第11話 罠
少女の声が聞こえる。悲しげな声が。
なぜ助けてくれなかったのかと、須藤を呼ぶ。
名前は知らない。ただ、その顔をおぼえていた。
少女は血塗れになりながら、須藤のあとを追った。須藤はカメラを持ったまま、逃げ回る。なぜ逃げるのかと、少女はたずねた。なぜだろう。須藤は自問自答する。少女が進むたびに、一滴一滴、血がほとばしった。硝煙とガソリンの匂い。
カメラだけは手放したくない。これは戦利品なのだ。明日の糧。
だが、少女はその糧を奪いに来る。なぜなら、須藤は彼女の命を奪ったから。
泥沼にハマったように、足がすくんだ。前に進めない。
ようやく見つけたと、少女の手が背中に触れた。須藤は叫び声をあげた。
「ハァ……ハァ……」
須藤はシーツを払いのけた。慌てて起き上がる。全身汗だくだった。
しばらく呼吸をととのえてから、須藤はシャワーを浴びた。
熱いお湯の背後に、人の気配を感じる。だれもいないと、自分に言い聞かせた。
あれは、去年の夏だった。中東で取材をしていた須藤は、攻撃の止んだ市街地を、案内役と一緒にジープで疾走していた。しばらく進むと、ひとりの少女が地面に倒れていた。須藤は死体だと思って、一枚写真を撮った。それからまた先に進もうとしたとき、前方の建物から、武装勢力の兵士が現れた。真っ先に気づいた案内役は、ハンドルを切り、ジープを逆走させた。
そのとき――あの倒れていた少女が起き上がり、道の真ん中に立っていた。
少女と目が合う――ジープは彼女を跳ね飛ばして、その町を走り去った。
その一週間後、須藤は戦場カメラマンをやめて、日本に帰国した。
ここまでの経緯を、須藤は昨日、紗美原に話した。紗美原は、なにも評価しなかった。コメントもなかった。ただ、そうですか、とだけ言ってくれた。
須藤は気持ちの整理がつかないまま、浴室を出た。
コンコン
「はい、どなたですか?」
「染崎です。研究所から連絡があって、第一会議室へ来て欲しいそうです」
聞き覚えのない部屋だった。
須藤はタオルで髪をふきながら、人違いじゃないかと確認した。
「電話口では、はっきり須藤さんだって言ってました」
「どういう用件だ? クビの通知か?」
俺に聞かないでください、と、染崎の返事があった。
「とにかく、伝えましたからね。さぼるのはナシですよ。それじゃ、またあとで」
会議室の場所すら、わからなかった。須藤は、警備員にわざわざ訊いて、研究所の2階へとあがった。目当てのドアは、開け放されていた。須藤はあいさつをして、神妙に入室した。
思ったよりも、大きな部屋だった。楕円形のテーブルに、椅子が置かれている。十数人は座れるだろう。観葉植物が、朝日にかがやいていた。床の絨毯も高級で、踏み心地がよかった。そのことがかえって、須藤に居づらさを感じさせた。
「須藤です。同僚の染崎さんから、こちらへうかがうように言われました」
場違いな感じがして、わざわざ弁明してしまった。決まりが悪かった。
ただ、会議室に集まっているメンバーには、顔なじみもいた。
「あら、須藤くんじゃない」
真っ先に声をかけてきたのは、古谷だった。
彼女は着古した白衣で、テーブルの隅に座っていた。
「あなた、さすがにここは初めてでしょう?」
「え、ええ」
「じつは私もよ。新顔同士、すみっこでおとなしくしておきましょ」
この誘いは、ありがたかった。席順が決まっているのかどうかすら、判然としなかったからだ。右どなりに座ると、古谷はクラゲの話を始めた。須藤はときどき割り込んで、会議のテーマなどをたずねてみたが、彼女も知らないようだった。
「どういう面子なのか、よくわからないのよね」
ほかに知り合いと言えば、新島博士と酒向くらいだった。
染崎やクリスは呼ばれていなかった。もしかすると、ライガーの件についてだろうか、とも思った。しかし、秋乃の姿はなかった。古谷が呼ばれているのも、奇妙だった。あのとき駆けつけたメンバーには、入っていなかったからだ。
「失礼致します」
紗美原が現れた。彼女は室内を一瞥して、須藤に目をとめた。
「須藤さんも、いらしていたのですか……」
がっかりされたような台詞で、須藤はなんだか気になった。
「すみません……俺も、どうして呼ばれたのか、よくわからないもので……」
「いえ、ちょっぴり意外に思っただけです。失礼致しました」
紗美原はそう言って、須藤の右どなりに座った。
そして須藤ごしに、古谷に話しかけた。
「古谷さんは、会議のテーマについて、なにかお聞きですか?」
「いいえ、なんにも」
紗美原ですら、今回の召集の理由を、把握していないようだった。
しばらくひそひそ話を続けていると、前方のドアがひらいた。
カチャリと、車椅子の電動前輪が、敷居をまたいだ。
「遅れてもうしわけない」
園長の紗美原武だった。
全員起立して、一礼する。須藤も合わせた。
「どうぞ、座ってくれたまえ……これから、大事なヒアリングをしたいと思う」
そのひとことに、最年長の新島博士は、
「ヒアリングとは、なんですか?」
と、代表して質問した。
園長は秘書に、封筒を配るように指示した。
真っ白なA4版のもので、各人に1通ずつあった。
「中を確認したまえ」
指示にしたがって、全員が中身を取り出した。
「これは……」
「たいへんなことになりましたな……」
あちこちから、声が漏れる――そこには、ライオン2頭に襲われるライガーの写真が、新聞のど真ん中を占めていた。須藤は、手が震えた。
「須藤彰くん」
「は、はい」
「この写真の構図からして、撮影可能なのは、だれだと思う?」
園長の質問を受けて、その場の視線が一斉に、須藤へ集まった。
須藤は、気丈にそれを受け止めた。
「この現場を目撃しているのは……私と秋乃さんしかいません」
視線の半分ほどが、やはりな、という色をみせた。
須藤はそれを押しとどめて、
「秋乃さんが犯人とは、言っていません。おそらく、盗まれたカメラのデータです」
と返した。
これには、会議室がざわめいた。
園長は、
「カメラの盗難については、承知している。しかし、そのデータが外部に漏れた、とは、どういうことかね?」
須藤は、じぶんの嫌疑が濃いことを、はっきり自覚していた。
「おそらく、盗んだ犯人が、データを横流ししたのだと思います」
「その証拠は?」
証拠など、あるはずがなかった。
須藤は言葉につまった。
苦吟する──ふと、あるアイデアが、脳裏にひらめいた。
それは、あまりにも唐突で──ウソをふくんでいた。
須藤はなやんだ。なやんだ時間も、判然としないほどに。
そして、イチかバチか、この場の状況に賭けてみることにした。
「私のカメラには、紛失防止タグがついていました。そのデータを調べれば、私も秋乃さんも犯人ではないと、証明できるはずです」
須藤は、会議室のなかに、視線を走らせた。
目立った動きをみせた人物は、何人かいた。
まず、古谷がおどろいていた。新島博士も、眉間にしわをよせていた。
一方、紗美原は、無表情だった。これがウソだと、気づいているにもかかわらず。
園長は、冷静に質問をつづけた。
「つまり、カメラの位置を追跡できる、というわけかね?」
「はい」
「ふつうのカメラに、そんな機能はないと思うが?」
「私は以前、戦場カメラマンでした。私が拉致されたとき、追跡できるように、です」
これは、半分本当だった。
須藤は、追跡タグをカバンにつける習慣があった。
寮の何人かも、気づいていただろう。
そしてこのことが、須藤のウソに、強い信ぴょう性を持たせるはずだった。
「では、カメラはどこにある?」
「残念ながら、タグが機能していません。したがって、電波のとどかないところに、隠されているのだと思います」
園長は、テーブルのうえに両腕を乗せ、手を組んだ。
「……地下ということか」
「池などに放り込んだ、という可能性もあります」
須藤はしゃべっているあいだ、観察をおこたらなかった。
しかし、動揺している気配は、だれからも感じられなかった。
キャット・キラーは、この場にいないのだろうか。
それとも、心理戦のプロなのか──須藤の作戦は、不発に終わった。
園長は、車椅子に深く腰かけた。
「この写真から犯人を特定するのは、残念ながら不可能だと思う……それに、これは単なるヒアリングだ。今日の会議の議題は、他にある……私の進退についてだ」
全員が顔を見合わせる。
園長の次の言葉を待った。
「すでに知っていると思うが、私は癌を患っている」
そうだったのか――須藤は、紗美原を盗み見た。
紗美原は、あいかわらずの無表情だった。
「来週には、入院せねばならん……助かる見込みは、ほぼない。医者からは、余命3ヶ月と診断された……今日は、私が引退したあとの、引き継ぎについて伝えておきたい」
そう言われた瞬間、須藤は違和感をおぼえた。
けれども、園長はスムーズに先を続けた。
「まず、財政に関してだが……」
数字の羅列が続く。須藤は、頭が痛くなってきた。バックパッカーのような生活を送っていたから、組織論はさっぱり飲み込めなかった。ひとつだけわかったのは、半官半民の公園なので、財政面では安定していないということだった。
「次に、研究体制だが……新島博士」
博士は、背筋を正した。
「古谷くんの前任者が退職したあと、現在はきみに、チーフを代行してもらっている。私の引退後は、正式に昇格させるつもりだ……なにか、異議はあるかね?」
「いえ……しかし、私はもう定年が近いので、もっと若いひとを……」
「そう思うなら、きみが引退のとき、決めればいい……私は経営と病気で、スタッフのことを十分に見ることができなかった……私が指名するくらいなら、きみにバトンタッチして、きみが決めるほうがいい……そうだろう?」
「……承知致しました」
園長の体が、右にぐらついた。全員が腰を浮かす。
駆け寄った秘書を、園長は右手で制した。
緊張感が走る。須藤たちは、ゆっくりと腰をおろした。
園長は車椅子に座りなおし、息をついた。
「私はもともと、薬学の出身だ……毒性学が専門だった……それがどういう巡りか、野逢自然公園の園長におさまった……不思議なものだな」
昔話が始まるのだろうか。
須藤の予感は、はずれた。
園長は、新島博士を見やった。
「私のラボは、まだ保存されているのかね?」
「はい」
「あそこには、私が孵化から育てあげた、デンドロバテスがいる……ハエやクモばかりやる退屈な仕事だったが、今となっては可愛い息子たちだ……世話を頼む……ペット用としても、貴重なものだ……資産として扱って欲しい」
新島博士は、わかりました、と答えた。
「それでは、お先に失礼するよ……」
園長は車椅子を動かし、会議室から出て行った。
起立して見送った残りのメンバーは、しばらく沈黙していた。
最初に沈黙を破ったのは、酒向だった。
「たいへんなことになりましたな」
新島博士は眉をひそめて、
「たいへんなこと、とは?」
とたずねかえした。
「園長が変わるとなれば、施設全体の方針も変わるでしょう」
「紗美原氏は、実利経営を重んじておられた。ほかの公共団体のように、ぬるま湯から叩き起こされるならともかく、野逢自然公園にそういう心配はいらんよ」
それが博士の本心なのかどうか、須藤にはわからなかった。
須藤がこの場に溶け込めないでいると、紗美原に声をかけられた。
「須藤さん、古谷さん、診療所のほうで、コーヒーでも飲みませんか?」
○
。
.
コーヒーを沸かす音――須藤と古谷はソファーに座って、雑談をしていた。
「驚いたわね。まさか、あんな話だとは思ってなかったから」
古谷は、コーヒーメーカーの湯気を背景に、目を白黒させていた。
須藤も、嘆息しながらうなずいた。
「ええ……てっきり、ライガー事件の犯人探しかと思いました」
「でも、なんであのメンバーだったのかしら? 役員のなかでも、呼ばれていないひとがいたみたいだし、飼育係は、だれもいなかったわよね。仕事の引き継ぎなら、志賀さんが来てないと、おかしいんじゃないかしら。飼育長だもの」
古谷は、疲れたような表情で、ぶつぶつと自問していた。
須藤は、紗美原の手前、話題を変えたかった。
まさか実の娘のまえで、ここまであけっぴろげに話をするとは、思わなかったからだ。
そしてその心配を払うように、電話が鳴った。
紗美原は、淹れかけていたコーヒーを置いて、電話に出た。
「はい、診療所です……はい……」
紗美原は、須藤のほうをちらりと見た。
「……はい、須藤さんもいます」
須藤と古谷は、おたがいに顔を見合わせた。
「ええ、今からでも大丈夫ですが……はい、わかりました」
紗美原は受話器を置いて、須藤たちへふりかえった。
「すみません、私と須藤さんは、研究所に呼ばれました。古谷さん、すみませんが、お留守番をお願いできませんでしょうか?」
「いいわよ……でも、なんで呼ばれたの?」
「ライガーの件で、質問したいことがあるとか」
やれやれ、結局、疑われているじゃないか──須藤は、覚悟を決めた。
どうせ契約は更新されないだろう。須藤には、妙な確信があった。
さきほどのカメラに関するウソも、それを前提にしての捨て身だった。
須藤は立ち上がりながら、
「秋乃さんも呼ばれてるんですか?」
とたずねた。
「そこまでは聞いていません」
須藤と紗美原は、コーヒーにかるく口をつけて、診療所を出た。
その道中、行き先が園長室だと伝えられて、須藤は仰天した。
「園長が、わざわざ事情聴取をするんですか?」
紗美原は、とくに意見を述べなかった。
研究所に到着し、園長室に入ると、彼らしか呼ばれていなかった。
園長は、さきほどのスーツから、寝間着に着替えていた。
「また呼び出してすまない……ひとつだけ、確認したいことがある」
紗美原は、おちついた声で、
「なんでしょうか?」
とたずねかえした。
「あの写真を流出させたのは、ほんとうに須藤くんではないのだね?」
違う、と須藤は答えた。
園長は、深く肩で息をした。
「秋乃くんの処分は……」
悲鳴――須藤は身がまえた。
「紗美原さん、今のは?」
「下から聞こえたような……行ってみましょう」
須藤たちは園長室を辞して、下の階へ向かった。悲鳴を聞きつけた人たちが、階段を駆け下りるのが見えた。踊り場で、新島博士と合流した。
「きみたち、まだいたのかね?」
須藤は、
「園長に呼ばれました……なにがあったんですか?」
とたずねた。
新島博士は、事故かもしれないと言い、あたりの部屋をすべてチェックするように指示した。紗美原とほかのスタッフは、2階を調べることになった。須藤と博士は、1階の研究フロアを担当し、手分けして、ひとつひとつドアをノックしていった。
「失礼します。どなたかいらっしゃいませんか?」
返事がないときは、ドアの小窓からのぞいてみた。
ほとんどの部屋は、無人だった。
さきほどの悲鳴を聞いて、廊下に出ているのだろう。
「こっちは留守です」
「とにかく、全部回ってみてくれ」
須藤は廊下沿いに、すばやく回っていった。最後から2番目のドアには、【紗美原】というプレートが見えた。一瞬、彼女の部屋かと勘違いした。しかし、園長の研究室だと気づいた。というのも、【(武)】の文字が、小さくそえられていたからだ。
ノックする必要はないだろう、と須藤は判断した。
園長は上の階で、ベッドに横たわっていたからだ。
ところが、次の部屋に移ろうとしたところで、須藤はふと立ち止まった。
ジャーナリストの勘とでも言うのだろうか――ドアノブに手をかける。
鍵は開いていた。
「……失礼します」
灯りが漏れる。
暗闇を予想していた須藤は、不審に思った。
「だれもいませんか?」
ドア越しにのぞきこむと――テーブルの下から、足が伸びていた。
人が倒れている。須藤は、ドアを開け放って駆け寄った。
「さ、酒向さんッ!?」
白衣姿の酒向が倒れていた。
肩に手をかけようと、須藤はさらに近寄った。
そのとき、床にカラフルなカエルを見つけた。
黄色の肌に、黒い瞳。こちらをじっと見つめている。
踏まないように避けた瞬間、腕をうしろから引っ張られた。
「いかんッ! 出ろッ!」
新島博士だった。
博士は須藤を連れ出して、ドアを閉めた。
「酒向さんが倒れてますッ!」
「危険だ。入ってはいかん」
なにがあるのか、と須藤はたずねた。
博士は答えず、ほかの研究員に、救急車を呼ぶよう指示した。
そして、そのまま廊下を走って、もどって行った。
唖然とする須藤。
もういちど入室しようと、ドアノブに手をかけた。
「須藤さん、いけませんッ!」
紗美原の声が聞こえた。
彼女は、白衣をなびかせながら、こちらに走ってきた。
須藤は思わず、
「酒向さんが倒れてるんですッ!」
と、大声を出してしまった。
紗美原は、頬を紅潮させ、その場で呼吸をととのえた。
「血清が……血清がなくなっています」
○
。
.
「毒……? 酒向さんは、お亡くなりに?」
研究所のロビーで、須藤は声をふるわせた。
紗美原は、悲しげにうなずいた。
「はい……病院へ到着したときには、すでにお亡くなりでした」
「やっぱり、放置したのがマズかったんでしょう? 手当していれば……」
血清がなかった、と、紗美原は答えた。
「そういうものは、ふつう常備してるんじゃないんですか?」
「準備していなかったのでは、ありません……棚から消えていました」
なんてことだ。計画殺人という4文字が、須藤の脳裏をよぎった。
「まさか……キャット・キラーの仕業?」
紗美原はなにも答えず、ポケットに手を突っ込んだまま、窓の外を見た。
ぽつりぽつりと、小雨が降り始めていた。
そのあと、須藤は本降りのなか、スタッフ控え室で、警察から聴取を受けた。殺人事件としてではなく、研究所内の事故として、捜査を進めているようだった。質問の内容も簡単で、何時に死体を見つけたのか、そのときの部屋の様子はどうだったのか、だれそれはどこにいたのか、そんなことをたずねられた。
警察官は、最後の質問を、手帳に書き留めた。
そして、ペンでひたいを掻いた。
「ありがとうございます。またなにかあったら、うかがいます」
警察官が部屋を出て行ったのと入れ違いに、クリスが入室した。
「須藤先輩、たいへんなことになりましたね」
「ああ……クリスは、なにか聞いたか?」
「酒向さんは、ヤドクガエルに触れて、亡くなったそうです」
「ヤドクガエル?」
南米産のカエルで、皮膚に猛毒を持つ種類だと、クリスは答えた。
「そうか、俺が見たのは、ヤドクガエルだったのか……」
「良かったですね。うっかり触らなくて」
ほんとうだ。新島博士に止められていなかったら、死んでいたかもしれない。
「ってことは、殺人事件じゃないんだな。俺の早とちりだった」
「まさか……いくら事件が相次いでるからって、殺人はないですよ」
クリスは、ほかの職員が心配しているという理由で、情報の拡散に向かった。
そうだ。殺人事件のはずがない。これは事故だ――悲しい出来事ではあるが。
須藤はそう信じかけた。
ところが、それを打ち消すように、背後から紗美原の問いが飛んだ。
「ほんとうに、事故だと思いますか?」
ふりかえると、入り口のところに、白衣の紗美原が立っていた。
須藤は、
「……どういう意味ですか?」
と、おそるおそるたずねた。
「私たちで、キャット・キラー事件の幕を引きましょう……ついて来てください」




