第一章 半妖の少年 残党狩り
3.残党狩り
出発の時刻より前には姫様を待ち合わせ場所で待っていた。護衛を付けていないことがバレるとまた面倒なことになるのでいつも裏門が待ち合わせ場所となっていた。
「待たせたねユキ」
「いえ、そのようなことはございません姫様。」
綺麗な着物に身を包んだ姫様が笑顔で声を掛ける。明らかに戦闘向きの服でないがそれでも問題ない。納得させるだけの実力が彼女にはあった。しかし出会った頃には普通に甲冑を纏っていたはずだが、どのような心境の変化であろうか。
「今日もお似合いでございます」
「そう今日も似合ってるか。ふふっ..」
着物を褒めるとまた一段と彼女は笑顔になった。初めて着物で狩りに言った時にそのことに触れなかったら烈火の如く怒り始めたので、それ以来彼女がおめかしした時は褒めるのを忘れないようにしている。
それからしばらくして、森に入り蜘蛛の残党を見つけ狩りを開始した。もちろん普通の蜘蛛ではなく子供でも体長が1mはあろうかという大蜘蛛である。妖は様々な種類が存在し、その中には人語を喋る者もいる。この間退治した大蜘蛛の親分は辿々しくではあったが言葉を喋っていた。人語を理解するレベルになるともう普通の者では対処できないため、自分たちに依頼がしてくるしかなくなる。しかしその依頼も目の前の姫様にとっては簡単な者であった。
「蜘蛛がワラワラと気持ち悪い..まとめて始末するね」
そう言って姫様が刀を振るうと蜘蛛の子らが青い炎によりすごい勢いで焼け死んでいった。不知火家は代々刀に炎を灯す力を持っており、その炎により通常の攻撃が効かない上位の妖にも対抗することができた。その中でも不知火 雅は相当の火力を誇っており、他の者は赤い炎だが彼女の刀は青く燃え盛っている。刀を振るい青い火の玉を飛ばすことで大量に沸いている子蜘蛛を蹴散らしていた。僕の出番は特にない。あったとしてもやれることは少なく自分は必要なのかと考えてしまう。
「あらかた片付けたし、そろそろお昼にする?。今日もユキが作ってくれたご飯が楽しみ!」
結局、子蜘蛛達をほぼ一人で狩り終えた姫様はそう言うと森の中にある川沿いの開けた岩場に向かい腰を下ろした。食事については専用の係がいるのだがこうして二人で出かける際は僕がお弁当を作るのが定番となっていた。
「相変わらず美味しい…。ユキが作る卵焼きは絶品だね」
「ありがとうございます姫様」
いつも彼女は僕のお弁当を褒めてくれる。戦闘では任せっきりなので彼女が喜んでくれるのが役に立っているようで嬉しかった。
お弁当を食べ終わった後、川辺で休憩していると何かに気づいたように姫様が顔を上げた。
「どうやらあの大蜘蛛はつがいだったみたいだね。狩りの時はしなかった気配がビンビンしてる」
「姫様どう致しますか?一度屋敷に帰って準備を整え..」
「準備?そんなものは必要ないよ。このま行こうユキ、それとも私だけでは不安?」
「そのようなことはございません姫様。」
先日の大蜘蛛退治に大軍を出したわけだが、結局彼女一人で十分だった。形式的に護衛が付いたわけだが彼女の攻撃に巻き込まれないように徹するのみで逆に邪魔でさえあったのではないか。僕もその一人であるわけだが..
そのような経緯があるため、否定はしなかったが姫様が規則を破っても怒られるのは彼女ではなく、彼女を止められなかった僕なのである。ちなみに彼女を止めようとするとあの眼力で睨まれるため、結局は同じことであった。そんなこともありため息を吐きながら僕は姫様と共に気配の主の所へ向かうのだった。
−誰にも邪魔なんてさせない–
やはりその言葉が僕の耳に入ることはなかった。
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