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平行世界の、君と僕  作者: 蟻足びび
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第十六話

とまあこんなことがあって、場面は再び佐々木姉妹の部屋へ。

瑛太は泊まることは許可が出ず、帰ることになってしまった。

そのせいで、僕は女の子四人と同じ部屋で寝る事になってしまったのだ。


「寝付けねえ......」


こんな状況で眠りにつくことが出来るはずもなく、僕はひょいと立ち上がり(そこら中に転がる女子の寝顔にももちろん動揺せずに)、ベランダへ向かう。

シャーッ、とカーテンを開くと、煌々とした月が部屋を照らした。

やっべ。ここで僕のせいで、誰かを起こしてしまったのなら、


『乙女の眠りを邪魔するなんて、この家から出てきなさい』


という不動明王のお怒りを受けそうなので、そっと窓を開け、急いでカーテンを閉め静かに外に出る。


「......寒っむいな」


四月の子の刻は、まだ冷え切っていて、体が底冷えした。

ずず、と鼻水をすすり、その場にしゃがみ込む。

予想外の気温に襲われ、すぐさま部屋に戻りたいのだが、もう一回窓を開けようものならその寒さに誰かが起きて、朝になると、


『年頃乙女の深夜を、寒さで邪魔するなんて。この家から出ていきなさい』


という天罰が下ってしまいそうなので、部屋には戻れないな......

みんな、疲れてるだろうし、起こしちゃうのは普通に申し訳ないしな。

凍える体を抱きしめ、ブルブルと震える体をさすり続け、なんとか寒さを凌ぐ。


「うわぁ、やべえ......」


明日試験の結果が出るっていうのに、これじゃあ風邪をこじらせちゃう___






「___と」

「_____っと」


「ちょっと!」

「..................うわぁ!!」


思わず飛び起きると、ごつん、と頭をぶつけた。こめかみに軋むような痛みが走る。


「痛った......」


まだ痛むおでこに手を添えながら、僕は体を起こす。

と、そこで僕は、(いかずち)を全身に食らったような衝撃を受ける。


「鈴!?鈴なのか!?」

「しー、しー!起きちゃうでしょうが!」


指に手を当て、寝ている菜々たちを気遣うように、小声でしゃべる鈴がいた。



__数分後。(精神的に)正座をさせられた僕は、鈴さんのこっぴどいお叱りを受けている。


「___まったく。何をしているのよ、和は。こんなところで寝る?人間なら寝ないわ」

「じゃあ僕は寝てなかったんじゃない!?」


僕だって人間だもん!お母さんもお父さんも、人間だったもん!


「えと、どうしても寝付けなくてな、こうしてベランダまで出てきたのだけど、窓を開けると誰か起きちゃうんじゃないかなって思って」

「それで、こんなところで人間を卒業しようとしたわけね」

「お前風に言えばそうかもな!はっ!」


鈴と冷静に話していると、僕の行動が阿呆らしすぎたことに気づいてだんだん恥ずかしくなってきた。

なんとなく、話を自分から遠ざける。


「で、鈴はどうしたんだ?僕を心配して駆けつけてくれたわけじゃあないんだろ」

「違うわ」

「『(クエスチョンマーク)』が付いているところだけ答えてほしいねっ!」


どいつ(野乃)こいつ()も!言葉の綾だろ!見逃せよ!

鈴と話していると、なんだか心が軋む瞬間があるよな......

でも純粋に、鈴がベランダに出向いた理由が知りたい。


「どうしても眠れなかったのよ、あなたと同じく。なんだかそわそわして」

「ふぅん、そっか......」


いつも虚勢を張る鈴が、すんなりと心の内を明かしたことに驚いた。なんでもないことだけれど、僕にとってはとても特別なことだった。


「なによ」


意表を突かれて口をパクパクしていた僕に気づいて、鈴が怪訝な顔をする。

深く知られても恥ずかしいので、「いや、なんでも」と下手な笑顔で誤魔化したところで、


「和。えっと......さっきの約束のことなのだけれど」


気まずく感じたのか、鈴は「よいしょ」と腰を上げ、ベランダのフェンスに肘を乗せ外の景色に目をやる。

気づけばいつものツインテールは解けていた。風が彼女の下ろされた髪を踊らす。そんな光景を眺めていると、どこか美しく素晴らしい絶景を見ているようで、思わず息を呑んだ。


「約束したこと覚えてる?」

「ああ覚えてるぞ。鈴が勝ったら僕がこの家を出ていく、僕が勝ったら、鈴が僕の言うことを一つ聞く、だったな」

「ええ」


鈴は深くうなずく。


「それで、僕が勝ったから、僕の希望が通るわけだ」

「そうよ」


鈴は、僕がするお願いに警戒心むき出しの様子で、強い意志と不安の混じった目で僕の目を覗く。

余裕がなくなっているせいか、いつもよりも、気丈に振る舞っているということが伝わりやすくなっている。

そんな鈴を見ていると、「助けてあげたい」みたいな感情が芽生えてしまう。


僕は精一杯の笑顔で、できるだけ優しい声で、彼女を安心させようと努め、語りかけるように話し始める。


「言うこと一つ、聞いてもらうんだったな。もうすでに決まっていたことなのだけれど......僕にとっては大切で、必要不可欠なお願いだ。えーと......ごほん。勝者である僕が、勝者の権限を行使し、敗者のお前にお願いしたいことはだな」


そこまで言ったあと、一度鈴を見やる。

外を眺める彼女の視線も、背筋の綺麗な姿勢も、全く動じないとばかりに堂々たるものだけれど。

口を堅く引き締めて、握りこぶしを作って。そんな動き一つ一つから、秘めた感情がありありとうかがえる。


僕も彼女と同じように立ち上がり、背中をフェンスに預け、今度は「ニッ」とイタズラな笑みを浮かべ、こう締める。


「僕がお願いしようと決めていたことは、だな」


「___僕と、友達になってもらうことだ」


きっぱりと言い切られたその言葉は、明らかに鈴の心を掴み、揺らし、動かした。







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