第一話・傭兵の日常
色々あって遅くなりました、第一話です。
目覚まし時計のけたたましい鐘の音で、僕は6時ジャストに目を覚ました。
目を開くと見慣れた自分の部屋がぼやけて映る、そして朝一番に頭をよぎった事、それは……
「学校に行きたくないな」
こんな事を考えるようになったのは最近ではない。
もういい加減あいつらと顔を合わせるのはうんざりだ。
そう思いながらも僕は律儀に毎日高校に通っている訳だが、それは兄さんや姉さんに心配掛けたくないという事と将来まともな職業に就職するためには学歴が必要だという事を理解しているからだ。
もちろん僕が学校に行きたくないのには理由がある。
僕が教室の扉を開けると、中にいたクラスメート全員が僕を見る。
「来たぞ……」
誰かがそう呟いた。中には笑いを堪えている者もいる。
彼らがやる事の予想はついている。僕は周囲を警戒して教室に足を踏み入れた。
目を凝らして見れば見つけることは造作もない、今日の罠は机の脚と脚の間に張られたロープ。
御丁寧に転んだ後の着地点には画鋲が置かれてある。
僕はロープを跨いで自席についた。教室から落胆の声や舌打ちが聞こえる。
僕は机に突っ伏して目を瞑った。
目が覚めたら休み時間だった。
休み時間は退屈だ。まあ授業も退屈なんだけど、そもそも僕にとっては学校自体が退屈だ。
で、その退屈な学校生活の中で一番退屈な時間が休み時間。
1人も友達のいない僕が休み時間にすることなんて気分転換に屋上で景色を眺めるか、睡眠くらいしかない。たまに次の時間の予習をしたりもするが、落書きだらけの教科書は知識を提供する機能をほとんど失っている。それに「死ね」だの「バカ」だの「キモイ」等の文字はあまり見たいものではない。
昔は読書もしていたけれど持って来るたびに本を破られるので今は持ってくることはない。
「退屈だな…………」
無意識のうちに漏らした感想は誰の耳にも届く事無く、蒼い空に呑み込まれていった。
学校が終わり、僕は家に着いた。
兄さんも姉さんもまだ帰ってなかった。いつものことだが。
僕は鞄を机に置くと、制服のままベッドに寝転んだ。
苦痛でしかない学校から帰宅し、自分の部屋に着いたときが、一日の内で僕が一番心を落ち着かせることが出来る時間だ。
向かい側の壁に掛かったカレンダーをぼんやりと眺めていると、今日は「仕事」があったことを思い出した。
僕の家は兄さんと姉さんとの三人暮らしで、両親はいない。
父は散々僕たちを虐待した挙句家を出て行った。
母は僕が5歳の頃に病死した。
だから兄さんと姉さんは早々に学校を辞めて働いている、僕を養うために。
実は僕にも「仕事」がある。
近年日本の治安は悪化する一方だった。
昔は銃砲刀剣類所持等取締法とかいう法律があって、拳銃どころかナイフさえ出回っていなかったらしいが
僕が生まれる少し前くらいに起きた国会議事堂占拠事件を皮切りに国の危機管理能力の脆弱さが露呈。治安が急速に悪化。
そのうち、とうとう日本にも武装勢力なるものが結成されてしまった。今では凶悪な事件が後を絶たない。
テレビ放送局は今までの半数にまで減り、内容もコメディーなどのバラエティー番組は完全に駆逐されてしまった。
そこで日本政府は傭兵会社を結成を容認した。
過激派武装集団から身を護る力を必要とする者ために……。
……というのは表向きの話。
傭兵といってもほとんど特殊部隊みたいなもんで、年齢制限はない。少しでも人材が欲しいのだろう。
そして、そこに入ると言う事は、企業のための捨て駒にされるということ。
武装集団との衝突で死ぬのは当たり前、
時には傭兵同士の殺し合いも覚悟しなければならない。
政府に囚われない武装集団である傭兵会社も、所詮はただの武装集団の一つでしかないのだ。
企業の要人を殺せ、
企業お抱えの傭兵会社を殲滅しろ。
そんな事だってざらである。
故に、依頼にもよるが、この仕事は時間当たりの給料はかなり高い。
そこで、僕は2年前、14歳の時にその会社に所属した。兄さん達の負担を少しでも減らすために。
因みに、この事は兄さん達には心配を掛けたくなかったので『割の良いバイトを見つけただけ』という事にしている。
そして今に至る、今日は傭兵の仕事があるのだ。
服を着替え、鞄に必要な物をつめる。準備は整った。
僕は玄関の扉を開けた。目指す先は傭兵部隊の基地本部。
今日は兄さん達が早く帰ってくる日だから、さっさと仕事を終わらせて帰ろう……。
「よお、樹。今日来てたんだな」
そう声を掛けてきたのは家族以外で僕が唯一心を許せる戦友、高須賀圭だった。
「圭、久しぶりだね」
「ああ、えーと、1週間位あってなかったな」
僕の隣の席に座りながら圭が言った。
「にしても、今日もかわいいな~樹ちゃん~?」
「またかよ、最近気に入ってるんだな、それ」
昔は女の子みたいな外見のせいでよくからかわれたんだよな、
今ではこんな冗談を言ってくれるのは圭しかいない。
圭は僕と始めて出会った時の事を覚えているだろうか。
たしか僕を女の子だと思って声を掛けて、三日後に男だと知ったときの驚きっぷりがすごかったな……。
「お前、まだその銃使ってたのか」
「僕が初めての戦闘で使った記念すべき銃だから大事にしてるんだよ」
「いまどきリボルバーを愛用する奴も珍しいぜ、不便じゃないのか?」
「まあね、リボルバーはオートマに比べると色々と不便な所が多いけど、やっぱり僕はこの銃が好きなんだよ」
そういい終わると同時に、僕は手入れの終わった「エストック」に弾丸をこめ始めた。
左手に持った弾丸6発全てを装填し、右手の銃を横に振る。その反動でシリンダーが押し込まれる。
「相変わらず凄いリロードだな、5秒もかかってないだろ」
「リボルバーはリロードの機会が多いから、何回もやるうちに慣れてくるんだよ」
「慣れ、ねぇ……俺ならそんなになるまで使い続けねぇけどなぁ」
そう言って圭は手入れを終わらせたモーゼルC96を手に取り、射撃ブースに向かう。
「やっぱ俺は、オートマのほうが良いや」
圭が射撃を開始する。
出鱈目な乱射に見えたが、全弾命中。
もっとも、的の中央に当たっているものは一発も無い……が、当たれば敵を無力化出来るわけだし、この技量は十分賞賛に値する。
僕は適当な拍手を送ってやると、射撃ブースに入る。
銃口を的に向けて、正確に6回で引鉄を引いた。
最後に放った一発が的の中央に命中した。直後に、圭の声が聞こえてくる。
「やるな樹、それ程の腕があるのに俺より下っ端のチームに所属しているのが不思議なくらいだぜ」
「エースにそう言ってもらえて光栄だよ」
圭とハイタッチを交わし、僕は射撃場を後にした。
「九条上等兵、任務だ。今すぐ戦闘の準備をしろ」
荷物を纏めて帰ろうとした矢先、隊長に声を掛けられた。
「任務って今からですか?」
「あたりまえだろう、早くしろ時間が無いんだ。説明は移動しながらする」
ちくしょうついてないなあ……これも仕事だから仕方ないんだけど。
帰るのは遅くなりそうだ。兄さんたちへの言い訳考えないとな……。
戦闘に必要な物を準備し、僕は隊長の後を追った。
記念すべき第一話
プロローグ書いてからこれ書くのにすごい時間掛かった……
でも無事に書ききれてよかった。
これからも頑張って書いていこうと思います。
次回以降はもっと早く投稿できる……と思う。