life15.シルバー編-ここでさよなら
「死ね!赤梨砂弥!!」
綱切は砂弥に刀を振り下ろす。
「!?」
殺気を感じた砂弥は、咄嗟に銃剣を構え、刀を受け止める。
砂弥は後ろにいる皆に声を掛ける。
「皆は早く逃げて!」
「え・・・でも、」
花菜ちゃんは不服そうだが、仕方ない。
「私が敵を減らすから、二人が銀を守って!!」
「・・・頼みました」
飛石は銀と花菜ちゃんの手を掴むと、素早く駆け出した。
「砂弥!!」
銀は砂弥を呼んだが、その声は砂弥に届くことは無かった。
さて、此処からは一人で何とかしないと。
私は目の前の相手と向き合う。
黒い髪、瞳は私と近い色に赤く染まっている。
着ている制服は迷彩柄だ。サバイブスクールの生徒だろうか。
「お前を殺す!」
そういって刀を振り回してくる。
それを銃剣で受け止めつつ、隙を探る。
しかし、中々隙を見せてくれない。
腕は中々の物らしい。
「く、いい加減に・・・」
私は銃剣を解除し、銃口から冷気を放出する。
相手は咄嗟に転がり避ける。
そこに追い打ちを掛ける為に、再び銃剣を出して、相手に振り下ろす。
綱切は刀でそれを受け止め、ピストルを砂弥に向けようとするが綱切の左手は砂弥の左手に受け止められ、その時出来た一瞬の隙を突き砂弥は綱切の肩に手を起き、空中に跳び上がると足を振り綱切の顔を思いっ切り蹴り飛ばす。
綱切はゴロゴロと転がり、コンクリートの壁に激突する。
「ガハッ・・・」
綱切は口から血を吐き、気を失った。
本当に気絶したのか確かめるため、砂弥は綱切の側に寄ろうとした。
その時、
「!!」
砂弥は殺気を感じ、反射的に銃を向けてトリガーを引いた。
銃声が鳴り響き、辺りがしんと静まりかえった気がした。
「あ・・・」
砂弥には見えていた。
自分に殺気を向けたのは遠くにいるスナイパーライフルを持った学生で、そいつは砂弥の弾を頭に受け、ゆっくりと地面に落ちて行った。
人を、殺してしまった。
どんな理由があろうと、人を殺してしまった。
砂弥は思わずその場から逃げ出した。
「砂弥、大丈夫かしら・・・」
銀は走りながら、心配そうに呟いた。
「お姉様なら大丈夫です。私はあの人程尊敬出来る人を知りません」
飛石はハッキリと断言した。
「そうですよ、それに、砂弥様は輝合石様のために頑張ってるんですから」
花菜も銀を励ますように言った。
砂弥は皆に慕われているのね・・・
それなら・・・と思う自分を押し込める。
それは今頑張っている皆に失礼だろう。
そう思った時、前方から人が近寄って来た。
「白馬・・・」
「大変よ、皆・・・」
白馬は現状を全員に報告した。
それによると、生徒は完全に二組に分かれてしまっているようだ。
銀を守り今回のミッションは諦めるのと、銀を倒し何としても点数を稼ぐ派になってしまっている。
「黒楼学園とガリオン校は元々参加者が少なくて・・・だから、輝合石さんを殺そうとする側の方が圧倒的に多いんです」
その時だった。
四人の足元から火花が上がった。
全員が周りを見回すと、そこには大勢の生徒がいた。
全員、銀の命を狙っている奴だ。
「これは骨が折れそうね・・・」
数の面では不利だが仕方ない。
全員が武器を構え、戦闘体制に入った。
「く・・・」
綱切は目を覚まし、近くの瓦礫を払いながら起き上がった。
まさかあんな奴に遅れを取るとは・・・
綱切は最初から砂弥が嫌いだった。
綱切はミッションにおいて抜群の才能を秘めていた。
初ミッションでは22点を獲得し、天才の誕生ではないかと周りから期待の目で見られ、本人もそれに満足していた。
その日々は早々に終わることとなる。
砂弥の初ミッションの成績が黒楼学園に広がるのは当然で、次にガリオン校、そしてサバイブスクールに伝わっていくのはあっという間だった。
綱切の噂など瞬く間に忘れ去られ、皆顔も知らぬ赤梨砂弥の噂で持ち切りだった。
綱切は、あっという間にただの生徒になってしまったのだ。
「こんなことになったのも全部赤梨砂弥のせいだ。だから俺はアイツに勝つ。そして、俺こそが本当の天才なんだ」
「それを・・・証明してやる!!!!」
綱切はレーダーを取り出し、暗闇の中に駆けて行った。
「はあ・・・はあ・・・」
砂弥は雨のように降り注ぐ弾丸をかい潜り、確実に腕と足を撃ち抜く。
殺さずに戦闘不能にするには手足を封じるしかない。
砂弥は強力なレーザーを使わずに戦わなければいけなくなっていた。
砂弥は銃口を上に向け、トリガーを引く。
その瞬間、辺り一面を覆うまばゆいばかりの光が放出された。
そのあまりの眩しさに、ライフルを構えていた生徒は、腕で目を塞いだ。
「ぐわあああ・・・」
数秒後、光は収まったが砂弥の姿が消えていた。
「く・・・何処に・・・?」
スナイパー達は誰ひとり気付かなかった。
「・・・・・」
砂弥は全員が視界を塞がれた一瞬の隙を突き、電柱を駆け上がり、上空へ跳び上がったのだ。
砂弥がトリガーを引くと、赤い小型の銃弾が拡散し、スナイパー達の手足に襲い掛かる。
「ぐわあああ!」
「ぎゃあああ!」
拡散弾はスナイパー全員に命中し、皆その場にうずくまる。
「やっと・・・一段落・・・」
砂弥は壁に寄り掛かった。
砂弥の疲労はいつもよりも酷かった。
いつものミッションと違い、感で撃つと殺してしまう。
そのために、自分で正確に狙いをつけなくてはならない。
「あ、赤梨さん!」
誰かが砂弥の名前を呼びながら走って来ている。
栗色の短い髪は綺麗に整えられ、文化系のイメージを連想するが、今はマラソンランナーの如く走り込んで来る。
「誰?」
「ガリオン校の清原式之です。そんなことより、大変なんです!!」
式之は息を乱したまま喋り続ける。
「四条さんが・・・四条さんが!」
遡ること数分前・・・
「このままじゃ拉致が開かない・・・」
銀は額から出る汗を拭いながら呟いた。
敵は絶えず増えていくばかりで、このままじゃいずれこちらが耐え切れないだろう。
「逃げて下さい」
飛石は他人に聞こえないように呟いた。
「え?」
「合図したら、出来るだけ遠くに逃げて下さい。貴女がいなければ、少なくとも戦いに集中できます」
銀は反対することも出来たが、何せ時間がない。
神経を研ぎ澄ませ、合図を待つ。
そして、飛石の銃から銃声が鳴ると同時に、銀は近くの屋根に跳び上がった。
「させるか!」
学生達は銀に狙いを定める。
しかし、放たれた銃弾は突如現れた竜巻によって吹き飛ばされた。
「何!?」
生徒達が目を向けると、そこには白馬が杖を構えて立っていた。
「輝合石さん!早く!」
白馬の言葉を聞くと、銀は別の屋根へ屋根へと跳び移って行った。
それを皮切りに、再びその通路で銃声と魔法の音が響き渡る。
状況は余り良くなかった。
確かに銀を守りながら戦う必要は無くなったが、今度は誰ひとり逃がさないようにしなければならなくなった。
それは、確実に飛石達の精神を擦り減らしていった。
そして・・・
「うおおおお!!」
「!?しまっ・・・」
生徒の振るったナイフが白馬の杖を弾き飛ばした。
生徒は白馬の腹を殴り、白馬が怯んだ隙に白馬の後ろに回り、白馬の首にナイフを押し付けた。
「お前ら、動くんじゃねぇ!」
それと同時にその場にいた全員の動きが止まった。
「こいつの命が惜しければさっさと言いな・・・輝合石銀をどこに逃がした!?」
「それで、その場を偶然通りすがって・・・」
私は式之さんから一部始終を聞いた。
白馬、無事でいて・・・
そして、砂弥はその場にたどり着いた。
式之さんの話から状況は変わってなさそうだ。
「赤梨砂弥、変なことはすんなよ?こっちには人質がいるんだ」
ナイフを持った学生は、見せ付けるように白馬の首にナイフを押し付ける。
「そっちこそ変なことしないでくれませんか」
飛石は銃を生徒に向けた。
その飛石に学生達は銃で狙いをつけ、花菜ちゃんも銃を向ける。
辺りが緊張に包まれる。
誰かが動けば、残りの全員も動く。
誰かが殺せば、また誰かが殺そうとするだろう。
緊迫した空気の中、白馬を人質にしている生徒が口を開いた。
「赤梨砂弥、銃を置け」
周囲に緊張が走る。
銃を置くということは、私が無力になるということだ。
しかし、白馬を見捨てることは出来ない。
私は銃を地面に置いた。
その時
「おい」
砂弥の背後から声がした。
全員が振り返ると、そこには綱切がいた。
「君・・・」
「川橋・・・」
砂弥が驚いている最中、生徒は綱切に気付くと、綱切に話し掛けた。
「川橋、こいつは今武器を持ってない。やれ!」
綱切はゆっくり砂弥に歩み寄り、砂弥の目の前で立ち止まる。
お互いに睨み合った後、綱切は砂弥の顔をぶん殴り、砂弥の体はコンクリートの壁に叩き付けられる。
直ぐさま綱切は砂弥の襟を掴み、腹を膝で蹴る、顔を殴るを繰り返す。
「グフッガフッ!」
砂弥は口から血を吐き、頭からも流血しだすが、綱切は攻撃を止めない。
「お前なんか・・・たいしたことねぇ、ただの・・・ガキだ!お前なんか!お前なんか!」
綱切は腕に力を入れ、更に殴る威力を強める。
「もう・・・止めて!姉様を離して!!」
飛石は目に涙を浮かべ、銃を綱切に向ける。
「!?動くな!!」
白馬を捕らえている生徒が飛石に怒鳴りかかる。
花菜はそれに出来た一瞬の隙を見逃さず、持っていたハンドガンで生徒のナイフを打ち落とす。
白馬は生徒の背後に回り込み、背負い投げのように生徒を地面に叩き付ける。
直後、近くにいたサバイブスクールと聖ゼウス学園の生徒が一斉に白馬達に銃を向ける。
それを見て、黒楼学園とガリオン校の生徒達も、銃を向ける。
その状況で、綱切は砂弥の首を締め上げそれを自分の前に見せる。
「動くな!!少しでも動けばコイツの命は・・・」
そこまで言いかけた所で、綱切のピストルが撃ち落とされる。
「そこまでよ!」
綱切のピストルを撃ち落とし、砂弥を助けたのは・・・銀だった。
結局逃げなく、此処に帰ってきたのだ。
綱切は舌打ちしつつ、首を絞める力を強める。
「動くなよ。コイツがどーなってもいいならな」
「く・・・」
銀は顔をしかめた。
砂弥は自分を助けてくれた銀を見つめた。
早く逃げて・・・と言いたいが、頭には激痛が走り、思考回路が纏まらない。
その時、砂弥は銀のずっと背後を見て固まった。
月夜に照らされまるで輝いているかのように風にたなびく銀髪のツインテール。冷たい氷のような凍てつく瞳は、感情が無いかのようにこちらを見据えている。
次の瞬間、砂弥が文化祭ですれ違った少女・・・フランシア・スケルアルは腰に納めてあるビームサーベルを引き抜く。
そして、フランシアは銀に向かって飛び掛かった。
銀、危ない。
逃げて!!
そう言いたかったが、綱切に口を抑えられているため、声が出ない。
それでも、銀は砂弥の異変に気付き、咄嗟に振り返る。
そして・・・・・・・
皆の目に焼き付いたのは、一閃。
フランシアのビームサーベルは銀の体を切り付けた。
銀の体から、血が溢れ出す。
倒れた銀の体の周りに血が流れ、水溜まりのようになる。その場にいる全員が唖然としていた。
綱切も、いつの間にか砂弥を抑えている腕を離していた。
目の前の光景が信じられなかった。
あのフランシア様が本当に輝合石を・・・?
そして、フランシアはビームサーベルを腰に戻すと、何事も無かったかのようにゆっくりと立ち去って行った。
砂弥は目の前の光景を受け入れられなかった。
そんな、銀が死ぬはずない。
私はそんなの嫌だ。
そんな、こんな。
こんなの・・・
その時、銀がこちらに目を向けた。
それを見た瞬間、私は銀に駆け寄った。
「銀!銀!!」
「砂弥・・・」
私は地に膝を付き、銀の左手を握り、頭の後ろを持ち、銀の体を起こす。
「ねえ、砂弥・・・」
「な、なあ、に・・・?」
私は泣きながら銀に聞く。
私の涙はポタポタと零れ、地面に染みていく。
「私ね・・・怖かった。貴女と想いを重ねた、あの、時から・・・」
銀は限界が近いのか、声は途切れ途切れ、少しずつ掠れて来ている。
「貴女の心にいつも私がいて、やがてあ、なたを縛っていくんじゃない、かっ、て・・・」
「そんなの、だって、だって、私、銀がいないと・・・」
私は銀の手を握る力を強める。
銀の暖かさが段々冷たくなって行くのを感じる。
「もう、いいの・・・いつか、別れ、るなら・・・貴女が一番私を、愛してくれる、今が良かった・・・」
「嫌だ!嫌だよ!そんなの嫌だ!!」
私は思いっ切り首を横に振る。嫌だ、別れたくない。
「砂弥・・・」
「銀・・・」
銀は、最後の力を振り絞る。
「好き・・・・・」
銀は静かに目を閉じ、頭もガクッと下がり、全身から力が抜けた。
カンカンカンカンカンカンカーン
ミッション終了の鐘がレーダーから鳴り響く。
しかし、それは私の耳に入らない。
「あ、あ、あ、あ・・・・・・」
涙は絶えず流れ、銀の服に滲んで行く。
銀の体が冷たい。
何で?どうして?
此処で・・・
何でお別れなの?
「・・・・・」
綱切は二人から目を背け続けていた。
何だか自分が悪いことをした気になってしまうから。
白馬は地面に座り込んだ。
あの時、私が捕まったりしなければ、こんなことには・・・
後悔は溢れても、それを解消する術は何も無かった。
飛石は口を手で抑え、体を震わせていた。
自分のせいだ。
もう少し良い作戦はあったはずだ。
どうしてもっと考えなかったのか。
どうして・・・
花菜は泣き崩れていた。
従姉妹を失い、更に憧れの人との約束を守れなかった。
何のためにミッションに着たのか。
やがて、転送が始まった。生徒達は次々と姿を消して行った。
残ったのは砂弥ただ一人となった。
頭の中に走馬灯が流れて来る。
笑ってる銀。
泣いてる銀。
怒ってる銀。
照れてる銀。
皆、忘れられない思い出だ。
いつだって、大切な、私の・・・
銀を抱きしめる力をグッと強める。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
顔を上に上げて泣き叫ぶ。
悲しみの叫びは辺りに響き渡り、流れる涙は止まることを知らない。
私の体も転送され、もうだれも此処に残らなくなった。
動かなくなった銀の死体だけが、その場に残された。
銀が死んでしまいました。
この展開は執筆を始める前から決めていましたが、それでも愛着のあるキャラを殺すのは辛かったです。
お話も中間を終え、いよいよ後半戦です。
果たして、砂弥は、銀は、裂空は、田美は・・・
ご期待下さい。
川橋綱切 CV.浪川大輔
フランシア・スケルアル CV.水樹奈々
では、また次回で。