life14.シルバー編-狙われた標的は・・・
分かっていたつもりだった。
でも、目を背けた。
今まで多くの人が死んだのは知っていた。それは私の知らない人達で。
私の知っている、しかも私の大切な人は大丈夫だと、甘えていたからかもしれない。
でも、あんな事になるなんて・・・
ねえ、
銀。
やはり皆落ち着かない様子でいた。
初めてだろうと経験していようとミッションは緊張してしまう。
私も緊張している一人だ。
このミッションで100点を取れる可能性は充分にある。つまり、ようやく解放されるかもしれない、という事だ。
解放されれば、ずっと銀と一緒にいられる。
さっきからそのことばかり考えてしまう。
銀を気にするのも大事だけど、まずは生き残ることが第一だ。
とりあえず飛石に声を掛けよう。何だかんだで初ミッションなんだ。
緊張しているか、もしくは余裕こいてるかもしれないし。
「飛石、調子どう?」
「あ、お姉様」
飛石は花菜ちゃんと一緒にいた。いつの間にかこの二人、仲良くなっていた。
二人ともしっかりしているし、気が合うんだろう。
「飛石、緊張とかしてない?」
「正直まだ殺し合いをする実感は湧かないんですが、否応にも緊張してしまって」
やはり出来る子だからかな、メンタル面の心配はなさそう。
とりあえず必要なのは実戦の空気かな。
「大丈夫、飛石ならちゃんとしてれば生き残れるから」
「そうですよ。大丈夫、飛石ちゃんなら私が守りますから!」
花菜ちゃんが自信たっぷりに言った。まあ花菜ちゃんなら任せられるかな。
その時、後ろから銀が来ているのが分かった。
「銀、どうしたの?」
私は振り返りながら銀に声を掛ける。
銀は近付いたのが気付かれたのに驚いたようで、一瞬キョトンとしたが、すぐに顔を戻すと、私の前まで移動してきた。
「砂弥が心配だから、お見送りに来たのよ」
「もう、銀ったら心配性なんだから」
飛石と花菜ちゃんが後ろにいることも忘れて銀の体に寄り掛かる。
銀は私を抱きしめてくれたけど、いつもより力が強く、何だかちょっと痛い。
「嫌な予感がするの・・・私と砂弥にとって、とても嫌なことがあるんじゃないかって」
「大丈夫だよ、桃太郎の時も口裂け女の時も、ちゃんと生き残れたんだから」
「でも、その度に死にかけてるじゃない」
その言葉に、ちょっとカチンとくる。
「ひっどーい、私だって死にかけたくてやってる訳じゃないわよ」
「クス、冗談よ冗談。砂弥はちゃんと生き残ってるから、それだけで嬉しいわ」
銀は腕の力を緩めると、私の首に顔を近づけ、そっと唇を付ける。
ちょっとくすぐったいけど、幸せな気分になる。
「銀・・・」
「砂弥・・・」
私達は、互いに名前を呼び合った。
そこにいることを証明するかのように。
「何か二人の世界に入っちゃいましたね」
飛石は呆れたような顔を浮かべている。
「あー・・・そうですね」
花菜ちゃんも苦笑いしている。
「どうです?私達も抱き合ってみます?」
「遠慮します」
花菜ちゃんの軽口を飛石はピシャリと否定した。
二人とも冗談を言える中になっているようだ。
場所は変わってガリオン校。
裂空と田美は二人並んでモニター室で座っていた。
「それで、昨日はサバイブスクールの人に睨まれたんです」
田美は裂空に元気なさ気に話していた。
俺がとりあえず元気出させてあげないとな、と思い、裂空は出来るだけ明るい声で話しかけた。
「んーと、まあ、あそこの奴らは俺らガリオン校の生徒全体が嫌いな訳で、別に田美ちゃんが落ち込む必要はないんじゃないかな?」
田美ちゃんは未だ沈んだ表情を浮かべていた。
無理もないか、と俺は思った。
自分の学校そのものが嫌いと言われたらそれもそれで傷付くだろう。
死んだ者が集められるこの世界。通称死後の世界には四つの学校がある。
一つ、砂弥達の属する黒楼学園。
此処は比較的自由な校風で、訓練も勉学も自分で気ままに選んで生活する。
そして、裂空達の属するガリオン校。
此処も黒楼学園程ではないが、やはり自由な校風である。
午前中は自主訓練、後は自由行動という生活を送ることになる。
そして、三つ目がサバイブスクールである。
この学校は毎日戦闘訓練を課し、戦闘のエキスパートを育てるカリキュラムを立てている。
最後が、聖ゼウス学園である。
午前中は戦闘や人体に関する授業。午後から戦闘訓練という生き残る為の技術を叩き込む厳格な学園なのだ。
サバイブスクールと聖ゼウス学園は厳しい訓練をしているためか、自由気ままに暮らしている黒楼学園とガリオン校とは犬猿の仲だ。
それも向こうが一方的に嫌って来るのだからどうしようもない。
それにこちらが好き勝手に生きてるのは事実だし。
とは言え田美ちゃんに睨みつけるのは個人的に許し難い。
今度見付けたらそいつぶん殴る。
と、俺は密かに誓った。
もうすぐミッション開始の放送があるだろう。
私は服装や魔銃を確かめる。
靴紐が解けて死んだなんて事態になったら笑い事では済まない。
銀は仙人掌の手入れに行くと言って去ってしまった。
まあミッションが終わるまでには帰って来るだろうし別にいいだろう。
その時、
キーンコーンカーンコーン
放送がなった。
いよいよ始まる。
私は、転送されるのを待った。
そして、自分の体が転送されていくのを感じた。
「砂弥・・・」
仙人掌の手入れを終え、白い椅子に座る。
温室には私一人しかいない。
砂弥と別れ、此処に来るまでに雨が降ってしまったのだ。
雨に濡れるのも嫌だから温室に閉じこまったままだが、流石に暇になってきた。
そうなると頭から砂弥の事が離れなくなる。
あの子はちゃんと生き残って私の所へ帰って来てくれるだろうか。
そう思った時
「!?」
体に懐かしいような、それでいて忘れもしない感覚が襲ってきた。
「これは・・・転送!?」
そして、私はそのまま何処かに転送されてしまった。
「銀?貴女のことだから傘持ってないと思ったんだけど・・・」
その後、温室に乃璃香が入って来た。
しかし、温室には既に人影はなく、ただ沈黙だけが広がっていた。
「銀・・・?」
乃璃香の呟きに、返答は無かった。
砂弥は真夜中の町に転送された。
妖怪の時と同じで、薄暗い街灯だけが辺りを照らしている。
「さて・・・と」
早速レーダーで辺りを確認する。
見るかぎり前回と同じ場所という訳ではないようだ。
「あれ?」
レーダーをよく見ると、奇妙なことが表示されていた。
敵を表す赤い点が何故か一つも無かったのだ。
「どういうことだろ・・・」
桃太郎の時とは正反対。私の画面には青い点がうろうろしているだけ。
その時、
「え!?」
突然赤い点が現れたのだ。
しかも、私の近くに。
「相手は、ワープ出来るの・・・?」
レーダーの通りだと、私の近くの塀の向こう側に敵がいる。
私は銃を取り出し、塀を乗り越えて銃を敵に向ける。
しかし、私の銃口にピッタリと銃口が突き付けられる。
私は相手を確認しようと顔を上げた。
「銀・・・?」
「砂弥・・・?」
私の前にいたのは、紛れも無い私の好きな人。
輝合石銀が立っていた。
その頃、ガリオン校では、裂空と田美がモニター室に座り込んでいた。
今回は二人ともミッションには参加ではなかった。
「ま、何だかんだ言って、ミッションには呼ばれないのが1番だよな」
そう言って隣の田美ちゃんを見るが、田美ちゃんは不思議そうに辺りを見回していた。
「でも変ね。今回、此処の参加者が少ないわ」
田美ちゃんは独り言のように呟いた。
なるほど、確かに言われてみると参加者は十数人だけだった。
いつもより圧倒的に少ない。
「いつもとは、違うってことかな・・・」
時は同じく黒楼学園では・・・
「ルーン、銀、見なかった!?」
乃璃香がモニター室に駆け込むやいなやルーンに問い詰めた。
「いや、見てないけど・・・何かあった?」
ルーンはたじろぎながらも聞き返した。
「銀がいないのよ。彼女が仙人掌の手入れ用の道具を放置して何処か行くなんてありえないわ」
乃璃香が顔をしかめて言った。
ルーンに銀の趣味の事は分からないが、確かにそれはおかしい。
「でも、何処に行ったってのよ。ミッションには・・・ああ、関係なかったっけ」
ルーンは途中まで閃いたようだが、すぐにその疑問を払った。
「ええ、それはありえないわ。確かに銀は100点を取ったし、それを私を含めて何人かが見ているわ」
乃璃香にはその時の記憶が鮮明に思い出せた。
回りの皆は歓声を上げていたし、銀も少し嬉しそうにしていた。
一体、どうして・・・
「銀・・・砂弥ちゃん・・・」
また待つしかないのか、と乃璃香は思い、二人が無事であるように願った。
「本当に、銀・・・なの?」
私は疑って聞いた。
乃璃香さんの話だと銀は既にミッションを終えているって話だし。
すると、銀は私をガバッと抱きしめた。
「ほら、この温もりは私でしょう?」
う、確かに。
これは本物だ。
言葉では伝えにくいが、この頭が溶けていくような甘い感覚をくれるのは銀だけだから。
「じゃあ、何で・・・?」
「私だって分かんないわよ」
互いに悩んでいると、ふと花菜ちゃんがいるのが目についた。
「花菜ちゃん、何してるの?」
私が声を掛けると、花菜ちゃんは驚いたようにビクッとした。
「あ、あの、砂弥様・・・」
「大変です、お姉様」
花菜ちゃんが話そうとすると、いきなり飛石が割り込んできた。
「どうしたの?」
「今すぐ輝合石様を避難させましょう」
飛石はハッキリと言った。
「避難って、何で・・・」
「もうレーダーで確認済みでしょう。今回の標的は、輝合石様です」
淡々と飛石は言ったが、私は信じられなかった。
「ど、どうして!?何で!?」
私は飛石の肩を掴んで問い詰めた。
「私には分かりません。しかし、黒楼学園と一部のガリオン校以外の者達は間違いなく輝合石様を狙うでしょう」
「・・・どうして!?同じ人なんだよ!?なのに・・・」
私は更に強く飛石に詰め寄った。
「・・・自分が生き残る為でしょう。唯一の敵である輝合石様を倒さなければ、得点は0になる・・・そう教えてくれたのはお姉様でしょう?」
「それは・・・」
確かにそうだけど、でも、同じ境遇だった人を殺すなんて、そんなの・・・
いや、私も桃太郎の時は誰が死んでも構わないなんて思ってた。
ミッションをクリアすることだけ考えて・・・
人のことは言えないんだろうか。
「ともかく此処に留まっていては危険です。まずは逃げましょう」
飛石の指示に従い、私達は駆け出した。
絶対に銀を守らないと・・・
そう決意し、銃を握る手に力を込めた。
「見付けた・・・」
右手に刀、左手にピストルを構えた少年が、屋根の上から砂弥達を見ていた。
「俺が格上だってことを・・・証明してやる!!」
「死ね・・・赤梨砂弥!」
そういって、男・・・川橋綱切は屋根から砂弥に向かって飛び降り、砂弥に刀を振るった。
「!?」
砂弥はすぐに殺気を感じ、銃剣で刀を受け止めた。
深い夜、もっとも辛い戦いが始まろうとしていた。
とうとうシルバー編が始まりました。
果たして、銀を守りきることは出来るのか、誰かが犠牲になってしまうのか。
次回にご期待を!