life6.マーメイド編-ファントムシー
あー・・・。
段々思考が麻痺してきた。今何してたっけ?
働かない頭をフル活動させ、状況を整理してみる。
辺り一面ジメジメしている。森と言うよりジャングルの方が近いかもしれない。とにかく何かにもたれ掛かりたい。
しんどすぎるよ、頭も痛い。
とりあえず近くの木にもたれて休暇する。
「はぁ、はぁ・・・」
息が乱れる。まずい、視界が朦朧としてきた。
どうしてこんな事になったのか。
最近遅くまで射撃とかの訓練してたしなぁ。もしかしたらそれが原因だったのかも。これからは注意しよう。もっとも今死んでしまったらどうしようもないのだが。
その時、ザッザッと足音が聞こえた。
咄嗟に足音のした方を見ると、一人の女の子がいた。
ポケットの中からレーダーを取り出して画面を見る。どうやら私と同じ学生のようだ。
しかし着ている制服は私の服と違い、赤色だ。あれは緒存君と同じ物だ。
黒髪のショートカットは私より少し小さい身長にあっており、かわいい人だと思った。
ただ、普通とは異なった特徴があった。
(厚っ!眼鏡のレンズ厚っ!)
分厚いレンズに邪魔されて顔がよく見えない。
と、その時その子は私に話しかけて来た。
「あ、あの・・・大丈夫ですか?」
どうやら私を心配して来たようだ。見ず知らずの人に心配かけなくてもいいだろう。
「まぁ、一応」
「そ、そうですか」
その子は俯いてそれ以上喋らなかった。
どうやら人と話すのが苦手のようだ。私も人のこと偉そうに言えないけど。
とりあえず何か話そう。
「貴女、歳いくつ?」
「15、です。」
「私と一つ違いか。」
まあ、私より年上には見えないし、妥当な所か。
そういえば彼女の名前を聞いていなかった。
「貴女、名前は?」
「えっと・・・田美です。東北道田美です」
もともと眼鏡で見にくかった顔が俯いた事で太陽の光で更に見にくくなる。
何もそこまで怖がらなくてもいいのに。
「私は赤梨砂弥」
「赤梨さん・・・ですか。分かりました」
またまた俯いて小さな声で返事をする。もっと大きな声で喋って欲しい。
そう思った瞬間。
足を何かが掴み、そのまま私を引きずり込む。
「赤梨さん!」
東北道さんは追いかけようとしてくれたが、何しろ突然の事なので反応が遅れ、直ぐに東北道さんは私を見失った。
私は地面に手を引っ掻け、止まろうとするが引っ張る力が強すぎて何の抵抗にもならない。更に熱があることも災いして、力が上手く入らない。
そして、私は海に引きずり込まれた。
「ガボッゴボッ」
本格的にまずい。
必死に手を漕ぐが全く浮き上がる気配がない。多分引きずられてなくても浮き上がらないだろうけど。
それでも何か抵抗しようと適当に銃を乱射する。
・・・引きずる力が無くなった。ひょっとして命中した?
が、次の瞬間、更に強く足が絞められる。
どういうことか確認しようと下を見る。
下半身が魚の尾びれのようで、上半身が人間の生物・・・いわゆる人魚の子供が頭から血を流して漂っていた。その近くに大人の人魚がいた。こいつが左手の海藻を伸ばして私の足を引っ張っていたようだ。
えっと・・・つまり、
私が子供を殺しちゃって、
怒ってる?
マーメイドは海藻を引き寄せて私を寄せて私目掛けて銛を突き刺してくる。
私はギリギリ首を傾けて回避すると、マーメイド目掛けて銃を撃つ。
しかしなれない海なうえ、水に邪魔されて弾速が遅くなっていて一向に当たる気配がない。
ここであることに気づく。
そろそろ息継ぎしないと死んでしまうんじゃ・・・
そう思って上を目指すが、やはり上がらない。
マーメイドは尚も私に銛を突き刺そうとする。
私は避けつづけるが、息が苦しくなってきて反応が遅れ、頬や足に掠りはじめる。
そこで、とうとう限界を迎えた。
顔面に迫り来る銛を私はボーッと見ていた。
不意に過去の映像が流れる。これが走馬灯だろうか。
そこでは私と輝合石さんがビーチパラソルの下で話していた。
何でこんな所で彼女のことを思い出さなきゃいけないのだろう。
『私も海で泳ぐのは好きじゃないのよね。どっちかというと釣りをよくするわ』
『釣り?』
『ええ、結構楽しいのよ?砂弥も機会があればやればいいわよ』
何でこんな事思い出してんだか。
でも、
こんな所で死ねない。
私はまだ生きていたい。
私は銃口に刃を発生させ、足に絡み付いた海藻を切り裂く。
そして銃から風を竜巻の様に出し、周辺を渦潮にする。
その影響でマーメイドの動きが一瞬鈍り、その隙に底に向かって極太ビームを撃ち、その反動で岸に飛び上がる。
直ぐに体制を立て直し、銃を構える。
銃口に錨の形をした刃を発生させ、それを海に向かってほうり込む。先端と銃口はエネルギーで繋がれ、まるでフックのような形状になっている。
フックは海中を素早く潜り、マーメイドを探す。
その時、手に振動が伝わった。マーメイドがフックを銛で弾いたのだろう。
でもさっきの攻撃であいつの位置は分かった。
私はフックをコントロールしてマーメイドを捕らえようとする。
引っ張っても動かない。
どうやらマーメイドを完全に縛ったようだ。
釣りの要領でマーメイドを引き上げる。しかし、抵抗が強くて中々引き上げれない。
ここで逃がしてはいけない。
砂浜をしっかり踏み締め、思いっ切り引っ張る。
「うおおおおお!!」
引きずり込まれぬように足に力を入れて腕を上に振り上げる。
そして、マーメイドは空中にその姿を現した。
ボサボサな金髪は真っ白な顔を隠すかの様に顔に張り付き、顔は見えずも殺気でこちらを睨んでいるのが分かる。
銃口のフックを解除し、再び銃口に光の刃を出して構えた後、高くジャンプして、マーメイドの目前に迫る。
その瞬間、銃剣と銛が高速でぶつかり合う。
何度も何度もぶつかり合い、出来た一瞬の隙を突き、マーメイドの両腕を切り落とす。
呆気に取られたマーメイドの頭に刃を突き刺し、そのまま下に振り落とす。
真っ二つに割れた体と共に私も海に落ちて行った。
ザッパーン。
という音がしたかと思うと、私の体は海底に向けて沈み始めた。
もう泳ぐ力など少しも残ってない。
このまま沈んで行くんだ。
そう思って目をつぶると、体が引き上げられている気がした。
「ッぷはっ!」
陸に上げられると同時に深く深呼吸する。
良かった。生きてる。
起き上がってみると、そこには・・・
「乃璃香さん・・・」
乃璃香さんがいた。
右手には不思議な棒が握られていた。
片方は白馬の杖の様な形状をしており、もう一方は鎖付きの金属ブーメランがあった。
恐らくこの鎖で私を引き上げてくれたのだろう。
って、一歩間違えたら私に刺さってない!?
「ごめんなさい、探すのに手間かかっちゃって」
「いえ・・・それより、ちょっと休ませて下さい。もう限界です」
「休まなくてももう終わりよ?」
「へ?」
何だ、どういう意味?
「あの、ラスボスは?」
「貴女がついさっき倒したんじゃない」
ええ、あれラスボスだったの?
通りでしぶとかった訳だ。
次の瞬間、乃璃香さんの体が消えていった。
ああ、やっと帰れるんだ。
学園に戻った私は、直ぐに輝合石さんに抱き着かれた。
とりあえず暑苦しいから引きはがし、自分の点数を確認した。
赤梨砂弥 49点
「この調子だと、すぐにでも100点じゃない?」
白馬が私にそう言った。
100点か。
取ったらどうしよう?
「砂弥、100点取ったらミッション免除で此処に残るを選ばないと駄目よ」
輝合石さんが私に言った。
何でこの人は私に無駄な密着をするんだろう。
でも、それでいいかもしれない。
元居た所に帰りたくはないし。それに・・・
「・・・何?」
気付けば輝合石さんが私を見つめている。
「だって、そうしたらずっと一緒にいられるもの」
柔らかそうな笑みでそう言った。
何だか勝手に私と一緒にいるつもりらしい。
「・・・別に、貴女と居たい訳じゃないんだからね」
後ろでクスクス笑う乃璃香さんが癪に触ったけど、とにかく私はさっさと立ち去った。
もう今日は早く寝よう。
ついでに海も懲り懲りだ。