life11.妖怪編-残光の百鬼夜行
またこの日がやって来た。
次のミッションの日が。
今日も生徒全員がモニターの部屋に集まっていた。
私は念入りに銃の手入れをしていた。
こういうことをキッチリしておかないと命に関わる。
「砂弥・・・」
後ろから名前を呼ばれる。
振り返ると銀が立っていた。
「どうしたの?」
「その・・・気をつけて」
「・・・ありがとう」
それをわざわざ言いに来てくれたのか。
なんだか恥ずかしいな。
「大丈夫、絶対帰って来るから」
「・・・約束よ?」
銀は私を少し抱きしめると、背中をポンポンと叩いて手を離した。
暫くそうしていると転送が始まった。
でも、転送が終わるまで、もう少しこのままでいよう。
あったかい温もりに身を委ねつづけた。
「ここは・・・」
都会よりは田舎と言った方が正しいだろう。
道路などは整備されているものの、近くに綺麗な川や田んぼがある。
ここで何を倒せばいいのだろうか。
私は警戒しながらも前へ歩きだした。
暫く歩くと、微かにだが枇杷の音が聞こえ始めた。
桜でも演奏しているつもりだろうか。
確かに大体合ってはいるが所々音を外している。
そうこうとしていると、音の正体に出くわした。
ボロボロの着物を纏い、全身真っ青とした人型の生き物が枇杷を弾いていた。
「・・・・・」
枇杷法師は私に気付くと、荒々しく枇杷の弦を弾き始めた。
すると、枇杷法師の周りに青白い人魂が現れ、一斉に私に向かって飛んできた。
すかさず人魂に照準を合わせ、トリガーを引く。
赤い火の玉が発射され、人魂を次々と撃ち落としていく。
枇杷法師に接近し、近距離で押し切ろうとする。
しかし、枇杷法師は枇杷の先端を握り、私に振り下ろしてくる。
咄嗟にバリアを張り、枇杷を防ぐ。
枇杷との衝突でバリアがバチバチと音をたてる。
「(このままじゃ、埒が明かない・・・)」
私はバリアを解除し、刹那、枇杷法師の手から枇杷を蹴り落とす。
そして、銃口を枇杷法師に向け、水を発射する。
水に呑まれた枇杷法師は壁に押し付けられる。
そして、間髪入れずに電撃を撃つ。
さっきの水の影響で電撃の威力が増し、枇杷法師は大量の電気に感電する。
枇杷法師は全身火傷で黒く染まっていた。
死んでるとは思うが、万が一生き残っていると危ないので、枇杷法師の頭を銃で数発撃ち抜く。
安心した次の瞬間、上空から熱気を感じる。
前方に飛び込むと、ついさっきまで私が立っていた場所に何かが落下した。
円形の火車とその中央にある真っ赤な顔。
顔は厳つい表情に髭を生やした男の顔。
昔何かの本か何かで見たことがある気がする。
多分、輪入道だろう。
輪入道は私に突っ込んできた。
しかし避けるのは簡単だった。
上に高くジャンプし、銃を真下にいる輪入道に向ける。
輪入道は浮上し、私に向かって来たが、真っ直ぐ来るので攻撃のチャンスだ。
私は銃剣にして構え、そのまま真下に振り下ろす。
刃は輪入道に直撃し、真っ二つに体が切り裂かれる。
地面に着地し、標的を探して走り出す。
その頃、田美と一平は町を歩いていた。
辺りに変わった物は無く、ただ普通の家や電柱が並んでいるだけだった。
「早く、終わって学校に帰れるといいね」
「はい・・・」
田美は浮かない顔をしていた。
空君が心配なのだろうな。
と一平は思った。
本当はこんなことなくてもいいはずなのだ。
ただ皆と笑ってあそこで暮らせればそれで幸せなのに・・・
と考えるのは死人には贅沢すぎる話か。
その時、何か歌が聞こえた気がした。
「さーっちゃんはねー。さちこって言うんだよ本当はねー・・・」
田美は思わず顔を上げた。
その視線の先には・・・
一本の電柱があった。
そして、その一番上に、誰かがいた。
黒いミニのワンピース。
黒髪のショートヘア。
そして薄暗い黒の瞳。
傍から見るとかわいらしい少女だが、一発で危険だと判断出来た。
なぜなら・・・
彼女の手には大型の鎌が握られていた。
「まあ、私の名前はさちこじゃなくてさっちゃんだけどね」
さっちゃんはうっとりとした表情で鎌に顔をすりすりさせた。
そして、目線を田美達に向けて、口を開いた。
「ねぇ、首を切らせて?」
その頃砂弥は町内を歩いていた。
あれから数匹の妖怪を倒し、今また敵を探している最中だ。
「前のミッションで0点になっちゃったし、早いとこ100点取らないと・・・」
もうこんなミッション何回もしたくない。
前回のことで良く分かった。
一刻も早く終わらせなければ。
と思った所でレーダーを取り出す。
「そういやボスってまだ見つかんないのかな?」
レーダーを覗き込む。
すると・・・
この先を右に曲がった所に黄色い点が三つあり、その近くに・・・
虹色の点があった。
「ボス・・・」
この先にボスがいるんだろうか。
なら、先に来ている人と協力して・・・
と思った時、
目の前を何かが通り過ぎ、次の瞬間グチャッという音がした。
それは生徒で、見るも無残な姿をしていた。
腹や肩は何かが貫通したかのような穴があり、全身切り傷か何かで血まみれだった。
これを見て恐怖を感じたが、尚更他人に任せることは出来ない。
そう思い、意を決して右を見た。
そこには・・・
二人の生徒が相手に挑んでいたが、相手は爪を伸ばし、一人の生徒を切り刻む。
そしてもう一人の生徒を掴み、口から赤い衝撃波を放ち、その人の肩から上を荒々しく切断する。
私はそれを見て動くことが出来なかった。
あいつは・・・今までの奴とは格が違う。
呆然とする私に気付いたのか、そいつは側の電柱に手を付き、顔をこちらに向けて聞いてきた。
「ア゛ダシ゛キ゛レ゛イ゛?」
長い髪は血で紅く染まり、来ている赤いロングコートも返り血でより紅に染まっている。
何より特徴的なのはその耳まで届きそうに裂かれた口だ。
その見かけ通りに私に質問してきた。
すでにマスクは外れていたが。
一方裂空は当てもなくぶらぶらと歩き回っていた。
「ったく何で俺がいちいち・・・」
裂空はミッションが嫌いだった。
生き残るためにわざわざ危険な敵と戦うのが嫌だった。
だからいつも戦いは避けて、ただその辺をぶらつくだけだった。
ただ、今日はいつもと違い、心の中にモヤモヤとした物があった。
「・・・田美ちゃん、大丈夫かな・・・」
どうしても田美ちゃんとおっさんが気になる。
今まで誰が死のうとたいして気にも止めなかったが、今は不安で仕方ない。
その時、遠くから悲鳴が聞こえた。
「うわあああああああ!!!」
「今の・・・おっさんの声!?」
裂空は声のした方へ駆け出した。
やがて河川にたどり着き、裂空は樹に隠れて様子を伺った。
「ほらほらー。もっと血しぶき上げてよー」
さっちゃんは退屈そうにしていた。
一平は肩に傷を負っていて、田美は両手から血が流れていた。
一平は自分の持っているロケットランチャーを盾にしているようで、攻撃はしていそうになかった。
「おっさんの武器じゃ素早そうなあいつに当たらないか・・・ってそれどころじゃ・・・」
気配で分かっていた。
あれは相当ヤバい部類だ。本来ならここで見なかった振りをして逃げていく所だ。
しかし・・・
「おっさん・・・」
あそこには恩人と、
「田美ちゃん・・・」
俺の・・・・・
俺の好きな子がいるんだ。
「・・・・・」
それは、震える俺の手を静めるには充分な理由だった。
「じゃあねー。お二人さーん」
さっちゃんは大鎌を振りかぶり、二回振るった。
円形のエネルギーで出来た刃が二つ、一平と田美に向かう。
もう駄目かもしれない。
田美はそう思った。
「クー・・・」
頭の中に浮かんだのは、自分の想う彼のことだった。
その時、何かが自分達の前に立ったと思うと、二つの刃を剣で弾いた。
「!?」
「んー?君、だーれ?」
田美と一平の前に立った男・・・
裂空は剣を両手で握り、さっちゃんに向けて構えた。
田美の目には、先ほどの剣の残光が焼き付いていた。
砂弥は、目の前の女から目が離せなかった。
これ程の恐怖は、桃太郎以来か。
「・・・銀」
頭に浮かんだのは、自分の愛しい人の顔だった。
砂弥と裂空。
二人はかつてない強敵に、対峙していた。
さっちゃんはなにげにお気に入りだったり。
妖怪編しか出番が無くて寂しいです。
次回はほぼ戦闘です。
迫力あるバトルが書けるといいなぁ・・・
では、次回をお楽しみに。