三枚のお札
ある山の麓に、お寺が一つありました。
そのお寺には和尚様と小僧が二人で暮らしていました。
ある秋の日、小僧が和尚様に言いました。
「和尚様、おら山に栗拾いに行きたいです」
「ダメだダメだ。あの山には山姥が住んでいるぞ」
「ちょっとだけですから、お願いします」
和尚様は何回もダメと言いましたが、小僧も一向に引き下がりません。
「仕方がないな……。それなら……」
和尚様はそう言って、戸棚から三枚のお札を取り出しました。
「何かあった時はこのお札を使って逃げるのだぞ」
小僧はお札を受け取ると、山に入って行きました。
山の中には栗がたくさん落ちていました。
「わ~い!」
小僧は夢中になって栗を拾い、少しずつ山の奥へと近づいてしまいました。
「小僧さん、栗拾いに来たのかい?」
不意に声がして、見てみると優しそうなおばあさんが立っていました。
「よかったらウチに来ないかい?美味しい栗料理を作ってあげるよ」
その言葉に小僧は大喜びし、おばあさんに案内されるがまま、山の奥深くへと入ってしまいました。
やがて小僧は一軒の山小屋に辿り着きました。
中に入ると、おばあさんが栗料理をたくさん作ってくれました。
小僧はお腹一杯食べて、眠くなってしまいました。
「そこの部屋で休むといいよ」
小僧はおばあさんに言われた通り、隣の部屋に入り、ぐっすりと眠りました。
しばらくして、小僧は雨の音で目を覚ましました。
ジャリ……ジャリ……
「?」
目を覚ました小僧は隣の部屋から、まるで刃物を研ぐような音が聞こえてくることに気が付きました。
小僧が気になって隣の部屋をのぞいてみると……。
「ヒヒヒヒヒ……」
「!」
さっきまで優しそうだったおばあさんが、口は耳まで裂けて鋭い牙がたくさん並び、目は三日月のようになって赤く光り、それはそれは恐ろしい山姥に変わっていたのです。
小僧は思わず声を上げそうになりました。
『何かあった時はこのお札を使って逃げるのだぞ』
「!」
和尚様の言葉を思い出した小僧は急いで懐からお札を三枚取り出しました。
そして―――――
「あのっ!」
「⁉」
「これで見逃して下さい!」
そう言って山姥に一万円札を三枚突き出しました。
「へへへ……いいだろう♪さっさと帰んな♪」
山姥はそう言ってお札を受け取ると、鼻歌交じりに小躍りし始めました。
小僧はすぐさま走って逃げだしました。
「これで美味い肉をたらふく食うとするかね。最近の人間の肉は不味くてしょうがないからね~。どいつもこいつも、どんだけ悪い生活してんのかね~?」
▽▼▽▼▽
一方、小僧は全速力で山を駆け下り、お寺に帰ってきました。
「和尚様~!戻りました~!」
「おう、お帰り」
小僧は息を切らしながらお寺の中へ入りました。
「その様子だと、やはり山姥に出くわしたみたいだな」
「はい、和尚様がくれたお札をあげて見逃して貰いました……」
「だから言っただろう。これに懲りたら、今後山に入るのは止めなさい」
「はい、ごめんなさい……」
「わかればよろしい。ああそれと、あの三万は今後のお前の小遣いから引いていくからな」
「え~⁉」
「お前がわしの忠告を聞かずに山に入ったのだから自業自得だ。それに、命を失くすことと比べたら安いものだろう」
「……はい、その通りです……」
三枚のお札 完