life23.戦闘兵器編-起動する翼
砂弥はモニター室で、いつでもミッションに行けるよう待機していた。
敵も段々と強くなっているので、注意していかなければ。
その時、砂弥の傍に銀が寄ってきた。
「砂弥。気をつけて」
「まだミッションに出るかはわかんないよ」
まだ砂弥が出ると決まっている訳ではないし、もしかしたら銀も出るかもしれない。
そうこうしている内に、中央のモニターにミッション参加者の名前が表示された。
「・・・これ、」
「どういうこと・・・?」
砂弥と銀だけでなく、全員が戸惑っていた。
モニターには、今までにない量の名前が表示されていた。
今までは一つの学校につき多くて二十人程しか選ばれていなかったのに、今はほぼ全ての生徒の名前が表示されているようだ。
「他の学校はどうなってるのかしら」
銀は砂弥に尋ねた。
尤も、銀の独り言に近かったが。
「もし他の学校もこれだけ多くの生徒が出るんだったら・・・今回のミッション、何が相手なんだろう」
砂弥も銀に問い掛けるが、銀は答えられない。
「私の名前は、無いみたいね」
「私は・・・あった」
銀の名前は表示されていなかったが、砂弥の名前は表示されていた。
銀は砂弥を強く抱きしめる。
「本当に、気をつけて。今回は・・・」
「・・・いつも以上に嫌な気がする。分かってる」
砂弥も銀を抱きしめ返す。
「じゃあ、絶対帰って来るから」
「・・・・・約束よ」
二人はずっと抱き合っていたが、やがて銀の手から人の感触がサーッと消えていき、砂弥の姿は完全に消えて、転送は完了した。
「・・・・・・・・」
「砂弥・・・」
銀の声が微かに放たれ、それは周囲の転送音に掻き消された。
フランシアは一人、ミッション間近だというのに自室で寛いでいた。
オレンジジュースを飲みながら、小型の通信機で誰かと話していた。
「そろそろ飽きた?じゃあ、他の計画でも考えて頂戴・・・・・分かってるわよ、今回も手は抜かない。ええ、任せて。・・・・・じゃあ宜しく」
フランシアは電源を切り、通信機をポケットにしまい込んだ。
ベッドで横になり、声を漏らした。
「さて、今年は生き残りが出るのかしら」
砂弥が目を開けると、そこには無機質な空気が漂う場所にいた。
辺りの壁は機械や金属で出来ており、視界の全てを白と銀が支配していた。
砂弥が立っているのは狭い通路で、奥に曲がり角が見える。
「とりあえず、レーダーっと」
レーダーを取り出し、画面を見る。
すると、自分の後ろ辺りに敵が接近しているのが分かった。
素早く振り返り、魔銃を構える。
レーダーによると、前方に見える曲がり角を出て来るはず。
そして、それは姿を現した。
タイヤを回転させ、素早く角を曲がって来るそれは、犬のような姿をしたマシンだった。
砂弥は銃から電撃を発射するが、電撃は犬マシンに当たると弾かれて辺りの壁に当たる。
「くっ!」
続いて光弾を撃ち出すが、これはボディに触れた瞬間に消滅する。
距離を詰めてきた犬マシンは、自身の爪にピンク色の熱線を出して砂弥に飛び掛かる。
「ちぃっ!」
砂弥は犬マシンの爪が触れる直前にスライディングでかわし、すれ違い様に銃剣で犬マシンを縦に一刀両断する。
砂弥は立ち上がると額の汗を袖で拭う。
さっきの犬マシンは、電気や光弾といった魔法が効かなかった。
しかし、銃剣の刃は効いたので魔法以外の武装は通用しそうだ。
しかし、そうなると魔法でないと攻撃出来ない白馬が心配だ。
一刻も早く合流するために、砂弥は駆け出した。
「白馬!」
白馬に向かって三体のマシンが迫っていた。
マシンは足がキャタピラになっており、横向きの楕円型の頭を持ち、その両手の先はマシンガンが搭載されている。
ルーンは銃でマシンを撃ち、怯んだ隙にナイフでメインカメラを突き刺して壊す。
他の二体がルーンにマシンガンを撃つ。
ルーンは自分が仕留めたマシンを盾にして隠れる。
マシンはすぐに回り込み、ルーンの真正面に立つとマシンガンを発射する。
「危ない!」
白馬が杖を掲げる。
すると、ルーンの体が風で飛ばされ、なんとか避けれた。
二体のマシンは白馬に狙いを変え、照準を白馬に合わせる。
「白馬!!」
ルーンは銃でマシンを撃つが効果がない。
白馬はバリアを張ろうとしたが、敵の攻撃に魔法が効かないことを思い出す。
そして、マシンガンが発射されるその瞬間
マシンの両手が爆破した。
慌てて辺りをグルグル見渡すがマシンの視界には何も映らない。
マシンの頭が縦に切断される。
砂弥が駆け付けたのだ。
ボディに銃剣を突き刺し、バラバラにする。
片方のマシンが砂弥を狙うが、その両手が鎖に縛られる。
「砂弥ちゃん!今よ!」
乃璃香が杖の片先の鎖を使って縛り上げていた。
砂弥は誘爆レーザーを三発撃ち込み、マシンは爆散する。
「何とか、助かったわね」
乃璃香がその場の三人を一瞥する。
「皆、ありがとう」
白馬は礼を告げ、笑みを浮かべた。
安心したのだろう。
「じゃあ、これからどうするかね」
砂弥は辺りをグルッと見渡した。
広い間取りで、一階の広い間を囲むように二階の通路が設置されている。
「取りあえず皆、離れずに一緒に・・・」
その時、何かガシャガシャと機械的な足音が部屋に響き渡った。
二階から大きな人型のロボットが飛び降り、両手のドリルを回転させて砂弥達と向き合う。
そして、数体のロボットが二階からライフルで砂弥達を狙う。
一階の通路には、犬マシンが道を塞ぐように待ち構える。
四人はそれぞれ武器を構えた。
綱切はハンドガンや刀を使ってロボットを次々と倒していく。
「俺は、強い。強い。強いはずだ!」
自分に言い聞かせるように何度も何度も唱える。
そうしてロボットを倒していると、三体の小さな機械が飛んできた。
それはそれぞれ赤、青、黄色のカラーリングのボディで、ラジコンのような速度と動きで綱切に近寄って来る。
「こんなやつ・・・さっさと消えろ!」
綱切は三つのロボットを撃ち落とす。
ロボットは煙を上げながら墜ちていき、床に着くと同時に爆発する。
綱切は呆気なく思ったが、あの見た目通りだと納得した。
生徒達が転送された施設の最深部。
その部屋の扉は、厳重なセキュリティで閉ざされており、誰も入ることは出来ない。
その扉は赤、黄色、青のランプが取り付けられており、それが付かなければ扉は開かない。
そして、綱切が三体のロボットを撃ち落とし、撃破した瞬間、そのランプは光り始めた。
ロボットが消えると同時に同じ色のランプが付く仕掛けだった。
扉はプシュー、と煙を放出しながら開く。
扉から赤青黄色のラインが伸び、中央の台座に繋がっている。
その台座の上には一体のロボットが立っていた。
成人男性よりも若干大きなサイズの人型のロボットで、背中には二翼の翼を有している。
そしてラインに沿って光が進み、台座に到達すると、台座と部屋全体が明るく光り始めた。
キュイーン、という音と伴い、そのロボットの目が一瞬光る。
そして、今まで灰色だった全身の装甲に色が宿る。
全身は白、青、金色を基調にコーディングされ、背の翼はうっすらと青い光を放つ。
肩と腰に二つずつ装備された砲口は、肩の方は赤色、腰は黒ずんだネズミ色にコーディングされていた。
そして、そのロボットは少し屈むと部屋から飛び出した。
それまで畳まれていた翼が展開され、通路を飛行して行く。
最凶の戦闘兵器、プロヴィデンスフリーダムが目覚めてしまった。
「誰とも出会えませんね」
花菜は自分の隣を歩いている飛石に話し掛けた。
「そうですね、まあ危険が少なくて良いんですが」
飛石達は扉の前に立ち、開くのを待った。
他のどの扉も自動ドアだったので、同じ様に扉を開けようとする。
扉を開き、二人は部屋の様子を見渡す。
この時、あらかじめレーダーで確認しながら来るか、部屋が防音性に優れてなければ、異常に気付けたのかもしれなかった。
部屋は地獄絵図という言葉が相応しく部屋の至る所が血に染まり、死体があらゆる所に散乱していた。
頭が無いのもあれば、四肢が切断されているもの、あらゆる部位を破裂させているものもあった。
「何・・・ですかコレ」
「うっ」
飛石は唖然とし、花菜はあまりの気持ち悪さに口を抑えた。
その時、上から何かがゆっくりと降りて来るのが見えた。
Pフリーダムが部屋の中央に降り立つ。
一瞬目が光ったかと思うと、ボディや頭にこびりついていた血が弾け飛び元の煌めく輝きを取り戻した。
そして、腰からビームライフルを取り出し、左手には腰に付いていたシールドを持った。
「き、来ますよ!」
飛石と花菜は武器を構えた。
砂弥達は無事にロボット達を倒し、通路を歩いていた。
「そろそろラスボスが来てもいい頃だよね」
白馬がレーダーを見ながら呟く。
「そうね、もう出て来てもいいはずだわ」
「あ、向こうに扉があるよ」
乃璃香が答えていると、砂弥が通路の奥を指差す。
「待って、先にいるの・・・ボスよ」
白馬が青ざめた顔になる。
「・・・やるしかないでしょ」
ルーンが銃を取り出す。
他の皆も続けて武器を構える。
「誰かがボスと戦ってるみたい」
「じゃあ、急ごう!」
砂弥は扉に向かって駆け出し、全員が走り出す。
そして、扉が開き、中の様子が明らかになる。
「ぁ・・・ぁ、」
「・・すみません。最後に側にいるのが私で」
そこには飛石と花菜がいた。
飛石の両腕はすでに無くなっており、花菜は下半身と右目を失っていた。
二人の周りは血の海と化していて、飛石は力無く花菜の上へ倒れ込んだ。
花菜は黙って飛石を抱きしめる。
既に声など出なくなっていた。
そこへ、Pフリーダムが近寄り、腰からビームサーベルを抜き出す。
「っ!!やめっ!」
砂弥が叫び、駆け寄るよりも先にPフリーダムのビームサーベルが二人を叩き潰した。
直撃した所は熱で溶け、それ以外の二人だったモノが辺りに飛び散った。
四人はその光景に呆然としていた。
体が動かない。
「あ、ああ、あ・・・」
砂弥は震えていたが、やがて魔銃をギリッと強く握り締め、Pフリーダム目掛けて駆け出した。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
自由の神は、止まることを知らない。