第一話 自宅に帰ったらダンジョンがあったんですけど
「全部スっちまった」
俺は二十歳のナイスガイの玉城優太、フリーターだ。
現在財布が空になった、かわいそうな人間でもある。
「ったく、せっかく主題歌流れてんだから絶望くらい打ち砕けよ」
金なし、友達なし、これといった特技も才能もなし。
勉強はもちろん、運動もできるわけじゃない。
無い無い尽くしのパチンコ好きだ。
唯一あるものと言ったら右ポケットに入っているこのチョコレートくらいだな。
換金に足りなかった分の玉がチョコレートに化けたんだ。
「とりあえず家帰るか」
手元からお金が無くなった訳だが、とりあえず家に帰えるとするか。
チョコレート片手に、カラフルなネオンで彩られた街を徘徊しながら俺は家に帰った。
◇◇
「ただいま」
自宅に帰るなり、そう呟く。
ここは亡き祖父の残した一軒家で、現在は俺しか住んでいない。
結構ボロボロで古い家だが、住み心地抜群。
住めば都ってやつだな。
そのまま俺は風呂に入り、寝る準備を済ませて寝室に向かうと、あるはずのないものがそこにはあった。
「何だこれ……」
そこにはなんと、大きなゲートが。
「これってもしかして」
ダンジョンじゃないか!?
電気屋のテレビでチラッと見たことがある。
ダンジョンっていう別の空間に行ける通路みたいなのがあるって。
その入り口がこんなんだった。
「なんでこんなところにダンジョンが……」
俺は戸惑っていた。
だって家に帰ったらダンジョンが出現していたんだから。
……どうしよう。
ちょうどベットの上にダンジョンあって寝れねえんだけど。
「とりあえず通報するか?」
と、口に出したところであることを思い出す。
そういえばバイト先の先輩が言っていたな。
ダンジョンはモンスターがいて、そいつらを殺すと手に入る魔石ってのが金になるって。
俺は考えた。
だったらこのダンジョンに入って金稼げば良くね?
このダンジョンは俺の家の中にあって、俺しか存在を知らない。
つまりは独り占めできるってことじゃないか。
だったら入るか?
いや、ひとまずは、
「寝るか」
俺は眠いんだ。
それにパチンコで身体が疲れているんだとりあえず寝よう。
そういうのは明日考えればいいんだよ。
ダンジョンのゲートに触れないように布団を取り出し、リビングで寝た。
◇◇
次の日。
リビングで寝て起きた俺は、もう一度寝室へと向かった。
昨夜は寝ぼけていたのかもしれない。
ダンジョンなんて普通自宅にあるはずが無いだろう。
そんな思いを抱えながら寝室のドアを開く。
「ちゃんとあるじゃねえか」
そこには昨日と変わらず、ダンジョンのゲートがあった。
なんとも禍々しい入り口だ。
やっぱりダンジョンが家にあるんだ。
俺だけのダンジョンが。
もうここまで来たら入るしかねえっしょ。
うまくいったら一攫千金が手に入るとか先輩言ってたからな。
多分お高いお宝とかがあるんだと思う。
いやあ、楽しみだな。
もしこのダンジョンが初心者ダンジョンだっけか、スライムやゴブリンなどのモンスターが出てくるダンジョンだったら大当たりだ。
これらのモンスターは魔法やスキルがなくても、武器さえあれば比較的簡単に倒せるモンスターらしい。
「つっても入るったって武器ないな」
そう思い、離れの物置をまさぐる。
比較的使えそうな斧を見つけた。
結構戦闘に使えると思う。
あとは身を守る防具として鍋を用意した。
最近買った軽くて丈夫なチタン製の鍋を用意。
これを頭に被り、片手には斧を装備。
見た目は変だが、俺以外見る奴はいないのでまあいいだろう。
朝飯はちゃんと食べた。
もしものための食料も用意した。
よし、突入する準備はできたな。
もし鬼とか居てもすぐに帰ってくれば大丈夫だろう。
難易度が高いところだったらすぐに帰ってくればいいからな。
「さあ、いくか」
そんなことで、俺は自宅のダンジョンに突入した。