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偽物の魔法使いは大魔法使いと魔法開発史を再現する  作者: 雲居 残月
第3章 霊撃の決闘者

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3.6 挿話:下級神官エピス

■ 登場人物


【エピス】転生神殿の下級神官。主人公に窮地を救われる。飲んべえの赤ら顔のおっさん。

 魔法王国ザラエルの王都にある転生神殿は、石作りの壮麗な建物である。

 この場所は王国の中心地の一つであり、上級、中級、下級の神官や、各種の雑用をおこなう雑用夫たちが働いている。


 エピスは、この転生神殿で働いている下級神官だ。生まれは王都の平民階級。試験による選抜に通り、若い頃に神官に採用された。

 彼はすでに四十歳を超えている。この年齢まで下級のままなのは身分が低いことによる。おそらく引退するまで同じ階級で過ごすことになるだろう。


 転生神殿の食堂では、中級までの神官たちが入れ替わり立ち替わり入ってきて食事をとっている。

 役職や仕事によって食事をとる時間が異なる。午前の仕事を終えたエピスは、腹を空かせて食堂にやって来た。


「おっ、エピス。おまえも今から食事か?」


 以前同じ職場だった古参の下級神官が声をかけてきた。


「一緒に食べる?」


 エピスは気軽に声をかける。


「いいぜ。久しぶりに情報交換しようぜ」


 古参の神官は仲間たちに声をかけた。全員で席を取り、それぞれ配膳台から料理を取ってきて座った。


 パンとスープを口に運びながら、仕事、家庭、趣味など雑多な話をする。ときに笑い声を上げ、ときに驚きの声を上げて、それぞれが手持ちのネタを語っていく。


「そういえばエピス、おまえ最近、控え室で若い男の子とよく話しているそうじゃないか」


 元同僚が思い出したように言った。彼自身も、一度その様子を見たことがあるそうだ。

 かなり頻繁に会っているため、控え室を休憩所として使っている下級神官たちのあいだで話題になっているという。


「ああ、アステルくんだね。貧民街で僕が暴漢に襲われたときに、身を挺して助けてくれたんだよ」


「貧民街が近道なのは知っているが、少しは身の安全を考えろよ」


 エピスはツッコミを受けて頭をかく。


「でも、まだ十五、六歳ぐらいの子供だっただろう。助けてくれたって、どういうことだよ?」


 ふつうに考えれば、大人が子供を助けるものである。子供が大人を助けるというのは、かなり珍しいことだ。


「ふふふ。彼、剣がめちゃくちゃうまいんだよ。それにね、あとで素性を知ったんだけど、彼のフルネームは、アステル・ランドールだったんだ。

 ランドール男爵家の跡取りだそうで、そりゃあ剣が得意だよねと納得したんだ」


「ふーん、えっ? ランドールって、あの演劇の『剣士ランドール』のランドール?」


「そう。最近はもう演じられなくなったけど、僕たちの子供時代は、よくやっていて見に行ったよね」


 エピスと下級神官たちは『剣士ランドール』の演劇の話題で盛り上がる。

 南方戦役に従軍した百人長。マガス王国の国王を討ち取った英雄。その後、貴族になるまでの過程は、人気演目として王都で何度も上演された。


「アステルくん、今年魔法学校に入学したんだって」


「魔法? 剣が得意なら、剣で身を立てればいいのに」


「この国の制度で、貴族の地位を維持するには、魔法が使えないといけないだろう」


「ああ……」


 全員が事情を察してため息をつく。

 転生神殿を使おうにも、祖先は剣士として有名な祖父しかいない。そもそも生粋の貴族ではないから、転生神殿に支払うお金もない。

 この神殿で働いている下級神官たちには、アステルの苦境が手に取るように分かった。


「そんなわけで、僕は密かにアステルくんを応援しているんだ」


「おじいさんが英雄だからな。何か新たな伝説を作ってくれるかもしれないな!」


 エピスと仲間たちは盛り上がった。そして予定よりも長く話し込んでから、それぞれの持ち場へと戻った。


次回「3.7 挿話:少女剣士ココル」(第3章 その7)

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