第一章完 半妖の少年 帰還
11.帰還
僕は人でありたい。何も疑問を持たずにそう思ってきた。しかし一度問われるとなぜ僕は人間でいたいのだろうという考えが頭の中から離れない。あの天狗は言っていた、僕が妖としての自分を受け入れて、半妖として生きていく道もあるのではないかと。それができたら楽なんだろうなぁ。今の僕は人なのか、否、人ではない人もどきだ。きっと人間のふりをしている化物だ。今仲良くしている人たちも僕に妖が混じっていることを知れば、なんの躊躇もせず敵対するだろう。それくらい妖というものは疎まれている存在だ。もう一度自分に問いかける。正体を隠しながら、バレたら殺されるかも知れない環境に身を置き、それでも人でありたい理由はあるのだろうか。浮かんできたのはあの笑顔だった。あぁそうか僕はミヤの隣にいたいだけなんだ。ずっと一緒にいる幼馴染みの笑顔、それが僕が人でいたい一番の理由なのだろう。それと同時にもしミヤにバレてしまったらどうなるだろうか、受け入れてくれるだろうか。それが怖くて堪らない。いつかは言わなければならないのだろう、しかし今はまだ打ち明ける勇気もない。答えを出さなきゃいけない時が来ることはわかっている。せめてその時まではミヤと一緒にいてもいいだろうか。そう願うばかりだ。
「あっ起きた!」
目を開けるとそこは知っている天井だった。声の主の方向を見るといつもの顔がそこにある。どうやら僕は眠っていたらしい、目覚めた場所は不知火の屋敷だった。
「ミヤ、僕はなんで屋敷にいるの?」
「ん〜それはユキが道端で寝てて全然起きなかったから、そのまま連れて帰ってきたの。安心して問題は全て解決してきたから」
朦朧としていた意識がハッキリしてきた。二手に分かれたあの後、ミヤは旧鼠をさくっと退治してすぐに僕を追ったらしい。追っている途中に凄まじい妖気を感じ、急いで現場に向かうとそこに僕が倒れていたというわけだ。揺らしても、叩いても、起きないためそのまま連れて帰ってきたらしい。もちろん事後報告は護衛に任せてきたので大丈夫だそうだ。そんなことばかりしているから毎年ミヤの隊には希望するものが少ないのだろう。
「それでユキの方は何があったの?ネズミはきちんと捕まえたみたいだし」
「いやネズミを追い詰めたら、最後に自爆しただけだよ。それで妖気が大きくなったんじゃないかな、力を溜め込んでいたみたいだし」
僕はあの時あったことを誤魔化すことにしだ。きっと僕の嘘なんかミヤにはお見通しだろうが、僕が話したくないことが表情で伝わったのか不満そうながらも追求して来ることはなかった。
「それにしてもあの妖気なんだか懐かしい気がしたな..」
独り言のようにミヤが呟く。ドキっとするが常に母の形見を身につけてる僕の妖気をミヤは感じ取ることはできないはずだ。気のせいだろうとミヤに答えた。
「それにしてもユキがずっと寝てたせいでデートしそびれちゃったじゃない。」
そういえばそんな約束をしてたな。思い出し苦い顔になる。妖化した影響で長い間寝ていたせいで、ミヤとの約束を破ってしまった。たまにしか行かない都を周りたかったのだろう。悪いことをしてしまった。
「埋め合わせならするから許してくれないかな?」
そういうといつものイジワルをする時の顔になり、そのまま僕に飛び込んできた。僕はとっさにミヤを受け止めて、抱きしめる形となってしまった。
「今回はこれで許してあげる。あっデートはもちろんするからそのつもりでね♪」
僕はため息を吐きながらもそれを了承する。ミヤの行動が読めないのはいつものことだ。抱きしめているため顔は見えないが、きっとミヤは笑顔なんだろう。声音からもそれがわかる。そっと抱きしめてる腕に力を入れるとビクッとミヤの体が跳ねた。普段僕から行動することはないのでびっくりしたのだろう。顔を見れないのが残念だと思っていると、ミヤからもギュッと抱きしめられた。そしていつもとは違う優しい声でいうのだっだ。
「ずっと一緒にいてね..?」
ミヤが望む限り僕も隣にいよう。改めてそう心に誓った。
その後、僕が目覚めたことを知った紅様に抱き合っているところを見られ、都でいろいろサボってしまったこともバレバレだったので長時間説教を受けたのはいうまでもないことだった。
すみません投稿できていない話がありました。5部に追加しましたのでよろしくお願いします。
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