第二章 九十九家 共同戦線
16.共同戦線
詳しく話をきくと九十九家の周辺で大な妖気が観測されたらしい、その調査に配下の者を向かわせたものの全員帰って来ず、追加で部隊を組み安否確認に向かったもののその舞台も消息不明であるとのこと。九十九家は都全体の結界を貼る力を持つだけに、妖術の扱いは軍を抜いている。しかし今回の件を受け主力が遠征に行っていることもあり、火力不足を懸念され、比較的関係が良好な不知火家に話が来たというわけだ。
「もちろんユキも連れてっていいよね?」
「ん〜それはどうかしら..」
いつも通りの問いにお茶を濁す紅様。というのも九十九家では気配が読めない僕をあまり好まない人たちも多く行かせたくないのだろう。前にあった時の警戒する様な視線が嫌でも蘇る。それに不知火としても半妖の僕はトップシークレットだ、他の家の者には絶対にバレてはいけない。それこそ立場が危ういものになるだろう。しかしミヤが嫌と言って終えばこの話はご破算となってしまう。紅様は、はぁとため息を吐き折れたのだった。
「あくまで調査の一環だからね雅、ユキト君に無理させちゃダメよ」
「私がユキにそんなことさせるわけないじゃない、姉様。なら決まりね、準備するわ」
これまでのことを思い出して欲しい、口には絶対出さないが。まぁミヤは長期間家を外出する時は必ず僕を連れて行く、話し相手が欲しいのだろうか。協調性があるタイプではないので慣れ親しんだ人にはグイグイいくが初めての人とは僕を挟んで会話することが多い、そう思うと少し可愛らしいではないか。それでもミヤに振り回されるのもいやではない、慣れって怖いなと改めて感じるのだった。
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僕たちは九十九家の門の前にいた。その光景に言葉を失う、なぜなら様々な結界や呪符が壮門や壁にこれでもいうくらい張り巡らせていたからだ。例の件も絡んでいるのだろう、警戒をしているのか空気も張り詰めていた。
案内役が式神で連絡を取りしばらく待つと得たのか、やっとのことで門が開く。待ちくたびれたが他家の前だ、それを表情に出すことはない、チラッと隣を確認すると明らかに退屈をしている顔だ。流石に人前ではマズい。
「姫様、もうすぐ人が来ますのでしっかりしてください」
「だってーもう待ちくたびれちゃったんだもん。ユキおんぶして〜」
小声で言うが聞く耳を持っていない。はぁと心の中でため息をつき、説得するのを諦めた。案内役が中から出てきた二人組と会話をしている、僕たちと同い年くらいの男と年下の女の子だ。どうやら今回の僕たちの担当らしい。
「今回の調査を担当しております、九十九 護様と楓様でございます。詳細については中でしてくださるとのことでしたので、お邪魔させていただきましょう」
「九十九 護だ。今回は世話になるな、さぁ中に入ってくれ」
「九十九 楓…」
案内役から紹介があり、それぞれが名乗った。護様は同い年らしいがしっかりした印象だ。対して楓様は14歳らしいがおどおどしていて恥ずかしそうにしている。まぁこちらのお姫様は名乗りさえしないので百倍マシである。代わりに案内役が紹介していた。
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まずは来てくれてありがとうと護が頭を下げ、話始まった。
「早速今回の件だが、あくまで依頼は調査隊の安否確認が最優先でお願いしたい。少し日が経っているので、難しいかもしれないが頼む」
調査自体はやはり九十九家が主体でやるらしい。そこに用心棒としてついていけばいいとのことだった。ある程度の場所は目処がついているらしく、もしもの時の保険というわけだ
「調査をしているのは雲妖岳という場所だ。元から嫌な妖気が溜まりやすいところで、それが濃くなれば雲のように山を覆うことからその名が付いたらしい。その雲妖岳の雲妖谷と呼ばれる谷で行方不明者がで始めたのがことの発端だ」
山は常に妖気が濃く、いつも行っている見回り以外では立ち入る者も少ないらしい。しかしそこでしか取れない山菜やキノコなどを取りに行き、生計を立てている人もいる。妖気が薄い時に行くみたいだが、山に入った者が帰って来ないという事件が数回起こり、九十九家に依頼が来たというわけだ。最初は簡単な仕事だろうと少ない兵で行かせたが帰っくることはなかった。これはおかしいと思った護が部隊を武装させ、危険なら即退避と命を出したのにも関わらず、その部隊も戻ってくることはなかった。上の部隊は長期遠征に行っており、戦力が若い自分と妹の楓しかいない状況を不安視し、不知火家に助けを求めたということだった。
「ならさっさと行っちゃおうよ、助けたいならさ」
ずっと黙っていたミヤが口を挟んだ珍しく今回は正論である。もし命があるなら、一秒でも早いほうが確率は高くなる。
「済まないがそれはできないんだ、今日は妖気が濃く危険すぎる。明日には多少晴れると思うから、明日の早朝に向かうので準備をしておいてくれ」
ミヤの口から、げっ..という言葉が漏れる。そういえば早起きが苦手だっけ、いや早くなくても起きるのが苦手だった気がする。流石にそんな恥は欠かせない。ちゃんと起こします、と安心させるため軽く耳打ちをする。
「屋敷の中は結界などが多いから不用意に触るのは気をつけてくれ、それ以外なら自由にしてもらっていい」
それが解散の合図になった。外だけではなく、部屋にも呪符などが貼られていた。魔除だけでなく様々な効果があるのだろう。香を炊いていないのにいい匂いがしたり、戸が勝手に開いたり閉まったりしていた。流石は妖術のスペシャリストだ。
僕たちは一礼をし、割り当てられた部屋に戻った。ここでもミヤが一緒の部屋がいいと駄々を捏ねたが流石に他の家ではダメだと突っぱねた。恨みこもった目で見られるがしょうがない。帰ってから覚えてろ..そう目は語っていた。
体を水で流し自分の部屋に戻る途中、不意に袖を引っ張られた。そこには護様の妹である楓様がいた。
「楓様、どう致しましたか」
いきなりのことでびっくりしたが、こういうことはミヤで慣れているので慌てずに対応することができた。ミヤのイジワルに感謝する日が来ようとは楓様は小さい声でボソボソと尋ねてきた。
「お兄さん..全く妖気を感じない、でも不思議な匂い..」
うっ..いきなり痛いところをついてくる。妖気を読める人間には妖気を封じ込めてる僕の気配のなさを不気味がる人もいるのだ。しかし不思議な匂いとはなんだろう、まさか体を洗ってすぐなのにもう臭いのか..。
「お兄さん、明日、よろしく..ね?」
その問いにわかりましたの意味を込めて、ペコリと頭を下げた。なぜ僕のところに来たのだろうか、頼るならミヤだろうに。
それから楓様とは別れ、護衛の者たちの集まる部屋で就寝の準備をする。早く寝なければ僕にはミヤを起こすという使命があるだ。明日は朝からきっと忙しいだろう、頑張れと明日の自分にエールを送り目をとじるのだった。
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