第四話 現れた魔王
「ダンボール、ダンボールと。あ、奥に大きなのがある」
倉庫のものを引っ張り出し、夏菜は奥のほうに大きなものがあるのに気付いた。
それをとろうとしたのか、物をかき分け、夏菜は歩みをよせた。
そのときだった。近くに古い紙がはってある、古ぼけた木の箱があるのに気付いた。
なにやら、明らかに日本語ではない文字が書かれている。英語でもフランス語でも、どの他国の文字でもなかった。
「あ、あれ、なんだろ、変な文字? 外国語かな? ポンポコリンって感じにみて読めるこの言葉? なにかな、この箱?」
夏菜はいぶかしげな顔で箱を手に持ち、マジマジとみつめた。角度を変えてみたりした。
そのときだった。
「(逃げるんだ。その箱は)」
「え、またさっきの声がした? いったい、なに? 箱?」
また、不可解な声が夏菜の頭の中にきこえたのだ。
辺りを詮索するように、あちらこちら夏菜はみやって、誰かいるか探した。だが、誰もいるはずがなかった。
ここは、しかも、夏菜の家の倉庫なのだから、人がいるとは考えにくかったのだ。
首を再三かしげていた。
「(ザンアーラス語が読めた? あなた様はもしや?)」
「ざ、ザンアーラス語? なに、なに? また声が聞こえた」
そういい、夏菜は怖くなったのか、箱を持ったままで外に飛びだした。
例の不可解な声が続けて聞こえたからだ。
夏菜が倉庫の外に出たときだった。
「ほう、ユメリアの箱が共鳴しているな。ついに見つけたぞ。どうやら、お前のようだな、ユメリアの姫は!」
「は、ひ、姫?」
夏菜は声がしたほうに顔をあげた。
なんとそこには、皮膚の色が青白く、耳の先端が長く口から、長い歯が少し見え、マントを羽織り、まるで
ドラキュラのような人が宙に浮いていた。
夏菜はチンプンカンプンで動転し、大きな口が開いて言葉がでなかった。
そのときだった。
「魔王バヌーラ、好き勝手にはさせないぞ」
なんと、あの包帯を巻いて助けた子猫が、夏菜の前にぴょこんとでてきたではないか。
しかも、凜とした声で、言葉をしゃべっていた。
魔王とは一体、どういうことだろうか。このネコは? 姫さまというのは?
「ほほう、あれだけの魔法術を受けて生きていたか、天使アエリアよ」
ドロッとした悪魔のような声で魔王と呼ばれた人物はいう。
「は、魔王? 天使? あ、あなたはさっきのネコちゃんなんでしょ?」
夏菜はいきなりことで、ぜんぜん理解ができなかった。
ただ、とんでもなく、やばい人が空に浮いていることだけはわかったのだった。
アエリアと呼ばれた子猫は、剣幕が必死だった。命がけなのか。
威かくするように、子猫の声で雄たけびをグルルと、軽くあげていた。
「夏菜といったな、説明は後だ、逃げるぞ。さぁ、私の体につかまって」
「え、こう、こんな感じでいいの?」
夏菜が子猫のからだに両手をピタリとつけたときだった。
「いきますよ、ユメリアの姫さま。『浮遊術スカイハイ!』」
なんと、夏菜と子猫の体が宙に浮いた。空を飛んだのだ。
「わ、わわ、わ、あたし、宙に浮いてる? うそでしょー」
まるで、ゲームに出てきたりする空を飛ぶ魔法のようだった。
この子猫は一体なにものなんだろう。本当に天使なのか。
夏菜は困惑していた。だが、この危険人物から、窮地を逃れるには、アエリアと呼ばれた子猫を信
じるしかなかったのだ。
「しっかり、つかまっていて、姫さま」
子猫はスピードを出して、空を切り、空を飛んで逃げようとした。
だが、そう簡単にはいかない相手だった。
「逃がすか! 『炎魔法術ファイアクロス!』」
「きゃー、スカートが燃えた~。炎がでた~!」
なんと、魔王バヌーラは、すごいスピードで空を旋回し、アエリアの前に飛び出て、手から炎を出した。
その炎をアエリアはかわしたのだが、後ろにいた夏菜のスカートをかすめた。その効果でスカートの
一部が燃えてしまった。
夏菜は急いで、手でスカートの炎を散らした。そうすると何とか間に合い消えたが、しかし、逃がしてくれそうにもなかった。
続けて、魔王バヌーラは突撃してこようとしていた。
「だいじょうぶです。スピードには自信があります。単刀直入にいいますが、あなた様はユメリア王国の王族の末裔、その姫さまなのです」
「え、あたしが、姫?」
「持っているその箱を開けてみてください。それは直系の王族しかあけることができないようにロックの魔法がほどこされています。ユメリアの宝玉がでてくるはずです」
アエリアは淡々という。
ちんぷんかんぷんだったが、夏菜は持っていた木の箱を開けようとした。
「こうするのね」
ピカァ!
「きゃ、宝玉から光が」
箱から、まばゆい光が満ちあふれ、白くかがやく宝石のようなものが現われた。
間違いなく、アエリアがいっていることは正しかった。
光が出ることから考えても、これは宝玉に違いないだろうと、夏菜は思った。
そのとき、間髪をいれずにアエリアが釘をさした。
「夏菜さま、『ユメリア・リアケルン』と、となえてください。はやく!」
「えッ? 『ユメリア・リアケルン!』」
ピカァ!
宝玉がかがやき、光を放ち、夏菜を光りでつつみこんだ。
「ちぃ、遅かったか、魔法王への道を開きやがったか。ならば、死の呪いを受けよ」
魔王バヌーラはくやしそうに舌打ちをし、なにやら、魔法をとなえだした。
そして、その魔法の詠唱が終わり、複雑な手さばきを取って、死の魔法は完成した。
「しまったぁ」
アエリアの表情が引きつっていた。夏菜はまだ光につつまれている。
「『死呪魔法術デスカーズ』」
魔王バヌーラは死の魔法をときはなった。死霊のようなものが夏菜に向かっていく。
夏菜は光につつまれ、一歩も動かなかった。
アエリアがこの魔法の直撃を防ごうと、夏菜の前に立ちはだかった。
「(頼む、魔法のローブ間に合ってくれ)」
その瞬間、宝玉の力がはたらいたのか、夏菜の服装が、魔法のローブというものにつつまれて変わった。
それは、白く、せいそな衣装だった。なにやら、他に冠のようなものも身につけていた。。
「くそっ、魔法装束が転生しやがった。魔法のローブと魔法ティアラか。ははは、面白い。あれは、ユメリ
アの紋章? どうやら、正当な末裔のようだな。だが、死の呪いは防げても、もう一つの呪いは防げなかったようだな」
「(もう一つの呪い? なんのことだ?)仕方ない! その姿なら転生魔法の干渉を受けない。いける」
アエリアは何を思ったのか、魔法装束に変わった夏菜の前に急いで移動した。
「(夏菜さま、つかまってて、世界を渡ります)」
目利きすると、アエリアの体から、光が出てきた。それは夏菜をまたしてもつつみこんだ。
「『転生魔法ゲートギア』」
「え?」
ピカァ
光が夏菜をつつんで消えた。その場にアエリアと夏菜の姿はなかった。
完全にこの世界から消えていた。残ったのは魔王バヌーラだけだ。
戦線を離脱したのか。果たしてどこに消えたのか。
「アエリアめ、逃げたか。さっきの魔法は、恐らくゲートギア、元の世界に移動したのだな。ふはは、だが、俺様が生きてる限り、永遠に呪いは続くのだよ」
魔王バヌーラは意味深な言葉を残して、マントをひるがえし、その場を去った。
永遠の呪いとはどういうことなのだろう。元の世界とは。
☆☆
忙しい中この物語を読んでいただいて、読者様には感謝です。ありがとうございます。
また時間があれば更新します。
魔王がでてきましたが、ファイのいる方の魔王とは違います。ですが、強いです。
二つの世界のキャラたちが世界の違う魔法や技などでどう戦って活躍するのでしょう。
またお会いしましょう。
この作品にも出てきますが、作者は猫好きです。
しゃべる猫いたら飼いたいですね。
読者様も健康にお気を付け下さいね。
ありがとうございました。