幼馴染が最近現れた勇者様に彼女を寝とられたらしい
「この世界は……間違っている……っ」
正午を少し過ぎ、どこか弛緩した雰囲気が漂うギルドのテーブル。Sランク冒険者のノアは重々しい口調でそう言った。
なんだか一見すると随分と御大層な背景がありそうなセリフだがなんてことはない。こいつはただ付き合ってた彼女に捨てられただけだ。
こいつとも長い付き合いになる。こういう時に関わるとろくなことにならないのは嫌というほど知っているので適当に聞き流しておくに限る。
ノアはこちらが反応を示さないのを確認すると、怪訝な表情をして軽く咳払いをした。
「……アル?」
「……なに?」
「この世界は……間違っている……っ」
「……いや、別に聞こえてなかったわけじゃねーから。聞こえてたうえでめんどくさいから無視してただけだから」
「……この世界は……間違っている……っ」
「お前は定型文繰り返すNPCかよ……。つーか、間違ってるのは世界じゃなくてお前のテンションだから。彼女に捨てられたくらいでまともな奴はそんな世界の終わりみたいな面しねーよ」
「そんなこと言わないでよ! 僕達同じパーティーの仲間じゃん! 困ったときはお互い様じゃん!」
ため息交じりに言葉を返すと、ノアは肩を掴んで揺さぶりながらそんなことをのたまう。
毎回毎回こいつがろくでもない女に引っかかる度に愚痴を聞かされるこの関係が仲間というものなら仲間なんていらないです。あと、お前に愚痴聞かされることはあっても愚痴聞かしたことなんてないからお互い様ではない。
そんなことを考えていると、入り口の方から騒々しい足音と喧しい話し声が聞こえてきた。
弛緩した空気に割って入った騒々しさに自然と視線はそちらに向く。ノアと同じくこのギルド【道標の黒猫】の三人しかいないSランク冒険者の一人、聖剣に選ばれた勇者にして銀髪金眼の美少年レインとその仲間達がぞろぞろと集団でギルドに入って来るところだった。
「さすがレインね! やっぱり【黒猫】最強の冒険者はレインしかいないわ!」
「ほんとほんと! 今日のサラマンダーを倒した一撃なんてほんとにすっごくかっこよかった!」
「優しくて、かっこよくて、聖剣に選ばれた勇者様。レイン以上の冒険者なんていないんだから!」
「あはは。そんなこと……あるけどね!!」
「「「きゃー!! かっこいいー!!」」」
依頼を達成してきた帰りなのだろう。レインを褒め称える仲間達とそれを笑顔で受けながら冗談を返すという親の顔よりよく見た光景が広がっている。
というか今の茶番にかっこよさありました?個人的にはこいつら全員死なねえかなとしか思えなかったんですけど。うーん。なんだろ、息するのやめて貰っていいですか。
と、先頭を歩いていたレインの顔がこちらを向く。しまった、少し見すぎたか。後悔してももう遅い、ニヤニヤと笑みを浮かべてレインはこちらへと歩いてくる。
「やぁ、こんにちは先輩方。こんなところで昼間から遊んでいていいんですか?」
「気にすんな後輩。俺達はもう年だから働きたくないんだ。なんなら隠居したいまである」
「あはは。いつしてもらっても構わないですよ? いつまでもこの勇者である僕とたかだか剣と魔法が多少得意な程度の魔法剣士が同格扱いされるのも不愉快な話ですからね」
「おいおい、言われてるぞノア。言ってやれ! お前は女にフラれるのも得意だろ!」
「ねぇアル。それプラス査定になると思う?」
「捉え方次第だな」
「プラスなのはアルの思考回路だけだよ……」
ノアがぼやくように呟くと、レインが嘲るように笑って見せる。
「ノアさんも大変ですね。身の丈に合わない評価を受けたうえにパーティーメンバーは剣を振るしか能のない野蛮人なんて、さすがに同情します。……そうだ! 僕のパーティーに入れてあげましょうか? 誤った評価も正せますし、僕の大事な子達に雑用をさせるのも心が痛むなと思っていたんですよ」
ほーん、言ってくれるじゃないか。この知性溢れる俺を野蛮人呼ばわりだなんて。
これあれだぞ、俺が長男だから耐えられたものの、次男だったら今頃この手に持ってる椅子でお前のこと殴打してるからな?というかなんで俺は椅子なんか手で持ってるんですかね。
首を傾げつつ、ノアも長男だから耐えられたかなと視線を向けてみると困ったように愛想笑いを浮かべていた。超大人の対応だった。なんか椅子持っちゃったの凄く恥ずかしくなってきたわ。
しかし、そんなノアの対応に何を勘違いしたのかレインはバカにしたように鼻で笑う。そして、ノアの耳元まで顔を近づけると囁くように言った。
「……ああ、そうだ。今ならついでに僕がヤったあとにアリスを使わせてあげてもいいですよ? 付き合ってたんですよね?」
「……ありがとう。でも、僕は今のパーティーを気に入っているから」
愛想笑いはそのままに、けれどどこか悲しそうな声でノアはレインにそう返す。
「……そうですか。まぁ、いずれにせよ僕がこのギルドを仕切るようになったら貴方達の居場所なんて残りませんけどね」
煽りに対する模範解答は無視だと聞いたことがあるがそれはどうやらほんとのことらしい。
散々好き勝手言ったはずのレインは思うような反応を得られなかったのか、どこか苦々し気な表情を浮かべると吐き捨てるようにそう言って去っていった。
「……さてと、俺はちょっと働きに行くけど、お前はどうする?」
「うーん。今日はやめとくよ、ちょっと呑みたい気分なんだ」
「あっそ。ま、呑みすぎんなよ」
クエストボードに張り付けてある依頼から手頃なものを見繕ってカウンター前の列に並ぶ。
なんとなく振り返ってノアの様子を見てみると、ちょうど酒を頼んでいるところだった。こうして離れたところから改めて見てみるとやっぱり奴もイケメンだ。輝く金髪も宝石のような碧眼もどう考えたって冒険者には不釣り合いなもので、さっきまでたしかに一緒にいたのにノアがそこに居ることに違和感を感じてしまう。
「あの、アルトさん」
「あ、すみません。この依頼受けるんで承諾お願いします」
ぼーっと眺めているといつの間にか順番は回ってきていたらしい。かけられた声にビクッとなりながらも依頼の記された紙をカウンターに置く。しかし、どういうわけか受付嬢は首を横に振る。そして、二階へと上がる階段を指さして続けた。
「マスターがお呼びです」
「……あー、了解」
◇◆◇◆◇
「入りなさい」
ノックをしようと上げた右手が扉に触れる前に部屋の中から声が届く。
許可も頂いたのでドアノブを回して部屋へと足を踏み入れると、いつも通り彼女は机の上に山ほど積まれた書類と格闘中だった。
「相変わらず忙しそうっすね。なんか手伝いましょうか?」
「大丈夫だ。だから触るな。絶対に触るな」
「なんで二回言ったよ今」
大事なことだから?大事なことだから二回言ったんですか?そこまで信用なりませんかね俺は。いや、まぁこの手の書類仕事が苦手な意識はあるけれど。
我らがギルドマスター、ローリエは会話中も忙しなく動かしていた手をピタリと止め、すっと顔を上げると視線を俺とマスターのちょうど中間に位置する革張りのソファへと向けて言った。
「悪いが今少し手が離せなくてな、好きなところに座って待っていてくれ」
「はーい。りょーかいです」
申し訳なさそうな声でそう言われてしまえば、嫌な顔なんてできるはずもない。
適当に返事をして、大人しくいつも座っている場所に腰を下ろし、退屈しのぎにまた顔を下ろして何やらせっせとペンを走らせているマスターを窺い見る。
何度見てもしっくり来ない、というよりこの先一生慣れることはない気がする。椅子に座れば足も地面につかないような緑髪翠眼の見た目年齢推定十歳程度のロリっ娘エルフが目の下に冗談みたいなクマつくって働いている姿なんて見慣れてしまってもいいようなものでもあるまいし。
「……ふぅ」
「あ、終わりました?」
「まぁ、一段落と言ったところだな」
「うへぇ、そんだけ忙しそうに働いてまだ働かなくちゃなんないとかとんだブラック職場っすね」
見た目にそぐわない年よりじみた仕草で肩と首を回すマスターに思わずそう呟くと、心なしかどんよりと濁った目でマスターは笑みを向けた。
「ああ、ほんと毎日書類だらけで大変だよ。どこぞの黒髪のバカ剣士が依頼の度に何かしら問題を起こすせいで働いても働いても書かなきゃいけない書類が増えていくんだ」
「…………そんな奴がいるんですか。許せねぇや! 俺ちょっとそいつ怒って来ますよ!」
「そうか。なら、座れ」
冷たい声と視線に射抜かれて、上げかけた腰を再び下ろす。なんだか居心地が悪い。帰っていいかな。
恐らくはひきつっているであろう笑みでごめんねと言外に伝えていると呆れたようにため息を溢された。いや、ほんといつも申し訳ない。
「民の奉仕者たれ。これはあくまで【黒猫】の理念だが、私は冒険者とは所属するギルドに関わらずこうあるべきだと思っている。もちろん、金銭の絡む依頼として、私達はこの仕事をやっている。だからこそ、依頼主を最優先にするべきだ。けれど、それは依頼主以外を蔑ろにしていいという意味ではない。依頼主以外の目につくものを見捨てていいという意味ではない。報酬が少ないからと依頼を差別していいという意味ではない。冒険者の本分は、国の手の届かない誰かに手を差し伸べることに他ならないのだから」
「……分かってます」
年寄りってのは同じ話ばっかりするからいけない。
アホみたいに何回も何回も聞かされたせいで、その考え方って奴はすっかり俺の深いところに根付いてしまっている。改めて言われるまでもない。
俺を見て、なぜだか愉快そうにマスターは笑う。それから腕を組んで無い胸を張り、短くて細い足を組むと言った。
「だから、依頼主でもない小汚ない貧民を守ろうが、孤児院の子どもの依頼を受けるために貴族の指名を無視しようが、領民を守るために領主の屋敷を半壊させようが、そんなことは気にするな。それが民の奉仕者たるのなら、私が責任をとって全て処理してやる」
なにそれカッコいい。見た目ロリの中身年齢不詳のババアなのに惚れちゃいそう。
ニヒルな笑みを浮かべるマスターになんと言えばいいか分からず固まっているとふっとその笑みが消えた。
「そして、だからこそ、私はそれを犯す者を決して許さない」
全身が総毛立つのを感じる。
その姿には緑髪翠眼ロリエルフババアの面影なんてものはまるでない。
かつて【天災ノ魔女】と恐れられた元Sランク冒険者の姿がそこにはあった。
◇◆◇◆◇
「これで……トドメだ!」
聖剣から放たれる眩い光に呑み込まれ、声にもならない悲鳴をあげて若きドラゴンはその巨体を地面に沈める。
ピクリとも動かないそれを確認して、聖剣を握った右手を突き上げるレインに黄色い声がとぶ。
「キャー! さすがレイン!」
「レインにかかればドラゴンなんて敵じゃないわね!」
「素敵! 私、ほんとにレインのパーティーに入れて嬉しい!」
やれかっこいいだの素敵だのレイン以上の冒険者はいないだの。四方から飛び交う称賛する声をまんざらでもない表情でレインは受けている。
こうして端から見ていると茶番にしか見えない。なんか似たような言葉とかお前それさっきも言ってたろって言葉が飛び交っているのだからそうも言いたくなる。ああ、帰りたい。つーか、仕事じゃなかったら絶対にこいつらの意味分からんコミュニティに近づいたりなんてしない。
まぁ、マスターのご依頼だ。さくっと終わらせてさくっと帰ろう。
「ほんとさいこーだぜー。さっすが聖剣の勇者様ー。ノアと同じSランク冒険者ー」
せっかくその他大勢と同じように誉めそやしながら物陰から身を出してやったのに、レインの反応は残念ながらいまいちだった。いまいちっつーか、さっきまでニコニコしてたのが一瞬で真顔になるくらいには気に入らなかったらしい。なんだよー。喜べよー。
「……アルト。ノアがいなきゃ剣を振るしか能の無いAランクの雑魚がこんなところで何をしてるんだ?」
「ひっどい言われようだなぁ。ギルドの外だからってなに言っても良い訳じゃないんだぜ?」
「だったらなんだ? 誰かにチクるのか? Aランクで普段から適当やってるお前とSランクで難易度の高い依頼を多くこなしている僕。一体どちらの方が信用されるだろうな?」
「ばっか、お前。俺のギルド内での信用をなめるなよ? 俺に金を貸したら必ずノアから返ってくるってもっぱら高い信用を得てるんだからな?」
なんだかカリカリしているようだから、先輩が気を使って小粋なジョークを挟んでやったというのに、ゴミを見るような目でこちらを見るとは何事か。
まったく、これだから最近の若者はいかんね。俺だったらそんなくだらない冗談言ってくる先輩は半殺しにして二度と同じこと言えないようにしちゃうね。
「……人並み以下の魔力しかないノアの金魚のふんの分際で。お前みたいな雑魚がへらへら笑ってるのを見ると心底不愉快になるんだよ」
「おいおい、せっかくのイケメンが台無しだぜ? いつもギルドでやってる爽やか笑顔はどうしたよ」
「……なぁ、知ってるか? 依頼に出た冒険者が行方不明になるってのはさ、よくある話なんだ」
ドブのように濁った目で、彫刻みたいに綺麗な面を醜悪に歪ませて、レインは納めたはずの剣を抜いてこちらに向ける。
悪い子だ。刃物は人に向けちゃいけませんって親に習わなかったのかね。
「何人か行方不明にしてそうな言い方だなおい」
「そうだな、十二人は殺したよ。僕のところに来た子達の元カレとかその友人って奴がさ、しつこくて鬱陶しいから殺してやった」
悪い子どころの騒ぎじゃなかった。とんだ極悪人じゃないですか。やだー。
「そいつはおっかないな。でも、いいのか? そんなこと俺に言っちゃって」
「問題ないさ。お前で十三人目だ。楽しみだよ、あの身のほど知らずのノアがお前が消えたらどんな顔をしてくれるのかさ!」
三日月型に歪んだ口と濁りきった汚い瞳はとてもじゃないがイケメンなんて呼べる代物じゃあない。
別に計画していた訳じゃないのだろう。ちょっとした思い付きでこいつは人を殺そうとしているのだろう。それくらい人を殺すことに慣れているのだろう。いやはや、全く、とんだ悪党じゃないですか。よくもまあ聖剣様はこんな奴を勇者に選んでくれたものだ。
――生きてる価値がないなぁ。こいつも、それを笑って見ているこいつの取り巻き共も。
「いやぁ、奇遇だな」
「……? 何が――」
「――俺もちょうど、お前ら全員殺しに来たんだ」
コロコロと中身が無いのがよく分かる軽い頭が二つ転がる。と、数秒遅れてどさりと頭部を失った体が糸の切れた操り人形のように倒れた。
さてさて取り巻きの残りは、ひーふーみー……あと、八人。
「呆けてる暇はないんじゃないの。ほら、あと七人、六人、五人……」
「――ッ!?」
不思議なことに、不意打ちというのは回数を繰り返せば繰り返すほどに自然に次の動作に移れるようになっていく。
何が起きているのか理解できていない取り巻き共の首をさくさく手近なところから間合いを詰めて落としていく。首を五つとばしてさあ六人目というところで、さすがに状況に理解が追い付いたのか向けた視線の先で女は怯えたような表情を見せた。
「あと、四人」
◇◆◇◆◇
ギルド【道標の黒猫】の階段を登ってまっすぐつきあたり。そこがギルドマスターの部屋となっている。
マスタールーム、なんて言い方をすれば多少は威厳も出そうなものだけど、実際のところ、そこは毎日冗談みたいな量の書類にロリババアなマスターがうっすら死んだ目をしながら格闘をする場所に他ならない。今日も今日とて、部屋に入ってみれば、我らがマスターは死にそうな目をしながら、崩れたら埋もれてしまいそうな書類の山と対峙していた。
「……なんか、増えてません?」
「書類を一枚片付けたらな、なぜか書類が五枚増えてるんだ」
「この世界の不具合かなんかですか?」
働けば働くほど増えていくのは給料だけで十分なんだよなぁ……。なんなら働かなくても給料だけ増えていって欲しいまである。
そんなことを考えていると、不意にマスターが顔を上げて小首を傾げて見せる。
「それで、何か用があるんじゃないのか?」
「あー、はい。……殺しました。全員、一人残らず」
「……そうか。……損な役回りをさせて悪いな」
「まぁ必要なことですし、誰かがやらなきゃいけないなら、それは俺でいいっす」
民の奉仕者たれ。助けを求める者に手を差し伸べろ。助けを必要とする者に手を差し伸べろ。
所属しておいてこんなことを言うのもどうかと思うけれど、こんな甘い理念を掲げているからうちのギルドには新しい冒険者が他のギルドに比べて入ってこない。厳密に言うと、入ろうとしても審査で弾かれる場合が多い。さらに言えば、こんな理念を掲げているせいで敵対する勢力も少なくはない。
だからこそ、こんな甘い理念に共感してうちに来た数少ない冒険者は可能な限り守らなければならない。それを傷つける者は誰であっても排除しなければならない。
レインは、そのお仲間は、それを犯した。
当然、だからと言って人を殺していい理由になんてなりはしないけど、それでもそれ以外に方法がなくて、誰かがやらなくてはいけないのならそれは俺の仕事だ。
「だから、マスターは頑張ってる奴のことをきちんと見てあげてください」
「……ああ、分かっている」
報告は終わった。居心地の悪い空間にいる理由もない。
そろそろ知り合いの一人や二人来ていないかと階段を下りると、よく見知った顔があった。
「アル、今日は早いんだね。何かあったの?」
「んや、ちょっとマスターに呼び出されてただけ」
「ええ!? また!? 今度はなにやったの!?」
「おい、俺が常々問題起こしてるみたいな言い方やめろ」
つーか、今度はってなんだ、今度はって。少なくともお前に知られるようなとこではそこまで問題おこしてねーよ。
「まあ、そんなことどうでもいい。それより、せっかく集まったんだしなんか依頼受けようぜ」
「あ、いいね。何にしよっか」
クエストボードの依頼は比較的朝の方が種類が多い。
希少な植物の採取や希少な素材の採れる凶暴な魔物の討伐など、Sランクに相応しいような高難易度の依頼もよりどりみどりだ。
今一番緊急なのは……別にこれといってないけど、強いて言うなら採取依頼か。なんかの研究に必要らしいし。
「あ、アル! これにしようよこれ!」
受ける依頼の目星をつけて、いざ提案しようと向き直るとそれより早くノアが服の袖を引っ張ってとある依頼を指さす。
「孤児院の床下に小型の魔物、か」
「うん、孤児院の子が怪我したら大変だし、早めに受けておいた方がいいと思うんだ」
「……まぁ、そうだな。他に受けれそうな奴もいないし」
「よし、じゃあ決まりだね!」
カウンターに依頼書を持っていくノア。その後ろ姿を眺めていてふと思いだす。
◇◆◇◆◇
『ふ、ふざけるな! どうして僕がこんな目に……っ』
『お前、ギルドから追い出されたらギルドに何があるか分からないってマスターを脅したんだろ?』
『それは! あいつがこの勇者の僕に出ていけなんてバカなことを言うから! 分かるだろ!? 僕は勇者だ! このバカみたいな理念掲げたギルドの最強のSランク冒険者だ! そんな僕を失うことが損害が分かっていないから言ってやっただけだ! 僕の価値が分かっていないあいつが悪い!』
『……やっぱ、お前はうちに来るべきじゃなかったよ』
『……っ!? ま、待て! 来るな! こっちに来――』
◇◆◇◆◇
たぶん、うちの理念に必要なものは全部既に揃ってる。