第三話 『運』ってなぁに?
気がつくと俺は自宅にいた。
ダンジョンゲートのあったペットの横、地べたに仰向けになっていた。
こういうときなんて言うんだっけか。
「見慣れた天井だ……」
いやちげえな。
ただいまだな。
じっちゃ、ばっちゃただいま。
俺は無事ダンジョンから帰宅しましたよ。
「よく分かんないけど変な石像いたな……」
思っていたダンジョンの認識と違ったな。
個人的には洞窟みたいなジメジメとした場所でモンスターとの戦闘を繰り広げたりするみたいな。
実際戦う気で斧担いでたし。
あの石像の存在だけは知っていたが、まさか石像しかいないダンジョンだとはな。
なんかこう、隠し部屋にいるもんかと思っていた。
というかなんであの石像しかいなかったんだろう。
しかもそのダンジョンは俺の家に出現してるし。
まるで俺と石像を合わせるためだけのダンジョンという意図を感じるような。
突然すぎて何が何だかわからねえ。
あんま実感ねえな。
「にしても運かあ」
願いとかいうから、常日頃思っている運をくれなんて言っちまった。
だってギャンブルだけで生活したいんだ。
そのためには運が必要だろうが。
俺は運が悪いんだ。
ってか石像に『運』を与えられたあと、ダンジョンから吐き出された。
ひょっとしてダンジョン消えちゃったのか?
なんて思い、身体を起こしペットを見やる。
「あれ……ちゃんとあるな」
ダンジョン亡くなっちゃったろうなーなんて思っていたが、まだ残っているじゃねえか。
中はどうなっているんだろうか。
石像はもう無いはずだ。
だから石像のないあの空間に行くのか、また別のダンジョンにいくのか。
好奇心に駆られまたダンジョンに入りそうになるが堪える。
だがその前に、
「本当に『運』が付与されたんか試さなきゃなぁ!」
この家にはヘソクリと称して、お金を家中に隠してある。
これはじいちゃんがやったようだ。
ヘソクリがばあちゃんに見つかると、没収されるから分散させて隠してたって理由がある。
これは家を受け渡されるときにじいちゃんから聞いた話だ。
そして、その一つであるサボテンの鉢植えの中から諭吉を一枚取り出し、早速パチ屋に向かった。
◇
「ただいま……」
俺はしょんぼりとした足取りで帰宅した。
結果は全負けである。
「クソ、絶望を打ち砕くことには俺はできなかったか」
主題歌流れるたびに毎回今度こそ大当たりキター! つって期待しちまうんだよ。
ってか主題歌流れんなら当たってくれよ。
なんなら俺は鬼がかりてぇんだ。
海だと割と当たったけどなあ。
「ってか運上がってなかったな」
そう。
俺は運は上がっていなかった。
時々当たりはしたが、収支はマイナス。
しかも全額なので結果は全負けだ。
普段と何ら変わりない。
「一応運を授けられたはずなんだがなァ」
考えられることとしては、もらった『運』はダンジョン内でしか発揮できないとか。
いや、それはない。
ダンジョンで手に入れた力。
例えば魔法はダンジョン外でも使えるはずだ。
その証拠に魔法で料理をする動画が、SNSを中心に人気だからだ。
それとバ先の先輩も魔法が使えて、目の前で使っているところを見たことがある。
だからそれは無いはずだ。
だったらなんだろう。
ダンジョンでお宝が手に入りやすくなる、とか?
もしくはレアモンスターと邂逅できる、とか?
ダンジョンに限らずだが。
そういう、俺にとってラッキーなことが起こる力だろうか。
「わっかんねえなぁ」
少なくともパチンコでは大当たりの確率か上がるとかそういったアレではなかった。
ん、確率?
そうか、分かった。
多分与えられた『運』ってやつは、確率を上げるものではない。
つまるところ、ガチャやくじ引きで望んだ結果を引き当てるという『運』ではないのだろう。
今のところ貰った『運』の効果内容はこんぐらいだな。
ただ、ダンジョン由来の『運』なら、ダンジョン内で活躍する『運』ということは俺でもわかる。
ダンジョンに行けば分かるならダンジョンに行くしかないな。
都合のいいことにすぐ近くにあるんすわ。
善は急げ、とは思ったがあの石像の影響か、すごく身体がダルいのでやめて、次の日行くことにした。