第一章 半妖の少年 不知火家
2.不知火家
この世界には人間の他に妖という存在がいる。妖は妖術を用いて人を化かし、捕まえ、喰らう。人を喰らった妖は力を蓄え成長し、さらに人を喰らう。人々は常に妖に怯えながら日々を暮らしてきた。
人間もただ喰らわれてきたわけではない。妖に対抗する術として特殊な力を持った者たちの力を借りてきた。
妖退治の三名家と言えば、九十九家、綾桐家、そして不知火家。その名前を知らぬ者はいなかった。
「あの後問題はなかった?」
朝となり警護を終えた僕に雅様が声を掛けてきた。
「特に問題はありませんでした姫様。朝方には霧も晴れていたので今日の予定も大丈夫でしょう」
「姫様じゃなく名前で呼んでって言ってるじゃん...」
少し寂しそうに苦笑していた。しかし自分を従えている人物にそんな態度を取るわけにはいかない。
「警護明けで申し訳ないけど今日の残党狩りについて来てもらうからね。大方片付いているけどがまた増えてしまったらは敵わないし」
先日退治した蜘蛛型の妖の子どもらがまだ森の中に残っていた。先ほど言った予定とはそのことである。しかし僕にはそれよりも気になることがあった。
「何人ほど護衛の者をつかせましょうか?」
彼女はこの家の主の娘、言わばお姫様だ。こと妖狩りにおいてその実力は別格だが万が一のことがあってはならない。大将格には簡単な仕事であっても護衛を最低でも数名つけることは常識となっていた。
「もちろん誰もいらないよ。ユキ以外はね」
そんなことは知らないと言わんばかりに彼女はこちらに笑顔を向ける..見惚れてしまいそうだ。もちろん彼女の配下に僕だけしかいないというわけではない。他の将達と同等の部下は持っている。しかし先日の大蜘蛛退治など大掛かりな戦いを除き、彼女は護衛の者を付けたがらなかった。僕以外には‥。
「かしこまりました。少々お待ちください、すぐ準備いたします。」
最初はつけた方が良いと言いていたが「何度も同じことを言わせないで」と少し睨まれてからは従うようにしている。有無を言わせぬその瞳には見つめた者を石にでもできるのではないか。彼女が不機嫌になると普段から力強い眼力が何倍にもなるので何も言えなくなってしまう。
「これで今日も二人っきり…」
姫様は何やら呟いていたがその言葉が僕の耳に届くことはなかった。
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