表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の彼女は押しに弱い  作者: あんぜ
二章 演劇部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/110

第12話 リハーサル

「まさかあの部長さんが物書きの熊取谷(ししや)役とはね」


 次の週の週末、渚と演劇部のリハーサルを見学させてもらいに体育館までやってきていた。数脚だけ出されたパイプ椅子をふたつ、渚と使わせてもらって準備が整うのを待っている。演劇部の人たちは忙しそうにしていた。


「珍しくないみたいだよ。みちかちゃんも男役やったりするし、ほら、あの副部長さんも女役やったりしてるみたい」


「あー、あの人イケメンだしね」


 なんて話をしていると。


「あれっ?」


 渚の声に視線の先を追うと、あの部長さんが居た。居たのだけれど、男装しているようには見えない。


「女の人の格好だね」

「うん」


 渚を見つけた部長さんはこちらに手を振っている。渚もちょこっとだけ手を上げた。


 しばらくして部員たちの慌ただしさが収まってくると、手の空いた部員が客席側のパイプ椅子に座ったり、新しく椅子を持ってきて座ったりし始めた。さらにカメラの準備が整うと舞台が始まった。


 最初に出てきたのが主人公の七瀬 美鈴(ななせ みすず)。僕と恋人になる前の渚に似た雰囲気の、少し俯き加減の目立たない少女。そしてバス停で会うのが同じ高校へ通う小林 友弥(こばやし ゆうや)。こっちは女子生徒が演じていたけれど、なんとなく雰囲気から自分に重ね合わせて見えた。


 美鈴と友弥は淡い恋の物語でも始まりそうな雰囲気の、微笑ましい間柄に見えていたのが、徐々に美鈴にアンニュイな雰囲気が見えてくる。友弥は逆に美鈴への好意がから回っているように見える。


 物語は美鈴が物書きの熊取谷と出会うシーンに移るのだが、部長さんはやはりさっきの女性の格好で現れた。そして台詞。台詞は全て男性のものから女性のものへと変えられていた。


 こういう話に変わったのかと、渚の顔色を伺う。

 彼女は口を半開きにして劇を眺めていた。

 熊取谷のシーンが終わると、渚は――えっ、なんで? ――と零す。


 物語は結局、熊取谷が女性のままで最後まで話が進んでいき、雰囲気が変わった美鈴は今の渚のように輝いているように見えた。



 ◇◇◇◇◇



「どうだった!?」


 部長さんを始め、何人もが渚を取り囲む。

 僕は渚の隣の椅子で小さくなっているしかなかった。


「どうもこうも、熊取谷を女にする案には反対しましたよね?」


 渚の第一声に部長さんとほか数人が固まる。

 まあ、彼女らの気持ちもわからなくはない。だってあの部長さんの元に集まった女性部員なんだもん。百合っぽい展開も好みではあるのだろう。


「物書きが男じゃないからバス停でのシーンが生々しくなくていいんじゃないの?」


 渚にそう話してみた。

 別に部長さんたちをフォローしたいわけではなかったが、彼女らも頷いている。


「前にも言ったけど、僕としては友弥に感情移入しちゃうから、その、寝取られ感がちょっとマシになるかな」


 部長さんたちもこれに頷いている――が、あんたらはどっちかってと物書きの熊取谷に感情移入してるでしょ……。


「でも、テーマを勝手に変えちゃうのはダメかなあ」


 部長さんたちがガックリと肩を落とす。


「瀬川くんとしてはあり? なし?」


 渚が決めるべき問題に僕の方が注目されてしまう。


「あり寄りのなしかなあ。でも――」


 部長さんが怪訝そうに僕を見る。

 リハーサルを観て、この部長さんは何となく渚を諦めていないような印象を受けたから、釘を刺しておくことにした。


「――鈴代がちゃんと()()()()()()()を部長さんが理解してくれてるならありでもいいです」


 僕は座ったまま渚の肩に手を回し、軽く引き寄せたが、思った以上に渚が身を傾けてきて、頭をコテンと倒してきたものだから逆に驚いてしまう。ただ、部長さんは――。


「……わかったわ」


 フフ――と意味ありげに部長さんが笑う。僕も一緒になって微笑み、お互いに微笑み合った。

 結局、物語は渚の許可の元、物書きの熊取谷は女設定で行くことになった。



 ◇◇◇◇◇



「瀬川さあ、鈴代ちゃんと付き合ってんの?」


 帰ろうとしたところ、突然の皆川さんの発言に驚く。僕と渚は周りに聞いている人が居ないか確認するが、さすがに彼女も気を使ったみたいで他に聞いている様子はなかった。


「皆には内緒にしておいてよ。マジで」


 皆川さんに釘をさしておく。


「やっぱりかあ。それで大学生の彼氏は?」

「あれはね、みちかちゃんって言って女の子なの。友達」


「えっ、あれ女の子なの? ほんとに?」

「劇団とか詳しいなら椎名(しいな)ミチって知らない? 男役とかも得意な」


「あー、知ってる知ってる! あれ、あの人なんだ」

「うん」

「まあ、とにかく内緒にな」


「別に隠すことないのに」

「いやだって、僕みたいなカースト下層が鈴代みたいな美人と付き合ってると知れたらいろいろ面倒でしょ?」


 渚は不満げだったが彼女の過去を詮索されるようなことを言いたくない。


「瀬川は自己評価低いなあ。スクールカーストなんて気にしてる子、うちのクラスにはほとんど居ないよ?」

「頼むよ。鈴代を貸してあげたろ」


「わかった。でもそんだけ恋人オーラ出してたらすぐバレるわよ」

「えっ、そんなの出てる?」


「出てる出てる。少なくともうちに来てるときは全開。でも別にいいんじゃない? 徐々に皆も慣れるわよ」

「マジかあ」

「私はいいよ、別に……」


 渚がこっそり手を繋いできた。

 まあ、渚もちょっとずつ慣れていってるならいいかな。


「で? どこまで行ってんの?」

「何でみんな、同じことを聞くかな……」


 僕たちは皆川さんに振られた話題を適当に誤魔化して体育館を後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ