life3.魔物編-飛び交う銃声、目覚める感性
私は怪物と目を合わせたまま動けずにいた。奴の獲物を仕留める時に近い目に足もすくんでしまっている。
お互いに動かず、永遠に続くかと思う程の沈黙は直ぐに破られた。
「グオオオオオオ!!」
大ゴブリンの咆哮と共に巨大なこん棒が振り下ろされる。
私はすぐさま横に転がり、銃を構える。
しかし、手はガタガタと震え、照準が定まらないまま撃たれた銃弾は大ゴブリンの肩や横腹に命中する。
しかも、銃弾は直ぐに押し出され、皮膚はあっという間に再生する。
大ゴブリンは再びこん棒を地面に振り落とす。振り下ろされたこん棒は地面に直撃し、強烈な震動が発生して大量の砂が辺りに波の様に吹き飛ばされる。私はそれに抵抗出来ず、砂に飲み込まれる。
砂に押し流され、私は後ろにある木に激突する。
私は強烈な痛みに襲われ、俯せに倒れ込む。
大ゴブリンはそれを見ても全く動じず、ドシドシと私に向かって近寄って来る。
もう駄目かな。そんなことを考えた時、既にこん棒は振り下ろされていた。
それを呆然と見ていると、
体が勝手に動いた様な気がした。
白馬は遠くから騒音がしているように聞こえた。
頭はしっかり働かないが、ぼんやりとしつつ体を起こす。
体を動かす度に激痛がしたが、構っていられない。
意識がハッキリしてくると、砂弥が一人で戦っていることを思い出す。
早く行かないと。そう思いながら前をよく見ると、
砂弥は一人であの大ゴブリンを圧倒していた。
またこん棒を振って来る。
ジャンプをしてこん棒をかわす。
自分が跳ぼうとした訳ではない。ただ、体が勝手に動いただけだ。
何故かは分からない。ただ、どう動けばいいかが本能的に分かる。
縦に振り下ろされたこん棒を横に跳んで避け、銃で撃つ。雷が相手の全身を包み、間髪入れずに銃口を地に付ける。
そして地面が剣山のように大ゴブリンに向かって進んで行く。
ゴブリンに地の棘が直撃し、全身を傷でいっぱいにする。
怒り狂ったように大ゴブリンは私に向かって一直線に進んで来る。
別に怖くも何ともないが。
バックステップの要領でこん棒をかわし、衝撃波もバリアを発生させて防ぎきりそのまま銃を撃ちながら接近する。
銃弾は全て先程の攻撃で出来た傷口に当たり、大ゴブリンが悶え苦しんでいる隙に銃口を腹に突き付け、自分の身長の半分程の大きさのビームを発射する。
大ゴブリンは耐え切れず、勢いよく吹き飛ぶ。
白馬はこの光景を見続けていた。いや、見続けるしかできなかった。
あれは本当に赤梨さんなのだろうか。だとして、何故あんな動きが出来るのか。
彼女はさっきまでこのミッションの事を何も知らなかったあの少女のはずだ。あんなことが出来るはずがない。
いや、もしかすると・・・
「とんでもない子が来たみたいね」
後ろからルーンが左足を引きずりながら歩いて来る。
「・・・ええ、そうね」
私は適当に相槌をうつ。
「彼女は・・・」
「とてつもない才能を秘めていたみたいね」
そろそろ終わらせよう。
銃を構えて奴を見る。もう限界は近いみたいで必死で耐えているのが分かる。
がむしゃらにこん棒を振り回すが、今なら簡単に避けれる。
隙を見て銃口から刃状のエネルギーを造りだし、大ゴブリンに向けて発射する。刃はこん棒を切り裂いて貫通し、奴の横腹に命中する。
その瞬間、私はダッシュで接近し、相手の傷口をえぐるように銃口を入れる。
「グオオオオオオオオ!!」
悲鳴を上げ傷口から血が噴水の如く吹き出て来る。私は構わずトリガーを引き、数発の銃弾を打ち込んで、その後ビームを発射し、相手の体が吹き飛んだのが見えた。
体が鉛のようにドッ重くなったと思っていたら、白馬達が近付いて来た。
「赤梨さん。体は大丈夫?」
「うん。その・・・二人は大丈夫?怪我とかしてない?」
「ええ、ちょっと気失ってだけよ」
ホッと胸を撫で下ろす。
命に別状は無いみたいだ。
さっきまでのあれは一体何だったのだろう。まるで私でないみたいだった。
「赤梨さん。貴女、銃を撃ったことある?」
ルーンが急に聞いて来た。
「ううん、全然」
私はダンボールに隠れる軍人でもなければハワイの別荘にいたころ親父に銃を教わった訳でもない。
私自身はいたって普通の高校生だった。
「なのにさっきのあの動きか・・・やっぱり才能あるよ、赤梨さん」
ルーンはそう言うけど、女の子としては銃の才能があると言われてもあまり嬉しくない。
「何にしても、貴女にはミッションで生き残る才能があったってことよ。悪くはない才能だと思うわよ」
白馬はそっとウインクする。まぁ、死なずにすんだならこれでも良いかもしれない。
その時、レーダーから何か音がでる。
カンカンカンカンカンカンカーン
のど自慢大会辺りで聞いたことのある音だ。もっとも私は失敗して二回鳴って退場する所しか印象に無いが。
「赤梨さん。今のが鳴ったらミッション終了よ。覚えておいてね」
白馬は言い終えると、体が透けてフッと消えてしまう。
そして、私も自分が消えていくのがわかった。
目を開けると、転送されるまでいた部屋に戻っていた。周りを見渡すと、次々と人が転送されている。中には帰って来るや否や抱き合う人達もいる。
ここ、黒桜女学院はその名の通り女子校だから仕方ないかもしれないが、だからって何で女同士で抱き合うのだろう。今の私には理解出来ない。
ルーンも戻って来て、三人で中央モニターを見る。
氏名と得点が表示されている。
四条白馬 31点
ルーンワーク 29点
「半年前からこんな繰り返しばかりね」
ルーンが白馬と会話をしだす。
二人は半年前から此処にいて、何回もミッションに行ったりしていたが、ラスボスを倒せなかった時にリセットされて、この辺りの点数で行ったり来たりしているようだ。
そうこうしている内に、私の点数を確認できた。
赤梨砂弥 24点
「初めてでこの点数は凄いわ」
と二人は褒めてくれた。
白馬は1点しか増えなかったと言っていたから、24点というのは多分凄いのだろう。
しかし・・・周りを見渡すと、多くの人が未だに涙を流して喜び合ったり、反対に嘆き悲しんでいる人もいる。
白馬とルーンも、二人で喜んでいる。
何となく居心地が悪いので、早々と帰ることにした。あんなふうに喜んでくれる人なんて私には今いない。・・・いや、今も、か。
ドアが開き、通り抜けた矢先、右から声を掛けられる。
「お帰りなさい。砂弥」
輝合石さんが壁にもたれ掛かっていた。もしかしてずっと此処で待っていたのだろうか。
「なん・・・で?」
「あら、愛しの砂弥の事をずっと待つなんて当たり前じゃない」
また肩と腰に手を回してくる。
とりあえず引きはがして距離を置く。
「だから、やめてよね。そういうセクハラ」
この人もそんなに嫌な人じゃないかもしれない。
ふと私はそう思った。
ようやく第1章、魔物編が終わりました。まだまだ文章力不足な上、感想も無いのでどうすればいいか試行錯誤の状態ですが、頑張っていきたいと思っています。
赤梨砂弥 CV.中原麻衣
輝合石銀 CV.生天目仁美
次章も頑張ります!