第二章 九十九家 謎の水玉との遭遇
13.謎の水玉との遭遇
海に行くためには森の中を通り抜けなければならないため、周りに危険がないか意識を張り巡らせる。先日からミヤが珍しくやる気を出して妖を退治していたため、特に問題なく進めそうだ。
「そういえば私たちが都に行ってた時に、海から嵐が来て大変だったらしいよ」
話を聞くと都に出ている間、海から来た台風のせいで天候が悪く紅様たちは館を守るので大変だったようだ。海の妖はこのように嵐を引き起こすものもいるため、局所的に自然災害が生じることも珍しくなかった。しかし妖が原因のものは結界などで対処できるため、準備をしっかりしていれば大きな被害は防げる。
「海から嵐が来たのなら、もしかしたら何か持ってきちゃってるかもね♪」
嵐が生じるとそれに乗って悪いものがくるという有名な噂があった。もちろん海の妖は拠点が水の中なので陸に上がれば弱体化してしまい、脅威にはならないだろう。しかし海は未知の世界である、何がいるかわからないため警戒に越したことはないだろう。まぁそんなに強いのならまず嵐で飛ばされることもないだろうが。
「あっ⁉︎」
ミヤとそんなことを話しながら歩いていたら、足に何かが引っかかり僕は顔から転げそうになる。地面とキスする寸前でミヤが僕の腕を掴み、支えてくれた。
「どうしたの?特にコケるものなんてなかったのに」
「いや、何かが足に引っかかって..」
自分の足に目をやると、大きな水の塊のようなものが足に纏わりついていた。転けそうになったのはこいつが原因のようだ。注視してみると僅かながら妖気を感じる、妖の類だろうか。
「無断でユキに触れるなんてどうしてくれようかな?とりあえず斬っとく?」
隣でミヤが静かに怒っていた。僕を支えてる手に力が入る。普通に痛いから冷静になって欲しい。
「ちょっと待ってよミヤ、随分弱ってるみたいだし無理に退治する必要ないんじゃないかな」
僕たちは確かに妖退治を生業としているが、妖を全て滅したいわけではなかった。妖の中にも人に害をなすものと無害なものがいて、危害が及ぶと判断した時のみ刀を抜いていた。しかしそれは不知火家の場合だ、人間側にも妖を全て滅さんとする派閥も存在し、そのような者たちからは腰抜けと馬鹿にされることもあったがそれでも考えを変えることはしなかった。そんな背景もあり、敵対する意志のない妖は見逃す場合も多いのである。しかし今回はそういう訳でもなさそうだった。
「その水玉、ユキにくっついて離れないみたいだけど?やっぱり斬ろう」
なぜか水玉が僕から離れない。ミヤの目もだんだん光が薄くなっていく。水玉は僕の足にしがみ付いて何かをアピールしているようだった。
「もしかしてこの子、嵐で海から迷い込んだんじゃないかな?」
すると水玉の動きがアピールするように激しくなる。どうやら当たりのようだ。僕らの目的地も海だったのでついでに連れて行ってはどうかと提案する。
「せっかく二人きりなのに連れてくの?また約束破るの?」
圧が凄い..。目は完全に暗くどのような感情を抱いているかはもはや判別できない。仕方ない海に帰りたい子がいるのに置いてくのも心残りになる、使いたくはなかったが最終手段を使うか。
「そんなことある訳ないじゃないか、ただ見捨てたりしたらせっかくのお出かけなのに楽しめなくなっちゃうからね」
そう言って僕を掴んでいた手を解き、宥める様にミヤの頭を撫でた。昔から機嫌が悪い時にこうするとたちまち機嫌が戻る。しかし逆に元気になりすぎて僕を振り回すのであまり使いたくない手だ。しばらく撫でると、腹の虫が治まったのか嬉しそうに抱きついてきた。
「しょうがないなぁユキは〜連れていくだけだからね、飼ったりはしちゃダメだよ」
母さんかよ、まぁ冗談も言えるほど機嫌が良くなったのなら良しとしよう。水玉の妖を肩に乗せ、改めて海へ向かう。森も通り抜け、しばらく行くともうすぐ着く。水玉も嬉しいのか肩の上でピョンピョン跳ねている。
そして海についたのだが途端、最初は静かだった海が荒れに荒れ始めたのだった。
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