life22.戦闘兵器編-しあわせの日
朝、砂弥の目覚めは最悪だった。
フランシアに言われたことの意味が分からなかった。
そのことでずっとうなされ、中々眠れなかった。
「嵐って、何なの・・・?」
砂弥は頭を抱えた。
そして昼になり、砂弥は銀達と昼食を取っていた。
シチューをスプーンですくい、口に流し込む。
続いて、銀のシチューに人参を入れる。
「・・・砂弥」
銀はジッと砂弥を見詰める。
「いや、これはその、銀に私の人参食べて欲しいなーって」
「もう・・・」
銀はおとなしく人参を食べはじめた。
白馬は自分の口元まで運んでいたスプーンを止め、砂弥に尋ねた。
「そういえば砂弥は今日の夏祭り、どうするの?」
「あー、そんなのあったっけ」
砂弥は思い出したように答えた。
毎年、この時期になると夏祭りを開くらしい。
四学園の中央にある中央広場に出店を出し、生徒全員で盛り上げるとか。
「銀は去年の祭りに参加したの?私、どんなのか想像出来ないんだけど」
「いえ、知らないわ」
銀は首を横に振って否定した。
「私達、去年の秋ごろに来たから分からないのよ」
乃璃香が話に加わってきた。
「そうなんだ・・・白馬とルーンは?」
砂弥は白馬とルーンに尋ねた。
「私は冬・・・だったと思う」
白馬は自信なさ気に答え、ルーンはその後に続いた。
「私はその二週間後だね」
「へー」
砂弥はコップに入っていた水を飲み干す。
コップを置くと、コトッとした音が砂弥の耳に入った。
「じゃあ、おっさんは山吹と同じ日に来た訳だ」
裂空は田美と一平と会話していた。
話題は砂弥達と同じようだ。
「うん。一緒に飛行機に乗っていたからね」
一平は自分の死んだ時のことを思い出していた。
「成る程なー・・・」
「あの、クーはどうして死んだの?」
田美が申し訳なさそうに裂空に尋ねた。
「俺は道を歩いてて・・・気付いたら来てたから、多分事故だと思うな」
裂空は頬をポリポリと掻きながら答えた。
死んだ時の記憶は殆ど無かったので、恐らく即死だったのだろう。
「いつ頃だったの?」
「んー、冬の終わりごろだったな。田美ちゃんは?」
裂空が田美に聞き返すと、田美は当事のことを思い出そうと唇を指で抑えた。
「私は、秋に山の崖から落ちて・・・」
田美の話を聞いて、裂空は話を切り上げたが、どうにもスッキリしなかった。
「おかしい?何が?」
夕方、祭りの開催を目前にして、砂弥は銀の部屋に来ていた。
そこで、砂弥はある疑問を持った。
「だって、変だと思わない?」
「何が?」
銀はベッドに座っている砂弥の隣に腰掛ける。
「あの後、飛石や花菜ちゃんにも聞いて回って貰ったんだけど、変なのよ」
「だから、何が?」
「銀より前、つまり去年の夏より前に学園にいた生徒が一人もいないの。ううん、生徒だけじゃない。先生も」
「・・・そういえば、私が来た時も、皆初めて来た生徒だったわ」
砂弥と銀は怪訝な表情を浮かべる。
その時、大きな鐘の音が響いた。
中央広場から音は広まっているようだ。
「・・・考えてても仕方ないわ。それよりお祭りよ、祭り!」
銀が砂弥の手を引っ張って外へ連れ出して行く。
「な、何でそんなにはしゃいでるのよー」
砂弥はパタパタと音を立てて銀に合わせて廊下を走った。
既に中央広場は人でごった返しており、がやがやとそこら中から人の声が飛び交っていた。
砂弥は銀に手を引かれて歩いており、さっと周りを一瞥した。
見ると出店を営んでいるのはロボットかコンピュータで、人間で出店をしていたのは誰もいなかった。
「文化祭は生徒が出し物をするのに、夏祭りは学園側がやるの?」
と砂弥が聞くと、銀も辺りをキョロキョロ見回していた。
「そうらしいわね」
色々と生徒任せの行事が殆どだったのに珍しい事もあるものだな、と銀は思った。
「まあ折角やってくれてるんだから、今日はそれに甘えましょう」
「うん」
砂弥は繋いでいた左手を離し、銀の右腕に左腕を絡めた。
銀は一瞬呆然としたが、砂弥に微笑んだ。
「あらあら、私に甘えてなんて一言も言ってないのに」
「いいじゃない。別に」
二人は互いの指を絡め合わせ、ギュッと強く握り締めた。
「田美ちゃん、何か食べたいものない?」
裂空が尋ねると、田美は首をフルフル振った。
「クーは?何か、好きなものとかないの?」
「んー、ないかな」
裂空はそう答えると、一つの店に向かった。
「とりあえず、ジュース貰ってこうぜ」
「うん!」
田美は頷き、裂空に駆け寄ってその手を握った。
今日はずっと二人でいよう。
田美はそう思い、裂空も笑みを浮かべた。
「ほら白馬!さっさとついて来る!」
右手に綿菓子、左手にいか焼きをもったルーンが、大声で白馬を呼び付ける。
白馬は息切れを起こしながらルーンの元に駆け寄る。
「もう、はしゃぎすぎよ。急にどうしたの」
白馬はルーンの目の前に立ち、汗を拭う。
ルーンはため息をついて、白馬に目を向けた。
「私は、いつ死ぬか分からないから」
白馬は言葉に詰まった。
前にヴァンパイアに殺され、この前はプリズンに閉じ込められた。
いつも以上に死に怯えて当然だ。
「・・・でも、死ぬのが怖いのは皆同じよ。貴女だけじゃ」
「私は、もう死にたくない!」
白馬の言葉をルーンが遮った。
「私が今生きているのは白馬のおかげだから」
ルーンは白馬の肩を掴み、白馬の瞳をジッと見詰めた。
「だから、貴女に貰ったこの命は無駄にしたくない」
「ルーン・・・」
その時、白馬は自分の髪に何かが当たっているのに気が付いた。
「・・・ルーン、いか焼き」
「あ、ゴメン」
ルーンは白馬の肩に手を回すと、そのまま学園へと連れていく。
「じゃあ、シャワーでも浴びないと。さあさあ、レッツゴー」
「ちょ、どこ触ってるのよ」
白馬はジタバタしていたが、やがて諦めて歩き始めた。
中央広場にて、二人の少女が肩を並べて歩いていた。
「あああ、お姉様は何処に行ってしまわれたのでしょうか」
飛石は肩をガックリ落とし、あからさまに落ち込んでいた。
「頑張りましょう。絶対に砂弥様は見つかりますから!」
隣にいるのは花菜だった。
落ち込む飛石の肩を叩き、花菜は燃え上がっていた。
(憧れの砂弥様と一緒に過ごす貴重なチャンス!見逃す訳にはいきません!!)
「そうね。諦めたら駄目よね・・・ありがとう、だから花菜ちゃん好き!」
飛石はガバッと豪快に花菜に抱き着いた。
「や、やめて下さい!わわわ私には砂弥様という人が・・・」
花菜はパニックを起こし、あたふたしていた。
すると、花菜の視界に一人の人物が映った。
「飛石さん、あそこにいらっしゃるのは式之さんではありませんか?」
見ると、確かに清原式之の姿が見えた。
「式之さーん!」
飛石が呼び掛けると、式之は二人に気付き、二人の前に歩いて来る。
「こんばんは。お二人とも・・・仲がよろしいんですね」
「ち、違います!」
花菜は躍起になって否定し、式之と飛石にポカポカと殴り掛かる。
賑やかな場所の中、一際騒がしい集団が出来た。
乃璃香は人々がわいわいと射的や買い食いをしている中、黙々と型抜きをしていた。
集中して取り組んでいたが、自分の隣に誰かが来たのが分かった。
「・・・お父さん?」
乃璃香が横を見ると、そこには一平がいた。
「どうだい、調子は」
「ええ、後少しで三個目よ。お父さんもやってみたら?」
「どれ、やってみるよ」
一平は乃璃香と同じ様に型抜きを始めた。
二人共それぞれ自分の作業に没頭する。
時々、互いの型抜きを見て、また自分の作業に戻る。
言葉は無かったが、二人の親子は今、確かに同じ空間にいた。
そして、いよいよ祭りもクライマックスを迎えようとしていた頃、銀と砂弥は中央広場向けて並んで歩いていた。
出来るだけ落ち着ける場所に行きたかったので、二人で離れた丘に行っていたのだ。そして、祭りの締めに中央広場で綿飛ばしのイベントを行うらしい。
綿飛ばしとは、その名の通り綿を飛ばす行事で、天寿を全う出来るよう、天に綿を飛ばしてお願いする。という意味があるらしい。
せめてそれには参加したいと、二人は広場に引き返しに来たのだ。
そして、二人で談笑しながら歩いていたのだが、砂弥がある人物を見つけた。
銀も釣られてその先を見る。そこには・・・・・
フランシア・スケルアルが二人に向かって歩いて来ていた。
二人は思わず固まった。
動け、動けと命令しても、体は言うことを聞かなかった。
そして、フランシアは二人の隣に来た。
そこで立ち止まり、二人に向けて話し出した。
「・・・嵐の時が、もう来ている」
「・・・え?」
砂弥は聞き返した。
「大きな嵐はありとあらゆる花を吹き飛ばし、残った花は・・・」
そこまで言うと、フランシアは意味深に笑みを浮かべて奥へ去ってしまった。
「・・・」
砂弥は呆然とフランシアの背を見ていた。
ただ呆然と眺めていると、銀が砂弥の体をギュッと抱きしめた。
「気にすることないわ。今考えても仕方ないし、まずは綿飛ばししましょう?」
「・・・うん」
砂弥は銀に身を任せ、その手をそっと包み込んだ。
確かに、不安はある。
それでも、愛しい人が傍にいてくれる。
ミッションの最中も、心でちゃんと繋がっている。
それだけでも、砂弥には十分だった。
「さあ、行こう。銀!」
「ええ!」
二人は同時に駆け出し、中央広場へと向かった。
薄暗い闇の中、二人の笑顔は何よりも輝いている。
そんな二人を、星空は見詰めている・・・そんな、情景だった。
フランシアは空を見上げていた。
数え切れない程の白い物体が空へと舞っていった。
「・・・最後の祭りですもの。存分に楽しんで貰わないと」
そう言って海へ視線を戻した。
「私は参加しないけど・・・あそこで、何人生き残れるでしょうねぇ」
フランシアの独り言に答える者はなく、ただ波打ちの音だけが響き渡る。
暗い、暗い夜の始まりだった。