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S.shooter  作者: バームクーヘン
虚空の楽園
2/29

Life1.魔物編-始まりの音

大変遅くなりました。

いよいよ本編開始です。


私はそっと地面に座り込んだ。

そしてそのままねっころがり、空を見つめる。


あの事故から四日(多分)、私はまだ此処にいた。


体を起こし、前方を見渡す。海はどこまでも広がり、終わりは見えない。本当に無限に広がっているのだろうか。

後ろを見ると、大きな校舎がそびえ立っている。


私が校舎を見ていると、人が近づいているのが見えた。



セミロングの青みが掛かった白髪は歩く度に微かに揺れ、私が今着ているのと同じ制服は微妙に似合っていない。


胸の赤いリボンは滅多に揺れず、全体的に真っ黒な配色のこの制服には、スカートに申し訳なさ程度にフリルがついている。



「赤梨さん。探したわよ」


目の前の同い年の女の子、四条白馬しじょう はくまは私にそう言った。


「何かあるの?」

「ええ、もう昼食だから、ご一緒にって思って」


ぶらぶらしている間に昼になっていたらしい。

せっかくの誘いだから、反対するのはやめておこう。


「じゃあ、食堂に行こうか」


私の返事を聞くと同時に白馬は後ろを向き校舎に向かって歩き始めた。

私は後を追うように付いて行った。





食堂の中には既に数十人の人がいた。

時計を見ると午後一時半位だった。多分大抵の人は昼食を済ませたのだろう。混んでいる様しか見たことがないのでいつもとは変わって見えた。テーブルも椅子も輝く様な純白で、体育館ほどありそうな広さの部屋は今は綺麗に整って見える。


「ルーン。探したわよ」


白馬がある場所に向かって手を振る。

すると、そこにいた少女がこちらに振り向く。

橙色の髪は後ろで二つに括られ、ツインテールと呼ぶには短いそれは頭の動きとは微妙にズレて揺れる。


「白馬、随分遅かったわね・・・ああ、赤梨さんを連れてきてたのね」


私を見て、事情を察したのか、直ぐに不機嫌な顔を直す。


「こんにちは。えっと・・・ルーンワークさん」


「ルーンで良いわよ。皆そう呼んでるし」


ルーンは顔を穏やかにして私に話し掛ける。



「そうね。私の事も名前で呼んで良いのよ?いつまでも名字じゃ堅苦しいだろうし」


白馬は悲しげに言う。

今まで気にもしなかったが、どうやら不安にしていたようだ。


「・・・分かった。今度からは名前で呼ぶよ」


私がそう言うと、二人は安心したのか、ホッとした。私も少し微笑んでいた。しばらく忘れていたがどうやら私も自然に笑えたらしい。


その時、背後から誰かが近付いて来ているのが分かった。


「あら、砂弥は後ろから見ても可愛いわね」


私は声の主に後ろから抱きしめられる。

手は私の顔に来ており、人差し指が私の唇に触れる。

私の赤い髪を頬でスリスリし、その度にその美しい銀色の長髪が私の背中に当たる。私、赤梨砂弥あかり さざみはどうもこの人、輝合石銀こうごうせき ぎんに気に入られているようで、会う度に今みたいに無駄に密着される。


「私、こういうの嫌いなんで」


こういう時はさっさと振り切るしかない。そう思って輝合石さんを振りほどく。


「あら、年上に向かってタメ口なんて感心しないわね。でも、照れてる所も可愛いわよ」


ただ、あまり効果は無かった様で輝合石さんは構わず私に密着する。

やっぱりこの人には意味無いらしい。本当にどうにかならないものか・・・

そうこうとしている間に輝合石さんに引っ張られ、無理矢理何処かに連れていかれる。


「ちょ、ちょっと・・・」

「お願い。今は素直に付いて来て」


さっきまでとは打って変わり、氷の様に冷たい声で短く言い放つ。

そのさっきまでとはまるで違う迫力に押されて黙って付いて行ってしまった。





暫く走った後、輝合石さんは急に立ち止まった。

そこには何処かの部屋のドアがあったが、少なくとも私は知らない部屋だった。


「さあ、入ってちょうだい」


やっぱり部屋に連れ込まれるようだ。私としては絶賛お断りしたいのだが。

その時、私の背中から人の声がした。


「銀、何してるのよ」


私と輝合石さんが振り向くと、後ろに人が立っていた。


山吹乃璃香やまぶき のりかさん。輝合石さんと同い年で、その使用人的な人だ。もっとも輝合石さんが勝手にこき使っているだけだという噂がもっぱらの説だけど。


「あら、まるで私が怪しい事してるみたいじゃない」


「失礼。ただ、私には貴女の日頃の態度のせいか赤梨さんを部屋に連れ込もうとしている様にしか見えないのだけれど」


もっと言ってやって貰いたい。この人はそろそろ自重するべきだろう。


「まぁ、冗談はこの辺にしておいて、一体何をするつもりだったの?」


「酷いわねぇ。砂弥に渡したい物があるのよ」


そう言うと、輝合石さんは、黒い銃を私に手渡す。

銃を握ると、何だか、私にピッタリ合うような感触がした。


「コレ、どうするの?」


私は思わず輝合石さんに尋ねた。


「それは魔銃って武器よ。私の物なんだけど、私は二つ持っているから一つあげるわ」


「普通の銃と何が違うの?」


「普通の銃は実弾しか撃てないけど、コレは実弾と魔法を使い分ける事が出来るの」


輝合石さんは話し終えると、自分の持っていた銃を取り出し、壁に銃口を向ける。

その先には練習用の物らしき的が貼られていた。

そして、輝合石さんが引き金を引くと銃口の先に魔法陣が出現し、そこから雷が発射されて的に直撃する。

的は黒焦げになっており、ほとんどが焼け焦げたようだ。


「出力を抑えてたからこの程度だけど実際はもっと強力なのが撃てるわよ」


輝合石さんはそう言いながら銃を腰のホルダーに戻した。

私は彼女を見ずに銃に視線を落としながら質問した。


「・・・どうして、私に」


「フフ、貴女に死んで欲しくないからよ」


彼女は私の頬を両手で包み込む。そして、互いの額を合わせ、私を片手で抱き寄せる。


「砂弥・・・」


顔を私の耳までずらし、そっと、優しく呟く。


「・・・だから止めてよ」


私は頭を右にずらし、その後思いっきり左に頭を振り、輝合石さんの顔面に頭をたたき付ける。


ゴッ。という鈍い音がして、頭が若干ヒリヒリしつつも私は部屋を出た。








「痛い。凄く痛い」


私は鼻を抑えながら乃璃香に訴える。

乃璃香は当たり前とでも言いたげな顔で、ため息を付く。


「自業自得よ」


何が自業自得なのか。私はただ砂弥を愛でてただけというのに。


「・・・今日で四日。最長記録じゃない」


いつになく神妙な顔をして乃璃香は私に聞いてくる。

そういえば私は誰かに惚れて三日以上持ったためしがない。

ただ、そんなことはどうでもいい。


「だから言ってるでしょう。本気だって」


私の視線は空を見つめる。

あの子は三日後、生き残れるかしら。

私はこの時、初めて不安になったのかもしれない。









あれから三日。


私を含む多くの人が此処にいた。

広さは小学校の運動場程ありそうだ。


皆は緊張しているのか、妙にそわそわしている。私はよく分かってないから、別に緊張してもいない。

そもそもこれから始まる事にイマイチ実感が湧かない。


「赤梨さん。大丈夫?」


白馬が私に聞いてくる。


「うん。でもよくわかんないよ。これからの事」


「・・・最初は誰でもそうなのよ。それで、皆命を・・・」


白馬の顔が暗く沈む。もう誰かを亡くしたのだろうか。



私達はこれから抽選され、選ばれた人は何処かに飛ばされて狩りをするらしい。

敵にはそれぞれ点数が決められていて、強さに応じて点数も高くなる。

そして、百点を取ると、生き返って元の世界に戻れるらしい。


でも私はあまり信じられなかった。それはあまりにも非現実的で。

もちろん、死んだのにこんな所にいる時点ですでに非現実的だけれど。



その時、





キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン



小学校でよく聞くチャイムが鳴り響いた。それと同時に中央に大きなモニターが出現し、壁にそれと同じで、中央の物よりも小型のモニターがびっしり現れる。


「赤梨さん、モニターに自分の名前が表示されているか確認して」


白馬がそう言うので、私はモニターを見つめる。

私の名前はあ行だからかなり最初にあるはずだ。モニターの左上を見ると・・・



・・・・・・

赤梨砂弥

・・・・・・

・・・・・・




あった。



白馬の後ろからルーンが来る。


「赤梨さん。絶対に生き残りましょう」


「転送されたら直ぐに探しに行くからね」


ルーンと白馬がそれぞれ激励の言葉を私に言う。

自分達も選ばれているのに・・・


私は嬉しいような、微妙な気分になった。

友達ができるというのはこういう事なのかもしれない。



それから5分後、周りにいる人達が次々とデータになるかの如く透けて消えていく。

そして私も、体が透けていくのが分かった。




これから一体どうなるのだろう。

何も分からないまま、私は目を閉じた。

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