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半妖の僕とヤンデレ姫様の妖退治譚  作者: マシュマロン
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第一章 半妖の少年 旧鼠

10.旧鼠


ミヤと対策を練った次の日の夜、作戦は決行となった。ミヤをある家に一人にし、旧鼠を誘き寄せる。襲おうとしたタイミングで周りにいた護衛たちが結界を貼り、文字通りネズミ一匹外に出さないようにする。後は旧鼠とミヤの一騎討ちというわけだ。僕は万が一ネズミが外に出ると不味いので待機しておくというわけだ。


そして今指定の場所でその時を待っている。結界を貼っている間は護衛たちは持ち場を離れることができないため、動けるのは僕だけとなる。せっかくミヤが退治したのに僕がネズミを捕まえられませんでしたで振り出しだけは避けたい。


しばらく待機を続けていたその時、かすかに妖気が濃くなっていくのを感じた。その気配は徐々に大きくなっていく。旧鼠は完全にミヤの罠に嵌っていた。護衛たちはミヤの出す合図で結界を貼ることになっているため、そのタイミングを息を飲んで待つ。


「それじゃあネズミ狩りを始めようか」


瞬間、妖気が爆発的に空間を満たしていく。旧鼠のものではない、これはミヤの妖気だ。それが合図となり旧鼠を逃さんと結界が貼られる。どうやら無事成功したようだ。後は動けない皆の代わりに僕がネズミを逃さなければ終わるだろう。


「ネズミにしては知性的な顔立ちだね。私のユキには全然負けるけど」


家が壊れ、中から二つの影が現れる。こんな時でもミヤは冗談を言う余裕があるらしい。実に羨ましい限りだ。ミヤと対面もう一つの影はもちろん旧鼠であった。日本の足で立ち、その姿はまるで人間であった。蜘蛛のような体が大きく、化物のような妖もいる反面、このような人を模した妖もいる。大きい方が危険だと思われるが、一概にそうは言えなかった。人型の妖はとても知性が高く、時より人間を上回る場合さえある。まず普通の妖なら今回のようなやり方は思いつきもしないだろう。旧鼠もネズミのような耳、尾、鋭い前歯を除けば人となんら変わらぬ姿だった。


「罠に嵌められたか、やはり小賢しいな人間は」


「こんなやり方するネズミに言われたくはないな〜。どれだけの人から吸い取ったの?馬鹿みたいに溜め込んでるみたいだけど」


大蜘蛛とは違い、流暢に言葉を話す旧鼠。それに対してもあくまでいつも通りのミヤの方が怖くなってきた。


「まぁ器が器だし、いくら溜め込んでいようが関係ないけどね。私と戦うより結界を壊す方がまだ可能性があると思うよ」


煽るような言葉に旧鼠がイラついているのがわかる、知性が高いという事はそれだけ人間に通じる技が使えるということだ。言葉巧みにミヤは旧鼠を揺さぶっていく。旧鼠が我慢できなくなったか真正面からミヤに突撃していった。


「舐めるんじゃねぇぞ人間風情が‼︎」


「そうこなくっちゃ」


そして両者の力がぶつかり合う。旧鼠は自らの鋭い爪で裂きにかかるが、ミヤは刀の鞘でそれを簡単に防ぐ。


「ん〜これだと刀を抜くまでもないかな。早くとっておき見せないとやられちゃぞ」


「クソがぁぁっ‼︎」


旧鼠の体がブクブクと膨れ上がる、その姿はまるで大きな化物ネズミだ。そして懐から小さなネズミがミヤに大量に襲いかかった。ミヤは体に炎を纏い応戦する、子ネズミたちが自分に触れる前に焼き尽くすつもりだ。そして一匹のネズミが炎に触れた瞬間小さな爆発を起こした。


「くっ⁉︎」


驚いたミヤはネズミの大軍から一旦距離をとった。ネズミから噛み付かれることはなかったが、爆発の勢いによって少し火傷を負っていた。


「その炎の壁もネズミたちの爆発までは防ぎきれないみたいだな。一匹、一匹に集めた妖力を練ってるからな、そのくらいのダメージで済んでることの方が驚きだ」


呪いによって集めた妖力によってネズミの自爆攻撃の威力を上げているようだった。体に纏うミヤの防御では爆風までは防ぎきれない。ミヤもそう思ったのかついに刀を抜いた。


「そうみたいね。でも近づかせなければ良いってことでしょ?ここから魅せてあげるわ」


そう言って刀を振るうと広範囲にとてつもない威力の炎の柱が立つ。それにより大量のネズミたちが近づくことさえできずに暴発していく。


「馬鹿げた力だがいつまで保つかな、我慢比べといこうか」


また力と力がぶつかり合う、僕は外から見ていることしかできないのが歯痒かった。もし結界がなかったとしてあの中に割って入ることができるだろうか、否、今の自分の実力はわかっているつもりだ。僕の中の何かに頼ればいけるかもしれないがそれは自分の信念を曲げることとなる。「守ってあげる」ミヤの言葉が呪いのように絡み付く。僕は守られたいわけではない、いつも助けてくれるミヤを守りたいんだ。しかし目の前の光景が現実として僕を否定してくる。力が欲しい、この思いはいつでも心に底に沈んで積もっていくのだった。


そこからは消耗戦だった。旧鼠もネズミらしく素早い動きで迫りくる炎の渦を避ける。ミヤには機動力がなく、なかなか旧鼠に近づくことができない。しかし旧鼠の狙いである妖力を使い切る気配はなく、未だに高火力を保ったままだ。じりじりと旧鼠が追い詰められているようだった。そしてついにミヤの一太刀が旧鼠を捕らえた。


「グゥぅ⁉︎」


旧鼠の体が弾け飛ぶ。勢いそのままに結界へとぶつかる。すると長時間の戦いで結界も疲弊していたのかぶつかった箇所にヒビが入り少し砕けた。その隙を旧鼠は見逃さない。すぐ修復する結界の外に一匹だけネズミを放り込む。再び結界が閉ざされたが、ネズミを追わないとまた力を貯めてしまう。今動けるのは僕しかいない。


「姫様!僕がネズミを捕らえます。姫様は本体を」


「余計なことを..ユキそちらは任せたわ、すぐに向かうから無理しないでね」


ネズミ一匹相手に心配されるのは不満だが、ミヤならもうすぐに終わらせることができるだろう。だからこそミヤの手を借りる前に一人でネズミを捕まえたかった。



旧鼠も自分が不利だとわかっていたのだろう。逃げ出したネズミにはなかなかの妖力が込められており、通常のネズミとは比べ物にならない程に速い。気配を見失わないように僕も全力で追ったがあるところでネズミが逃げるのを止めたようにある一点から動かなくなった。そこは都の端にある少し寂れた地区だった。


「これを追っているのかい?」


目の前にいたのは鼻の伸びた赤い顔の人だった。いやあれはお面か?明らかに普通の人ではないような只住まいだ。それに僕と同じように気配が全くない。その人物は手からネズミを下げてヒラヒラさせてる。猛スピードで逃げていたネズミを簡単に捕まえるなんて、どうであれ普通ではありえないのだ。警戒は怠らない。


「えぇ、なのでそのネズミをこちらに渡していただけませんか」


あくまで冷静を心掛ける、できれば話し合いで済ませたい。目の前のお面の奥の目が笑っているような気がした。


「いやはやこれには全く興味がないんだけどね、興味があるのは君だよ。ユキト君」


..なぜ僕の名前を知っている。いやこの際それはどうでもいい、僕の仕事は残り一匹となった旧鼠を捕まえることだ。


「なぜ僕の名前を知っているか興味ないですが、そのネズミを退治しないと困る人が大勢います。渡してください」


「ん〜じゃあこうしちゃおうか」


お面の手の中でネズミが弾け飛んだ。妖気も完全に消え去ったので手品などではないだろう。この瞬間僕の仕事は完了したことを意味していた。仕事が終わったなら早くミヤの元へ帰ろう。この不気味なお面から一刻も早く立ち去りたかった。


「ありがとうございました。もう用は無くなったのでこれで..」


「私は君に興味があるって言ったんだよユキト君。せっかく助けてくれたんだから少しくらい話を聞いてくれてもいいじゃないか」


僕はその話を無視して帰ろうとするが体が動かない。


「無視はいけないなぁ傷ついちゃうなぁ。とりあえず正体を見せよっか」


全く何について話しているのかわからない。そしてお面が僕に手をかざした瞬間、僕の体が熱を帯び心臓がバクバクと鼓動を始める。


「一体何を..⁉︎」


「ちょっとだけ見せてもらうだけだよ、君が飼っている物をね」


もう声が出せないくらい体が疼いている。左目、そして右腕の様子がおかしい。目は赤く、腕は黒く変色して瘴気を纏っている。これは僕の中の妖が暴走していると僅かに残った思考力で判断する。しかし形見の石があるのにどうして、このお面が何かしたのだろう、そうとしか考えられなかった。頭が痛い、まるで割れるようだ、考えがまとまらない。僕は体の自由が効かず蹲ってしまう。


「なんで我慢するんだい?それが君の本当の姿だろう?」


「だ、黙れ‼︎」


僕は誓ったんだ、人として生きていくことを。しかし僕の中の妖は止まってくれない。額を切り裂く痛みが走る。


「その立派な角、やはり君は鬼の子だったんだね。半妖『結鬼人』それが君の真名さ。いい名前じゃないか鬼と人を結ぶ存在であれ、しかし今の君は人間に肩入れしすぎじゃないかな?」


僕の額には片方に一本の角が生えていた。これは僕が鬼である証拠であり、隠していた秘密でもある。人間に肩入れ?当たり前のことを言うんじゃない、僕はミヤと共に人として生きることを決めたんだ。そして母さんの仇を..だから僕は僕自身の妖を否定し、封じ込めてきた。


「まぁ、今日のところはこれでいいさ、挨拶も済ませたしね。また君を迎えに来るよ」


そう言って僕にかざしていた手を下げると鬼化していた僕の体も徐々に人のものへと戻っていった。背中を向けて立ち去ろうとするお面に僕は叫ぶ。


「お前は誰だ⁉︎なんの目的で僕を!」


するとお面は振り返り、顔を覆っているものをズラす。そこには綺麗な女性の姿があった。


「確かに私だけが知ってるなんてフェアじゃないね、私はしがない『天狗』さ」


天狗とは山に住む妖である。様々な言い伝えがあり、どれも実態は掴めているのかはわからない、もはや伝説に近い存在だった。なぜそんな天狗が僕なんかに..。


「それは君が妖最強種の一つである鬼の貴重な生き残りだからかな。勧誘というわけさ、私たちと共に来いってね。半妖である君は人からも妖からも疎まれる存在だ。しかし私は違う。元は人間であり、妖となった身でね。君と境遇が似ているのさ。」


「僕は人間だ!妖なんかにはならない」


「今はそれでいいよ、いずれわかるだろうからさ。気長に待つことにするよ。気が変わったか山に来るといい、そこに私はいるから」


鬼化した疲労で立ち去る天狗を追うことはできない。聞きたいことがたくさんあるのに..。そして最後に天狗は振り返り笑顔を見せながらこう言った。


「そうそう私の名はクラマだ。『大天狗のクラマ』忘れないで覚えてくれると嬉しいな」


その笑顔を見てなぜか僕はミヤを思い出した。そういえばミヤは大丈夫だろうか、そんなことを考えながら僕は微かに残っていた意識を手放したのだった。


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