第一章 半妖の少年 姫様の姉
5.姫様の姉
大蜘蛛を殲滅し終えて僕たちはすぐ屋敷に帰ることとなった。そして敷地内にある道場で姫様と二人正座をしているのであった。
「雅わかった?これからはユキト君に迷惑をかけちゃダメよ」
「うぅ..」
紅様のお説教が一頻り終わり、姫様はぐったりしていた。普段気丈に振る舞っている彼女も姉である紅様には全く頭が上がらないようだ。
「次からは気をつけてね。それじゃお風呂にでも入ってきなさい雅」
「えっ..ユキは?」
「ユキト君には話すことがあるの。少し長くなるから先に行っててちょうだい」
姫様は不服そうだがチラッと僕の方を見ると一言「待ってるから..」と言って道場を後にした。が多分道場の入り口で聞き耳を立てているのだろう。そんな考えを知ってか苦笑しながら紅様が言う。
「安心して、道場の外には音が漏れないように防音の結界を張っておいたから。素直に出て行くふりして盗み聞きなんて相変わらずね」
「紅様それで僕に何か御用が」
あまり姫様を待たせると後が怖いので手短に用件だけ聞いて僕は済まそうとした。
「そう慌てないで、特に用事があるわけではなかったの。ごめんね、最近あまり話せてなかったから大丈夫かなって」
「失礼致しました。特に問題はありません、体の方も大丈夫です」
彼女は僕が半妖であることを知っている人である。普通の人とは違う体であるため、いつ変化が起きるかわからない。そのため自分自身の変化を彼女に相談するのが日課となっていた。
「それは良かった。あの石もちゃんと身につけてる?」
「言いつけ通り肌身離さず身につけております」
そう言って彼女に首からぶら下げている紐を手繰り寄せアクセサリーの様になっている石を見せた。この石には身に付けるだけで妖の血が混じっていることを隠してくれる効果がある。そしてこの石は母の形見でもあった。
「その石のおかげで私たちの家にいることができるんだからなくしちゃダメよ?いつかはいらなくなって欲しいけどこの家にはたとえ半分だとしても妖がいるってことを許さない人たちもいるだろうから..」
悲しそうな顔で紅様が言う。だがそれが事実であった。今良くしてもらっている人たちに僕が半妖だとバレればどうなるだろうか、この家にいる人全てが不知火家というわけではない、中には妖に親しい人を殺されて復讐のために戦う人もいる。やはり僕は受け入れてもらえないだろう。そのためにもこの石をずっと身につけておく必要があった。
「ユキト君約束は守れそう?」
少し真面目な声音で彼女が聞いてきた。約束..その言葉に僕は少し体が硬くなる。不知火家に身を置く条件は姫様を守れというものだった。しかし守れている自信は全然ない。
「姫様は僕など必要ないほど強いお方です。守るどころか守られることがほとんどです…」
「そうね雅はとても強いわ。でも力だけが全てじゃない、心は強がりだけどとても寂しがり屋な子よ。ユキト君が来るまではずっと一人で泣いていたわ。強すぎる力は人を孤独にする。それはあなたにもわかるでしょ?あなたが来てからあの子は良く笑う様になった。それで十分よ」
初めて姫様にあった時のことを思い出す。口数が少なく、戦いに暮れ笑い方を忘れている様にも思えた。だからずっとそばにいた。それはこれからも変わらない。寂しかったのは僕も一緒だったから..。
「お母さんの仇は絶対見つけてみせるから待っててね」
その言葉に静かに肯く。それが僕が不知火家にいる理由である。僕の母は何者かによって殺された。復讐をするために僕は刀を振る。それが今の僕の存在意義であった。
「話はこれで終わりよ、長くなってごめんね。それと刀鍛冶さんが話があるって呼んでいたわよ」
姫様申し訳ありません、しばらく帰れそうにございません。一応心の中で謝っておいた。
すみません抜けてました。
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