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僕の彼女は押しに弱い  作者: あんぜ
十一章 芸能界へ

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第71話 文芸部にて10

 週末に行われた体育祭は2-Aの誰もが記憶に残る体育祭となった。

 2-A全員が一丸となって挑んだ体育祭でクラス対抗優勝を果たした――というのももちろん大きい。いや、本来ならそれこそが正しく記憶に残るべき体育祭だし、僕だってあの1500m走の思い出は特別だった。しかし、その全てを掻っ攫っていったのがフォークダンスだった。


 フォークダンス――体育祭の打ち上げのごとく、そしてまた先生たちが無駄に気を利かせ、何周もリピートさせられた三年生たちのための最後の思い出――。



「ギャハハハハハ!」


 七虹香と萌木のけたたましい笑いが教室に響く。

 七虹香、そういうトコがクラスの男子から引かれてるんだぞ……。


 七虹香たち数人の女子が観ているのは体育祭のフォークダンスの動画。マルチメディア部――略してマルメ部――の顧問が撮ってくれた動画もあるのだけど、フォークダンス中にマルメ部の何人かが列から抜けて撮影した動画も混ざっていたりする。が、これは同じマルメ部でも萌木が個人的に編集した動画だった。クラスのコミュニティに回ってきたその動画のタイトルは『鈴木王子』。


 萌木は――婚約者が居るのデェ――とか言いながら列を抜け、仰々しいジンバル付きのカメラを構えて嬉々としてダンスを撮影していた。いや萌木も今の社会人の彼氏と出会うまでは七虹香と同じく遊びまわってたらしいんだけど、そんな言い訳されてもなあ……。萌木が撮影していたのは主に2-Aの女子周り――特に鈴木。


 鈴木はリレーの後、また滝川さんに体操服を借り、尻パッドを入れて化粧をし、鈴木子としてフォークダンスに加わっていた。いやそれがなかなかサマになっていて、正体を知っているうちのクラスの男子でさえ――あの山崎でさえ……いや山崎は気が多いから仕方ないか――とにかく、うちの男子でさえトキメくような立ち姿だったのだ。おまけにダンスが上手で微笑みかけながら男子をリードしていた。付いた渾名が『王子』。


 女子には大ウケ、男子には別の意味でウケたり、或いは恥ずかしい想いをしている者も。


 ――いやあ、趣味悪いよ……。


 だって事情を知らないからか、頬を赤く染めている他クラスの男子生徒まで居るんだもの。フォークダンスが何周もしたものだから、C組かD組あたりまで被害に遭っていた。去年の相馬ショックどころではない、鈴木ショックだった。


「ほら、これ太一が張り合っていた彼だよ」


 鈴木がタブレットを指さす。

 遠巻きに撮影された成見さんの彼氏の柏木、彼も鈴木に見入っていた。


 1500m走の時までは確かに彼のことが気に入らなかったし、今でも仲良くしたい相手では決して無いが、渚の隣に立つために頑張ることを決めた僕には重要な相手ではなかった。今朝も渚と同じ時間に早起きしてジョギングしてきたところだ。


「――太一の仇は討ってきたからね」

「いやそんな仇討はいらないし勝手に殺すな」



 ◇◇◇◇◇



 放課後、久しぶりにゆっくりと過ごせそうで文芸部の部室へと向かう。


「鈴代先輩! こんにちは」


 そう言って頭を下げてすれ違った一年生の男子。

 渚も一応挨拶は返すが相手に覚えが無かったのか、すれ違った後で――誰だっけ?――と。渚も僕も人付き合いが苦手な部分もあってあまり大勢の人の顔と名前を憶えていられない。もちろん僕も見覚えが無かったので、まあいっか――とそのままに。



「あっ、鈴代さん!」


 部室で渚を待っていたのは園芸部の鶴田さんだった。

 手にはレジ袋を下げ、袋からは青くて長い葉っぱが飛び出している。


「――やっと採れたわよ、ニンニク。早速お裾分けを持ってきちゃった」

「嬉しい! ありがとうございます!」


 ニンニクは料理によく使うからありがたかった。特にこの時期の採れたてのニンニクでアーリオ・オーリオはぜひ作ってみたいと以前から話をしていた。


「えーっ!? 鈴代先輩、ニンニク好きなんですか?」

「臭いとか気になりません?」


 ――匂い? そんなの、僕らの間では全く気にならない。


「いつも二人で料理して食べてるよ? 匂いは……気にしたことは無いかな」


 ――ほらね。僕らはどちらかと言うと、料理の前に歯磨きやうがいをすることが多い。


「マジですか……」

「……鈴代さんには今更ですよね」

「レベチ過ぎ……」

「あたしは彼氏の前とか立てない。ムーリー」


「私だけってわけじゃないよ、この間だって女の子がたくさん集まったときに太一くん――」

「渚っ……」


 うっかり誕生日パーティの話をしようとした渚を止める。


「……確かにみんな同じ匂いなら気になりませんでしたね」

「えっ、女子会でそんなことしてるんだ。いいなあ」


 坂浪さんが続きを話してしまって焦ったけれど、鶴田さんが女子会と勘違いしてくれたおかげで話が逸れた。


「……園芸部はいろいろ作っておられるのにそういうのされないんですか?」

「みんな持ち帰って料理はしてるけど、集まってまではしないかなあ。東條先生がお料理のレシピは教えてくださるけど」

「園芸部の顧問って東條先生だったの?」


 ――と渚が聞く。東條先生と言うのは保健室の先生。定年近い先生だけど線の細い美人の先生。


「いや、顧問はやめちゃったんだ。ほら()()()

「あいつって――まさか()()()!?」


 アイツ――そんな伏せられる名前で呼ばれるのは去年捕まった体育のエロ教師、成金の坂田しかいない。


「そう、そいつ。実家が畑してるとかで顧問だったんだけど、よく用も無いのに夏にプール眺めててヤだったんだよね。――まあそれでね、退職したら畑借りて野菜とか作りたいからって、とりあえず仮の顧問で東條先生が面倒見てくれてるの」


 なるほど。ちなみにうちの文芸部も顧問の先生は一応居るけれど、他の部活も含め大抵は名前だけで部活動には深く関わってこない。残業になるから、趣味や好意で参加してくれる先生だけが面倒見がいい。運動部は外からコーチを雇ってるし。それを考えると曽根先生は付き合いの良い先生なのかもしれないが――――まさかあの先生、学校ではヤってないよね?


「……東條先生って素敵ですよね。優しいし気さくですし、私もあんな風に年を取りたいです」

「坂浪先輩、今からそんな先の話ですか!? 東條先生っておばあちゃん先生ですよね」

「え、だって東條先生って美人だと思うよ」


 僕は雫ちゃんに思わずそう言ってしまった。

 確かに僕らからすればおばあちゃん世代で、もちろん皺も目立つけど笑い皺が逆にやさしさを醸し出していると思うし、口元の皺なんか肌が柔らかそうな印象を受ける。


「うん、私も東條先生は綺麗だなって思う」

「東條先生は喋り方も若いですしね。昔の人?――って感じはしません」

「あ、先生ラノベとかも読むらしいよ。アニメもお孫さんと一緒に観てるって」


 珍しく渚が嫉妬せずに同意してくれ、小岩さんも続く。ノノちゃんも頷いているし。

 そして鶴田さんの意外な情報。


「えっ、そうなんだ?」

「保健室登校とかする生徒と話を合わせるのもあるけど、先生は普通にアニメ観てた世代だって言ってたよ。今のアニメは絵が綺麗だねって」

「……なんだか急に親近感が湧いてきました……」


「この間の文芸部の部誌もスマホで読んでたよ。鈴代さんの短編も素敵だって」

「そうなんだ! 嬉しい……あ、そうだ! 春キャベツのお話も書いてきたんだ。創作じゃなくてエッセイだけど」


 渚がスマホの画面に指を滑らせる。

 コミュニティにもすぐに通知が届く。


「ほんとに! ありがと、後で読んでみる。ついでに先生にも送っちゃえ」


 ペコ――と、すぐに返事が返ってくると、鶴田さんが返信を見せてくる。


『ありがとうございます。鈴代さんにも宜しくお伝えください』

『――素敵なキスのお話もよかったです』


「東條先生、スマホだとちょっと文章硬いんだ。生徒にもこんな感じ」

「ニンニクも何か思いついたら書いてみるね」

「……鈴代さんがニンニクを語り始めると長そうですよね」

「さすがにニンニク食べてキスの話にはなりませんよね」


 エッ――と黙る渚。言い出した小岩さんと坂浪さんが僕の方も見、他のみんなにも見られる。


 ――ニンニク食べても普通にキスしてるなんて言えなかった。



 ◇◇◇◇◇



「ちょっとお、雫ちゃん!?」


 新入生と部誌に載せたいものを話し合っていると、成見さんがやってきた。


「――祐希くんに何とかいってやってくんない?」

「ちょっ、ちょっと由子ちゃん、声大きい」


 雫ちゃんはぷんすか怒ってる成見さんを連れて廊下に出る。

 雫ちゃんも最近、渚の説得もあってかお兄さんの肩を持つようなことは言わなくなってきた。


 しばらく廊下で話していて、戻ってくる二人。


「すみません、ご迷惑かけます……」

「お兄さん? どうしたの?」

「あいつ、人のことさんざん浮気だなんだとか言っておいて、違うって説明したのに謝らないの!」


「あと、A組の女の子がどうとか……。あ、先輩の頭に触ろうとしたのはシメときましたから! あれは本当にすみませんでした……」

「あれ信じらんないよね!」

「女子の頭触るとない」

「キモい」


「ううん、それはもういいから。太一くんもいいって言ってくれたし」

「瀬川先輩もすみませんでした。兄が態度悪かったそうで」

「いや僕ももういいや。それで? A組の女の子って?」


「えっと、フォークダンスで脚を捻るところを助けて貰ったからお礼を言いたいとか?――って探してました。ボーイッシュな背の高い女の子だって」

「そう! あいつまた女の子引っ掛けてるの!」


「あぁ……」


 ――と、相馬と二人、顔を見合わせる。

 どう考えてもヤツのこととしか思えない。


「柏木さん、俺たちのクラス、ボーイッシュな背の高い女子って居ないんだ。だから……」


 相馬が困ったように説明する。


「兄の思い違いってことですか? 他のクラスかな」

「そうそう、たぶんそう。居ないもんな」

「うん、そ、そうだね」


 僕は慌てて付け加えて渚たちに振った。コクコクとノノちゃんも頷く。


「兄は綺麗な女の子見つけると妙に積極的なんですよね。今までは向こうから寄って来るだけかと思ってましたけど、先輩見ててわかりました。どう見ても兄から手を出してます」

「そうだね……その前なんて雨でびしょ濡れなところに肩、触ろうとしてきたし……」


「そんなことまでしたんですか!?」

「セクハラじゃん!」

「雫、縁切った方がいいよ」

「マジキモい」


「あいつホント!」


 一年生たちに続いて成見さんはそう言うと、肩を怒らせて部室を出て行った。


「……えっ、雫ちゃん、あれ放っておいていいの?」

「兄はちょっと痛い目に遭った方がいいです」

「雫は最近、お(にい)(にい)言わなくなったもんね」


 にこにこと雫ちゃんにそう言った眼鏡の女の子は水端(みずはし)さん。雫ちゃんと同じ進学コースの一年生。


(かなで)、それ内緒っ」

「雫のお兄ちゃんは前からあんなだったもん。あたしも昔はカッコイイなって思ってたけど、ああいう感じだったからちょっと無理ってなっちゃった」


 ふわふわした印象の水端さんだったけれど、結構、言う事は言うみたい。

 雫ちゃんもバツが悪そうにしていた。



 その後、渚の家で早速ニンニクの試食となった。渚はせっかくだからと鈴音ちゃんにも声を掛けていたけれど、用があるから無理と断られていた。








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