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S.shooter  作者: バームクーヘン
虚空の楽園
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life7.御伽話編-すれ違うココロ

昼ご飯を食べ終えて、私は今校舎裏の芝生に来ていた。

柔らかな芝生にねっころがり、空を見つめる。



この世界に来てもう一ヶ月以上たった。

最初はただ戸惑うばかりで、深く考える暇なんかなかった。


ただ今は此処に来て良かったと思う。

あそこに思い入れ何て無いし。


此処で、ミッションをするのが私の生きる居場所なんだ。


「赤梨さーん」


後方から私を呼ぶ声がする。

振り返ると白馬が歩いて来ている。


「どうかした?」


「校舎から貴女の姿が見えてね。様子を見にきたの」


「へえ、訓練しないと次のミッション危ないよ?」


「少しくらい休憩しないと逆効果なのよ。そういう赤梨さんは?」


「私はもういいんだよ。何にでも負ける気がしないし」



あんな大ゴブリンやマーメイドも倒したのだ。

もう私に倒せない奴なんているはずがない。

でも白馬は不安そうな顔をしている。


「・・・気をつけてよ。少し上手くいっても、次もそうとは限らないんだから」


だって。


「そこいらの人と一緒にしないでよ」


本当に、心配性なんだから。








場所は変わってガリオン校。

この学校は午前中はミッションに対する訓練をさせているが、実際は自主練するだけで、ただの風習と化している。


田美は今日は自主練せずに自室で読者をしようとしていた。

階段を下りている途中、下から人が駆け上がって来ていることに気付けず、踊り場で衝突してしまう。


「きゃっ!」


「おわあぁ!!」


ぶつかった男子生徒は階段に転がり落ち、起き上がると座り込んでいる田美につかみ掛かった。



「てめぇ、何処見て歩いてんだコラァ!!」


「ご、ごめんなさい・・・」


田美は必死に謝罪したが、その控えめな態度が気に入らないのか、田美の襟に掴みかかる。


「あんだよ、ぶつぶつうるせぇな。顔上げて謝れよボケェ!!!」


男子生徒は田美の顔を右手で思いっ切り叩く。

田美の眼鏡が床を滑る。


「あ・・・」


田美は眼鏡を拾おうとするが、男子生徒が肩を掴んでそれを阻む。


「おい、そんなもんよりまず俺にあやま」


そこまで言った所で男子生徒は思いっ切り殴り飛ばされた。



「どう考えてもお前が突っ込んで行ったのが悪いだろうが」


「て、てめぇ緒存!覚えておけよ!」


月並みの捨て台詞を言って男子生徒は逃げて行った。



裂空は眼鏡を拾うと田美に渡した。


「あ、あの・・・すいません。」


「そんな風に無闇に謝んなよ。そんな態度だから向こうも付け上がるんだよ」


少しきつい物言いで説教した。

別にこの子は悪くないのだが、だからこそさっきのこの子の態度は気に入らなかった。

渡した眼鏡をよく見てみると、レンズが割れていた。


「ほ、本当にごめんなさい・・・」


田美は自室に向かって走って行った。

きっとこの人も私に怒ってるんだろう。

そう思うと怖くて仕方ない。

一刻でも早くここから立ち去ろうと更に速度を上げた。


「・・・だから人の顔見て話せっての」


残された裂空は呆れた様に呟いた。

結局顔も良く見えなかったし、何より謝罪だけで感謝の気持ちが伝わってこない。


こういう自己主張の少ない奴はどうしようもないのだろう。

気分が悪いままの帰り道はいつもより面倒だと思った。






白馬と別れた後、私はあても無く校舎を歩いていた。

こういう時、いつも輝合石さんが構ってくるんだけど今はいない。

何かあったのかな?

まぁ、あんなの来ない方がいいだろう。


そう思って曲がり角を曲がると、通路の先に人影が見えた。


「誰かいるのかな?」


良く見てみると・・・輝合石さんだった。

誰かと話しているようだ。

が、何か普通じゃない。





「貴女、胸大きくなったわね。触るだけで分かるわよ」


「や、やめてください・・・」


・・・・・



何だコレは。


輝合石さんが女の子の胸を無理矢理揉んでいる。

成長したのかどうか知らないが、触って分かるものではない。

せいぜいC寄りのBだろう。


て、それはどうでもいい。

今はこの子を強姦から救うのが先だろう。

私は二人の間に強引に割り込む。


「早く逃げて」


「あ、ありがとう」


女の子は長いシアンの髪を揺らしながら走り去って行った。


そして諸悪の根源を睨みつける。


「あら砂弥。私に会いに来てくれたの?銀とってもうれしいわー」


そう言って輝合石さんはがっしりと私を抱きしめる。


・・・腹が立つ。

今はいつも以上にうっとうしい。

私はすぐに輝合石さんを引きはがす。



「さすが、天下の輝合石さんはお凄い。誰彼構わずセクハラして喜んでいらっしゃる変態のようですね」


「あらあら。砂弥ったらヤキモチ焼いてるの?もう、かわいい子ねぇ」


思いっ切り皮肉を言ったのにまるで気にしていないように笑っている。


更に腹が立つ。

何でこんなやつといなきゃいけないんだろう。

こんな誰にでもだきつくようなまねして平気なのだろうか。

さすがに付き合ってられない。

もう帰ろうと背を向けると、また抱き着いてくる。


「砂弥。そんなつれない態度しなくていいじゃない。私、淋しいなぁ」


またか、


また、


この人は私に触れてきた。


何でその腕で私にベタベタしてくるんだ。

その時、私の頭で何かがプツリと切れた音がした気がした。


私は輝合石さんを思いっ切り突き飛ばす。

輝合石さんは壁にぶつかり、呆然と私を見ていた。


「さ、砂弥・・・?」


「・・・何で怒ってるか言ってあげるけどさぁ、全部貴女のせいよ」


「え・・・」


驚く輝合石さんを無視して話し続ける。


「この前の、ミッションの時も。貴女が朝昼ずっと付きまとってくるから!夜しか訓練する時間なくて、そのせいで無理して熱だしたんだ!全部あんたのせいよ!」


言いたい事を一気に言って少し疲れた。

あいつの顔をみると呆気に取られた表情をしている。


「あ、あの・・・砂弥」


尚も私に近寄って来る。


いい加減にしろと、



「もう放っておいてよ!」


左手でこいつの左腕を掴むと、引き寄せるようにしながら右手で顔面に拳を振るう。




ガシッという音がした気がする。

奴の顔を見ると、咄嗟に右手で受け止めたようだ。


私は嫌になってその場から逃げ出した。



「砂弥!!!!」


後ろからあいつの声がする。いちいち構っていられない。


私は振り向かずに走り去った。







「砂弥・・・」


足が動かない。

ただ一つ分かった事は



もう砂弥は笑ってくれないだろう。

もう私の側に立つ事はないだろう。


もう・・・・・






外に降り始めていた小雨はいつの間にか土砂降りになっていた。

いよいよ第三章、御伽話編が始まりました。


前半の山場です。



砂弥と銀。 裂空と田美。


擦れ違った心は一体どうなるのでしょうか。


乞うご期待。




緒存裂空 CV.鈴村健一


東北道田美 CV.沢城みゆき





では、次回でお会いしましょう。

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