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S.shooter  作者: バームクーヘン
夢幻の終焉
20/29

life19.魔導師編-PanicStage

あのミッションから一週間の時が経った。


銀とルーンは無事生き返り、久しぶりに平穏な学園生活が戻ってきた。


砂弥は、昼食の時間までまだ余裕があるので、銀に会おうとしていた。


銀の部屋の前に立ち、ドアノブに手をかける。


中からは話し声が聞こえる。

銀と乃璃香の声だ。



「何話してるんだろう」


ノブを回し、扉を開けて部屋を覗く。


そこには、椅子に座った銀とその前に立っている乃璃香がいた。




「はい、アホの銀に問題です。本能寺の変は西暦何年に起こったでしょう」


「フッ。私を馬鹿にするのは止めてちょうだい」


銀は前髪をサッと撫でる。


「じゃあ貴女、分かるのね?」


乃璃香が期待なさ気に聞く。


すると、銀は自信たっぷりに答えた。



「794うぐいす本能寺。ぐらい私だって覚えてるわ!」


「ほぉ、貴女の頭の中では平安京が出来た頃に本能寺の変が起きたと」


「平安京?誰それ」


乃璃香は深く溜め息をついた。


その時、二人はクスクス笑いに気付き、ドアを見る。



「ちょ・・・ふふっ・・」


砂弥が笑いを堪えながら部屋に入って来た。


「知らなかった・・・銀って、本当に馬鹿だったんだ!」


とうとう堪え切れずに砂弥は吹き出して大笑いし始めた。


「な、何よぉ・・・」


「だって、ぎ、銀って、どっかのお嬢様なんでしょ?」


「ええ、世界規模の企業には必ず関係していると言われる財団の長女様よ」


乃璃香が解説をする。

砂弥はそれを聞いて更に笑い出す。


「ふ、普通そういう人って、頭いいはずなのに!」



「そうやって人を身分だけで判断するのは感心しないわね」


「あ、アホの銀でも身分って言葉知ってたんだ」


「(′m`)」


その時、乃璃香が口を挟んだ。


「じゃあ、砂弥ちゃんの頭脳を見せて貰いましょうか」



「・・・・・・・え?」


砂弥は腹を抱えて笑っていたが、乃璃香の言葉を聞いて硬直する。



「じゃあ早速問題よ。まず・・・」





10分後



「はい、アホの銀と砂弥ちゃんに問題です。植物が日光を浴びることで二酸化炭素を吸収し酸素を出す事を何と言うでしょう」


乃璃香の問いに砂弥と銀は、


「光呼吸」


「逆呼吸」


と答えた。



乃璃香は呆れたように机に肘を付いた。


「驚いた、貴女達二人揃って馬鹿なのね」


砂弥は拗ねた様子で言い返す。


「だって私文系だったもん」


「あ、私も私も」


銀も砂弥に便乗する。


「さっき漢字間違えてたじゃない。それに銀、貴女は家庭教師に習ってたから文系とか関係無いでしょ」



乃璃香に言われると何も言い返せなくなり、二人とも悔しそうに呻く。


その時扉がノックされる。



「失礼します」


扉を開けて入って来たのは、清原式之だった。


砂弥は誰だったっけ、と思っていたが、暫くすると思い出した。


そうだ、銀が襲われた時に居場所を教えてくれた人だ。



式之は手に持っていた冊子を乃璃香に手渡す。


「はい、合同学芸会の劇の台本です」


「ああ、完成したの。ご苦労様」


乃璃香は礼を言ってその冊子を受け取る。


学芸会?と私が首を傾げると、銀が教えてくれた。


ここでは年に一度、四校が集まってステージの上で発表会を行うらしい。



「でも、あんなことがあったから、今年は無いと思ってたわ」


乃璃香は意外そうだった。


前々回のミッションで銀が殺されたことだろう。


あれ以来、黒楼学園とガリオン校、サバイブスクールと聖ゼウス学園の二つに別れたままだった。


どちらもいがみ合ったままで改善の兆しは見えないままだった。


「ええ、私もそうは思ってたんですけど、でも、例年通りに行うそうです」


式之は戸惑いがちに告げた。



「理事長の意思で、四校合同のまま行うって・・・」


式之の話を聞いたあと、砂弥はチラリと銀を見た。


銀はウトウト寝ていた。

砂弥は銀の頭にチョップをお見舞いする。


「いたっ!」


「何で銀が寝てるのよ!当事者でしょ!!」


銀が死んだことで学園が分断され、ややこしくなっているというのに、どうしてここまで気楽でいられるのか。


砂弥は頭を抱えていたが、やがて呆れたように溜め息をついた。


気にしていたらキリが無い、とでもいいたげだった。



式之もそろそろ帰ろうと思ったのか、軽く一礼した。


「あの、では私はこれで」


「ああ、劇、頑張ってね」


乃璃香は式之に激励の言葉を送った。


砂弥も、ガリオン校がどんな劇をするのか興味が沸いた。


激励を受けた式之はにこにこと笑顔で返した。


「はい。私達も頑張りますので、演技の方は任せました!」



「「「・・・・・え?」」」


三人は一度完全にハモり、お互いの顔を見合わせた。


そして、もう一度・・・




「・・・・・・え?」






「もしかして・・・ご存知なかったんですか?」


式之は驚いた様子だった。


「今回の学芸会はガリオン校が裏方、黒楼学園が舞台を担当することになってたんですよ?」


「・・・ああ、思い出した。確かにそうだったわね」


「乃璃香、そういう大事なことはもっと早く思い出して頂戴」


「貴女のことでゴタゴタしてたんでしょうが」


乃璃香が睨みつけると、銀は顔を背けて口笛を吹いた。


ごまかしているつもりなのだろうか。



後に、生徒達で話し合い、劇の配役を決めることになった。


結果、主役の王子を砂弥、ヒロインの姫を銀がすることになった。


「何で私が王子役なのよ」


砂弥が愚痴をこぼす。

男役というのが気に入らないのだ。


「仕方ないじゃない。貴女、もうすっかり学園のヒーローなんだから」


銀の発言に砂弥はうなだれる。



砂弥にもその心当たりはあった。


桃太郎と全校生徒の前で戦ったり、銀を生き返らせたりと、常に話題を振り撒いていた気がする。



砂弥はてくてくと銀に歩み寄り、目前で止まる。


「・・・どうしたの?」


銀には答えず、ただそっと銀の頬に手を伸ばす。


指が頬に触れると、今度はぺたぺたと手の平で触れる。


「もう、本当にどうしたのよ」


銀と目線が合う。

砂弥はぺたぺたと触るのを止め、今度は優しく摩る。


「いや、銀が此処にいるんだなあって」


「?」


銀はよく分からずに呆然とする。


砂弥は手を止めて口を開く。



「・・・暫く銀がいなくて、凄く淋しかったんだよ」


銀はハッとして砂弥を見る。


俯いていて顔は見えないが、砂弥がどんな表情をしているか、銀には察しがついた。



そっと砂弥を抱きしめる。


砂弥の腰に手を回し、赤い髪を掬い上げ顔を埋める。


柔らかい香りが銀を包み込む。


「ごめんなさい」


「・・・・・」


「ごめんなさい」


「・・・馬鹿」


砂弥は顔を銀の胸に埋め、すりすりと甘えるように摩る。



「でもね、貴女に私のためだけに生きてほしくないのは本当よ」


砂弥は銀から離れ、距離をとる。


銀は続けて口を開く。


「ほら、私達ってもう死んじゃってるでしょ。折角生き返ったのに、自由に生きないなんて砂弥にとってももったいな・・」


パチッ


銀が話している途中で頭に軽い痛みが走る。


銀は驚いて目をパチパチさせる。


どうやら砂弥が銀にデコピンしたようだ。



「あんまり無理しない方がいいよ」


「無理なんて・・・!」


銀は砂弥に反抗しようとするが、砂弥に止められる。


「私のためを思って言ってるのは分かってるよ。でも、私がつれなくなったら銀、泣いちゃうでしょ?」


「そんな砂弥みたいなことしないわ」


「なんだとう!」


砂弥はポカポカと銀を叩き、銀も思わずクスクス笑ってしまう。


暫くすると砂弥は手を止め、銀に寄り添う。



「・・・私のね、自由になったらしたいことがさ、これ」


「砂弥・・・」


「私はずっと、貴女といたい。どんなつらいことがあっても、きっと私はこの道を選び続ける」


銀は黙って聞いていたが、やがて目元をゴシゴシ拭き出した。


砂弥は、黙ってそれを拭いてあげた。





「あー疲れた」


銀はベッドに倒れ込んだ。


あれから劇の練習を再開し、夜遅くまで続けていた。

疲労が一杯に溜まり、クタクタになってしまった。



「はい、お疲れ様」


乃璃香が手に持っていたものを放り投げる。


それはペットボトルで、中身はミネラルウォーターだった。


ベッドに落ちたボトルを拾い、キャップを開けるとゴクゴクと水を飲む。


水が喉を通り過ぎる事に爽快感が体中を駆け巡る。


今までの疲れが吹き飛んでいく。



「じゃあ、私は帰るわね」


乃璃香は銀に背を向け、扉に向かって去っていく。


「乃璃香」




不意に銀が乃璃香を呼び止めた。


「どうしたの?」


「・・・ごめんなさい」


乃璃香は不思議そうに銀を見た。


「どうしちゃったのよ。急に謝ったりして」



「・・・砂弥のこと」


「ああ、砂弥ちゃんの?あれだったら別に私がどうにかした訳じゃないわよ。あの子は自分で立ち直ったし。

大体それだったら謝るよりお礼を・・・」


「そうじゃなくて」



乃璃香の話は銀によって遮られる。


「じゃあ・・・一体なんなの?」


乃璃香は銀に尋ねた。

銀の意図が全く分からなかった。


「・・・・・貴女」


「砂弥の事好きだったでしょう」


銀の言葉に乃璃香はビクッとした。


まるでバレる訳がないと思っていたことが見透かされていたかのようだった。


乃璃香は視線を落とし、銀に尋ねた。



「・・・いつ気付いたの?」


「桃太郎が来た時あたりに」


乃璃香はフッと苦笑した。


「何よ、随分と早く気付いていたのね。もう、それなら早く言ってよね」


「言うタイミングがなかったのよ」


乃璃香は帰るのを止め、銀に近寄る。



「本当に、貴女って鋭いのか鈍いのか分からないわね」


「悪かったわね」


銀はクスクス笑う乃璃香に嫌そうな顔を向ける。



「でもおかしいわね。そんなそぶり見せなかった筈なんだけど」


「そんなのなくてもわかるわよ」


銀はやれやれ、といった感じで溜息をついた。



「私が初めて砂弥を見た時も、妙に楽しそうだったもの」






ある日のこと、銀と乃璃香は並んで廊下を歩いていた。


「乃璃香、何か面白い事やって」


「無茶言わないで」


乃璃香は銀の要求を軽く受け流した。


銀とも長い付き合いだがこの我が儘だけはどうにもなりそうになかった。



「じゃあせめて可愛い娘紹介してよ」


「何でわざわざいたいけな女の子を貴女の毒牙に掛けなくちゃいけないのよ」


「何よ人を変態みたいに扱って」


「貴女が変態じゃなければ一体誰が・・・」


そこまで言いかけた所で乃璃香は足を止めた。


「銀、あの娘はどう?」


「あの娘?」


銀は乃璃香の指差した方向を見た。





「・・・・・」


そこには砂弥が立っていた。


砂弥は、ただ呆然と空を見詰めていた。


ただ空に目が向いているだけで、空を見ているというわけでも無かった。



「ほら、あの娘、確か最近来たばかりでここに慣れてないはずよ。手取り足取り教えてあげたらいいシチュエーションになるんじゃ・・・」


そこで乃璃香は隣の銀が話を聞いていないことに気が付いた。


ただ頬をほんのり赤く染めて、ただただ紅の少女を、赤梨砂弥を見詰めていた。


「・・・ちょっと、銀?」


「・・・・・」


ふらふらと歩き始めたかと思うと、そのまま窓に足を掛けた。


「ちょ、銀!?」


乃璃香の制止も聞かず、銀は窓から飛び出して全速力で走り出した。


そしてあろうことか砂弥に飛び掛かった。


砂弥は急なことに対応仕切れず、なすがままに倒れ込んだ。





「どう考えても貴女の方が気持ち悪い位楽しそうだったわよ」


「あれ?おっかしいなあ・・・」


銀はバツが悪そうに視線をそらす。



「大体私は貴女と違ってそんな露骨に表情に出さないわよ」


乃璃香は呆れて頭を抱えた。


今更ながらどうしてこんな馬鹿と今までいたのか分からない。



「コホン。まぁともかく、学芸会、頑張りましょう」


「どういう流れでその話が出て来たのよ。全然関係ないじゃない」


「まあまあ、そう言わずに」


銀は乃璃香の肩を掴み、クルッと回転させるとそのまま乃璃香を押し始めた。


乃璃香は諦めた様子でそのまま部屋を出た。



何だか無駄に疲れた夜だった。





そして数日後、学芸会がいよいよ開催された。


会場は聖ゼウス学院のコンサートホール。


四校の全生徒が席についても、まだ空きがあるほどだった。


砂弥達は後ろの方に座っていた。


砂弥は隣に座っている銀に話し掛けた。



「銀、最初は何だっけ?」


「まずは、理事長の挨拶のはずよ」


「理事長?」


理事長の顔など一度もみたこと無かった。


「どんな人なの?」


「知らないわ。今まで一度も人前に出たことないんだもの」



そういえばそんな話を以前聞いた気がする。


その時、突然会場の明かりが消えた。


薄暗い中、生徒がざわざわし始める。



すると、幕がゆっくりと上がり始めた。


舞台の照明が付き、ステージに立っている一人の男を照らす。



男は40か50はありそうな容姿をしていた。


黒い髪には所々に白髪が混ざっており、静ながらどこか人を圧迫する気を放っていた。


生徒達がざわめき出す。

皆初めて見た理事長に動揺していた。



周りが好機心で浮かれている中、砂弥は口の中に溜まった唾を飲み込んだ。


文化祭でフランシアに会った時に感じたプレッシャー。

それと同じものだ。


やがて理事長はマイクを握り、話し始めた。



「初めまして、皆さん。私が理事長です」


低い声だった。

まるで地獄の底から重く響いてきたかのような声は長い時を生きてきた証を示しているようだ。



「最近、四校の間で確執が起きているようですが・・・」


「我々は運命共同体ともいえる間柄です。不条理な死に襲われ、何故かこの世界に集められました。ならば、多少のことでいがみ合うのは果たして良いのでしょうか?」


「多少・・・!?」


砂弥は怒りのあまり飛び出そうとしたが、銀に押さえられた。


「やめなさい、砂弥」


周囲に気付かれないように小声で制する。


「だって」


「私は平気よ。それに理事長に危害を加えたらどうなるか分からない」


砂弥はグッと堪え、席に着いた。


それでも銀が殺されたことを多少のこと扱いされて我慢など出来そうになかった。


銀は砂弥の背中を摩ってあげた。


砂弥も少しだけ楽になった。



「我々は新しい命で生きる権利を与えられたのです。ならば、幸せに生きようとするのは当然の権利ではないでしょうか」


「皆さん、生きましょう!そして、安らかな日々のために戦い抜くのです!!」


会場は静まり帰っていたが、やがて喝采が始まった。


多くの者は拍手や歓声をあげ、理事長を讃えた。



「しかし今日は学芸会です。互いの練習の成果を発表し、一生の思い出としましょう」


そう言うと、理事長は舞台裏へと去って行った。



そして、いよいよ学芸会が開始された。


先に発表するのは聖ゼウス学院の歌だった。


会場全体に響き渡る歌声は統率された完成度で、聴いている全ての人々を魅了した。



やがて歌が終わり、聖ゼウス学院の生徒達は舞台裏へ去って行く。


次は砂弥達の番だ。


皆と一緒に舞台に向かう。



「砂弥、アンタ衣装は?」


「え?・・・あ!席に置いて来た!!」


ルーンに指摘されて気が付いた。


衣装をさっき座っていた席に置いてきてしまった。


「ゴメン!急いで取って来る!」


砂弥は急いで衣装を取りに戻った。





砂弥は廊下を走っている途中で、誰かが壁にもたれ掛かっていることに気付いた。


それは砂弥と同い年位の少女で、長い銀髪をツインテールでまとめ、暗い廊下の中では不気味に輝いていた。


砂弥はこの少女に見覚えがあった。


銀を殺した張本人、フランシア=スケルアルが立っていた。



砂弥の胸に緊張が走る。

冷や汗が流れていくのが分かる。


その時、フランシアが口を開いた。




「・・・・・嵐が来る」


「・・・え?」


砂弥は思わず聞き返した。


フランシアの声は重く響いて来る。

落ち着いた女性の声に近かった。


「あと少しで、嵐が来る。多くの花が、吹き飛ばされる」


フランシアはフッと笑うと、どこかへと立ち去ってしまった。



砂弥にはフランシアの言葉の意味が分からなかった。


嵐、とはどういう意味だろう。


「・・・とりあえず、急がないと」


ともかく、今は衣装を取りに行くのが先だろう。


砂弥は再び駆け出した。






砂弥達の劇は滞り無く進んでいた。


始めは棒読みだった役者達も、すでに慣れたものだった。


順調に劇は進み、いよいよクライマックスが近付いて来た。


離れ離れになっていた王子と姫が再会するというシーンだ。



「ああ、王子。こんな所まで追い掛けて来てくれたのね!!」


「ああ、我が愛しの姫よ。やっと見つけました!!」


サバイブスクールと聖ゼウス学院の生徒達は劇に見入っていた。


「姫、今貴女の元へ向かいます!」


砂弥は銀に駆け寄った。

後は王子と姫が抱き合ってフィナーレだ。


そう思って気を抜いてしまったのか


「!?」


元々慣れないハイヒールで歩きにくいことも合わさって、躓いてしまった。


銀も慌てて支えようとする。



「あ」


裏で照明を操作していた田美が思わず声を漏らす。


「はぁ・・・」


裂空も呆れて溜め息を吐く。


「・・・」


出番を終えて待機していた乃璃香も苦笑いをしてしまう。



「・・・・・」


鑑賞していた生徒達は呆然とステージを見つめていた。




目線の先には王子と姫。

砂弥と銀がいた。


二人も今自分達に起こっている事態を把握出来ずにいた。


砂弥は躓いてしまって。

銀はそれを支えようとして。


どうしてこうなったのか。


二人とも自分の唇に柔らかい感触を感じていた。



いや、確かにもう何回もしたことだし、互いのことは大好きだけども。


ただ、こんな人前でしたことなんて無くて。


どうすれば良いのか分からず、二人は混乱したまま硬直していた。




その時、呆然としていた白馬が我に戻り、司会進行を進めた。


「そ、それでは以上で黒楼学園とガリオン校の共同劇を終わります!ありがとうございました!!」


「幕!幕降ろして早く!!」


ルーンが小声で舞台裏に呼び掛ける。



式乃は慌てて幕を降ろし始めた。




乃璃香はこれからの事を考え、顔を抑えた。


またややこしいことになるんだろうなあ、と予測する。


呆れた気持ちと怒りたい気持ち、あと色々と、考えている内にゴチャゴチャになってきた。


同時に、この状況を楽しんでいる自分に気が付いた。


どうも自分はあの二人のお守りをしないといけないらしい。


それが、今の自分の生き方なのかと思うと、なんだか妙に生き生きしてくるような気がした。



多分、気のせいだろう。


乃璃香は二人を迎えに、ゆっくり歩み始めた。


幕に隠れて薄暗い舞台の中、乃璃香の前には光が溢れていた。


砂弥と銀という、掛け替えのない光が。




「ほら、いつまでくっついてるの」

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