life18.アメリカン編-みんな、グッモーニン
「ルーーーーーーーーーーーーーーン!」
「ああああああああああああああ!!!!」
部屋に、嘆きと銃声が響く。
私は魔銃を銃剣に切り替え、ヴァンパイアに振り下ろす。
ヴァンパイアは微動たにしない。
頭に目掛けて刃が振り下ろされる。
しかし、頭に刃が触れた瞬間、私の体が弾き返された。
そして、ヴァンパイアが私に飛び掛かって来る。
私が床に落ちるタイミングに合わせて来ている。
咄嗟にブースターを起動し、床に倒れる寸前で飛び上がる。
私が飛び上がるのを見たヴァンパイアはバックステップで下がり、私の動きを見る。
私は空中を飛び回り、ヴァンパイアに狙いを定めて、銃の引き金を引く。
銃口からビームが放たれる。
ビームは真っ直ぐヴァンパイアに向かって行く。
またもヴァンパイアは避けようとせず、しかも防御すらしようとしない。
ヴァンパイアにビームが命中する。
しかし、ビームはヴァンパイアに触れた瞬間に砂弥に向かって跳ね返る。
「くっ!」
ビームを避け、再びヴァンパイアの周りを滑空する。
(やっぱり、アイツは相手の攻撃を跳ね返すことができるんだ)
砂弥はヴァンパイアの撃ち出す牙を避けながら考える。
考えは当たっているだろうが、対処法が分からない。
仕方なく、砂弥はヴァンパイアに接近し、銃剣を二本同時に振り下ろす。
すると、ヴァンパイアはそれを両手で受け止める。
「ガードした!?」
砂弥が驚くや否や、
「フンッ!」
ヴァンパイアはガードした両腕を力強く振り、砂弥を吹っ飛ばす。
砂弥はブースターの出力を上げ、壁に当たらない様に減速する。
(初めて攻撃をガードした・・・つまり、あの攻撃だけは反射出来ないってことだ)
砂弥はそう判断する。
(多分、同時攻撃だけは反射出来ないんだろうけど・・・)
同時攻撃をしたとしても威力の低い攻撃は防がれてしまう。
だが、威力の高い攻撃は当たりにくい。
ヴァンパイアは口から牙を撃ち出す。
(どうしたもんかな)
砂弥はそれを撃ち落とす。
次の瞬間、轟音と共に扉が爆破され、もくもくと立ちのぼる煙の中から二人の人影が飛び出して来る。
山吹親子だった。
「乃璃香さん!?」
砂弥は驚いたが、ヴァンパイアの殺気を感じ、横に飛び出した。
ヴァンパイアの腕が、砂弥に避けられたことにより、そのまま床に直撃して床を粉砕する。
そして、その攻撃により発生したヒビは部屋全体に広がり、床はあっという間に崩れ落ちる。
砂弥は急いで白馬の元へ向かう。
白馬はまだルーンの亡きがらを抱えていた。
二人が床に衝突しないように、両腕に二人を抱えてブースターで減速する。
二人を床に降ろし、辺りを見渡す。
目の前にヴァンパイアが現れ、私達目掛けて拳を振り下ろす。
私は咄嗟に二つの魔銃でバリアを張り、ヴァンパイアの拳を受け止める。
バチバチと音を立ててバリアにヒビが張り巡らされる。
そして、バリアはついにガラスの様に崩れ去った。
目の前に人がいる。
その人がヴァンパイアの拳を受け止めていた。
「赤梨、大丈夫か・・・グッ!」
緒存君が剣で拳を受け止め、田美が緒存君の背中を支えていた。
しかし、ヴァンパイアの力が強いのか、次第に押され始める。
その時、乃璃香さん達が杖から伸びたチェーンで降りてきたのが視界に映る。
「皆!こいつには同時攻撃しか効かない!」
緒存君に目配せすると、彼はサッと頷き、剣を滑らせる様にしてヴァンパイアの拳を受け流す。
私は田美を引っ張ってヴァンパイアの拳が当たらないようにし、二人でヴァンパイアに切り掛かる。
ヴァンパイアは両腕でナイフと銃剣をガードする。
私と田美は反対方向に駆け出し、私は銃口の先に風を集める。
それは緑色のオーラとなる。
緑色のオーラに金属が命中する。
乃璃香さんの鎖付きブーメランである。
魔銃の風がブーメランに纏わり付き、スピードとパワーを格段に上げ、ヴァンパイアを縛り付ける。
「ムゥッ!?」
ヴァンパイアは鎖から逃れようと腕に力をいれるが、鎖はびくともしない。
「今だ!」
私は緒存君に合図を送る。
「おっさん!」
「うん!」
緒存君が剣を振り、山吹先生がバズーカを発射する。
緒存君の衝撃波がバズーカの弾丸の先端に付き、ヴァンパイアに命中するとバズーカの弾と一緒に爆発する。
「グアアアアアアアア!!!」
ヴァンパイアは断末魔の悲鳴を上げ、その姿が煙に包まれる。
煙と共に弾薬の匂いが周囲に広がる。
本当に倒せたのだろうか。
確認しようとレーダーを取り出した瞬間、
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ヴァンパイアが私目掛けて突っ込んで来る。
即座にブースターの羽先をヴァンパイアに向け、四つ同時にビームを放つ。
四つの内二つはヴァンパイアの体に命中し、左腕と下半身は弾け飛ぶ。
しかし、ヴァンパイアはそんな傷には目もくれず、血だらけの体で飛び続ける。
そして、私にある程度近づくと、口から牙を連射した。
ブースターで飛んで避けるが、三つの羽に牙が当たり、羽先が爆破する。
「キィィィィィィィィィィィィィィィ!」
ヴァンパイアは残った最後の羽も握り潰す。
「くっ・・・」
羽を全て失い、ブースターの出力も格段に落ちる。
しかし、ヴァンパイアは尚、私に向かって来る。
私に襲い掛かろうと、右腕に力を溜めて私に腕を突き出す。
「チッ!!」
私は舌打ちすると、ヴァンパイアに背を向ける。
そして、背中に装着しているブースターを取り外す。
ヴァンパイアの腕は急に止まらず、ブースターに突き刺さる。
次の瞬間、ブースターは爆発し、ヴァンパイアはバランスを崩す。
私は爆風に少し押されたがその場に立ち留まり、すぐに振り返る。
そして、銃口をヴァンパイアに向ける。
その隣に、杖が並ぶ。
私の隣に白馬が立っていた。
その顔にはまだ涙の跡が残っていたが、瞳は真っ直ぐと敵を捉えていた。
二人で同時に火炎放射を放つ。
炎はヴァンパイアの体をあっという間に飲み込み、跡形も無く焼き尽くしてゆく。
「ぐおおおおおおおぉぉぉぉぉ・・・・」
今度こそ、ヴァンパイアは消え去った。
ヴァンパイアを完全に倒したのを確認すると、白馬はその場に崩れ落ちた。
「ルーン・・・」
すぐに消えてしまいそうな声だった。
私はその肩にそっと手を置く。
「大丈夫。今回なら・・・多分、白馬も150点以上なら、取れてるはずだよ」
確証は無かった。
翼竜が一匹何点かも分からないし、白馬が何体倒したのか、私は具体的には知らない。
それでも、諦めたくはなかった。
ルーンとこのまま死に別れるのは絶対に嫌だった。
「・・・ごめんなさい。早くボスを倒しに行きましょう」
白馬は立ち上がり、私達に向かい直る。
私達は頷き、レーダーを見る。
しかし・・・
「何処にも、ボスがいない・・・?」
レーダーには私達以外何も表示されていなかった。
全員が自分のレーダーを覗き込むが、誰のレーダーにもボスは写っていなかった。
その時だった。
城内の何処か、明かりの無い暗い部屋。
そこに、何かがいた。一切音を経てずにいた体がビクッと動き、繋がれていた鎖がジャラジャラと音を立てる。
闇の中、何かが目覚めた。
建物全体がドン、ドンと振動する。
砂弥達は思わずその場に倒れる。
「何、今の・・・」
皆驚いていたが、その時、一平が声を上げた。
「皆、レーダーを見て!」
レーダーには、ボスを示す点が表示されていた。
「さっきまで、何もいなかったのに・・・」
白馬は怪しげに呟いた。
「ここ、だね・・・」
砂弥達は地下に下って行き、やがて巨大な扉を見つけた。
念のため、砂弥は全員いるかどうか確認する。
この場には、砂弥、白馬、裂空、田美、乃璃香、一平の六人がいた。
全員、砂弥の見知った顔だ。
(絶対に、みんなで生き残って帰る!)
銀を生き返らせる事が大事だが、此処にいる仲間を死なせないのが大前提だ。
「・・・開けるよ」
皆、黙って頷いた。
全員が部屋に入ると、扉はギギギと重い音を立てながら独りでに閉まる。
そこは部屋と言うには生活感のかけらも無く、静かな闇が広がるだけだった。
いや、闇だけでは無かった。
赤い二つの光が砂弥達を睨みつけている。
機械で出来ているのかと疑う程の固い体。
手足や頭は固い皮膚に更に装甲を身につけ、頭には数本の釘が突き刺さっている。
両手両足には固く鎖が締め付けられており、決して解けることは無く見える。
砂弥達は気付くことは無かったが、さっきまでレーダーに反応が無かったのは、この鎖で巨体の生物が封印されていたからである。
そして、ヴァンパイアが殺されたことで封印は解かれた。
「グオオオオ!ガオオオ!!」
封印されていた怪物・・・ビッグフランケンは荒々しく、右手、左手と、自身を縛っていた鎖を引きちぎる。
足の鎖は繋がれたままだが、ビッグフランケンは気にも留めない。
この体では、この部屋を自由に動くことは出来ない。
しかし、ビッグフランケンは動く必要など無かった。
ビッグフランケンの体から電撃が溢れ出す。
砂弥達は一斉に散らばり、お互いに距離をとる。
「皆、固まらないように逃げて!」
逃げながら、全員は砂弥の言葉に頷いた。
どうみても、ビッグフランケンはパワータイプだ。
一度でも攻撃が当たると、それだけで体がどうなるか分からない。
固まれば的になる。
だからこそ、全員はバラバラに散開した。
「はっ!」
白馬は杖をビッグフランケンに向け、炎を発射する。
先程ヴァンパイアを倒した火炎放射だ。
何の妨害も無く、フランケンの体に命中する。
しかし、ビッグフランケンには傷一つ付いていない。
次の瞬間、フランケンの赤い瞳がカッと光る。
フランケンの体から電撃が次々と放たれ、壁をあちこち破壊していく。
電撃の一つが白馬に向かい、襲い掛かる。
直ちに砂弥が前に立ち、銃口からバリアを張る。
電撃に当たる度、バリアはドン、ドンと衝撃を受ける。
「・・・・・ッ!」
砂弥は踏み止まるが、そろそろ限界だった。
フランケンは腕を上げる。
そして、その重い拳で砂弥達に殴り掛かる。
バリアは粉々に砕け散り、砂弥と白馬は吹き飛ばされる。
砂弥は壁に叩き付けられ、床にドサッと落ちる。
固いコンクリートの感触が全身に伝わる。
砂弥は何とか立ち上がり、フランケンに銃を向ける。
裂空は剣を振って斬撃を飛ばし、白馬と乃璃香は魔法をぶつけるが、全く効果がない。
一平はバズーカを盾にして田美を守っている。
ビッグフランケンの装甲を砕けるかもしれない一平のバズーカだが、こうも電撃が無茶苦茶に出ていると、実弾は途中で撃破されてしまう。
白馬と乃璃香の魔法も、あまり効果的ではなかった。
白馬の竜巻や、乃璃香のカマイタチは電撃で撃ち落とされ、残った炎や水、氷や土も対してダメージを与えられない。
砂弥も様々な攻撃を立て続けに繰り出すが、あまり効いてはいなかった。
銃剣、ビーム、誘爆レーザー。
どんな攻撃も、ビッグフランケンは避けもせず、命中しても、動じない。
砂弥は舌打ちをする。
何か策は無いのだろうか。
砂弥は銃口から風を出し、それをオーラのように纏い、フランケン目掛けて突っ込む。
フランケンは胸から雷を発射し、砂弥を弾き飛ばす。
白馬は魔法を出しながら、何か違和感を感じていた。
さっきから何かが引っ掛かる。
圧倒的にフランケンが優位で、鉄壁の防御を発揮しているが、何かおかしい。
奴の行動の、何かが引っ掛かる。
確かにあいつには攻撃は効かない。
それは分かっている。
しかし、何か。
何か、あいつは攻撃が当たらないようにしている動作を感じる。
何かは分からない。
しかし・・・
そう考えていた時、
「ええいっ!」
砂弥の放った風の刃が、ビッグフランケンの腕を傷付けた。
「「!!!」」
砂弥と白馬は気付いた。
ビッグフランケンは、風属性の攻撃を、全て雷で防いでいたことを。
「そうと分かれば・・・」
砂弥が銃を構えた瞬間
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」
大量、かつ強力な電気を腕に纏い、フランケンは砂弥目掛けて殴り付ける。
砂弥は急いで回避するが、拳が壁に激突した瞬間、腕に纏わり付いていた電気が弾け飛ぶ。
「ガッ!」
電撃は砂弥に当たり、砂弥一瞬、動きが止まってしまった。
「・・・・・」
ビッグフランケンのもう片方の腕が、襲い掛かる。
避ける暇もなく、砂弥の体はフランケンの拳に押し潰された。
「砂弥!」
白馬は叫んだが、すぐに呪文の詠唱を始める。
今大切なのはコイツを弱らせること。
砂弥はすぐに立ち上がるに違いない。
白馬は、そう信じた。
白馬が杖を掲げると、ビッグフランケンの足元から竜巻が現れ、フランケンの体を傷付ける。
フランケンが動けない今がチャンスだ。
「皆!コイツの弱点は風属性よ!!」
白馬は全員に伝える。
その瞬間、ビッグフランケンは竜巻を内側から消し飛ばす。
裂空は剣に風を集め、フランケン目掛けて腕を振るう。
風を纏った衝撃波はビッグフランケンに命中し、フランケンは体のバランスを崩す。
それに畳み掛けるように、白馬と乃璃香は風の魔法をビッグフランケンにぶつける。
魔法が当たる度、フランケンは苦しそうに声をあげる。
「よし、このままなら勝てる!」
白馬はそう確信する。
「バゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ビッグフランケンは部屋全体が揺れる程のでかさで叫び、今までの比ではない勢いの電撃を無茶苦茶に飛ばし出す。
そして、最初こそ無茶苦茶な攻撃も、次第に人に狙いを定め、ついには白馬達全員をそれぞれ集中して電撃を放出し続ける。
「くそ、これじゃ動けねぇ・・・」
裂空は剣を盾にして電撃を防ぐ。
しかし、これでは防戦一方だ。
その時
「・・・・・」
田美が駆け出した。
「田美ちゃん!」
裂空は呼び止めるように声を上げたが、田美は止まらない。
フランケンの電撃をかわしつつ、瞬く間に接近する。
そして、素早くビッグフランケンの体を駆け上がる。
最初と違い、砂弥達の与えた傷が原因で電撃を身に纏っていないため、体に触れても感電しない。
田美は頭にまで昇ると、両手のナイフをフランケンの両目に突き刺した。
フランケンの目から血が流れ出て、痛みのあまり暴れ出す。
これで、フランケンの視界は無くなった。
もう狙いを定めて電撃を撃つことは出来ない。
その時、フランケンは体を大きく回転し、田美を振り落とす。
地面に吹き飛ばされた田美を、裂空がスライディングで受け止める。
田美を自分の後ろに隠し、剣を構える。
ビッグフランケンは未だに暴れ続けている。
しかし、田美が目を潰したお陰で、狙いはついていない。
裂空の剣に風が集まり、限界まで溜めると、裂空は剣を大きく横に一閃する。
風の刃がビッグフランケンの足を切り裂き、フランケンは足を失ったせいで地に倒れる。
「バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
フランケンは素早く裂空達に拳を振るう。
裂空は剣でガードするが、当然防ぎ切れずに砕けた床と共に吹き飛ばされる。
裂空と田美は倒れ、立ち上がろうとするが、体は起き上がらない。
動けない二人に迫るビッグフランケン。
一平は隙を突き、フランケンの右腕目掛けてバズーカを発射する。
フランケンはバズーカを撃ち落とそうと電撃を放ったが、裂空に斬られた足が原因でバランスを崩し、電撃の軌道がズレる。
弾はフランケンの腕に直撃し、爆発と共に腕は肉片となって弾け飛ぶ。
一方、フランケンが外した電撃は、一平に向かっていた。
避ける暇もなく、一平は電撃を浴びる。
「ああああああああ!!!」
一平は前のめりに倒れ込む。
「お父さん!」
乃璃香は一平に駆け寄ろうとするが、フランケンがまだ一平に狙いを定めているのに気付いた。
「くっ!」
乃璃香は杖を逆手に持ち、鎖付きブーメランに風を纏わせる。
そして、ビッグフランケンを縛るように鎖を投げる。
鎖はフランケンの体を締め付け、ブーメランの刃が引っ掛かり、外せなくなる。
一平が与えたバズーカのダメージがあるのか、フランケンは左手を地に伏せる。
「よし、このまま・・・」
乃璃香は鎖の締め付けを強くしようとする。
その時、フランケンは左手で鎖を握り、電気が鎖を伝って感電し、乃璃香を電撃が包み込む。
「がっ・・ああああああ!!!」
乃璃香は悲鳴をあげる。
「乃璃香さん・・・くそっ!」
白馬は呪文を詠唱し、杖を地に突き立てる。
フランケンの周囲八方向から小さな竜巻が現れ、フランケンに直撃する。
乃璃香の鎖に縛られているため、竜巻を防ぐことができず、竜巻によって乃璃香に向かう電撃の威力は軽減される。
フランケンの顔が、白馬に向く。
そして、小さな電撃が白馬に向かって何個も飛ばされる。
「がっ!あっ!ぐっ!」
魔法を唱えているため、白馬は動くことが出来ない。
乃璃香と白馬では足止めしか出来ず、裂空、田美、一平はもう動けなかった。
白馬は瓦礫の山を見つめる。
いや、白馬だけではなく、五人全員が瓦礫の山を見つめていた。
この状況で唯一、ビッグフランケンを倒せるたった一人を。
「砂弥!起きて!」
「砂弥ちゃん!早く!」
「赤梨さん!」
「赤梨!」
「砂弥さん!」
「砂弥」
夢を見ているみたいだった。
暖かい所で、暖かい光を浴びて。
「砂弥」
・・・暖かい声を聞いて。
それは銀の声。
あの人は死んでからもずっと私の中にいる。
・・・死にたくない。このまま別れたくない。
死んで、銀と同じ所へ行く。
それは、私には信じられない。
生きるんだ。
生きて、銀と・・・・
「ああああああああああああああああああ!!!!!!」
瓦礫を吹き飛ばし、砂弥が中から飛び出す。
「ゴオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」
フランケンは頭から衝撃波のような音波を発生させる。
砂弥はそれに何度もぶつかるが、決して止まらない。
音波の壁を突き破るようにジャンプし、調度フランケンの頭の高さへ到達する。
銃を銃剣に変え、刃を風属性にして、頭を何度も切り裂く。
フランケンの頭はボロボロと崩れてゆき、やがて電気が流れなくなった。
砂弥が床に着地し、フランケンを見上げると、フランケンは最後の力を振り絞り、拳を振るう所だった。
砂弥はそれを避けず、地に潰された。
体中が悲鳴をあげているのが分かった。
これは暫くしたら死ぬな、と思いつつ
「とどめ」
フランケンの拳に銃口を突き当てる。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
ビッグフランケンの体を包み込む程の竜巻が撃ち出される。
フランケンの拳を吹き飛ばし、砂弥は立ち上がる。
いざ立ち上がると、体中から血が流れているのが分かった。
視界が紅く染まる。
だが構っていられない。
コイツが死ぬまでは。
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
フランケンも対抗し、音波を撃ちだす。
音波が当たる度に砂弥の体が悲鳴をあげる。
しかし、フランケンの体も徐々に風によって崩れていく。
どちらかが倒れるまで、攻撃が続く。
砂弥とビッグフランケンの雄叫びだけが響き渡る。
そして・・・・・
どちらか一人の体が倒れる。
全員の視線が勝者に向けられる。
勝者は天井に向けていた銃を下ろした。
そして、力尽きたビッグフランケンをボーッと見つめていた。
カンカンカンカンカンカンカーン
ミッション終了の鐘が鳴った。
生き残ったのは、砂弥だった。
全員、歓声をあげたいとは思っているのだが、生憎全身ボロボロだ。
とてもそんな余裕はない。
それでも、ただただ安堵の表情を浮かべた。
砂弥はバタリと倒れた。
そろそろ限界だろう。
出血多量に内蔵破裂、打撲に骨折といつ死んでも可笑しくない。
砂弥は、ゆっくりと目を閉じた。
「起きて、砂弥」
不意に白馬の声が聞こえた。
慌てて飛び起きると、そこはいつものモニター室だった。
砂弥はホッと息をついた。
どうやら死ぬ寸前で転送されたようだ。
砂弥は立ち上がると、白馬と乃璃香と一緒にモニターを見る。
一体何点取れたのだろう。
緊張した顔でモニターを眺める。
そして、結果が表示された。
四条白馬 153点
「やっ・・・」
砂弥の口から思わず歓喜の声が漏れる。
白馬の目からは涙がこぼれ落ちる。
「うっ・・・ひっく・・・・」
乃璃香が、優しく白馬の背中をさする。
次の瞬間、モニターの画面が変わる。
①100てむいし゛ょう、みっしょむからかいほう。
②100てむいし゛ょう、つおいぶきをてにいれる。
③150てむいし゛ょう、し゛ょうけむつきて゛memoryのにむけ゛むをさいせいする。
この中からどれか選べということなのだろう。
白馬は涙を拭きつつ、はっきり答えた。
「③番・・・ルーンワークを生き返らせて」
その瞬間、モニターから光が出て来る。
光はやがて人の形を作りだし、完全な人型になると、まばゆい光を周囲に放つ。
「・・・・・ん?」
ルーンは不思議そうな声を出した。
状況が理解できていないようだった。
もっとも、それも仕方のないことだろう。
そして、モニターに文章が表示される。
これたら、くわいほうまてみっしょんにきょうすいさむか、
分かりづらいが、要するに解放されるまでミッションに強制参加ということだろう。
「あの、これ、どういう・・・・」
ルーンが混乱気味に尋ねる。
「四条さんが、貴女を生き返らせたのよ」
「・・・?」
乃璃香が説明するが、ルーンは今一理解出来ていないようだった。
それよりも、砂弥は別のことに緊張していた。
白馬とルーンのことは一件落着だが、問題は私だ。
果たして私は何点なのだろう。
唾をゴクリと飲み込み、モニターを見る。
そして、私の結果がでた。
赤梨砂弥 262点
心臓がはち切れるかと思った。
落ち着いて、よーく、画面を見つめる。
何度見ても、変わらない。
私は確かに、262点だ。
いつの間にか私の周りには人だかりが出来ており、皆が歓声をあげていた。
ただ大声をあげる者。
涙を流す者。
拍手をする者。
色んな人がいたが、全員、喜んでいた。
そして、また、モニターに文章が表示される。
①100てむいし゛ょう、みっしょむからかいほう。
②100てむいし゛ょう、つおいぶきをてにいれる。
③150てむいし゛ょう、し゛ょうけむつきて゛memoryのにむけ゛むをさいせいする。
④250てむいし゛ょう、memoryのにむけ゛むをさいせいする。
私は迷わない。
そっと、かつハッキリと答えた。
「④番・・・銀を。輝合石銀を生き返らせて」
モニターから光が飛び出し、それは部屋の外へ飛んでいく。
暫く呆然としていると、乃璃香さんが私に話してくれた。
「温室よ。銀は、転送される前は確かにそこにいたはずだから」
それを聞いて、砂弥の周りにいた人達が、出口までの道を開けてくれた。
ただ、砂弥の足は止まったままだった。
乃璃香は砂弥が混乱しているのを察し、優しく声を掛ける。
「さ、あの馬鹿の顔、1番に拝んであげて」
「・・・・・・・はい!!」
砂弥は、全力で駆け出した。
銀、銀・・・
心の中で何度も呼びながら、砂弥は走り続けた。
ここは、どこだったのだろう。
自分の記憶を整理してみる。
しかし、余り詳しいことは中々思い出せない。
それでも、自分の最期を思い出し、疑問を浮かべる。
どうして、自分は此処にいるのだろう。
どうしようか戸惑っていると、突然、扉がバンと音を起てて開かれた。
はぁ、はぁと息は乱れ、赤い髪が一際輝いて見える。
忘れるはずがない、あの子は私が1番恋しい人だ。
だからこそ、私の思考は追い付かない。
一体、何がどうなっているのだろう。
砂弥は、じっとこちらを見詰めてくる。
お互いに長い間見詰め続け、とうとう私は口を開く。
「あの、砂弥?これはどういう・・・」
聞いている途中で、私の声は水滴の音を聞いて途切れた。
・・・砂弥の目から顎まで伝い、ポタポタとこぼれ落ちる涙。
「え・・っと・・これは・・・その・・つまり・・・・あっ・・・」
遂に耐え切れなくなり、砂弥は駆け寄った。
そして、銀の体に飛び付き、ギュッと抱きしめた。
「うううううううううううう」
粒どころではなく、砂弥は川のような涙を流す。
それは銀の制服に染み渡り、銀の皮膚にもその感触が伝わる。
「銀・・・銀・・・銀・・・」
ずっと砂弥は泣き続ける。
銀は、もう何があったのか分かっていた。
だから、砂弥をそっと抱きしめ返した。
「砂弥・・・」
「うん・・・うん!」
「ありがとう」
二人はそっと見つめ合う。
お互いに、相手の顔を目に焼き付ける。
そして、当たり前のように、そっとキスをした。
とろけるような、そんな、甘い感触が舌に伝わった。
長く、長く、長く。
二人は絡みつづけた。
ようやく、アメリカン編が終わりました。
途中で長く更新が止まってしまい、申し訳ありませんでした。
ただ、この話をかつてない長さに出来たのは良かったと思ってます。
次回は・・・恒例の日常回。
そして、魔導師編。
また、次回で会いましょう。