


「それで、ここに通っているのは魔法修行の目的なのね?」


「ああ」


「これは、アステルが魔法使いになるのに必要なの?」


「そうだ」


「アステルがそう言うなら、そうなんでしょう。でも、この調子ならすぐに破綻するわよ。毎日外出して遅くに帰ってきたら、さすがに学校の先生方も、何かおかしいって気づくでしょうから」


「まあ、そうだろうな……」


 学校は三年制だ。三年間、こうした二重生活を続けるのは無理がある。


「いい、アステル。ここに来るのは土日に加えて平日の一日、週に三日だけにしなさい。それぐらいなら、周りから不自然に見えないわ。

 あと、外出のときは私にきちんと言うこと。何も知らないと、かばうこともできないから。あなたの動向は、あなただけでなくフルール家にも影響するのよ」


 幼なじみとしてではなく、主君としての会話だ。

 正論だ。きちんと伝えるとグラノーラに約束した。グラノーラは満足そうに笑顔を浮かべた。


「さて、ココルちゃん。あなたはアステルの部下なのよね。ということは私の部下でもある。それは納得できる?」


「はい、お嬢様!」


「よろしい。では、ココルちゃん。ここで、アステルが何をしていたか、洗いざらい私に教えてちょうだい」


「分かりました!」


「ぐはっ!」


 俺は頭を抱える。決闘代行でどんな戦いをしていたか、ここでどんな修行をしていたか、ココルに何を教えていたか、全てグラノーラに情報を共有されてしまった。


「ふーん、アステル。そんな知識、どうやって手に入れたの? 学校では習わないし、あなたがこれまで聞かせてくれた本の話には、微塵も入っていなかったわよね」


 ぐっ、付き合いが長いために、こちらの嘘はとことんばれてしまう。仕方がない。事実を断片的に話そう。人を騙す効率的な方法は、本当のことしか言わないことだ。


 俺は転生神殿に行ったこと、転生ガチャをしたこと、その転生者の指示で魔法修行をしていることを話した。

 グラノーラは、ものすごく落ち込んだ様子を見せた。


「アステル、あなた、そこまで追い詰められていたの。もっと私を頼って相談してくれてもいいのに。魔法学校に通えるように私が尽力したわよね。何か必要だったのなら私が全て手配してあげたわよ」


 本当に手配してくれそうだったから、自力で頑張ったのだ。


「ココルちゃん、字は書ける?」


「字? いえ……」


「アステル、紙とペンはある?」


「いちおうあるが」


 グラノーラは受け取り、何枚か手紙を書いた。


「いい、ココルちゃん。急ぎの用があったら、学校の入り口の守衛に、この手紙を一枚渡してちょうだい。

 この手紙には、フルール伯爵家の令嬢、つまり私の署名がある。手紙の本文には、急いで来て欲しいと書いてあるわ。緊急連絡用にこの書簡を使いなさい。

 守衛が、すぐに私のところに届けてくれるわ。五枚書いたから、しばらくは持つはずよ」


「ありがとうございます、お嬢様!」


「グラノーラでいいわよ。それと、ここでアステルがやったことは、私に会ったときに全て報告すること。いい?」


「分かりました、グラノーラ様!」


「アステル、嘘をついても全てばれるわよ」


「……分かった。嘘はつかない」


 首輪を付けられてしまった。


「さあ、今日は帰るわよ。あなたを連れて帰って、やりたいことがあるの」


「何だ、お嬢?」


「学校のことよ。だから学校に着いてから話す」


 何か事情があるのだろう。仕方がない。俺はグラノーラの世話係だ。彼女が抱えているトラブルは、解決しなければならない。


「分かった、帰るよ。ココル、事務所は任せた」


「はい、アステル様!」


 俺はグラノーラと事務所を出て、学校へと引き返した。


次回「4.5 挿話:ガゼー地区の顔役ラパン」(第4章 その5)

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