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S.shooter  作者: バームクーヘン
夢幻の終焉
22/29

life21.魔導師編-プリズンを壊せ

「おやおや、またいきの良いのが引っ掛かったねぇ」



魔女はニタニタと笑いながら囚われた生徒達を見上げた。


笑う度に蛇の様に長く、気味の悪い赤い舌がチラチラ視界に入る。


歯には歯石がこびり付き、不衛生さが剥き出しになったような存在感を放っていた。


生徒達は牢から出ようと黄色い壁をドンドンと叩く。


その様子は魔女からも見えているが、壁を叩く音や生徒達の喧騒は耳に入って来ない。


プリズン内の音は外部へ届かないようだ。



魔女は空中に浮かぶプリズンに数歩近付く。


「この部屋には東西南北、計四つの入口があるがそれぞれ扉を越えた瞬間、そのイエロープリズンに収容される魔法を掛けているのさ」


魔女は持っている杖をプリズンに向けた。


一つの光弾がプリズンに当たり、プリズンを揺らす。



生徒達の声が消え、部屋を沈黙が包み込む。


「どうだい、頑丈だろう?その牢は決して壊れないよ。あたしが死ぬまでねぇ」



「でもずっと壊れないんじゃああんたらも困るだろう。だから、特別に壊れるのを見せてやろう」


カン、と音を立てて杖が突き立てられる。


すると、床から黄色いクリスタルが出て来た。



中には一人の男子生徒が入っており、外へ出ようと壁をドンドンと叩く。


クリスタルは魔女から少し離れた一で停滞し、やがてその場に停止する。


「さあて、いよいよショータイムじゃなぁ」






「何これ・・・」


砂弥は思わず呟いた。



魔女が床からクリスタルを出した際に、その部屋の様子を写した映像が館に居る全員の前に現れたのだ。


「何処かの部屋の様子らしいわね」


銀が映像に触れようと手を伸ばす。


その手は映像に触れることなく、空を切る。



「・・・」


まあ当然か、と銀は手を引っ込めた。


砂弥と銀は黙って映像を見詰めた。






「今、他の侵入者にもこれを見て貰ってるんだがね」


魔女が杖を頭上に掲げると、杖が仄かに光る。


すると、男子生徒を閉じ込めている小さいクリスタルと、多くの生徒達が閉じ込められている黄色いクリスタルの前に、タイマーのような物が現れた。


小さいクリスタルのタイマーはあと10秒、大きいクリスタルのタイマーは、あと10分を表示している。


タイマーのカウントは進み、やがて、0を示した。


その瞬間、



小さいクリスタルは爆発した。




中にいた生徒は声を挙げることもなく、爆発によって跡形も残さずに死んでいった。


暫くの間部屋は沈黙に包まれていたが、沈黙を破るように生徒達が悲鳴を挙げ、クリスタルの中はパニックになった。



その様子を見て、魔女はニタニタと浮かべていた笑顔をより強くした。


「いいぞいいぞ!わたしゃあ、お前らみたいな若い連中が死に怯える様が好きで好きでたまらんのじゃあ!!」


半ば張り裂けそうな声で魔女は酔いしれる。



「さっさと終わらせてもらうぞ」


その時、部屋に誰かの声が響き渡った。


すると天井を突き破り、裂空が空中から現れた。


裂空は床に着地すると、剣を魔女に向けた。





裂空が現れた時点で映像は途切れ、魔女達の様子は砂弥達には分からなくなった。


「あ・・・・・」


砂弥は自分の声が震えているのが分かった。


一刻も早くあそこに行かなければいけない。


そう思って駆け出そうとした時、



銀に手を掴まれ、砂弥の動きが止まった。




「・・・銀?」


砂弥は驚いて、そっと振り返る。


見ると、銀は俯いて砂弥と目線を合わせようとしない。


「・・・どう、したの」


「行っ・・て、欲しくないの」



「・・・え?」


砂弥には銀が何を言いたいのか分からなかった。


「どうして」


行かなければ、あのクリスタルに閉じ込められている皆が犠牲になる。


そんなことは分かりきっているのに。



「怖いの。その、さっきの見て」


「いや、私だってこわいよ」


銀は砂弥の腕を引き寄せ、砂弥を強く抱きしめた。


「間近で見て、怖くなったの。貴女が、私の目の前で、死ぬかもしれないって」


銀の声は震えていた。

弱々しい響きが砂弥に伝わって行く。


砂弥も、そっと銀を抱きしめ返した。



「ありがとう。貴女が、他の誰でもない貴女がそう言ってくれるのが一番嬉しい」


だから、と砂弥は銀を引き離し、優しく、包み込むように銀の手を握った。



「ついて来て」


「え?」


「私を信じて。私の隣にいて」




「そして、帰ろう。二人の・・・皆の学園へ」



銀は砂弥の真っ直ぐな眼差しを受けていた。


一体、いつこの子はこんなに強くなったのだろう。


何処か遠くにいて、それでいて、とても近くにいるような。

そんな存在だった。



ああ、と銀は思った。

砂弥はきっと、私よりも、遥かに高い所に行ってしまったのだろう。


そして、私が転んだりすると、すぐに降りてきてくれるのだ。



まるで私のための天使みたい。


銀は砂弥の手を解くと、腰から魔銃を取り出した。


「・・・行きましょう」


「ええ」



二人は通路へ体を向けた。

奥から、何者かが近付いて来る。



入って来たのは、一人の老人だった。


「ばーさんの邪魔をさせる訳にはいかぬ」


魔女とは違い、身につけているローブは質素な物だったが、その周囲に漂わせているオーラは今までの魔導師達とは大違いだった。


「銀」


「ええ」


二人は銃を構え、魔術師と対峙した。





その頃、中央の大部屋では裂空と魔女が戦っていた。


魔法で遠距離攻撃を繰り出す魔女と違い、裂空は手数の少なさから苦戦していた。



「さあ、そろそろ諦めな!」


魔女は杖を両手で握り締め、勢いよく床に突き立てる。


杖の前に黒い波動が集まり、裂空に向かって放たれる。


裂空は剣を振り、それを叩き斬る。



直ぐさま巨大な光が裂空に向かい、裂空は思わず剣の腹で受け止める。


光の力は強く、裂空は滑る様に後方へ押し流される。


裂空の背に扉が当たる。


幸い押し潰される程の威力ではなく、押し返す事は出来そうだった。



その時、裂空は自分のいる場所をもう一度思い返した。


扉の前。

それが自分のいる場所。



裂空は焦ったがもう遅い。


裂空の体は空中に飛び、クリスタルに収容される。




「くっ!」


裂空はクリスタルをドンドン叩くが、効果はなさそうだった。



「やれやれ、今回の鼠共は諦めが悪いのう」


魔女は白馬達に見えるように、わざとらしく溜め息をつく。


「ほれゴミ共。あと二分でお前らは木っ端みじんじゃぞ。イヒヒヒヒヒヒ」



それを聞いて、生徒達はまた騒ぎはじめた。


中には、半ば諦めている者もいた。



白馬やルーン、裂空がクリスタルの中の生徒達を宥めている中、綱切は体を縮こませてブルブル震えていた。


「こええ・・・ちくしょう、こえええ」


頭を抱え、更に体を縮こませる。


「死にたくねぇ、死にたくねぇ・・・」




「それにしてもじーさんは何時までほっつき歩いとるんじゃ」


魔女は魔術師の事を気にし始めた。


生徒達を狩りに行ってから暫く経っている。


爆破の時間を知っているのに来ないのでおかしいと感じていた。



その時、部屋の壁が爆発したかと思うと、そこから何かが勢い良く飛び出した。


そして、それは壁に叩き付けられて、体の一部がグチャッと音を立てて潰れる。



魔女は呆気に取られていたが、暫くすると正気に戻り、壁に叩き付けられたモノを見た。


そこには白目をむき、体の至る所を潰された魔術師がいた。


「じ、じーさん!じーさん!!」


魔女は魔術師に駆け寄り、その体を揺さぶる。



ぴくりとも動かない魔術師を魔女は何度も何度も揺すったが魔術師が動く気配は無く、ヌチャッヌチャッと血の音が沈黙を続ける部屋に響き渡る。


やがて魔女は諦めてうなだれたが、スッと立ち上がり、体をワナワナと震わせる。


「じーさんをこんな目に合わせたのは・・・」



「何処の糞ガキじゃああああああああああああ!!!」




魔女の怒号が部屋中をビリビリと震わせ沈黙を貫く部屋が更に静けさを増す。


そこに、コツン、コツンと足音を響かせ、二人の少女が現れた。


二人は肩を並べ、それぞれ右手と左手に魔銃を持ち、部屋に足を踏み入れた。


プリズンに閉じ込められている生徒達全員が二人の少女に視線を集めた。



砂弥と銀は魔女と対峙し、互いに戦意をあらわにしていた。


均衡した空気は先に魔女が破った。


杖の先端に炎を溜め、二人目掛けて発射する。



二人は反対に避け、魔女を挟み撃ちするような陣形を取る。


引き金を引き、何発もの銃弾が放たれる。


魔女は自身の周囲に竜巻を発生させ、銃弾を止める。


銀は銃口から強風を撃ち出し魔女を守っていた竜巻を吹き飛ばす。


その隙を突き、砂弥は誘爆レーザーを発射する。


魔女は空気の壁を作り、自身の盾とする。


レーザーは魔女の手前の壁に当たり、壁は爆発して消え去る。



魔女は二人に手を向け、激しい水流を繰り出す。


銀はバリアを張って水流を防ぎ、砂弥は冷気を撃ち、氷結した水の上を走り、魔銃を銃剣に切り換えて魔女に振り下ろす。



魔女は杖を突き出して銃剣を受け止める。


魔女は砂弥を走ってきた勢いのまま受け流す様にし、次の瞬間、杖の先端に光が発生し、一瞬の内に爆発する。


砂弥は銀の後方へと吹き飛ぶ。


銀は水流が止まった隙を見逃さず、何発かビームを放つ。


魔女はバリアを張ってビームを防ぐ。


その瞬間、銀は魔女の目前までダッシュで駆け出し、魔女に銃口を突き付ける。


魔女も咄嗟に杖から魔法を使い、銀の誘爆レーザーと同時にぶつかり、互いに吹き飛ぶ。



銀はゴロゴロと床を転がって行き、壁にぶつかる。


壁は衝撃で崩れ、煙がむくむくと立ち上がり、銀の姿が見えなくなる。


魔女も転がっていたが、途中で何とか立ち上がる。



そして杖を二人に向けようとした瞬間、何発もの銃弾が魔女の体を鮮血で赤く染めていく。


「っ!グッ、アアア!!」


魔女を撃ち抜いているのは砂弥だった。


途切れることなく、銃を打ち続ける。



魔女は体を撃たれながら、不規則な軌道を描く魔法を出す。


砂弥は魔法を撃ち落とすことは早期に諦め、魔女に銃を打ち続ける。


そして、砂弥の撃った強力なビームが魔女に当たるのと同時に、魔女の放った魔法が砂弥に当たり、砂弥を吹き飛ばした。



砂弥の撃ったビームは魔女の左腕を消し飛ばし、砂弥は空中で宙返りして床に着地する。




・・・いける。

砂弥は確信していた。


魔女は魔法で左腕の傷口から流れる血を止め、砂弥を睨みつけていた。


体全体で息をしているかの如く、肩をゆっくり、大きく上下に動かしていた。


限界が近い。

今畳み掛ければ勝てる。



砂弥は銃を銃剣に切り換える。


その時、自分の隣に誰かが来たのを感じた。


目線を横にずらす。



そこには、銀は銀がいた。


さっきの攻撃でやられたのか、息切れを起こしていた。


かくいう砂弥も、既に大分疲れていた。


数回しか攻撃は喰らっていないはずなのだが、疲労は溜まっている。


見た目以上に魔女の魔法の威力が高いということなのだろう。



((次の一撃で決める))


二人は同時にそう決めた。



次の攻撃を喰らえば、立っていられるかは怪しい。


二人の目線が合う。

お互いに小さく頷き合い、魔女に顔を向ける。



互いに感じ合っていた。


以前でも、ミッションでこんな強敵と戦ったことは合った。


しかし、その時自分の心を大きく支配していた、所謂恐怖というものは今は全く無いように思えた。



きっと、銀が

きっと、砂弥が


隣にいてくれたから。



それが理由だった。


誰よりも、何よりも大切な人が傍にいてくれる。

それが、何よりも力をくれている。




そして、二人は同時に魔女へと駆け出した。


魔女は光弾を連射し、二人を撃ち殺そうとするが、上手くいかない。


やがて二人が近付くと光弾を撃つのを止め、杖に魔力を集める。




「バラバラにしてやる!覚悟知ろよ糞アマあああああぁぁぁ!?!」


魔女は怒りに身を任せ、杖で殴り殺す為に駆け出した。



砂弥と銀はその隙を逃さず、銃剣の銃口を魔女の足に向け、魔女の足を撃ち抜く。


魔女は呆気に取られ、痛みを感じることはなく、ただただバランスを崩して倒れ掛かる。


そして、二人はX字を描くかのように銃剣を振るう。





クリスタルに捕われていた生徒達は、体が浮いているのに気が付いた。


白馬は周りを見渡した。


生徒達を閉じ込めていたクリスタルは崩れ去り、残り五秒を示していたタイマーも消え去った。



そして、何かがコロコロと転がっているのを生徒達は見つけた。


転がっている物は豪奢なフードを纏っており、転がった跡に赤い線を斑に残していた。



銀と砂弥は向き合った。


そして、暫く見つめ合った後、互いの魔銃をコン、と合わせた。




まるで、勝利のハイタッチの様だった。



生徒達は歓声を挙げ、二人に駆け寄った。






魔術の悪夢は今、ようやく終わりを告げた。

長く続いて来たS.shooterも、あと二回のミッションで終わりを迎えます。


砂弥と銀。

二人の物語の結末を、描けるよう頑張ります!

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