第二章 九十九家 妖鱗妃
14.妖鱗妃
「凄い妖気の塊がこちらに向かってくる、気をつけてユキ」
どうやらこの現象は妖が原因で生じたものらしい。特に問題なかった天候も雲に覆われ、今にも雨が降りそうになっていた。どう考えても危険な状況だが水玉の妖はまた一段と嬉しそうに飛び跳ねている、多分こうなったのはこいつのせいなのだろう。
「やっぱ余計なことに手を出しちゃったかな..」
「そう言っても結局はユキは見捨てられないよね?毎回忠告はしてるけどなんだかんだで助けなかったことはないしその選択肢は最初からない、だってユキは優しすぎるもの」
そう言ってジト目で僕のことを見てくる。毎回ではないと思う、多分..。海の向こうから嵐が向かってくるのが見える。僕でさえも感じる圧倒的な妖気の塊がそこにあった。ここで戦闘になったらいくらミヤがいるとしても不利である。ましてや相手のテリトリーの海だ、正直戦闘は避けたい。
「ほら来るよ‼︎ユキ私から離れないで」
踏ん張らないと飛んでいきそうなくらい風が強まっている。このまま嵐を上陸させるわけにはいかない。そしたらまた被害が出てしまう、どうにかここで食い止めないと。そう思い臨戦態勢に入るが不意に耳に入ってきたのはまるで楽器を奏でている様な美しい声だった。
「私の子がお世話になった見たいね。お礼を言ってもいいかしら。」
嵐の中から現れたのは人柄の美しい鱗を持つ妖だっだ。その美しさに吸い込まれそうになうる。
「ユキ、鱗を直視したらダメ、人を惑わす力があるから」
どうやら七色に輝く鱗には人に幻術にかける能力があるらしい。対話する意思はある様だがまだ気は抜けなかった。
「あら..ごめんなさい。恩人に対して失礼なことをしてしまったわ。海は危険だからいつも防衛のために力を発動しているの、敵意はないから勘違いしないでね」
どうやら戦う意思はないようだ。先ほど私の子と言っていたのでこの水玉に関係しているのだろうか。
「そうやってすぐ妖の言うことを信じないの、いつか騙されるよ。でもこの妖が言っていることは本当みたい」
そう言って抜いた刀を納める。僕は水玉を妖に渡すことにした。すると吸い込まれる様に海に戻っていき海水を吸い取る様に巻き上げていく、そして水玉が弾け飛んだ。
「ありがとう♪お兄ちゃん、お姉ちゃん、とても助かりました」
水玉から出てきたのは10歳くらいの少女だった。同じく肌には美しい鱗を持っていた。
「『流海』無事で良かったわ。次から嵐に巻き込まれない様に気をつけないとね」
そう言って子に優しく抱きしめる。その光景は心温まるものがあった。
「自己紹介が遅れたわね。私は『紗羅』この子は『流海』よ。この近辺の海を取り仕切っているの。少し暴れているものがいたから鎮めてたら巻き込まれちゃって、本当に助かったわ」
これまで色々なお節介をかいてきたが改めてお礼を言われると気恥ずかしいものがある。
「そんなことないですよ。でもまさかあの水玉がこんな可愛い子だったなんて..いっッ⁉︎」
どうやら妖相手でも女の子を褒めるのはNGだったらしい。思いきりミヤに足を踏まれた。物凄い形相で睨んでいる。
「あれは身を守るために水を纏って我慢してたの、でもどんどん蒸発しちゃってもうダメかなって思ってた。そこで現れたのがお兄ちゃんだったの。まるで天使に見えたよ」
純粋無垢な笑顔に癒される。また隣のお姫様が一段と機嫌が悪くなった気がした。
「それでは僕たちはもういきますので」
「また来てね!絶対だよ!」
「何か困りごとなどあったらご相談に乗りますので気軽に来てくださいね」
二人からお別れの挨拶を貰い、いつかまた会えるよ、と返してその場を後にした。その間ミヤはずっと無言だった。海辺から離れてしばらく歩くとやっとミヤが口を開いた。
「ユキこれから一人で海の近くに行っちゃダメだよ」
突然そんなことを言われ困惑する。理由が気になり尋ねると渋い顔になりながらも答えてくれた。
「あの妖は妖鱗妃と言って気に入ったものを海へ引き摺り込み、自分のものにするの。あの美貌や美しい鱗に惑わせてね。きっとあの流海ちゃんはユキのこと気に入ってしまったと思う。でも大丈夫、私と一緒にいれば他の誰かに渡すなんてこと絶対にしないわ。」
そう言って僕に微笑みかけてくれた。僕には全然そんなふうには見えなかったが本当なんだろうか。あんなに優しそうな子が僕のことを、しかし考えても答えは出ないため、気分を入れ替えてミヤとの海を楽しむことにした。
「そろそろご飯にしようか、ミヤの好きなものたくさん作ってきたから」
きっとミヤといる限り、僕があの子のものになるなんてことはないだろう。
−流海、あの男の子のことが好きになっちゃったの?ふふふ..なら頑張ってもっと魅力的にならないとね。−
−うん!頑張る−
−恋は戦争よ、絶対に負けちゃダメ。私がお父さんを手に入れたみたいにね−
−わかった!私絶対に勝ってお兄ちゃんのお嫁さんになる−
−良い子ね、それならいきましょうか−
−待っててねお兄ちゃん、じゃないと私..−
ようりんき【妖鱗妃】美しい鱗の輝きで人を惑わす妖。人前には嵐を纏い現れる。そのため干ばつ地帯では豊作の神祀られていることもある。気に入った者を海に引き摺り込み、子を成す。そして愛する者を食し、体の一部とする。それも愛故なのである。
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