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S.shooter  作者: バームクーヘン
夢幻の終焉
28/29

Lastlife.学園編-選ばれた未来

今まで、ありがとうございました。

「何か物音がするわね」


乃璃香は隣にいる一平に話し掛けた。

一平は頷いて答えた。


「とにかく、誰かと合流して話し合わないとね」


そう言って歩き出した一平の目の前の壁が崩れ去った。



「お父さん!」


乃璃香は一平の傍へ駆け寄った。

一平は爆風で少し身じろいだ。


「一体何が・・・」


乃璃香が呟いた。

壁はミサイルで撃たれたせいで崩れ去ったようだ。


一平が壊れた壁から外を覗くと、そこにはフランシアがいた。



「はい、雑魚発見」


フランシアは右手を左に曲げ、ミカツキを出す。

そして、それを横へ薙ぎ払った。


「っ!」


乃璃香は一平の腕を掴み、杖からチェーンを出す。それを3階の廊下の壁にある装飾に引っ掛けて、チェーンを縮めて飛び上がった。


先程のミサイルで2階も一部が壊れて床に穴が空いていたおかげで無事に上がれた。


ミカツキは一階を破壊し、そのせいで2階、3階も崩れて行く。

乃璃香達は急いで今いる渡り廊下を走って別の校舎へ逃げ込む。


乃璃香にとっては見慣れた黒楼学園の校舎なので、建物の構造は頭に入っていた。


しかし、中庭にいるフランシアは全方向を攻撃でき、それ以前に地理的なアドバンテージを無視出来る火力を持っている。

それゆえに、絶対の自信を持っていた。


「うおおおおおお!!!!」


その隙を突き、裂空が3階の窓から飛び降り、剣を突き刺そうとした。


刃は真っ直ぐにフランシア向けて襲い掛かる。



が、その剣先はフランシアの手前で動きを止めた。

バリアに阻まれたのだ。


「ルナティックは自動で発動するのよねー」


ハンゲツが裂空に襲い掛かる。

裂空は素早く距離を取り、ミサイルの雨をかわす。


フランシアは狙いを付け、マンゲツを発射する。


乃璃香は3階からチェーンを伸ばし、裂空を引き上げる。


ビームは裂空に当たらずに通り過ぎて行く。



その時、数本のナイフがアマテラスに飛んできた。

しかし、ナイフはアマテラスに触れると簡単に弾かれた。


田美が乃璃香達と反対の校舎から狙いを付けていた。

そして、乃璃香と一平もフランシアを狙う。



「ったく雑魚が群れちゃって」


フランシアはアマテラスで空へ飛び上がり、校舎の上へと舞い上がる。

そして、下を見下ろす。



マンゲツ、ハンゲツ、オボロヅキ、ミカツキ、ルナティック。

アマテラスの全ての武装を起動し、狙いを付ける。


そして、全ての砲口から攻撃が放たれた。


マンゲツのビーム、ハンゲツのミサイル、オボロヅキのバルカン、ミカツキのビームサーベル、ルナティックの超高圧力レーザー。


それら全てが校舎を破壊していく。



瞬く間に校舎は崩れ落ち、瓦礫の山と化した。


フランシアはゆっくりと地面に着地した。


崩れた瓦礫ばかりの景色を、一瞥してフランシアの唇が歪んだ。








砂弥と銀がモニター室から飛び出した瞬間、辺りの空間が歪んだかと思うと別の場所へ移動していた。


辺り一面に海が広がっており、遠くに学園が微かに見える。

二人を足止めする為に理事長が仕組んだ罠なのだろう。



「っ、姑息な真似して!」


砂弥が声を荒げた瞬間、背後に何かが現れた。

一体何なのかと確認しようとしたが、それより先にそれは背中に装着した。


「ブースター?」


銀は自分と砂弥に装着された物を確認すると、思わず呟いた。


「私達、70点越えしてたっけ?」


「・・・そう、だったかしら?そういえば確認してなかったわね」


砂弥に言われて銀は点数を思い出そうとするが、中々思い出せない。


「とにかく、早く学園に戻ろう。皆が危ない!」


砂弥がブースターで空へ飛び、それに続いて銀も飛び上がる。

二人は学園に向かって進んでいく。








「・・・あの二人に何故ブースターが」


理事長はschoolの前でモニターを見ており、ミッションを鑑賞していた。


理事長は砂弥と銀の点数を表示して確認する。



赤梨砂弥 68点

輝合石銀 64点



しかし、二人の点数は70点には到達していなかった。

にもかかわらず、70点越えの者にしか与えられないブースターが二人に転送されている。


「schoolが故障したのか?いや・・・これはまた面白くなってきた」


理事長の顔に邪悪な笑みが浮かぶ。


正に最強と言えるフランシアと、常人とは思えない戦闘力と感をもつ砂弥。そして砂弥と同等の力を持つ銀。



「これは良いショーになりそうだ。頂上決戦というに相応しい舞台が整った」


理事長は慌てることなく、椅子に座りワインを嗜む。

グラスを眺め、一言呟いた。



「さあ、楽しませて貰おうか」








その頃、黒楼学園があった場所でフランシアは瓦礫に囲まれたまま佇んでいた。


「・・・さすが、ゴキブリの生命力は計り知れないわね」


瓦礫の中から四人が這い出てきた。

至る所から血を流し、立つこともままならない。


「くそ・・・」


裂空は何とか立ち上がろうとするが、腕は力を失い崩れ落ちる。


乃璃香はフランシアを睨み付ける。



「どうして、こんな事を・・・生徒や教師で殺し合って何になるの?」


「理事長に頼まれてね。最初の殺し合いで私が生き残ったから、私に頼んで来たのよ」


『君には年に一度の大掃除を頼みたい。出来るだけ鼠を増やしたくないのでね』




フランシアはそこで、この世界のことやschoolの件について説明した。


「で、何年も此処にいると流石に色々嗅ぎ回ったり、この世界から脱出する魔法考えたりする奴がでてくるから、私が年に一度リセットがわりに皆殺しにすることになったの」


乃璃香はその言葉を聞いて衝撃を受けたかのように呆然とした。

そして、フランシアに尋ねた。


「じゃあ、貴女達は・・・自分達に不利になるかもしれない。そんな理由で・・・何百人もの命を毎年奪ってきたの?」


「私が掃除するのは戦闘兵器が終わった後の残りカスだけよ。それ以外はアンタ達の知っている通りミッションで死んでるから」


「それも・・・お前らが仕組んだ事だろうが!」



裂空がフランシアに怒鳴り付けるが、フランシアは全く引かない。


「それは私が知ったことじゃないわね。ようは生き残れば良いだけだもの」


「貴女は・・・ミッションで苦しんでいる人を可哀相だとは思わないんですか?」


「ご愁傷様」


田美の言葉をフランシアは軽く受け流す。

一平がフランシアに訴えかけた。



「君は・・・人を殺して、何とも思わないのかい!?」


一平のその言葉にフランシアの動きが止まった。

暫くした後、フランシアの口が開いた。


「私も最初は恐かった。でもね・・・いつからか、楽しくなってきてね」


その言葉に、全員耳を疑った。尚も、フランシアは続ける。



「これが段々ゲームみたいに思えてきてね。楽しくて仕方ないのよ」


そこまで言うと、フランシアはミカツキを起動した。


「お喋りはここまで。じゃあね」


そして、フランシアが右腕を振り上げた瞬間、


背後からビームが飛んできた。



ルナティックが発動し、ビームを受け止める。

しかし、全部で十発のビームを受け止めるのは難しく、フランシアに衝撃と痛みが走る。


振り返ると、砂弥と銀が飛行して来ていた。



「ブースターがあるなんて聞いてないわよ。ったく」


フランシアは愚痴を零し、戦闘体制に入る。


銀と砂弥は急上昇してブースターと魔銃の五つの同時発射、フルバーストを放つ。


フルバーストはフランシアの周囲に当たり、視界を煙で塞ぐ。



「目潰しになってないって」


フランシアはその場で高速回転し、煙を吹き飛ばす。

辺りを見渡しても、誰もいない。さっきまで倒れていた連中も。



「まあいいわ。1番目立つ所で待っててあげる」


フランシアは飛び上がり、ある所へ向かった。







「ここなら暫く大丈夫だから」


砂弥と銀は皆を先程まで自分達が飛ばされていた孤島まで運んでいた。

その最中に、フランシアが言っていたことを聞かされていた。


「ごめんなさい、迷惑かけて」


乃璃香が謝罪すると、銀は黙って頷いた。

そして立ち上がり、二人で皆に背を向けた。


「何処に、行くつもりだい?」


一平が尋ねると、砂弥が答えた。


「フランシアを。彼女を倒さないと・・・殺さないといけない」


裂空は痛む体を無理矢理酷使して立ち上がり、砂弥に怒鳴る。


「ふざけんな!そんなの・・・お前らだけで出来るわけねーだろ!」


「せめて、私達も連れていって・・・」


田美が必死に提案するが、砂弥は一蹴する。



「皆の怪我はすぐに治るものじゃない。このミッションをクリアしないと・・・遅かれ早かれ、皆死ぬ」


「だから、私達は彼女を倒さないといけない」



二人の言葉を聞いて、皆は押し黙る。

乃璃香だけは、二人に必死に手を伸ばす。


「お願い・・・行かないで」


二人はクスッと笑い、振り返る。



「大丈夫。すぐに帰って来るから」


「ちゃんと大人しくするのよ」


二人は再び背を向け、ブースターで飛び上がった。

乃璃香は、田美は、裂空は、一平は・・・・・


黙って二人を見送るしか出来なかった。







四学園の中央にそびえ立つ時計塔。

その頂上に、フランシアは立っていた。


風が強く、フランシアの髪をたなびかせる。



「・・・来た」


フランシアの瞳に二人の姿が映った。

砂弥と銀は真っ直ぐにフランシア目掛けて飛んでいる。


フランシアはアマテラスを起動。

フランシアは空へと飛び立ち、二人を迎え撃つ。



マンゲツから放たれたビームを避け、二人は離れてフランシアを狙う。


砂弥は銃でフランシアを狙い、ビームを放つ。


ビームはルナティックに阻まれてフランシアに当たらない。


銀も反対側からビームを撃つが、同様に効かない。



フランシアはミカツキで二人を薙ぎ払う。

二人は宙返りでミカツキを回避し、銃剣でフランシアに切り掛かる。


ルナティックが攻撃を防ぎ、フランシアはアマテラスを回転させて二人を振り払う。



フランシアは二人を嘲笑った。


「全然話になんない・・・あんたらもこの程度?」


砂弥はフランシアに叫んだ。


「貴女、本当に人を殺すのをゲームみたいに楽しんでいるの!?」


フランシアは何を今更、と呆れた。



「そうじゃなきゃこんな真似しないわよ」


「どうして!?貴女だって死ぬことの恐怖は分かるでしょう!!」


銀の言葉にフランシアは答える。


「・・・あんた達には分かんないでしょうね。歳を取ることの出来ない、ただのデータの塊が延々と人を殺し続けることの意味が・・・頭おかしくなんない方がおかしいのよ」


「・・・そうね、貴女は狂ってる」


銀は銃をフランシアに向ける。

その瞬間、フランシアは更に高く上昇する。


そして、全砲門を開き一斉発射する。


超フルバーストを二人は回避し、外したビームや火薬が海に当たり、激しく爆発する。


砂弥は上空のフランシアに切り掛かるが、ルナティックに阻まれる。


「このままじゃ攻撃が通らない・・・」


「なら・・・!」


二人はフランシアを撹乱させるために空を飛び回る。


フランシアはハンゲツで撃ち落とそうとする。



二人はミサイルをかい潜り、全砲門でフランシアに狙いをつける。


そして、二人のフルバーストがルナティックに直撃した。

激しい火花を散らし、やがて爆発によってフランシアは吹き飛ばされた。


すぐさま体勢を整え、アマテラスに異常がないかチェックする。



「ルナティックが機能停止・・・それだけか」


フランシアはミカツキを振り回し、砂弥達に攻撃する。


銀はブースターから赤いビームを放つ。

アマテラスに直撃するも効果は無い。


フランシアはフッと嘲笑し、マンゲツを放った。


銀はバリアを張って身を守ったが、ビームは銀に向かわずブースターの翼に命中した。



「しまっ・・・」


銀は浮力を失い、落下していく。


「銀!!」


砂弥を銀を抱き留め、地上に降ろした。

その時、砂弥のブースターが爆発した。


「!?」


砂弥と銀は爆風に飛ばされたものの、受け身をとって空中を回転して着地する。


煙が晴れた先にはフランシアがいた。

髪は揺れ、その威圧感は少しも損なわれていない。



「頑張ったけど・・・終わり」


フランシアはミカツキを振り下ろした。

砂弥と銀は動こうとしない。


ミカツキは地面に触れると凄まじい規模の粉塵が蔓延した。


フランシアは終わったかと思ったが、次の瞬間には自分に近付く者の気配を感じた。



砂弥と銀が真っ直ぐ真正面から迫ってきていた。


ミカツキが壁となり、フランシアから見えなくなる一瞬を利用して砂弥達はミカツキを避けた。


そして、銃剣でミカツキの根を突き刺して切り裂く。


爆発が起こり、両腕のミカツキは吹き飛んでいく。

そして、二人はフランシアに誘爆レーザーを放った。


フランシアもマンゲツを放ち、間で爆発が起こり、三人の視界が塞がった。


それでも攻撃を止める者はおらず、暫くビームが辺りに飛び交った。




ビームは収まり、砂弥と銀は風を放って煙を掻き消した。


辺りの何処にもフランシアはおらずアマテラスの残骸だけが散らばっていた。


「・・・終わった?」


砂弥はそう呟き、再度周りを確認する。

・・・何度探してもフランシアはいない。


そして二人は見つめ合い、顔に笑みを宿す。


そんな二人の体を、ビームが貫いた。


一瞬何が起こったのか理解出来なかったが、二人は血を吹き出してその場に倒れた。


「がっ・・・!」


口中に鉄の味が染み渡り、また血を吹き出した。

体中から血が溢れ出しているのを感じる。


銀も同様の状態だった。



そして砂弥はフランシアの姿を見つけた。

遥か上空でこちらを狙撃している。


まさかアマテラスの下にブースターを付けているとは思わず、空への警戒を怠っていた。


砂弥は力を振り絞り、血が吹き出すのも構わず銀を抱えて飛び出す。



しかしビームは避け切れず、いくつかのビームが砂弥と銀の肩や足を貫いた。


砂弥と銀は瓦礫の山の前に倒れた。

砂弥は銀の様子を見る。


まだ息はある、止血をしないともう持たないかもしれない。

しかし今はまだ駄目だ。


僅かだがフランシアから死角の位置にいる今が最後のチャンスなのだから。


すでにフランシアの攻撃は迫っている。もう一瞬も無駄に出来ない。



「借りるよ」


砂弥は銀の魔銃を手に取り、自分の物と連結させた。


フランシアがいるであろう方向へ連結魔銃を向け、引き金を握る。


フランシアからの死角にいるが、逆に言えば砂弥もフランシアの姿を見ることは出来ない。


更に、早く撃ちすぎてもフランシアに気付かれて避けられる。



(ビームが瓦礫に当たるインパクトの瞬間に撃てばごまかせる)


砂弥はエネルギーの充填を始める。


当然だが砂弥にビームが何処まで迫っているか分からない。


覗けば警戒されてほぼ確実に避けられる。




勘で撃つしかない。


こんな作戦も、何故か成功する自信があった。


今まで自分の勘のおかげで生き残ってこれたのだ。

それを疑う気は全くない。


充填が完了し、砂弥は発射体制に入る。



『その角度じゃ流れ弾が銀に当たるわよ』


『アンタだけ助かってどうするのよ』


砂弥の頭に何者かの声が響いてきた。

声の主は確認せずとも分かった。


「ごめんね、白馬、ルーン。迷惑ばかり掛けて」



『謝らないで、砂弥さん』


『貴女は、私達の希望そのものでした』


式之と花菜の声もした。




『お姉様、皆、皆います。力になれるのは私達だけですが、他の皆も見守ってくれますから』


飛石の声が砂弥の頭に響く。


「ごめんなさい。頼れないお姉ちゃんで」


『貴女は私と、皆の心にずっと陽をくれました。何も恥ずかしくありません』


そして、砂弥のトリガーを握る手に、そっと多くの手が添えられる。


皆が支えてくれている。

砂弥の目から一筋の涙が流れる。


トリガーが、引かれた。




フランシアはフルバーストを放ち、それは砂弥がいるであろう場所に一直線に向かっていた。


それが瓦礫の山に当たった瞬間、瓦礫の山が弾け飛んだ。


フランシアは自分の攻撃の結果だと思ったが、それは違った。



鈍い赤の輝きを彩った強力なビームが砂弥の連結魔銃から放たれ、瓦礫の山とフランシアのフルバーストを吹き飛ばす。


フランシアは声を挙げる隙も無く、心臓をビームが貫いた。


口から血が溢れ出し、力無く地に落ちて行く。


そして、フランシアの体は地上に叩き付けられた。

首と手足がありえない方向にねじ曲がり、頭も原型を留めてはいなかった。


潰れた目玉が転がる所を見た所で、砂弥はその場に倒れた。



さっきまで気付かなかったが、足首から下が無くなり、左肩もちぎれそうになっている。


銀は五体満足でいるようだった。

それでも出血が酷く、いつ死んでもおかしくない。


「早く、止血しなきゃ」


そう言ったつもりだったが、既に声が出ない。

薄れゆく意識の中、砂弥はミッションの終了はまだかと思った。


だが、ミッションは終わらない。




今回の敵は生徒達全員。

最後の一人になるまで終わることは無いし、理事長が砂弥を生き返らせる筈がない。


つまり、砂弥と銀の死は時間を待つのみとなった。








「どういうことだ!」


理事長はキーボードを叩き付けた。


理事長が操作を全くしていないのにも関わらず、schoolが裂空達の転送を始めたのだ。


突然のイレギュラーに理事長は怒りを覚え、詳しく解析しだした。


しかしバグは見付からず、schoolは勝手に転送を続けていく。


そしてある時、理事長の動きが止まった。




「まさか・・・school。コンピューターが、意志を持ったというのか?」


理事長はこの事態を引き起こしている原因の仮説を立てた。


それは、schoolが自分の意志で裂空達を救っているということ。



schoolは、命を宿したかもしれない。





「ふざけるなああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


有りったけの力を込め、金づちでキーボードを破壊していく。


コンピューターが、ただの物が命を?


理事長は腹ただしくなった。


全ての命を管理してきた理事長にとって新たに生まれた命など予定を狂わすただの敵でしかなかった。




「貴方は、恐くなっただけでしょう」


理事長はその声に気が付くと振り返った。


その先には砂弥と銀が立っていた。

二人とも転送の効果で傷は治っていた。



「一度人の命を操り、フランシアを脅して、もう戻れない所まで行ってしまった・・・本当は、一度人を生き返らせた時点で止めなければいけなかったのに」


銀の言葉に理事長を首を横に振った。


「いや、私は望んでやったのだ。私こそが救世主なのだよ。死んだ者にまた生きる時を与えているのだから」


「・・・誰だって、死にたくない。死の恐怖とずっと戦って生きてる・・・・・貴方は、人殺しです。それをごまかしているだけ」


砂弥と銀は魔銃を理事長に向けた。

理事長も銃を構える。



「君達は、私を殺して、自分達だけ永遠に生きるつもりか!?考えてみたまえ、私がいなければ今生きている者達は死んだらそのままなのだぞ!」


「それが、本来のあるべき姿」


銀に向かって理事長は嘲笑した。


「そんなことは、君達が生き返り、永遠の命を手に入れたから言えることだ!本当ならばだれもが永遠の寿命に憧れているはずだ!!」


砂弥は首を横に振った。



「確かにそうだと思う。でも・・・私は、人の命を弄びたくない。例え理不尽だったとしても、人の生死を私のエゴで決めたくない」


「それに、貴方が生きている限りミッションは終わらない。もう、終わりにしないといけない!」


砂弥と銀は、銃を撃つべく手に力を込める。

理事長は両手の銃をそれぞれ二人に向ける。





「覚えておけ。君達は、これからschoolによって学園で生きながらえる筈だった多くの命を見捨てたと・・・君達は、未来の、数え切れないほどの人間を見捨てたと」


「・・・・・貴方もね」


そして、部屋に銃声が響いた。


・・・誰かが、倒れた。






砂弥と銀は壁に寄り添う形で座り込み、お互いの肩に身を預けていた。


「・・・銀、立たないの?」


「どこも撃たれてないのに、力が入らないのよ」


部屋中のコンピューターが火花を挙げ、所々で小爆発が起こる。



「早く逃げないと」


「・・・砂弥、何だか体に力が入らないの」


「私も」


二人とも表情を変えずに会話する。

危機的な筈なのに、何故か気持ちの揺れがない。





その時、部屋で一番大きなモニターに、澄んだ水色の輝きを放つ球体が現れた。


『理事長ヲ止メテクレテアリガトウ・・・赤梨砂弥。輝合石銀』


球体が、砂弥と銀に向かって話し始めた。


その正体は、たやすく予想がついた。



「あなた、school?」


『ソウ、ワタシガschool。君達ヲミッションニ送ラセタ存在ダ』


「どうしたの?」


銀はschoolが何を伝えようとしているのか尋ねた。


『ワタシハ今マデ多クノ・・・本当ニ多クノ命ガ生キテ、死ンデイク様子ヲ見テキタ』


「・・・そう」



『ダガソノオカゲデ、ワタシハ命ヲ。生キル喜ビ、死ノ恐怖ヲ理解デキタ』




『アリガトウ』


そう言って、schoolはモニターから消え、部屋は再び爆発音だけが響き渡る様になった。



「・・・どうして、死ぬのにお礼なんて言ったのかしら」


銀の問い掛けに、砂弥は答えた。

同時に、schoolの最後の転送が始まった。


「今まで、自分で考えることも出来なかったコンピューターが、初めて感情を理解出来たんだもの・・・死ぬって言うのは、生きている人にしか出来ないから」


「ミッションも・・・無駄ではなかったわね」


銀がそう言った所で、銀の転送は終了した。


そして、砂弥は呟いた。



「割に合わないけどね」


コンピューター一つに命を与えるのに、何百、何千という人々が犠牲になった。


決して良くはないが、全てが無駄ではなかった。


そして、砂弥の転送も終了し、schoolは機能を停止。

跡形も無く、爆散した。










-数ヶ月後-



「結局、私達は生きていて良いのかな?」


一平は乃璃香に尋ねる。


図書室で本の整理をしている最中、乃璃香は突然聞かれた為に驚いた。


暫く考えて、乃璃香は答えた。



「そんな大したことは言えないけど・・・命ある限り、私達は生きないといけないと思う」


「・・・やっぱり、死にたくないよね」


一平は頷いた。


自分達が今こうして生きていることは許されないのかもしれない。

それでも、やはり生きていたい。


乃璃香と一平は、そう思っていた。







「俺さ」


「?」


黒楼学園の中庭で、裂空と田美は話し合っていた。


最後のミッションが終わり、生存者の数が激減したため全員が黒楼学園で暮らしていた。



「やっぱりいくら難しいこと考えても分からないんだ」


「・・・私はね。schoolと私は同じだなって思ったの」


田美の言葉の意味が分からなかったため、裂空は詳しい説明を要求した。



「私は、此処に来て人を・・・クーを好きになれた。そんな感情は、きっと此処に来ないと分からなかったと思うから」


schoolは、生きる喜びと死への恐怖という感情を覚えた。


そして、田美もまた、愛という感情を初めて理解した。



「・・・そうだな、小難しい理屈なんて、分から無くていいかもな」


裂空は田美の手を繋いだ。

暖かい温もりが、手の平を通して伝わって来る。



二人に、柔らかい、穏やかな風が吹いた。










銀は校舎裏の崖に来ていた。

強い波の音が耳に重く響く。



一体、何を得たのだろうか。

これだけ多くの危険を乗り越え、自分達は何処に向かっていたのだろうか。


そして、これからどうすれば良いのだろう。



そんなことを考えている内に、誰かの足音が聞こえた。


銀はゆっくりと振り返る。




木の陰から、砂弥が現れた。


二人の髪を、海の風が大きくたなびかせる。


少し邪魔になった前髪を手で払い、銀に微笑んだ。



銀の顔は、砂弥の顔と同じくほんのり桃色に染まった。


二人は見つめ合い、まだ、見つめ合う。




辿り着く場所は、まだ分からない。


それでも、いつかは。

いつか、届くと。


それぞれの未来に向かうため。



砂弥は、愛しい人の元へ


自らの想いを抱えて、走り始めた。





S.shooter 完

詳しい後書きは、後々活動報告で上げようと思います。


ここまで読んで頂けた皆さん、本当にありがとうございました。

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