life13.シルバー編-突然の奇跡
妖怪のミッションから一週間がたった。
私は銀と適当に廊下を歩いていた。
「今日も新しいのが来るわね」
銀は何処か上の空な様子で呟いた。
死んだ人が集まるこの世界も、ただ全員を引き込む訳じゃない。
大体50人ぐらいが毎回送り込まれるらしく、それが二週間に一回のペースで繰り返される。
ミッションと交互にあると言うことだ。
今日がその日だということは、後一週間でまたミッションがある訳だ。
それを考えると憂鬱になる。
とは言っても、あと35点で100点到達だ。
これなら頑張れる。
「銀、私絶対生き残るから」
「ええ、100点まであと少しよ」
銀の為にも、絶対生き残らないと。
と思い、銀と向かい合おうとした時。
「お姉様!!」
急に大声が聞こえたかと思うと、いきなり後ろから抱き着かれる。
「こ、この声は・・・」
忘れるはずがない。
長年聞いてなかったけど、小さい頃の記憶と少しも変わらない気配・・・
「砂弥お姉様、私です!」
「飛石・・・?」
たった一人の妹、赤梨飛石だっのだから。
場所は移り、黒楼学園談話室。
この部屋はいつも生徒で賑わっている。
やはり本やテレビが揃っているので、暇な人も友人揃いも楽しめるというわけだ。
そんな中、また場を賑わしそうな団体が会話を始めた。
「初めまして。赤梨砂弥の妹、赤梨飛石です。姉様がいつもお世話になっています」
キラキラした背景でもあるかのようにニコッと微笑んだ。
相変わらず人当たり良いんだから、と溜め息をつく。
これが演技じゃなく素なんだからたちが悪い。
私と同じ赤い髪は私と違ってサイドポニーに纏められ、幼い顔立ちは多くの人を引き付ける眩しさを持っている。
「ねえ、飛石は何歳なわけ?」
ルーンが飛石に聞く。
「はい。14です」
飛石は素直に答える。
この子は幾つになっても正直に言い続けるだろう。
「飛石さんは生前、何をなさってたんですか?」
今度は乃璃香さんが尋ねた。
「アメリカに留学していて・・・向こうではテレビ出演が殆どでしたから、あまり学校には行けませんでしたけど・・・」
飛石は6歳の頃に母さんに連れられ、外国に行っていた。
アメリカに留学という話だけど、実質スペインやらロシアやらアメリカやら、海外を飛び回っていたはずだ。
コンプレックスの原因だったけど、自慢の妹でもあったはずだ。
昔はただただ飛石の優秀さが誇りだったというのに・・・
と思考を過去に向けて、ふと前を見ると、間近に飛石の顔が迫っていた。
「!?」
「お姉様ぁ・・・私、寂しかったんですよ?生きていた頃も何年もお姉様には会えないし、死んだと思ったら、よく分からない学園にいましたし・・・」
飛石は若干涙声になる。
「でもそんな時、お姉様の噂を聞いたんです!それで、お姉様の側にいつもいれると思ったら、つい嬉しくて嬉しくて・・・」
飛石は私の胸に顔を埋めて、ひたすら顔をすりすりさせている。
この有様を見て、銀は少し不機嫌になり、乃璃香さんは困惑した様子で、白馬はポカーンとして、ルーンはニヤニヤしている。
私はというと、乃璃香さんの反応に近いかもしれなかった。
そりゃ、小さい頃は甘えん坊だったけど、海外に行ってから全然連絡ないから、てっきり両親に支えられるようになったのかと思ってたから・・・
とりあえず飛石を引き離して、話題を変える。
「そ、そういえば飛石。母さんと父さんは?元気にしてた?」
私こそ何年も会っていない両親だけど、飛石なら知っているに違いない。
そう思って聞いてみたつもりだったけど。
その時、飛石の空気が変わった。何と言うか、冷たい気を感じた。
「知りません・・・あんな人達」
飛石は俯いていて表情が見えない。
ただ、今までの明るい顔はしていないのだろう。
飛石は何処かへ歩いて行こうとする。
「飛石・・・?」
「ちょっと自分の部屋・・・見てきます」
そう言って足早に去ってしまった。
一体何だったんだろう。
どうして飛石はあんなことを言ったのだろう。
飛石は両親と何かあったのかな?
私が立ち止まっていると、銀が背中を押してくれた。
「行きなさい」
「でも・・・」
私は飛石と話すのに抵抗があった。今更お姉さん振るのもどうかと思うし、第一もうあの子のことも分からなくなっている。
私達には、別離が長すぎたのだ。
でも、銀はその眼差しを変えなかった。
それは、私が大好きな、誰かを・・・銀が私を諭す時の穏やかな瞳だった。
「何があっても、貴女達は家族・・・唯一無二の姉妹でしょう?」
思わずハッとなる。
そうだ、私達は・・・
私は一目散に駆け出した。
「飛石!!」
廊下を歩いている飛石を呼び止める。
「お姉様・・・?」
驚いた顔をしていた。
私は迷わず飛石に聞いた。
「教えて。飛石・・・母さん達と何があったの?」
飛石は答え難そうに目を逸らした。
「どうしても・・・気になりますか?」
重い溜め息を付き、話す気になったのか私を見る。
「・・・知りません」
「・・・は?」
私は自分の耳を疑った。
今、飛石はなんて言った?
「え、知らないって・・・?」
「全然連絡着かないんです。仕事が忙しいのかは知りませんが、とにかく私は数年間親の顔を見ていません。だからどうしているかも知りません」
何だ。私はてっきり飛石にばっかり構ってるかと思っていたけど、二人共親にほったらかしにされてたのか。
「だから嫌いなんです。自分の子供の面倒もみれない人なんか・・・」
そういって拗ねたようにそっぽを向く。
ひょっとして私が連絡を寄越さなかったことも怒ってるのかな。
そうだよね。
ずっと海外でひとりきりなんて寂しかったに決まってる。
どうして私はこんな事に気付けなかったのだろう。
「・・・そろそろ時間ですね」
「時間?」
「はい。花菜さんに夕食に誘われまして・・・確かお姉様の知人だとおっしゃってましたが」
「ああ、花菜ちゃんね」
シアンの髪を揺らして近寄ってくる様子が頭に浮かぶ。
飛石に負けず劣らず私に懐いてるな、あの子。何でか全然わかんないけど。
やがて飛石は背を向けて去って行こうとする。
私はそれを引き止めた。
「飛石」
「はい?」
「今は・・・寂しくないよね?」
「・・・はい!」
ここにいて、寂しいなんてことは無いだろう。
こんなにいい人達がいるんだから。
それは、飛石の眩しい笑顔が物語っていた。
飛石と別れ、私も皆を探そうと別の道を進んだ。
その時、前方から誰かが歩いて来るのが目に映った。
「銀」
「話は終わったのかしら?」
「うん」
「そう、それじゃ・・・」
銀は段々私に近付いて来て、それで・・・
勢い良く私に抱き着いて来た。
「うわ!」
「だって、砂弥成分が足りなくなってたんだものー」
何の成分だそれは。
でも、銀の温もりはやっぱり好きだ。
私も銀の背中に手を回し、そっと抱き合う。
「ねえ、銀・・・」
「なぁに?」
「私達・・・ずっと一緒だよね?」
銀はキョトンとしていたが、すぐに笑みをこぼす。
「ええ、勿論よ」
「嬉しい・・・」
離れ離れなんて考えられない。
ミッションの時も、一人じゃない。
ずっと、銀は私の側に居てくれる。
だよね?
「じゃあ、夕飯に急ごう?」
「ええ、競争よ!」
そう言って、銀はすぐさま飛び出した。
「あ、ずるい!」
「ほらほら、急ぎなさーい」
遠くに行ってしまいそうな銀を、私は追いかけた。
二人で笑っている、この時が永遠に続くと信じて・・・・・
その部屋は、機械で一杯だった。
あらゆる所にモニターやキーボードが並び、その画面には絶えず何かの映像やデータが映っている。
そこには、一人の男性がいた。
男は椅子に座り、何か画面を見つめていた。
「赤梨砂弥・・・か。どれ、少し遊んでみるかな」
男の顔が、笑みを浮かべた。
それは、何か面白いものを見つけた時の、歪んだ笑みに近かった。
という訳で、砂弥の妹、飛石が登場しました。
最後に出て来た謎の男。
その正体は・・・バレバレだったらどうしようww
足利花菜 CV.清水愛
赤梨飛石 CV.釘宮理恵
では、また次回で!!