4.3 顔役との面談
■ 登場人物
【アステル・ランドール】主人公。男爵家の跡取り。黒髪黒目、陰気な顔。
【グラノーラ・フルール】主人公の幼なじみ。伯爵令嬢で主人公の主筋。長く美しい金髪に美しい青い目。
【マル】主人公の体に転生(居候)した魔法使い。見た目は四歳ぐらいの幼女。緑色の髪に緑色の目。五百年前の大魔法使い。
【ココル】決闘代行で稼いでいた貧民街の少女。小柄で、赤い髪を背後で結んでまとめている。
――十月下旬。
ココルの修行を始めてから一週間ほど経った。パン職人のタラバル夫婦の宣伝で、決闘代行の仕事を二回こなした。いずれもココルより弱かった。
もともと、この辺りでは凄腕として知られていたココルを配下に加えたこともあり、俺の決闘代行事務所は、ガゼー地区ではそれなりに名の知られた存在になった。
◆◆◆
――十一月初旬。
屋外は少し肌寒くなってきた。
この日も事務所で修行をしていた。廊下でドタバタと音がして、荒々しく扉が開かれた。ガラの悪そうな男が二人入ってきた。どうやら客ではなさそうだ。
ココルが剣を抜こうとしたが制止した。俺は一歩前に出て男たちに尋ねる。
「どういった、ご用件ですか?」
「親分が話があるそうだ。付いてこい」
縄張り内で目立ちすぎたか。儲けが出る前は無視しておいて、儲けが出始めてからみかじめ料を要求する。そんなところだと想像する。
「私もついて行きます!」
ココルが主張する。まあ、ココルなら足手まといにはならないだろう。マルにも視線を向けた。
「喧嘩になるなら、いい機会だ。修行の一環だと思えばいい」
「いや、喧嘩にならないようにするよ」
俺はココルとともに、男たち二人に従い、貧民街の奥へと向かった。
ごちゃごちゃとした場所を歩き、小さな扉から屋内に入った。狭い廊下を抜けて、絨毯が敷き詰められた部屋に通された。
部屋の奥には、木製の椅子に座った老人がいた。顔には深い皺が刻まれている。部屋には何人か強面の男たちがいて武装していた。
気配を探る。殺意はない。こちらの武装も解除されていない。争う気はないということか。
「ラパンだ。ここらで、いろいろと揉め事の仲裁をおこなっている」
「私はアステル、こちらはココルです」
「田舎言葉のイントネーションがある。フルール領辺りの言葉か。手や指は労働者のものではない。出稼ぎ人足でも商人でもない。さて、どう接すればよいものやら」
心の中で苦笑する。ラパンの推測は当たっている。おそらく配下に俺をつけさせて、魔法学校に出入りしていることまで確かめているのだろう。
「この地区で商売するには、みかじめ料をもらうことになっている。それほど多くを取る気はない。あんたは、売り上げの一割だ」
俺はラパンを値踏みする。先ほどの発言から考えて、この老人は、暴力を売り物にするだけの男ではないようだ。調査能力を持ち、分析する頭も持っている。
「二割を払う代わりに、いろいろと情報を回してもらうことはできませんか? 決闘相手のことを事前に知りたいですから。それに、ご存じのとおり、俺はこの街には疎いですから。知恵を借りたいことも多いですし」
ラパンは口元を上げる。俺の提案に好意的な印象を持ったようだ。
「情報料を安く買い叩こうとしている。支払いは後払い。料金は売り上げの二割と上限を設定してる。調査には、人手も時間もかかるというのに」
「俺は王都の出身ではありません。この地区を選んだのはたまたまです。だから、こだわりはありません。出て行くこともできます」
「分かった、分かった。もらえそうな金の分しか働かんぞ」
「それでいいです。俺が動くよりも効率的でしょうから」
互いに笑みを浮かべた。
「あと、料金の件だが、わしらがあまりにも損だと思えば改定するぞ」
「それはまあ、仕方がないでしょう。こちらも、同じようにあまりにも損だと思えば、改定を要求します」
「ふむ。まあ、そんなところだな。ところであんたは、ボブの酒場を知っているか?」
「豆料理が美味しいですね」
「何か聞きたいことがあれば、ボブの酒場に行き、店長に声をかけてくれ。情報を事務所に届けてやる」
ラパンは握手を求めてきた。俺は手を出して握る。
「そうそう、ついでに一つ情報を教えておこう。金髪碧眼の貴族の娘が、おまえを尾行している。毎回見失っているが、そろそろおまえの事務所にたどり着くぞ」
「ぶっ!」
俺は噴いた。グラノーラだ。
そろそろ事務所にたどり着くということは、貧民街をうろうろし始めているということか。それはまずい。何かあったら責任問題だ。
俺はおろおろする。ラパンはガハハと笑った。
「みかじめ料も、ボブの酒場の店長に届けてくれ」
ラパンに見送られて、俺は彼のアジトをあとにした。
次回「4.4 首輪」(第4章 その4)




