表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の彼女は押しに弱い  作者: あんぜ
一章 クラスメイト

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/110

第2話 追放物のざまぁ役

何かしら反応を頂けると作者が喜びます!

 二学期も文化祭の準備が話し合われる頃になると、渚は美人になったと噂されるようになった。眼鏡もコンタクトに変えた。髪も少しだけ伸ばした。そんな彼女なのに、あまり男子とは多く喋らない点は僕には安心できた。


 ただ、男子の方はそうでもなかった。


「Eかもっとあるだろ」


 田代がまたおかしなことを隣の山崎と話していた。


「そんなにあるかあ? でもBとかでは無いな」


「絶対隠れ巨乳だって、あれ」


 田代の視線の先に居たのは鈴音ちゃんと渚。鈴音ちゃんはまあ……ありえないとして、渚は本人がCか時々Dくらいって言っていたのでそれは違うぞと言いたい。ただ、隠れ巨乳である点はその通りだと思う。だって、手から溢れるんだもの。


 そんな彼女の意外な人気を、僕はすぐに目の当たりにすることとなった。



 ◇◇◇◇◇



 文化祭の出し物の話し合いをすることになった。

 話し合いと投票の結果、うちのクラスは演劇をやることに。

 ハードル高く無い? ――って思ったけれど、うちの学校の一年生ではこれがまた珍しくないのだそうだ。学校が演劇部に力入れてるのもあるけど、飲食店が二年生以上となっているのも理由のひとつらしい。


 演目を何にするか。

 いろいろと定番の案が出た。ただ、こういうのは他のクラスと被ったり、意外と去年の演目と被ったのを――去年も見た――的な感想があったりして比較されるらしい。そこで案のひとつが皆の目に留まった。ラノベ。web小説とかでも定番のネタをやるのはどうかという話だった。話が単純で短くもできて感情移入しやすいというのはわかる。


「ちょうど瀬川がそういうの書いてるよ」


 言ったのは相馬だった。相馬は僕の描いた短い小説を文芸部で読んでいた。

 余計なことを……なんて思ったけれど、下手でも頼られるのはちょっとだけ嬉しかった。


「面白いんじゃない? 皆川(みなかわ)さんに演じやすいように直してもらえば?」

「どれどれ」


 僕が説明加えながらざっと目を通した委員長に続いて演劇部の皆川さんにお読みいただいた。

 結果はOK。

 皆川さんは簡単にあらすじをまとめ、クラスの皆に話してくださった。

 ありがたやありがたや。


 あらすじは、勇者パーティから追放された主人公が実はすごい力の持ち主だったことがわかり、突き落とされた底辺から活躍と共に勇者パーティからヒロインたちを一人ずつ取り戻し、最後に最愛のヒロインを助け出して勇者に対してざまぁするってだけの話だった。


 まあ、テンプレなのでクラスからも文句も出なかったし、これで行くことになった。



 ◇◇◇◇◇



 皆川さんは必要そうなキャストをまとめてくれた。

 それに対して皆の希望を聞いて、キャストを増やしたり調整していた。


 そしてキャストの希望を委員長が聞いていく。



 まずは主人公のユーキ役。

 我ながらベタなネーミングだな。

 こちらは五人の男子が手を上げた。

 とりあえず、一人だけなのでジャンケンでもしていてと委員長。

 男子たちも納得していた。



 次にヒロインが三人居るので希望者の中から割り当てていくことに。どうせテンプレなのでそんなに差はない。三人の女子が手を上げた。ただ、その中で渚が手を上げていたことに驚いた。主人公役に僕が手を上げるには時すでに遅し。ジャンケンの結果が出たところだった。


 主人公ユーキ役 相馬 ――そう黒板に記された。


 その途端、ヒロイン役に追加で四人の女子が手を上げた。

 ジャンケンで決めるにしろ、渚が落ちる確率は高い……はず――そんな下卑た考えを抱いた自分にちょっとだけ嫌気が差す――ただ、それはクラスのカースト上位者である新崎(あらさき)さんの一言でひっくり返された。


「挙手投票で決めましょう!」


 七人のうち、少なくとも新崎さんを含めた五人は相馬狙いだろう。相馬は夏休みを開けても彼女を作っていなかった。他のイケメンは恋人持ちだし、そもそも優し気なルックスのイケメンは相馬一人だ。面倒見もいいし、運動も普通にできる方だ。何でこんな男が僕の友達でしかも文芸部に誘うかな。


 結果に僕は唖然としていた。


 ヒロイン1 アリア役 新崎

 ヒロイン2 ルシャ役 鈴代

 ヒロイン3 キリカ役 渡辺


 渚は二番人気だった。二番手ヒロインのルシャ役は本命ではないとは言え、主人公にかなりベッタリの役だった。最初に勇者の元から取り戻されてからは常に主人公と共にあり、主人公を心から愛している。


「えっ、なんで……」


 思わず呟いてしまったが、田代に拾われ――。


「妥当なところだな。新崎はともかく、鈴代ちゃんは人気急上昇中だし、渡辺(わたなべ)さんは運動部では一番人気だからな」


「何で私だけ呼び捨てなのよ!」


 田代の発言に、そう突っかかったのは新崎さん本人。


「いやだって、なんか新崎態度でかいし?」


 カースト上位の新崎さんにこれだけ言える田代は実は凄いやつでは無いのかと錯覚してしまう。そして渚はというと、僕の方をずっと見ていた。チラチラと視線を下に移す彼女。いつの間にかスマホに通知が来ていた。その通知で渚からのメッセージの一部がちらりと見える。


 ――いっしょにやろ。


 しまった……。いつ来ていたのだろうか。

 いろいろと感情的になってしまったりしていたのでスマホのバイブ音に気が付かなかったのかもしれない。


「次の役は――」――そう委員長が言う。


 メインキャラはもう決まってしまっていた。僕はとりあえず手を上げた。

 しかしもう一人、重要なキャラが残っていたのをこの時の僕は忘れていた。


 勇者エイリュース役 瀬川


 やってしまった……。

 ざまぁされる悪役なんて誰もやりたがらなかった。せめて田代あたりがやる気になってくれそうだと最初は思っていたのに、やつは僕を見てウンウンと満足げに頷いていた。その他の端役はどんどん決まっていった。



 ◇◇◇◇◇



「太一くんならやりたがると思ってたのに、ごめんね」


 渚はどうも主人公を決める時にはもうメッセージを送ってきていたみたい。


「あの小説、練習で書いただけで、そんなに書きたい内容じゃなかったんだ」


「えっ、そうだったの? 太一くんの小説だから頑張ろうって思ったんだよ」


「そう言ってくれるなら嬉しいかな。練習は一緒だし楽しもう」


 帰りに川の畔の遊歩道のベンチでそんな会話をしていた。

 渚が頑張りたいことの邪魔はしたくない。

 でも彼女の人気に、ちょっとだけ僕の独占欲が頭をもたげていた。



 ◇◇◇◇◇



 翌日には皆川さんは台本を仕上げてきた。

 まだ草稿だからというが僕なんかと違って筆が早い。


 クラスのSNSのコミュニティで『クラス外持ち出し禁止』と書かれたファイルが配布される。大体の内容を知っている僕でも結構な文字数だった。フリックしながらざっと読んでいくと、台詞回しが大幅に書き換えられていることに気付く。まあ、処女作だしそんなもんだよね。そして僕の台詞。うん、頭悪そうな台詞ばかりな上に序盤の台詞が滅茶苦茶多い。


「えっ! キスシーンあるし!」


 誰かが言った。クラスの四分の一くらいが僕の方を見る。


「なん……だと……」


 しばし考え込む僕。


「――いや、そういやノリで書いたんだった。忘れてた。てか、何で入れてるの皆川さん。キスシーンとかダメでしょ……」


「別にこれホントにするわけじゃないからいいっしょ。それに相手は瀬川じゃなく相馬だから問題ないんじゃない?」


「そうかもしれないけど……いや、そうじゃないでしょ……」


 フリだけでも渚が僕以外の誰かとキスするのは嫌だった。何故書いたし自分……。


 キスシーンをどうするのといろいろ話をしたが、結局、本命ヒロイン役の新崎さんが推したためそのままやることとなった。しかし本命だけでいいのに何で三人ともそのままなの……。


 台本は各自憶えてきて、一度通してみてから書き直したいと皆川さんが言ってきた。



 ◇◇◇◇◇



 その日、渚は放課後に用があると言って一緒には過ごさなかった。

 家のこと? と聞いたら中学の時の友達に会ってくると言っていた。



 夜、どうしてもモヤモヤが残ってしまった僕は、思い切って渚にメッセージを送った。


『今、ちょっといい?』


 そう送るとすぐに着信があった。


『こんばんは。太一くん、どうしたの?』


「ああ、うん、いや……ちょっと声を聞きたくなって」


『そっか。私も聞きたかったから嬉しい』


「あの、その、ごめんね、小説にあんなこと書いてて」


『あんなこと? キスシーンのこと?』


「そう。渚が嫌かなって」


『そう……だね。できたら太一くんがよかったな。でも、太一くんが嫌なら辞めてもいいよ?』


「いや、嫌じゃないけど、というか、渚が頑張ってるのにそんなこと言わない」


『嫌じゃないの?』


「いや……相馬とキスシーンするのは嫌かな」


『じゃあちゃんと言って。私の唇は誰のものか』


「――渚の唇は僕のものだから相馬には渡さないで欲しい。でも役は頑張って欲しい」


 しばしの沈黙があった。


『――ありがと。太一くん、大好き』


「うん、僕も」


 やっぱりちゃんと話をすると落ち着く。

 渚が心配を掛けまいとしてくれるのがわかってホッとした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ