life10.妖怪編-Happy carnival
辺りはがやがやと賑わい、それに応じた多くの人が行き来している。
何故こんな多くの人で賑わっているのか。
理由は今日が四校交流文化祭だからである。
辺りには普段見かけない制服の人がいっぱいいる。
私は黒楼学園の外に出る気はもっぱらなく、適当に歩いていたが、やはり色々な制服を見ると、他の学校にも興味が沸いて来る。
まぁ、それでも他校に行く気はないのだが。
理由は今私が探している人だ。
中庭に出て辺りを見渡す。
流石に中庭は屋台の設置場所として人気なのか、さっきよりも人で賑わっている。
キョロキョロと彼女を探すが、一向に見当たらない。
一体何処にいるんだろう。
そう思った時、後ろから肩を突かれた。
「銀なら、多分今は見付けられないわよ」
乃璃香さんがいた。
そうか、銀は今見付からないか・・・って、
「何で私が銀を探してるって分かるんですか」
「貴女の事はそこそこ見てきたもの。いつも落ち着いた砂弥ちゃんがやけに必死でキョロキョロしてるんだもの。銀の事探してるとしか思えないわ」
私はそれに「うっ」、と詰まる。
反対したいがその通りなのでどうしようもない。
「で、銀は何してるの?」
乃璃香さんに聞いてみる。
銀の事に関しては乃璃香さんが1番詳しいはずだ。
「・・・時間になったら知らせるから、今は文化祭を楽しんで頂戴」
しかし、乃璃香さんはバツが悪そうに答えた。
少し気になったが、まぁ乃璃香さんの言う通りかもしれない。
今の内に色々見て廻っておくべきだろう。
「じゃあ乃璃香さん。また後で」
「ええ、また」
乃璃香さんと別れ、私は校舎に入っていった。
文化祭は二週間前から準備が始まる。
つまり前のミッションのさらに前から準備が始まっていたのだ。
もっとも私はマーメイドの後は風邪が怖くてあまり外に出なくて、桃太郎の後はそんな事出来る状態じゃなかった。
よって私は文化祭の出し物を全くしない遊び組だ。
しかし、私のような人は沢山いる。
というのも文化祭に何かやるかというのも全て自分で勝手にやるものなのだ。
つまり最悪の場合、屋台も出し物もないという事態もありえる。
でもやはり出店で文化祭っぽい事をしたいという人はいるもので、やはり毎年きちんと文化祭は機能しているのだ。
・・・・・と、以前乃璃香さんが言っていた。
いや、銀に聞いたんだけど何故か乃璃香さんが先に答えただけ何だけど。
ただ、今はそれでいいと思っている。
だって乃璃香さんの言うことの方が信用出来るんだもん。
その時、前に白馬とルーンが歩いていた。
二人も私に気付いたのか、こちらに近寄って来た。
「砂弥、文化祭は楽しんでる?」
「うん。二人はデート?」
とりあえず聞いてみる。
いい加減二人のことははっきりさせておかないと。
「デ、デートって・・・そんな・・・」
「あー、まぁそんなもんよ」
白馬が返答に困っていると、ルーンが意外にもあっさり答えた。
なるほど、そういう関係か。
「で、どうなのよ。その後は」
「その後って・・・?」
「決まってるでしょー。輝合石さんと上手くいってんのかって話」
「う・・・」
ルーンの質問はキツイものがあった。
そりゃあ、前よりはマシだろうけど今はどうだろう。
私は銀にとって本当に大切なんだろうか。
もちろん前の時の言葉は忘れない。
今でも信じるしかない。
「じゃあ砂弥、バイバイ」
「また会いましょう」
ルーンと白馬は黒楼学園とは正反対へ去って行った。
なんだか上手いことはぐらかされた気がする。
仕方ないので私は再び黒楼学園に戻ることにした。
その時、ふと前にいる一人の人に目が止まった。
真っ白な髪をツインテールでまとめ、瞳は冷たい氷のような印象を与える。
どうして気になったか分からないが、特に気にすることもないだろうと歩き、すれ違った瞬間
「!!!」
突然、心臓が止まるかと思うくらいの圧迫感を感じ、地に膝を付いた。
「・・・大丈夫かしら?」
「・・・ちょっところんだだけです」
この人から逃げるように私は足を進めた。
一体あの人は何者だったんだろう。
校舎内に入り、行く当てもなく歩き回っていた。
たまにジュースを買ったもののすぐに飲みきってしまう。
また何か飲もうかな。
そう思って、階段を降りていると、誰かにぶつかってしまった。
「あっごめんなさい」
「い、いえ。大丈夫です」
その子は手にプリントを抱えていたらしく、踊り場にプリントが散らばってしまった。
私も悪いので一緒に拾い、ある程度整えて差し出した。
「あ、ありがとうございます」
・・・はて、この子、何処かで会ったような・・・
そこで私はフッと思い出す。
「あの、もしかして東北道さん?」
「・・・あ、赤梨さんですか?」
やっぱり、誰かと思えば東北道さんだ。
印象が変わったから分からなかった。
東北道さんって眼鏡で隠さなかったら、結構・・・というかかなりかわいかったんだ。
「これ何?」
「えっと、次の学芸会に関する資料です。山吹先生に黒楼学園から受けとって欲しいって頼まれて・・・」
へえ、学芸会なんてあったんだ。
全然知らなかったや。
「赤梨さんはここで何を?」
「私は・・・その前に、私は名前で呼んで貰って構わないよ」
「ええっと・・・砂弥さん?」
「うん。それでいいよ」
以前の私なら名前で呼んでなんて絶対に言わなかっただろうなーなんて考える。
「で、私はなんて呼ぼう?東北道ちゃんって何か変だし・・・」
「・・ですね」
「田美ちゃんっていうのは?」
これならいいだろう。
そう思ったが、何故か東北道さんは困った顔をしている。
「その・・・田美ちゃんっていうのは・・・えっと・・・・く、クーが・・」
「え?」
「クーが呼んでる言い方だから、別にして欲しいなぁ・・・と」
つまりそのクーとやらに特別な呼び方をして貰いたいから変えて欲しいと・・・
青春だなぁ、と思いつつ問題が残っていることに気づく。
私は彼女のことをどう呼べばいいんだろう?
年下にさん付けは変だけど、それしかないよね。
「じゃあ、田美さんでいい?」
「あの・・・無理せず呼び捨てで構いませんよ?」
そっちの方が助かる。
じゃあ呼び捨てで行こう。
と思ったその時、何やら声が聞こえた。
「田美ちゃん?」
下の階を見ると、そこには緒存君がいた。
緒存君は田美に駆け寄り、会話を始めた。
「おっさんに田美ちゃんの手伝いしろって言われたんだけど・・・ああ、このプリントか」
そこまで言うと、ようやく私の存在に気付いたようだ。
「ん?お前・・・ああ、赤梨か」
「どーも」
確か緒存君の下の名前は・・・緒存裂空。
ああ、だからクーなのか。
「久しぶりだな、お前色々噂が流れたぞ。何か人前で抱き合ったとか」
・・・誰だその噂広げた奴は。
いやまぁ、事実だけど。
後でかなり恥ずかしくなったけど。
とにかく話題をそらさないと。
「いや、そんなことより・・・」
「おーい、空君!」
また声が聞こえた。
すると山吹先生が走って来ていた。
とりあえず話は逸れただろう。
「探したよ。ああ東北道さん、もう私が持つから。悪かったね、無理させて」
「いえ、そんな・・・」
「気にすんなよ、おっさん」
「何でアンタが言うのよ」
緒存君に突っ込む。
すると急に目の前が真っ暗になる。
誰かに目を塞がられてるようだ。
「だーれだっ」
大人っぽい澄んだ声。
聞き慣れたから分かるが、この人のこんな楽しそうな声は聞いたことがない。
「もう、乃璃香さんまでふざけないでくださいよ」
手を振りほどいて振り返ると、そこには乃璃香さんがいた。
「あら、冷たいのね。砂弥ちゃんに嬉しいニュースを伝えに来たのに」
「嬉しいニュース?」
乃璃香さんに聞き返す。
どうしたんだろう。
「もう銀に会えるはずよ」
「本当!?」
と、周りをみる。
皆こっちを見ている。
しまった、大声出し過ぎた。
「そ、それじゃあ私、行って来るから。バイバーイ」
我ながら苦しい逃げ方だが、まぁ仕方ないだろう。
その場を逃れるために速度を上げる。
「相変わらず面白い子ね・・・あ、お父さん、私も手伝うわ」
「悪いね乃璃香。ちょっとお願いするよ」
乃璃香は一平の持っているプリントの山から半分程取り、それを持って一平と運び始めた。
その場には裂空と田美が残った。
「・・・皆行っちゃたね」
「また会えるだろ・・・あー、それより田美ちゃん」
「何?」
田美は首を傾げる。
裂空は柄にも合わず緊張しているのか、何回か深呼吸した後、話し出す。
「よ、予定ないなら、今からでも一緒に文化祭まわろうぜ」
「・・・うん!」
田美は顔を赤らめると、精一杯の笑顔を見せる。
その顔を見て、やはりドキドキしている自分がいた。
急いで銀の所へ行かなくちゃ。
なんて思って飛び出したけどさぁ、
「銀って何処にいるのよー・・・」
そういえば乃璃香さんに場所を聞くのを忘れていた。
私ってやっぱり抜けてんのかなー・・・
憂鬱になりながら歩いていると、誰かが私を見ている事に気付いた。
その子の容姿は髪がシアンのロングヘアで・・・って、この時点で既に見覚えが・・・
「あのー、もしかして貴女銀にセクハラされたりなんかは・・・」
「あ、あの時の!」
どうやらあの時の人で間違いないらしい。
まさかこんな所で会うなんて。
「あの時はありがとうございました。もう本当にあの人には困っていて・・・」
恥ずかしそうに頭を掻いている。
この人は銀の知り合いか何かだろうか。
最初は気付かなかったが、今考えるとこの人、そこまで嫌がってなかったように思う。
「ねぇ、貴女と銀ってどんな関係?」
「申し遅れました。私、輝合石銀の親戚の足利花菜です」
親戚だったのか。
雰囲気が全然違うから気付かなかった。
「あの、宜しければ貴女様のお名前を・・・」
「私は赤梨砂弥」
「・・・いいお名前ですね。本当に素晴らしいです」
花菜ちゃんは私をキラキラと輝いた目で見てくる。
そんなに私の名前っていい響きなのだろうか?
「あの、もしよければ、もっと砂弥様のことを・・・」
そこまで言った所で花菜ちゃんの口が止まる。
後ろを振り返ると、乃璃香さんがこちらに向かって来ていた。
「砂弥ちゃん。ごめんなさい。うっかり銀の場所教えるの忘れてたわ」
やっぱり銀のことか。
「もう、しっかりしてくださいよ」
「フフ、ごめんなさい。でも許して頂戴。誰にでも失敗はあるでしょう?」
私は頬を膨らませて抗議するが、乃璃香さんは笑って済ませた。
まぁ、どちらかと言えば居場所を聞かなかった私が悪いんだけどね。
「銀は一階の温室にいるはずよ」
「乃璃香さん、ありがとう。ちょっと行ってきまーす」
私はすぐさま温室目指して走り出した。
一秒でも早く銀に会うために。
「相変わらずせっかちなのねぇ」
私はお父さんの所へ戻ろうとした。
そもそもお父さんの手伝いの途中で急に抜け出して来たのだ。
急いで戻らないと、と思った所で花菜ちゃんに呼び止められた。
「あの、山吹さん。貴女って、もしかして・・・」
「・・・?何かしら」
「い、いえ。何でもございません。失礼します」
花菜ちゃんはそそくさと退散していった。
何だったのだろう?
「えーっと温室温室・・・」
私は温室を探し回っていた。
温室の管理は以前まで教師がしていたが、半年前からは銀が世話をしているようだ。
学校の地図によるとこの辺りのはずだが・・・
と思い周りを見渡すと
「・・・は?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
いや、だって
入口の上に
『サボテン同好会展示場』
なんて書かれてるとは思いもしないだろう。
本当にこんな所に銀がいるんだろうか。
疑問を抱えつつ中に入ってみる。
「うわあ・・・・」
私は痛々しげに苦笑いした。
辺り一面仙人掌だらけ。
しかも目の前に・・・
「ようこそ砂弥。我がサボテン同好会へ」
頭に仙人掌の被り物被ってる銀がいるんだから。
「何してんの」
「サボテンよ。見て分からないの?」
いや、馬鹿でも分かるよ。
一番大切なのは銀がそのふざけた被り物を被って平然としていることだ。
「こうやって形から入ることでサボテンの気持ちが分かるのよ」
やっぱりこの人馬鹿だ。
そう思わずにいられない。
「一応聞くけど、サボテン同好会って会員は何人いるの?」
「私と、乃璃香と、そして今貴女が入ったわ」
私は入ってない。
というか絶対乃璃香さん無理矢理入れられたに違いない。
「ったく、こんなのに時間掛けてたなんて・・・」
「あら、砂弥ったら拗ねてたの?もー、かわいいんだから♪」
う、うれしくない。
何が悲しくて頭に仙人掌つけた奴に抱き着かれなきゃいけないんだ。
「・・・馬鹿」
でも体は正直なようで。
銀の腕の中に包まれると、何故か安心する。
「・・・砂弥」
「・・・なぁに?」
銀はそっと私の耳に唇を寄せる。
「貴女が今私の側にいる。・・・それが本当に、嬉しい」
銀の一言一言が私の耳に突き刺さる。
意味を理解すると沸騰しそうだから少し聞き流しておこう。
「・・・銀」
「・・・なぁに?」
銀はさっきの私みたいに聞き返してくる。
「・・・好き」
今思っていることを素直に口に出した。
きっと今の私が、本当の私だから。
文化祭は終わりを迎え、今は後夜祭の真っ最中だった。
多くの男女が恥ずかしながら、しかし幸せそうにフォークダンスを踊っている。
それを少し離れた場所で山吹親子が眺めていた。
「お前に色々手伝いさせて悪かったね」
一平が乃璃香に話し掛ける。
「いえ、私は暇でしたんで」
乃璃香はキャンプファイヤーを見つめながら答えた。
娘から目を外し、一平はフォークダンスを踊っている生徒達を見る。
その中には裂空と田美もいた。
空君のあの初々しい顔が見られるとは今まで思っていなかった。
東北道さんもあんな幸せそうな表情が出来るとは・・・
この光景が見られて良かった。
と思うと同時に、自分も年寄り臭くなったな、と自嘲した。
今夜のような、穏やかな時が続くよう柄にもなく、一平は祈ってみた。
「さて・・・」
すると、乃璃香はスッと立ち上がり、何処かに向かって歩き出した。
「乃璃香、花火がもう始まるよ」
「ええ、一緒に見たい人が・・・いえ、一緒に見たい人達がいるんです」
「・・・なら、行って来なさい」
乃璃香はサッと頭を下げると、何処かへ走り去って行った。
一平は星空を見上げた。
もうすぐ、この空も更に賑やかになるのだろうな・・・
中央グラウンドから少し離れた黒楼学園の丘に砂弥と銀は来ていた。
オクラホマミクサーが微かに耳に届く。
二人は芝生に座り、海を見ていた。
「砂弥、もうすぐ海の向こうから大きな花火が上がるのよ」
「・・・あんな所から、誰がやってるの?」
「さあ?噂では理事長が手配してるって話だけど」
その話は初耳だ。
というか理事長って誰だろう。
乃璃香さんや銀によると、誰も理事長の顔を見たことがないらしい。
「フランシアなら見たことあるって噂だけど・・・」
「フランシア?誰それ?」
「そうね・・・貴女と互角か、それ以上の天才よ」
ふーん、そんな人がいたんだ。
でも私以上って、そんな・・・
少しムッとして銀を見る。
すると私の視線に気付いたのか、銀はクスッと笑う。
「安心して。私にとっては砂弥が一番よ」
「っ!!?」
顔が熱くなる。
同時に噴火するかのようにボッと顔が赤くなる。
一体平然として何を言ってるんだこの人は。
「・・・馬鹿!」
「はいはい」
チラッと銀を見る。
銀は依然こっちを向いていて、目線を外そうとはしていない。
銀と目が合う。
もう目が離せなくなる。
「花火、そろそろだね」
「ええ。そうね」
お互いの距離が狭くなる。
フォークダンスの曲が終わりを迎えようとしている。
「・・・・・」
「・・・・・」
きっと、言葉は必要ないのだろう。
このいつまでも酔いしれていたい気持ちがあれば他は何もいらない。
そして曲は終わりを迎えた。
終わるや否や花火が打ち上げられる。
花火が空中で輝くと同時に、私達の距離はなくなった。
口にすっぱい味がしたような気がした。
いや、それは気のせいかもしれない。
だって、今の私は、まるで頭が溶けるような甘い感覚に陥ってしまったのだから。
再び二人に距離が生まれる。
私達は互いに赤く染まった顔を見る。
言葉が出ない。
ただ、この瞬間、私達はこのままで充分幸せなのだろう。
「あらお二人共、こんばんは」
その時、突然声を掛けられた。
焦って反射的に振り向くと、そこには乃璃香さんがいた。
「の、乃璃香さん!」
「乃璃香・・・・・貴女覗いてたでしょ」
私達は口々に乃璃香さんに問い詰める。
しかし、乃璃香さんは冷ややかに返答する。
「あら、失礼ね。私はただ盗み聞きしてただけよ」
「同じじゃない」
二人は普通に会話しているが、私は動揺してあうあうと慌てる事しか出来ない。
「何よ、こんな所でイチャイチャしてるのが悪いんじゃないの?」
「でも、ひ、酷いよ乃璃香さん!」
「そうよ、大体貴女は前から・・・」
「それを言うなら貴女だって・・・」
花火を背景に、私達はガヤガヤと口喧嘩を始めた。
ただ、発し合う暴言に殺傷力はなく、ただただ全員笑うだけである。
私達はきっと、この時が大事なのだろう。
私も、銀とふたりきりの時は好きだけど、今の三人でふざけ合う時間も大好きだ。
空に広がる花火は、そんな私達を祝福している気がした。
キャラ同士の関係が定まってきました。
この先、砂弥達はどうなるのか・・・期待してて下さい!