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S.shooter  作者: バームクーヘン
夢幻の終焉
21/29

life20.魔導師編-洋館の罠

砂弥は自室の洗面所で顔を洗っていた。


手で水を溜め、顔にバシャッと掛ける。


今日はミッションのある日だ。


何故だか知らないが、今のところ皆勤賞である。


酷い偶然もあったものだ。



尤も、早く100点を取るのには有り難いことだが。


前回は銀を生き返らせるために特典を使ったので、砂弥の点数は0点に戻ってしまった。


「さて、気持ちを切り換えないとね」


ドアノブに手を掛ける。


そこで砂弥の動きが止まった。




「・・・嵐」


砂弥は先日、フランシアに言われたことを思い出していた。


嵐とはミッションのことなのだろうか。


今回なのか、それとも次回なのか。


「・・・・・」


しばらく考えても、答えは出そうになかった。





モニター室に入ると、何やら騒々しかった。


視界に白馬が入ったので、白馬に事情を聞いた。


「何の騒ぎ?」


「あ、砂弥」


白馬は砂弥に気付き、振り返る。


「あの、大変なの。モニターを見て」


白馬に言われた通り、モニターに視線を移す。



そこに、銀の名前が出されていた。


「これ・・・銀!」


慌てて銀を探す。

銀は簡単に見つかった。


落ち着いた様子で砂弥を見ていた。


「銀、これどういうこと!?何で、だって、銀は・・・」


砂弥には納得いかなかった。


銀は過去に100点クリアしたはずなのに、どうしてまたミッションに参加しなくてはいけないのか。


銀は焦る砂弥を宥めた。


「落ち着いて、薄々分かってたわ」


「え?」


砂弥は唖然としている中、銀は話を続ける。



「例え100点を取ったとしても、私は特典で生き返った身だもの」


恐らく、ミッションのクリア特典で生き返った者は、もう一度100点を取らなければならないのだろう。


だが、それは。


「・・・私の、せい?」


「え?」


「私のせいで、銀はまたミッションを・・・」


それは、砂弥が銀を戦いに巻き込んだことを意味する。



「馬鹿言わないの」


しかし、銀は砂弥を責めなかった。


砂弥は銀の顔を見上げる。


「そりゃあ、私だってミッションなんかしたくないわ。でもね、あのまま死んだきりで」


「貴女と一緒にいられないのが、私は一番嫌」


銀は砂弥を、そっと抱きしめた。


いつもと同じで、暖かな、それでいて、いつも以上に柔らかな温もりが砂弥の体を包み込む。



やがて、部屋にいた生徒達が転送されていく。


「二人とも」


乃璃香が砂弥と銀に話し掛ける。



「・・・必ず、帰ってきてね」


「はい」


「また迷惑かけてあげるから、待ってて頂戴」


砂弥と銀のそれぞれの返事を聞き、乃璃香は力強く頷いた。



そして、二人の体も消えて行き、転送が完了した。





砂弥が目を開けると、辺り一面に緑が広がっていた。


森に比べるとジメジメと湿った植物が目立ち、また、深い霧がこの森全体を覆っているようだった。


「今回は何と戦えばいいんだろう・・・」


思い返せば今までのミッションはお伽話のキャラや妖怪やらで若干統一されていた気がする。


ならば、今回も何かのテーマに沿って出て来るのではないだろうか。


そう思って一歩踏み出した砂弥目掛けて、背後から炎が飛んできた。


砂弥は横にサッと動き、炎をスレスレで回避する。


炎が飛んできた方を見ると、群青色のローブを来た人間が杖を持って立っていた。


ローブを着た人物は杖を砂弥に向け、何かブツブツと呟く。


次の瞬間、魔導師の周りに火の玉が現れ、砂弥目掛けて飛んでいく。


砂弥は魔銃を火の玉に向け、引き金を引く。


銃口から水流が放たれ、火の玉を掻き消して行く。



すると魔導師は、杖を構えた。


杖に魔力が集まり、緑色に輝く。



魔導師は砂弥に向かって駆け出す。


砂弥は銃を銃剣に切り換え、魔導師の杖を受け止める。


魔導師を押し返し、続けて切り掛かる。


すると、魔導師は杖を前に向け、バリアを発生させる。


銃剣はバリアに阻まれ、刃火花をバチバチとあげる。


砂弥は魔導師と距離を取り、数発の弾を撃つ。



すると、あの時銃剣を防げたバリアがいとも簡単に砕けた。


バリアを砕いた銃弾はそのまま魔導師に当たり、バタリと倒れた。


砂弥は念のため、慎重に魔導師に近付くが魔導師はもう死んでいた。


「・・・魔導師は、実弾に弱いのかな?」


砂弥はそう考えた。

威力自体は銃剣の方が高いのに、実弾を防げなかったことからもそう考えるのが自然だろう。



「・・・とりあえず、向こうに行こうかな」


砂弥が向かう先には、何か建物が見えた。


此処でジッとしているよりは、どこかへ動いた方がいいだろう。


砂弥は足を早めて行く。






「これは・・・」


一方、白馬とルーンは砂弥が目指している建物の近くにいた。


二人は揃って建物を見上げた。



その建物は、広大な洋館だった。


白をベースに鮮やかにコーディングされた壁、それが長い時が流れた結果、白い塗装はまだらに剥げ、所々に蔦が伸びている。



「こりゃあ、随分古いわねー」


「・・・」


ルーンは白馬が黙っていることに気付いた。


「なーにだんまりしてんのよ」


「その・・・貴女を生き返らせたのは良いんだけど、迷惑になってないかなって」


ルーンは白馬の言いたいことの察しがついた。


白馬が特典を使ったことにより、ルーンは生き返った。


しかし、銀とは条件が違う。


白馬は150点越えの特典を使ったため、それで生き返ったルーンには、ある条件が課せられた。



それは、100点到達までミッションに強制参加させられるというものだ。


これにより、ルーンは毎回ミッションに参加しなくてはならなくなった。



ルーンは、白馬の頭をこつんと叩いた。


「あのね、毎回ミッションに参加って砂弥もやってるじゃない。そんな深刻なもんじゃないって」


「でも・・・」


「ほら、さっさと行きましょう!」


ルーンは白馬の後ろに回り込むと、強引に白馬を押していく。


「ちょ、ちょっと・・・」


嫌がる白馬を無視して、二人は洋館の中へ入って行った。





二人が洋館へ入って暫くしてから、砂弥も洋館の前に辿り着いた。


周りに誰もいないことを確認すると砂弥は扉に手を当て、ゆっくりと押して行く。


ギイイイイ、と扉の開く音がエントランスに響いた。



明かりは電気ではなく、蝋燭のみで照らしていた。


カーペットの上を歩く度に足音が鳴る。


エントランスの中央に来た所で、前と左右に扉が有るのに気づいた。


何処へ行こうか迷ったが、とりあえず右に行くことにした。



扉を開け、足を進める。


ある程度進むと、扉が勝手に閉まった。



そして、砂弥の前に二人の魔導師が現れた。


今までに見た魔導師は全員群青色のローブを着ていたが、この二人は紫と灰色のローブを纏っている。



砂弥が駆け出すと同時に魔導師達は杖を構え、呪文を詠唱する。


紫の魔導師の杖からは火の玉が、灰色の魔導師からは冷気が放たれる。



砂弥は銃口を魔法に向け、水を撃ち出す。


水は火の玉を消していくが、冷気によって氷結していく。


砂弥は水を止めると前方にダッシュし、氷を蹴り砕く。



冷気が砂弥に迫るが、砂弥は銃で風を放ち、さっき砕いて出来た氷の粒ごと魔導師達へ押し返す。



魔導師達はそれぞれ左右に跳んで回避する。


砂弥は冷気が届く前に右に飛び出し、銃を左手に持ち替える。


砂弥から向かって右に立っていた灰色の魔導師は砂弥の目の前に来ることになってしまい、慌ててバリアを張る。



しかし砂弥は魔導師の魔法が物理攻撃に弱いことを知っていたため、構わず右で殴り掛かる。


バリアはいとも簡単に砕け、砂弥の拳が灰色魔導師の顔面に当たり、飛ばされて壁にぶち当たる。



砂弥は飛ばされた灰色魔導師に誘爆レーザーを撃つ。


一閃のレーザーに当たった次の瞬間、当たった箇所が爆破した。


灰色魔導師の手足は一部グチャグチャになり、その場に倒れ込んだ。



砂弥は何回かトリガーを引き、実弾を撃ち出す。


灰色魔導師は鮮血を散らしながら力尽きる。



砂弥の背後から紫魔導師が暗黒に揺らめく魔法を撃ち出す。


砂弥はバリアを張り、暗黒魔法を防ぐ。


突然、砂弥の手から魔銃が零れ落ちる。



さっきの魔法がぶつかった時の火花に紛れてエネルギー弾を飛ばしてきたらしい。


エネルギー弾は横から曲線を描くように飛び、魔銃をピンポイントに狙い撃ったのだ。


砂弥は急いで銃を拾いに向かう。


紫魔導師はその隙を逃さず、闇魔法を撃とうと魔力を溜める。


それはやがて紫魔導師の周りに現れて魔導師の周囲を暗く輝かせる。


溜まった魔力が、放たれようとした、その時。




闇魔法のエネルギーを突き破り、数発のビームが紫魔導師を貫いた。


「!?」


銃を拾った砂弥は呆気に取られた。


そして、一発の銃弾が紫魔導師の頭を撃ち抜いた。



砂弥は辺りを見渡して、紫魔導師を倒した人物を探す。


すると、2階に誰かがいるのが分かった。



2階の柵の前に立ち、左手に銃を握っていた。


その人物は柵に足を掛けると、砂弥の目の前にふわりと飛び降りた。


空中で銀の長髪がキラキラと輝き、磨き立ての宝石のように煌めきながらフワフワと揺らめく。


そして、静かに、ただ、しっかりと口を開いた。




「砂弥、大丈夫?」



それは、確かに輝合石銀その人だった。






時は遡り、白馬とルーンが館に足を踏み入れた。


二人は肩を並べて歩き、やがてエントランスの中央まで来た。



「・・・ルーン、何処へ行く?」


白馬はルーンに尋ねた。


中央に行くか、左右のどちらに行くか。


一人では決められそうになかった。



「真ん中でいいでしょ」


ルーンがそう言うと、二人はまた足並みを揃えて歩き出した。


そして、目の前に来た扉をゆっくりと押し開けた。



扉を開け、部屋に足を踏み入れた瞬間。




ふと、体が宙に浮く感じがした。


気付いた時には、二人は何かに引っ張られるように上へ上昇し、何かの中に入る感触がした。



白馬は自分の置かれた状況を確認する。


どうやら自分は何かに閉じ込められたようで、多くの生徒が同じく詰め込まれていた。


自分は黄色いクリスタルのような物の中におり、多くの生徒がドンドンと壁を叩いた。



この牢は見た目より頑丈らしく、脱出は不可能らしかった。



白馬は壁をペタペタと触っていたが、やがて部屋に誰かがいるのに気が付いた。


その人物は真っ白に染まったボサボサの髪を青紫の長いトンガリ帽子で隠し、自身も今までの魔導師とは違う豪華に装飾されたローブを纏っていた。


顔も皺と染みだらけで、大きなイボをくっつけた鼻を揺らし、ニタア、と笑った。



年季の入った外見通りの老婆はニタニタと笑いながら生徒達を閉じ込めた黄色いクリスタルのような物・・・イエロープリズンを眺めた。


「ようこそ、あたしの罠へ」


老婆のしゃがれた呪いの声が、部屋中に響き渡った。




魔術の時は、終わらない・・・・・

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