日本すかし話
「On Gyaaaaa! On Gyaaaaa! On The Night! On The Night!」
割った桃からパイロットサングラスをかけた男の子が出てきました。
「ばあさんや、これは驚いたな」
「そうですね、じいさん」
突然のことに焦った二人でしたが、すぐに近くにあったLeeのジージャンで男の子を包んであげました。
「ばあさん、儂らはいろいろあって事実婚を選んだじゃろ? だから子供は止めとこって話しじゃった」
「ええ、そうでした」
「この子はそんな儂らへの神様からのプレゼントじゃないかの?」
「まさにめっちゃ神ですね」
そんなこんなで、男の子の名前はPBになりました。
PBはすくすくと成長しました。
ある日、そんなPBにおばあさんは話があるようです。
「なあ、PBや」
「なに? ばあさん、そんな暗い顔して。笑っていた方が素敵だよ」
「ありがとう。ところで鬼ヶ島って知ってるか?」
「え、しらないけど。でも今、DJ鬼ヶ島って名前いいなって思った。それで活動しようかな?」
「ああ、PBはミキシングが好きだからな。いやいや、そんなことは今はいいんだ。とにかく鬼が出てきたから退治してくれ」
「ったく。わかったよ、ばあさん」
PBはそう言うとおばあさんの頭をぽんぽんと撫でました。
急な話でしたが、PBは「いっちょやってきますか」と言って身支度を始めました。
ノイキャンの優れたブルートゥースイヤホンをして、ハリスツイードのジャケットを羽織りました。
「きびだんご持っていく?」
PBがリーガルの革靴に足を通しているとき、ばあさんが言いました。
「あんがと。これ好きなんだよな」
ウインクをしてきびだんごを受け取るPB。
ビニール袋の口をしっかり封して、きびだんごをクラッチバッグに忍ばせました。
「気を付けるんだよ」
「ああ、大丈夫だって。それじゃあ行ってくる」
軽く手をあげおばあさんにしばしのお別れを告げます。
外は明るくまぶしいくらいだったので、愛用しているパイロットサングラスをかけます。
グーグルマップによると鬼ヶ島は北西の方角だということがわかりました。
「ったく。鬼退治か……やってやんよ」
PBは鼻を親指で弾くと、ギャラクシーS21を胸ポケットにしまい、北西に向かって歩きだしました。
途中で、ドーベルマンのドーベルと、ボリビアリスサルのボリビーと、キジのキジガックスを口説いて仲間にしました。
きびだんごは彼らにねだられましたが、あげずに自分でおいしくいただきました。
そのせいで喉が渇いたので、ハイネケンをロピアで買おうと思ったら、三匹も飲みたいと言い出すので、それぞれ、スミノフ、ジーマ、ほろ酔いを、ほかにもいろいろ買いこんで、鬼ヶ島目前で休憩しました。
「鬼退治って言う俺らのサクセスストーリーつくっちゃおうぜ! カンパァイ!」
PBが乾杯の音頭をとります。
「「「カンパァイ!」」」
瓶と缶をぶつけあって宴が始まりました。
「PBがきびだんごくれなかったから買っちゃったよ」
キジガックスが袋を開けながら言いました。
「わるいね。ばあさんのきびだんご、好きだから」
「素敵なファミリーだな」
ドーベルが鮭とばをかじっています。
「俺もそんな家族がほしかったよ」
ボリビーはチーザをカリカリ食べています。
「え、何言ってんの? 俺らもう家族じゃんか」
PBがボリビーの肩を組みます。
そしてボリビーの頭をかかえたままハイネケンを飲みます。
「あんがと」
ボリビーが照れながらお礼を言いました。
ドーベルもうれしうなったようで、キジガックスと腕をクロスさせてお酒を飲んでいます。友情一気ってやつですね。
そんな宴に闖入者が現れます。
「おい、おめぇら。何やってんだ!?」
頭に二本の角をはやした赤鬼です。
「うるせぇんだよ」
こちらは角が一本の青鬼です。
「ああ君たち鬼? ちょうどよかった。一緒に飲まない?」
PBは赤鬼と青鬼にSKYYを差し出します。
「え、あ、いいのか?」
戸惑う赤鬼。
「当たり前だろ。一度一緒に飲めば友達だよ」
サングラスを上げ、ウインクをするPB。
「と、友達? に、兄ちゃん、友達だって!」
青鬼が赤鬼に言います。
「俺らと友達になってくれるのか?」
赤鬼が聞きます。
「そんなもん確認しなくてもいだろう。ほらの飲めよ」
「「あ、ありがとう」」
二人の鬼は腰を下ろし、お酒を飲み始めました。
そんなやり取りをドーベル、ボリビー、キジガックスは怯えてみていましたが、PBが場を和ませると、だんだんと打ち解けていきました。
「俺ら、迫害されてここに来たのに。また退治されそうなんだ……」
お酒のせいでしょうか。赤鬼は涙目で言います。
「そっか。それはつらかったな。でもそんなもん飲んで忘れちまえよ」
PBがさらにお酒をわたします。
「ありがとう」
青鬼もうれし泣きです。
しかし、しばらくすると、鬼の二人は苦しみだしました。
「うぅ……苦しい…」
のたうち回り青ざめる赤鬼。
「い、息が……できない」
喉をかきむしり、顔が赤くなる青鬼。
そんな鬼たちを不安そうに見る三匹。
PBはどこ吹く風。鬼たちを気にせずに飲んでいます。
「お、おい、PB。こいつら大丈夫なのか?」
ボリビーが赤鬼を突っつきます。反応はありません。
「死んでるんじゃないか?」
ドーベルは青鬼を確認します。
「こ、これは!」
キジガックスが何かに気が付いたようです。
「あ、わかった? 鬼ころしだよ」
PBは鬼に鬼ころしを飲ませたのです。
唖然とする三匹。一気に酔いがさめてしまいました。
「さ、財宝をもらって帰りましょー」
立ち上がり、鬼の住処へ向かうPB。
「お、俺たちは大丈夫だよな?」
ボリビーがドーベルとキジガックスに聞きます。
「た、たぶん……」
「確信はないけど……」
目を合わせ、黙り込む三匹。
「おーい。早く来いよ」
PBが呼んでいます。
「「「はい!」」」
三匹は急いでPBのもとへ向かいました。
「ただいまー」
PBは実家に帰ってきました。
「おかえり、PB」
おばあさんが笑顔で出迎えてくれました。
「PB、おかえり。すごい財宝を持って帰ってきたな」
おじさんは財宝に驚いています。
「まあね。鬼を退治したからいただいてきたよ」
「すごいなぁPBは。一人で退治して」
おじいさんは感心してばかりです。
「ほんとそうね。それに一人でこんなにたくさんの財宝を持ってくるなんて大変だったでしょう」
おばあさんはPBをねぎらいます。
「こんなもの俺一人で十分だよ。全然問題ないよ」
PBは鼻高々に笑うのでした。