死に神
「私が何者であるか、分かるかね?」
「ようやく声が聞けましたね、見守る者よ」
現実と夢との境界。
「肉体が見る世界」を現実と呼ぶのなら、
「魂が見る世界」を夢という。
夢は「虚空」をその所在とし、
現実もまた、虚空より生まれ落ちる。
虚空とは、いわば、不可視の「場」。
その場には、無限にも等しい「エネルギー(=ダークマター)」が、霧のように存在する。
さて、ここからが本題だ。
いま目の前に立っている「死神」についての。
―― いや、彼は私の死に際し、現れた「自身に由来する神」とでも呼ぶべきか。
私は、よく知っている。
これまでにも何度も、私の「夢の中」に現れた、この男を。
「私が、こうして君の目の前に現れた意味が分かるか?」
「私が貴方の跡を継ぐ……ということでしょうか?」
「私は、次なる世界へと向かう」
「これまで幾度となく、ありがとうございました」
「ならば、これを―― 」
男が、大きな鎌を私に手渡す。
因果を断ち切り、
時空をも切り裂く、クロノス由来の大鎌。
誰を「観測」しようとも、構わない。
だが、見守った者の人生の発色で、
観測者の「次に向かう世界」も変わってくるという。
私の「誕生から死まで」を見守った男。
次は、いかなる世界へと向かうのか?
男と、手のない握手を交わし、
私はひとまず、新たな「対象者」を求め、今よりも遠い未来へと、跳躍してみることとした。