一蹴 ヴァイオレット・エヴァーロッテンマイヤー5
西暦2025年7月5日。何か地震だの隕石だの火山噴火だので地球が滅ぶとか何とか言われていたが、全くそんなことはなかった。しかし、こういうノストラダムスの大予言的なことについて一つ言いたい。外した時めちゃくちゃ恥ずかしいよな。いやだって当たったとしても誰からも賞賛されないし、自身が当たったと気付いた時にはもう脳が知覚できずに世界が崩壊しているかもしれない。つまり、外れたら恥ずかしいが当たっても特に旨味がない、ハイリスクノーリターンなのだ。つまり本来はやる意味がない。と思うのもまた違うかもしれないとも考える。何故なら、外れたら恥ずかしいというのはその予言者の主観によるものであり、そいつがそれを嬉しいと思わないとも限らない。外れたことをネタに有名人になったりして知名度や人気などを獲得することも可能だろう。さらにそれだけではなく、世界を扇動できるという旨味も実はあるのだ。そう、世界を一時的とはいえ賑わせることができる。これは仮に世界が滅んだとしてもリターンといえるし、滅ばなくてもその時のことは思い出として歴史として遺る。ゆえに見方によっては前述のハイリスクノーリターンというのは間違いともいえ、この話は不毛だったともいえる。いや、それも思考実験の一つとして考えれば全くの無意味ではない。本当に無意味なことなどこの世にはないのではないか。そんな途方もないスケールにこの話は落着する。
「えー? 滅んでないですよ、お嬢様―!」
「え? ヴァイオレット・エヴァーロッテンマイヤーさんガチであれ信じてたの? 毎度毎度思うけどヴァイオレット・エヴァーロッテンマイヤーさんって小学生みたいな感性で可愛いよね」
「えー? 可愛いですかー?」
ヴァイオレット・エヴァーロッテンマイヤーさんは可愛いという褒め言葉を素直に受け取る。そう、こういうところが本当に小学生のようで可愛いのだ。
「ウラララ‼ 様も可愛いですよー」
「えー? どういうところがー?」
「ええと、お嬢様で、ゴールキーパーで」
「他には?」
「ええと」
ヴァイオレット・エヴァーロッテンマイヤーさんは泣き出してしまう。違うのだ。彼女は自身の思考力が乏しいことを嘆いている訳ではなく、大好きなお嬢様の大好きなところを上手く言語化できない自身の頭の悪さを悲しんでいるのだ。
「うわああああああああああああああああああん、私はうんこだああああああああああああああああああああああああ‼ ウンコレット・エヴァークイックルワイパーだああああああああああああああああああ‼」
「奇跡的に上手いことを! やっぱヴァイオレット・エヴァーロッテンマイヤーさんはただの馬鹿じゃないよ! 天才性を併せ持つタイプの馬鹿だよ!」
「え? そうなのですか?」
「そうだよ!」
「えへへー、嬉しいー」
ヴァイオレット・エヴァーロッテンマイヤーさんは照れて頭を掻く。ウラララ‼ は一安心して胸を撫で下ろす。これがきかっけでヴァイオレット・エヴァーロッテンマイヤーさんが自身を無くし、仕事を辞めでもされたら困る。自身の世話をしてくれる人がいなくなると不便だ。というのも確かにあるが、ウラララ‼ 自身もメイドとしてずっと付き合ってくれていたヴァイオレット・エヴァーロッテンマイヤーさんに思うところがある。というより好きなのだ。人間的に。彼女はドールではない。ヴァイオレット・エヴァーロッテンマイヤーというれっきとした人間なのだから。